山へ行けなくても恩寵にあふれている
導入の、母のひとコマ、父のひとコマ、娘のひとコマ、それから、それら三人に息子を加えた朝の忙しないリビングを俯瞰で描いた大コマ、もうたったのこれだけで十二分に素晴らしい。 「サトル、ニンジン食べて!」という母に、 「ボク、サトルって名前 キライだ」とかえす息子。これで一頁。 なかなか衝撃的なセリフではあるけれど、テンポがいいのか、なんなのか、あまり悲壮感のようなものはなく、むしろ恩寵にあふれている。 父は日常の忙しなさから逃れるために山へ行こうとする。ところが道行く先々でひとに捕まってしまい、なかなか山へ辿り着けない。けっきょく今日も忙しくなってしまい、泣く泣く山は諦めることに。でも、山へ行けなくても、このマンガの端々に恩寵がひっそりと息づいていることは山をみるより明らかである。