麻雀漫画を読んで反物質がどこにあるのかを知ろう——来賀友志+神江里見『ナイトストーン 危険な扇動者』

『ナイトストーン 危険な扇動者』

 マンバ通信でこの連載(テーマもなく毎回好き勝手書いてて連載感もクソもないですが)を始めて気がつくと3年が経っていましたが、実はここまで筆者、ある一つの縛りを自分にかけていました。本コラムの執筆者紹介には「麻雀漫画史の研究をしている」と書いておりますが、このある意味メイン守備位置である麻雀漫画は基本紹介しないというものです。これは、筆者がここ数年、研究の集大成である『麻雀漫画50年史』をまとめる作業に入っており、麻雀漫画に関する気持ちはこれに集中しようと思ってたからなのですが、ようやっとこの『50年史』を来年早くくらいにはお出しできる目処がついた(筆者が隕石に当たって死んだりしなければ)ので、そろそろ麻雀漫画50年の歴史の中で生まれた色んな作品の紹介を解禁してこうかなと思った次第。というわけで今回の紹介は、来賀友志+神江里見ナイトストーン 危険な扇動者』です。『近代麻雀ゴールド』に94〜95年連載されたもので、単行本は全2巻。
 本作の凄さは、表紙に書かれているあらすじを読むだけでわかります。まず1巻。
“世の中には必要な人間と、そうでない人間がいる。彼ら——不要な人間は排除せねばならない。全てを意のままに従える超能力者の目が光る。彼の目指すユートピアとは!? 危険な扇動者今胎動す。”
 ……いきなりえらいこと言い始めた。およそ麻雀漫画のあらすじではないですが、本作はマジでこういう話です。
 本作の主人公・北島敬は、「現在では、731部隊は石井四郎の指示で全てが行われたかのように証言されているが、陰でこの男が石井を動かしていたと言ってもよい」と言われる男・北島一男の孫であり、無目的に膨らむ人類を憂い、必要のない人間は淘汰しなければいけないと考える危険な選民思想の持ち主である高校生。そして超能力者であり、周囲の人間をたやすくマインドコントロールすることができます。

『ナイトストーン』1巻142〜143ページより

 そんな敬が、「生き残るべき人物」を見分けるのに最適だと考えているのが……、言わなくてもお分かりですね。そう、麻雀です。麻雀は人間の性格、技術、そして天運を全て表すものだからです。

『ナイトストーン』1巻176ページより

 敬は麻雀を通して同志を増やし、雀荘と高校から日本を自らの理想社会へ変えていこうとします。

『ナイトストーン』1巻204〜205ページより。驚いているのは、些細なことから敬と出会い本作の狂言回しとなるヤクザ・篠原です。そして麻雀漫画史上に残る扉絵

 そして続く2巻では、表紙のあらすじはこうなります。

“世界を統合することが使命と信じる北島敬。そのためには個より種の維持を優先する。選民意識を煽り、危険なデマゴーグ、タクトを振る。止まれ!! 今、彼の目指すユートピアに抗う者がいた!!”

 敬とその同志たちは、日本に不要な存在としてまず「サラ金に100万円以上の借金がある人間」60万人をリストアップ。しかし敬は同時に「私はむやみに人を殺そうとしているのではない」ということで、彼らにも生き残るチャンスを与えます。その方法は……、もちろん麻雀です。東京ドームに毎回2万人が集められ、上位1000人だけが生き残るエスポワール号みたいな麻雀大会が行われることになります。しかしその最中、敬に異変が!

『ナイトストーン』2巻58ページより

 謎のポーズで苦しむ敬。敬の祖父・一男は、「頭は二人いらない」という敬によって監禁されていたのですが、牢の中から超能力で敬を苦しめていたのです。そして、超能力で牢番を操り脱出に成功した一男と敬との戦いが始まります(もちろん麻雀で)。そこで一男によって明かされる衝撃の事実。

『ナイトストーン』2巻172ページより

 宇宙を創り出したのが神なら、麻雀牌を創り出したのも人間の手を借りた神の導き。麻雀牌の中には、なんと反物質が存在していたのです。そしてさらに、不思議なことが起こります。一男の手牌の文字が薄くなり始めたのです。一男は、自らの命もろとも敬を始末するために、麻雀牌の中に閉じ込められていた反物質を抜け出させ、対消滅によるメガンテを図ったのでした。

『ナイトストーン』2巻182〜183ページより

 成功すれば関東一円が吹き飛んで敬の他に4000万人くらいは軽く死にそうな迷惑過ぎる対消滅心中でしたが、敬も超能力全開でこれを防ぎ、被害は敬の重傷+ビルが一個吹き飛ぶくらいで済みます。そして物語は、敬と同等の力を持ち敬の野望を止めようとする男・恩田との、「全ての霊力が無と化する麻雀牌」を使っての戦いへ……。

『ナイトストーン』2巻204〜205ページより。「50年待ってた」というのももはや些細なことです

 いかがでしたでしょうか。単行本100巻を超える空前の大河麻雀漫画『天牌』を筆頭に数々の作品を残し、22年に急性リンパ性白血病で急逝した「日本一の麻雀漫画原作者」来賀友志の、とてつもないとしか言いようがないSF麻雀漫画です。同人誌『来賀友志六万字インタビュー』(2010年)によれば、本作における敬の思想のモチーフとなったのは実はオウム真理教だったとのこと。ラ・サール高校時代の同級生にオウム信者がいて事件を起こす前に盛んに勧誘をしてきていたため手元に資料があったそうなのですが、それにしてもそのインプットからこの内容は普通出ません(いや確かに「ハルマゲドン」とかの単語は出てきますが)。とにかくとてつもない麻雀漫画です。概ね電書化されている他の来賀作品と異なり、残念ながら本作は現在電書化されていないので、古本屋で見つけたら買いましょう。というか竹は電書化して。
 こんな感じで、これからは時々麻雀漫画の紹介も混ぜていきます。

 

 

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麻雀とSFの融合、だいたい地球滅亡とか人類創世とかに飛躍しがち(麻雀には男女の色恋から宇宙の法則まで全てが詰まっているから仕方ない)

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