麒麟・川島とかまいたち・山内が「面白いマンガ」に沼のようにハマって楽しむマンガバラエティ『川島・山内のマンガ沼』。今回は、前回放送の「まんだらけ臼井さんからのおすすめマンガ 読書感想発表会」の模様をお送りします(放送を見逃した方はTVerもご覧ください)。
凡人を描く天才・文野紋
川島 今回のテーマは「まんだらけ臼井さんからのおすすめマンガ 読書感想発表会」! 前回、中野ブロードウェイのまんだらけロケに行った時に、コミックフロア総責任者の臼井さんがわれわれのためにおすすめマンガを1冊ずつ紹介してくれたんです。今回はその感想を発表しようということでございます。感想は紹介してくれたご本人に伝えないといけませんのでお呼びしました。まんだらけ中野店コミックフロア総責任者の臼井さんです。
臼井 まんだらけの臼井です。よろしくお願いします。
川島 臼井さんといえばマンガのエキスパートですよ。相当ハイレベルなマンガファンだと言っても過言ではないでしょうね。
臼井 職業柄なんですけれども、新しいところからすごい古くてみんな見たことないようなものまで幅広く扱っているので、ハイレベルと言って差し支えないのではないかなとは思います。
川島 コミックリーダー臼井ですよ! 『世紀末リーダー伝たけし!』じゃないんだから(笑)。
山内 今までどのぐらい読んでこられましたか?
臼井 数えたことないんですけど、1万作品以上は読んでるとは思いますね。
川島 すげー。
山内 それはすごいわ。
川島 「あれ読みました?」つったらもう読んでる。
臼井 そうですね、おおよそは。
川島 人生で一番最初に読んだマンガは何ですか?
臼井 記憶に残ってるのはコロコロコミック。好きだったのは『超速スピナー』っていうハイパーヨーヨーのマンガです。
山内 ちょっと新しい。
川島 臼井さん何歳ですか?
臼井 僕は35です。
川島 そっか。9個離れてんねや。臼井さんに紹介してもらったんだから感想を伝えないといけない。ということで私からいきますね。まんだらけ臼井さんが私におすすめしてくれたマンガは『ミューズの真髄(しんずい)』です。まずこちら、なんで私に推してくれたんでしょうか?
臼井 川島さんといえばマンガ好きで有名な方ですので。マンガ通も唸るようなマンガをおすすめしなければならないなと思って。あとは男女ともに人気のある作品ですので、奥さまにも楽しんでいただけるんじゃないかなと思いまして。
川島 確かにこれは性別問わないですよ。まずは『ミューズの真髄』、どんな作品なのか簡単に説明させていただきましょう。
川島へのおすすめマンガ
文野紋「ミューズの神髄」(KADOKAWA)
- 2021〜2023年「月刊コミックビーム」にて連載
- 単行本は全3巻
- 作品のテーマは「トラウマ克服」
- 主人公はOLの瀬野美優
- 彼女は自己否定の日々を送っていたが、合コンをきっかけに人生を再スタート。そんな人間ドラマを描いた作品。
川島 簡単なあらすじでございます。主人公は美大受験に失敗して以来、自分に自信をなくしてしまったOLの瀬野美優ちゃん。やがて美優は数年ぶりに絵と向き合うことを決めるが、唯一の家族である母親は自分を理解しようとしてくれない。美優はそんな母親に別れを告げ、大きなキャンバスを手に裸足で家を飛び出します。23歳OLの人生リセットストーリーです。臼井さんにおすすめされてすぐ読んだんですけど、読んだことないマンガでしたね。最近のトレンドであるような、女性の方が「私だってやることあるんだ」と仕事を蹴って脱サラして新しいことにチャレンジする、で、どんどん自分の世界が広がっていくマンガなのかなと思ったんですけど、これはうまくいかないですね。
臼井 そうなんですよね。
川島 これすごいですよ。なんで文野先生がマンガにしたのかなって思うぐらい、マジで超凡人なんですよ、この女の子が。
山内 才能が実はあって……とかじゃなくて。
川島 ないねん。下手でもないねん。才能なしでもないねん。特待生でもないねん。超凡人なんですよね。凡人の子が夢を見てしまって、1回就職したんだけどもっかい美大に行くぞ、そこで燃えていって、普通のマンガだったら、ダメなりに頑張ってちょっとずつランクアップしていく、美大に入って成功していく様子を描くんでしょうけど、はっきりいうとそれもないんですよ、凡才なんでね。じゃあ学校に入るまでの努力の姿を見てそんな君が好きだみたいな子が出てきてくれて、恋愛に発展すんのかなと思ったらそれもないんです。これだけなんですよね、説明としては。
