不器用でマジメな少女少年たちを繊細な手つきで描く百合(&他)SF青春群像劇—雪狸『少女花図鑑』

不器用でマジメな少女少年たちを繊細な手つきで描く百合(&他)SF青春群像劇—雪狸『少女花図鑑』

 プロフィール文にあります通り、筆者は『本の雑誌』という雑誌で文章(「鉄道書の本棚」という、「鉄道マニア以外でも楽しめる内容で、質が高い」鉄道書を紹介するというコンセプトの連載を持っております)を書いております。同誌には巻頭カラーページに「本棚が見たい!」という連載コーナーがありまして、毎回色んな書店と書斎の本棚写真を紹介しているのですが、先日出た2021年10月号では筆者の家の麻雀漫画だらけの本棚が紹介されております(みんな買うてくれ。書籍扱いの雑誌だからバックナンバーでも買いやすいっすよ)。で、それの取材料として図書カードを頂いたため、「概ね無職の素寒貧でも本屋は定期的に覗きに行かな」と近所の書店に行ったところ、表紙でピシャリと筆者の心をつかむ漫画単行本があったので不見転で買ったら案の定当たり。それが今回紹介する、雪狸『少女花図鑑』上下巻です。

 本作は祥伝社の漫画アプリ「マンガJam」にて2020〜21年にかけて連載されたもの。舞台の基本的な世界観は現代日本ですが、現実とはちょっと異なる点があります。本作の世界では、約80年前に落ちてきた隕石に付着していた地球外物質の影響により、女性の頭に「宇宙花」と呼ばれる、地球上の植物と同じような花が咲くように(上巻の表紙である足立明の場合は菊、下巻の表紙である渡わこの場合はスミレという具合に)なっているのです。この宇宙花、地球上の植物とは見た目が同じだけで全く違うものではあるのですが、人はどうにもその花が持つイメージをその花が咲いている当人にも拡大して見てしまいがちで、言ったら血液型性格診断が極端かつ目に見える形になってるようなわけですから、これはどうにも難儀です。

『少女花図鑑』下巻35ページ、80ページより。この世界でも当然「そういうのはよくない」というのが教えられているものの、建前になってしまっていることが示されています

 本作は、そんな世界で暮らす高校生たちを描く群像劇です。一番メインとなるのは、表紙にも描かれている明とわこ。明は、他人の感情を推しはかったり、自分の感情を出したりといったことが極度に苦手なために人付き合いがまるでダメな子で、「菊人形」と呼ばれています。

『少女花図鑑』上巻8ページより

 一方のわこは、明とは対照的に幼少期から人付き合いがうまく、現在も男女問わず好かれる学校中の人気者で、「『誠実』『愛』といったスミレの花言葉通りの人物」(花言葉というのが結構適当というのは周知の人も多いかと思いますが、ヴァイオレット(ニオイスミレ)はキリスト教圏では古くから聖母マリアの象徴だったりするので、これは割と伝統的なやつですね)と評されるような子です。

『少女花図鑑』下巻29ページより

 そんな正反対の二人でしたが、明はある日、わこが男子からの告白を断り、そのあと吐きそうになっている場面を目撃します。それを介抱されたのを機に、わこは明に何かと話しかけてくるようになり、明の方はそんなわこが「なんで自分に話しかけてくるのか」「なんで告白される度に吐いているのか」など分からないことだらけで(ただでさえ他人の感情を分かるのが苦手ですし)、わこのことを分かりたいと思うようになっていきます。そうして友達になったと思った明とわこでしたが、突然にわこが明のことを拒絶し——。これがこの二人のメインストーリーです。

 そしてまた、記事タイトルで百合(&他)と書きましたように、明とわこ等については百合と言って差し支えないですが、群像劇である本作にはヘテロ的な部分やBL的な部分もあります。

 例えば、サッカー部の次期エースであり、高身長&イケメンなのでナオンにMMK(モテてモテて困っちゃう)な古賀幸介。告白されて付き合ってはすぐ別れるを繰り返すので、一部からは「女ポイ捨てクソ男」みたいに思われている彼ですが、裏では彼なりの苦悩があるのでした。宇宙花を咲かせている女性という存在がどうしてもエイリアンのように思えてしまうため、どうしても相手に同じような好意を返すことができず、でもおかしいのは世界ではなくて自分のほうだと理屈では分かっているので、何度も試しては失敗し、その度に相手を傷つけていることに苦しんでいたのです。

『少女花図鑑』上巻168ページより

 ですが、そんな古賀だから、「自分は、自分の宇宙花であるスイートピーに釣り合ってない」という悩みを抱えていた須藤すみ子と一緒に委員会の作業をやることになった時に、

『少女花図鑑』上巻116ページより

「花に興味ないから名前とかわかんないんだよな」「まあいいじゃん花の話は 作業がんばろ 須藤さん」という、この世界での一般的な女子受けは最悪な受け答えをして、(そういう気遣いがあってものではない、結果論的なことだったにせよ)すみ子を救い、恋に落ちさせるのです。

『少女花図鑑』上巻120〜121ページより

 明とわこの関係、すみ子の恋、古賀の葛藤など各自の抱えていた諸々は、下巻において一歩前に進み、物語は終わります。このへん、なんと言いますか、みんな不器用かつマジメな子たちで、それが一生懸命に他者と関わりを持つことに挑んで自分の宇宙を開いていくさまが、青春群像劇として非常に気持ちの良いものに仕上がっているんですよ。

 第1話は作者のツイッターアカウントおよびマンガJamのサイト上で公開されているので、興味を持たれた方はまずそこから読んでみるのがよいでしょう。

記事へのコメント

これは本屋で見つけたら手に取らずにはおれない美しい装丁。内容も祥伝社って感じする。
上下巻でまとまってるのも良いですね。読もう

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