夏の終わりに失礼します。
今年、皆さんは夏らしいことをしたでしょうか。
海へは行かれましたか。
早起きして運動しましたか。
或いは、かき氷なんか食べて頭が痛くなったりしたでしょうか。
ほう。ずっと家にいたから何もしていないんですね。
では、代わりに頭の痛くなるマンガを読んであの感覚を味わいましょう。
頭の痛くなるマンガといえば、そう、『ボボボーボ・ボーボボ』ですよね。
『ボボボーボ・ボーボボ』とは
『ボボボーボ・ボーボボ』は、2001年より週刊少年ジャンプで連載されたギャグマンガです。
ストーリーはあってないようなものですが、毛の国出身のボーボボが敵組織の毛狩り隊とバトルしていくという内容です。
突拍子もないような展開の数々で、記憶に残るような名場面を生み出してきました。
2003年から2005年にかけてアニメ化、さらには複数のタイトルに渡ってゲーム化もしています。
一気に読むことで、ギャグの積み重ねにだんだん脳の処理が追いつかなくなっていき、頭が痛くなるのでおすすめです。
このボーボボを読んでいて、気になったことがあります。
やけに均質な木が出てくるんですよね。
木自体も同じような形だし、等間隔で生えています。
デジタルでコピーしているならまだ理解できます。
効率をよくする意図が見えますから。
でもこれ、手描きなんです。
よく見ると、一本一本微妙に違う。
なんなんだ。
読み進めていくと、コンスタントにこんな木が出現することが分かります。
1回や2回なら、背景に慣れていないアシスタントさんが描いたのかなとも思うんですが。
謎が深まります。
そこで、木の出てくるコマをピックアップしてみることにしました。
データを集めれば何か意図や法則性が分かるかもしれません。
レギュレーション
・『ボボボーボ・ボーボボ』に出てくる木のコマの数を数える。
・1コマの中に木が2本以上生えているコマを対象とする(あくまで均質さが見たいため)。
・調査対象は、コミックス版『ボボボーボ・ボーボボ』、『真説ボボボーボ・ボーボボ』の本編とする。
調査結果
全体で木のコマは、368コマ出現しました。
大まかに、「平坦タイプ」「執事タイプ」「その他」という分類をつけてみました。
平坦タイプ
平坦タイプというのは、画像のように平坦に均質な木が生えていたコマの分類です。
全体で231コマありました。
構図の中では最も多い分類となります。
ボーボボの世界は、基本的に不条理なことしか起きません。
すると混乱した脳が、無意識にコマの中に秩序だったものを探し始めます。
つまり、均質な木にすごく目がいくんですよね。
序盤のテーブルマナーゴルフのシーンでは自然な木が描けているので、何か意図がある気がしています。
「そもそもテーブルマナーゴルフとは何か」という問い合わせには答え兼ねます。
「ここは普通の世界じゃないですよ、ギャグの世界ですよ」ってことを示しているのでしょうか。
それなら不自然に均等な木を描くのも分かります。
太陽を毎回適当に描いている(渦の向きすら右だったり左だったりする)のとも、繋がりますしね。
この文脈で読み進めると、最終回が泣けます。
最終回では、木の高さや形が一本一本違うんです。
すごく自然。
現実に即した形といっていいでしょう。
だから、楽しかったギャグの魔法が解けて、普通の世界に戻りつつあるようで切ない気分になります。
どんなセリフよりも、木の描き方が旅の終わりを雄弁に語ってくれる。
執事タイプ
執事タイプは、両側の木が奥に向かって均等に並んでいるコマの分類です。
執事たちが坊っちゃんをお出迎えしているような印象を受けたので、執事タイプと命名しています。
平坦タイプほどは登場しないまでも、代表的な構図です。
全体で60コマ登場しました。
例えばこのコマ。
ボーボボの究極奥義「聖鼻毛領域(ボーボボ・ワールド)には、必ず執事タイプで均等な木々があります。
必ずです。
か・な・ら・ず。
派生技の「聖ハジケ領域(ハジケフィールド)」では、執事タイプの配置のまま南国っぽい植物になっています。
キャラと木の形状がリンクしているのでしょうか。
首領パッチはヤシの木で、均質な木はボーボボの象徴みたいな。
木の絵と言えば、バウムテスト。
臨床心理学分野にはバウムテスト(樹木画テスト)というテストがあります。
被験者に木を描いてもらい、幹や枝といった特徴から精神状態を推し量るものです。
この方法でちょっとボーボボの内面を覗いてみましょう。
今回は、フランスの心理学者ルネ・ストラの解釈を参照します。
対象は、初めて「聖鼻毛領域(ボーボボ・ワールド)を使ったコマの左群一番右端の木にします。
【聖鼻毛領域の木に見られる特徴】