簡単に結論からいうと、文野さんというのは「凡人を描く天才」なんかなと思いました。ようここまで超凡人を深掘りして、何か起こりそうで……事件はいろいろ起こんのよ、でも結局何にも動かない。ここまで凡才を描き切るマンガってなかったですよね。絶対、成功失敗あるんですけど。
絶妙なのがカメラの置き方ですね。主役目線の話にめっちゃいって、例えば男の人がいて、この人は私のこと認めてくれる人かもしれないと。でも会うたびにマウントを取られて嫌なこと言われる。めっちゃ嫌な男やねんけど、場面が変わったら、この男の子が主役の話になるんです。そしたら実は主人公が思ってたのと全然違って、この男、めっちゃ主人公の女の子のこと好きやねん、ほんまは。時間軸を前に戻って、「あの子に会える、どうしよう」って作戦を練っていくんだけど、会ったら嫌なこと言ってしまうという。そんな意味じゃないのに、となって深く傷つけてしまう。相手にとってトラウマを与えるほどの発言をするんですけど、終わってから「めっちゃ好きやのに……」ってなっちゃうんですよ。最初だけ読んでたらめっちゃ嫌なやつで終わるけど、実はこの男の子もめちゃくちゃ不器用なイケメン男子だったという。
3巻あたりになると、主人公の女の子の一番の敵対する存在ということで、母について描かれてるんです。それまでは、お母さんが自分のことを全然認めてくれないから絵も描けなくなったり、絵なんか描くなということで、力でねじ伏せてキャンバスにナイフでガーッと切りかかるようなお母さんやったんです。1~2巻では「何て嫌なおかんなんだ」と思うんですけど、3巻を読むと、なぜそんな行動してたのかが分かるんですよね。
臼井 ガラッと変わりますよね。
川島 ガラッと変わって、じゃあこの主人公の美優ちゃんが一番元凶じゃないのか……とも思ったりするんです。これ、主役が美優ちゃんじゃないような気もするんですよ。美優ちゃんが憧れてる人とか、いろんな人間ドラマを丁寧に描くんですけど、読み終わった時にやっぱりもやっとしたままなんです。よかったね、とはならないですよね。
臼井 ならないですね。
川島 物語はちゃんと完結はしてるんです。でも「ここで終わるんだ」という。このマンガ、僕は読んだことないジャンルでしたね。周りの人に結構すすめたんですよ。で、女性男性問わず、面白いとは言うんです。面白いのは面白いねんけど、「なんやってん、このマンガ」ってなるんですよね。
臼井 心に残る感じ。
川島 心には残りますね。サビがない歌を聞いてるみたいな、でも名曲やなみたいな。あとがきも読みましたけど、文野先生は「自分は天才じゃない」と思ってるんですって。だけど「凡人にしか描けない凡人の話もあっていいんじゃないか」ということで力を注がれたっていうことで、ちょっと腑に落ちたんですけど。でもこれは名作やなと思いました。臼井さん的にはどうなんですか、この作品は。
臼井 僕は特に3巻が好きで、1回途中で終わったのかなという瞬間があるじゃないですか。その後に、ずっと霧の中を走ってたみたいな美優の視界がパンと開ける瞬間っていうのがあって、そっから手書きの文字がわーっと続くところも……。
川島 文字だけでね。
臼井 怒濤の勢いというか、あふれる感情みたいなのがすごくて、ここ見てほしいなっていうのでおすすめしましたね。
川島 3巻、エヴァンゲリオンみたいな終わり方してましたよね。今どこまでがストーリーなのかなっていう。ほんとにマンガを越えて作者の方のメッセージがバンバンぶつかってくんねん。マンガよりも文字だけになってきてね。それが美優ちゃんとリンクしていって、これマンガやったのかなっていう。読んでよかったです。
絶望からの絶望、からの絶望「ミスミソウ」
山内 臼井さんが僕におすすめしてくれたマンガはこちらです、『ミスミソウ』。何でこれを僕にすすめてくれたんでしょうか。
臼井 山内さんの場合はお好きなマンガのジャンルが決まってらっしゃるので、復讐ものとか、サスペンスみたいなものがお好きかなっていうところで。またデスマンガ対決の時に、「絶望からの絶望パターン」みたいなマンガがお好きと聞いていましたので、それで僕が読んできた中から、そういう作品を選びました。新しいものだともう読まれてるかもしれないので、少し古めのところから。
川島 そうか。電子時代だと山内、もう全部網羅してるから。
山内 まずは『ミスミソウ』がどんな作品なのか簡単にご説明します。
山内へのおすすめマンガ
- 2007年〜2009年「ホラーM」にて連載
- 単行本は上下巻
- 2018年、主演・山田杏奈で実写映画化
- 作品のテーマは「いじめ」
- 主人公・野咲春花はいじめっ子たちに己の命を賭けた凄惨な復讐を開始する!
