『女一匹シベリア鉄道』などで知られる織田博子先生の新作『世界家庭料理の旅』(イースト・プレス)は、世界を旅した織田先生が出会った家庭料理を、その料理にまつわる人や国とともに魅せる作品です。新型コロナウイルスの拡大で旅が難しくなったからこそ、レシピとともに世界の味と人の温かさを噛みしめることができます。
家庭料理は、その土地の各家でしか基本的に作られない料理です。東京のような大都市にはいろいろな国のレストランが進出していますが、外食で出される料理と家庭に代々伝わってきた料理は違うもの。織田先生は友人の紹介や現地での出会いを通じて、その土地の家庭料理と出会います。
チェコのプランボラーク、モンゴルのツォイワン(うどん)、バングラデシュのベンガルチキンカレーなど。織田先生を歓待してくれた人たちがどのような思いだったのかが描かれることで、より料理は美味しそうに。それぞれの料理のレシピも掲載されており、材料さえそろえば日本でも再現できますが、その土地の雰囲気まで再現するのはなかなか難しそうです。
おもてなしが好きな人、遠くからきたお客さんを歓迎する習慣、織田先生を迎える理由は各国によって違うものの、料理を通じて出てくる気持ちの温かさはどこも共通です。織田先生は必ずしも各国の言葉を流暢に操れるわけではありませんが、ゆっくりする時間を過ごすことで人との縁ができ、世界を広げていきます。
興味深いのは多くの国を回っている織田先生だからこそ描ける料理や素材の国ごとの違い。今回のマンガには牛乳・乳製品の違いが描かれていました。牛乳は大陸の国を中心に多くの国で飲まれていますが、同じ牛乳でも少しずつ味が違う。また、国によっては脂肪分も選択肢が広く、また味が変わってくる。思わず次に旅に出るときは各国のスーパーで牛乳を探したくなります。
この作品のもとになった旅は2010年。新型コロナが広がっている2021年に、同じことをやろうとするのは難しいでしょう。織田先生も世界で出会った人を思い出しながら、今度はその料理を日本で伝えることで人との縁につなげています。国によっては政情不安に陥っているところもあり、不穏な情勢だからこそ、『世界家庭料理の旅』が伝える身近な料理ひとつで人がつながる幸せを噛み締めたいものです。