・上方に向かう茂み:熱情、情熱。認められたいと願う。
・直線による陰影:これからのことについて知りたいと思う。計画を立てることを好む。
・幹の輪郭線が明瞭な直線で描かれている:決断、行動力。
・枝がない:接触困難、拒否的あるいは防衛的態度。
もちろん、このテストは木を描くように指示をして被験者に描いてもらうものなので、状況は今回と違います。
テストでは基本的に一本だけ木が描かれる点も異なっています。
ただ、半ば無理やりバウムテストを適用したにしては、興味深い結果が出たと思います。
熱情や決断などの前向きでヒーロー的なワードが出てきたのはよかったですね。
「ボーボボも一応ちゃんとジャンプの主人公だったんだな」と確認できました。
一方で、接触困難や防衛的態度のような特徴は、ボーボボの捉えどころのなさやキャラ別人気投票での振るわなさに通じている感じがします。
因みに、バウムテストでのヤシの木は、環境の変化や気分転換を求めていることを表します。
これも首領パッチの内面をまあまあ言い当てていますね。
その他
「その他」の分類では、平坦でも執事でもないものが全て入っています。
全部で77コマでした。
中盤で、上のようなジャングルっぽい木々が出てきたときは驚きました。
均質な木を見続けてきたせいか、比較でものすごく変化に富んでいる感じがします。
木にツタが絡まっている表現なんて、ボーボボの世界でありえるんですね。
木は全体的に序盤に多かったです。
全368コマの内、約76%にあたる279コマが無印の『ボボボーボ・ボーボボ』1~5巻に集中しています。
途中からはバトルのステージが塔や城など屋内に移る関係で、影を潜めてしまいます。
ギャグの世界であることを分かりやすくする意図なら、序盤で十分に役割を果たしたということでしょう。
あと単純に、週刊誌連載で手書きの木をいっぱい描いていたら工数かかりますからね。
やむなし。
木以外
そして、木のあまり出なくなった中盤以降を調査している内に、新たな疑念も湧いてきました。
もしかしてこの作者、単に同じものを繰り返して並べるのが好きなのか?とね。
『ボボボーボ・ボーボボ』という同じ文字を繰り返すタイトルからして怪しいです。
「ぬのハンカチ」に代表される、同じものや人を繰り返す表現が、作中には頻繁に出現します。
具体的に言えば、木以外の繰り返し表現は、全体で711コマ出てきました。
均質な木があまり登場しなくなってからも着実にコマ数を伸ばしていきました。
種類はものすごく豊富で、納豆やかまぼこといった食べ物系から、手榴弾や凶器といった物騒なものまで登場します。
派生品(ぬのハンカチ、ぬの船、ぬの着物など)をどこまで区別して数えるかが難しいですが、150種類程度はあります。
中でも、敵の攻撃で同じものがばらまかれたり、降り注いだりするパターンが印象的でした。
ボーボボ一味は、首領パッチやところ天の助など味方の頭数が多く、しかもそれぞれが好き勝手に動きます。
なので一遍にダメージを与えられる全体攻撃が重宝されるんでしょう。
敵も大変です。
あと、こういう何なのか分からないものが、何の説明もなく均等に配置されるパターンも散見されました。
ビュティがコマの右側から突っ込んでるの、新鮮な感じがしますね。
本当に頭が痛くなってくる場面も多いです。
うう…。
まとめ
調査は以上です。
謎が全て解けたわけではないですが、少なくとも均質な木に意図があることは見えました。
個人的には、ギャグの世界への導入みたいな線が強いと思っています。
あと、同じものをいっぱい描きがちな傾向がある。
これは間違いないです。
因みに、スピンオフの『ふわり!どんぱっち』では、大幅に世界観が変わっています。
世界は軒並みリアルに近づいていて、伸びる鼻毛や均質な木はめっきり見なくなります。
ここは聖鼻毛領域じゃなくてふわり町ですもんね。
木も多様になりますよ、そりゃ。
でも、見慣れた均質な木がないとちょっと寂しい気もしますね。
均質な木を描いてくれよ澤井先生ー。
あの頃の絵を忘れちまったのかよお。
あっ。
ちゃんと面影ありましたね。
参考資料
『ボボボーボ・ボーボボ』1~21巻 澤井啓夫 2001~2006年 集英社
『真説ボボボーボ・ボーボボ』1~7巻 澤井啓夫 2006~2008年 集英社
『ふわり!どんぱっち』1~3巻 澤井啓夫 2012~2014年 集英社
『ちびまる子ちゃん』8巻 さくらももこ 1991年 集英社
『バウムテスト』ルネ・ストラ 著 阿部恵一郎 訳 2018 金剛出版
『深層心理分析のための知的情報処理を用いたバウムテスト評価システム』秋山孝正、井ノ口弘昭 2011年 日本知能情報ファジィ学会ファジィシステムシンポジウム講演論文集