山内 ミスミソウという花は、厳しい冬を耐え抜いた後に雪を割るようにして咲く小さな花なんです。主人公は東京から田舎の中学校に転校してきた野咲春花。春花は学校で部外者扱いされ陰惨ないじめを受けることに。唯一の味方であるクラスメート相場晄を心の支えにして耐えていたが、いじめはエスカレート、やがて春花の家まで放火され家族が焼き殺されるまでに事態は発展。ついに春花は壮絶な復讐を開始する。普通の人間が作り出す恐怖を描いたメンチサイド(精神崩壊)ホラーです。
川島 初めて聞くジャンルですけどね。メンチサイドホラー。けっこう重たいのを渡したんですね。
山内 僕はほんとに家族を殺されて復讐していくみたいなマンガがめちゃめちゃ好きで、最初に説明を受けた時は「おっ」と思ったんですけど、結論からいうと、絶望からの絶望過ぎて無理でした。あまりに救いがなさ過ぎて。
川島 お口に合わない。
山内 今まで見た中で、一番気持ちが重くなるマンガでした。
川島 ちょっと重た過ぎたんじゃないかという。
臼井 やり過ぎちゃいましたか……。
山内 春花は家族のことを思って「いじめられてるけど大丈夫、もうちょっとで卒業するし頑張る」って言ってたんですけど、その家族もいじめっ子たちが、ちょっとノリも相まって、想像以上のことになっちゃって、家に火が付いて全員死んじゃうんですよね。それで復讐を決意するという感じなんですけど、その復讐される側のいじめっ子たちもそこまでするつもりじゃなかったいじめっ子たちもいるんですよ、はずみで殺しちゃったという。そういう子らもやっぱり殺されていくわけですよ。僕が今まで読んできたマンガのやつらは、殺されるべくして殺される、痛快感があったんですけど。
川島 完全悪。
山内 そうです。死ぬことでちょっと痛快感があるのがよかったんですよ。「死んで当然、よっしゃよくやった」が一切ないです。さっきの説明に出てきた、春花を支えてくれる唯一の理解者の男の子、相場晄くん。この相場晄くんもめっちゃ変なやつだったんですよ、結果。
川島 救いようないやん。
山内 めっちゃそこでまた嫌な気持ちになるんすよ、こいつも変なやつやんって。ほんで最後、全員が嫌な気持ちになって……。
川島 何してくれてんねん(笑)。テンションがた落ちしてるやないか、うちの山内。
臼井 ちょっとやり過ぎちゃいましたね。
川島 でも山内、そういうのが好きなんやろ?
山内 好きでしたけどこれは違う。ここまでじゃない。重たいのが好きなわけじゃないんですよ。
川島 必殺仕置人みたいなのが欲しいねんな?
山内 そうですね。勧善懲悪というか。
川島 で、そのやり方が残虐なほうがいいねんな?
山内 はい、残虐なほうが。こっちは悲しみがとんでもなさ過ぎて受け止めきれない。絶望からの絶望からの……もう4絶望ぐらいあるんです、ほんとに。
川島 でもこれ、臼井さん的にはたまらんのでしょ。
臼井 僕は好きですね。ジャンルというか、押切蓮介さん大好きなんで。
川島 山内がそこまで反応するの珍しいから、逆に興味わいてくるわ。いいチョイスしましたね。ここまでの反応は珍しい。どうでしたか、今日の感想。
臼井 お2人とも違った意味で打ちのめすことができて、仕事は果たしたかなと。
川島 やはりコミックリーダー、さすがでした。
次回放送は「川島・山内のおすすめマンガ」をお送りします。
(構成:前田隆弘)
【放送情報】
次回放送
読売テレビ●6月17日(土)深1:28~1:58
日本テレビ●6月22日(木)深3:29〜3:59
「川島・山内のおすすめマンガ」を放送。
(TVerでも配信中!)
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