新年明けましておめでとうございます。
年明け最初は、めでたくいきたいですね。
めでたいといえば、亀。
亀のつくマンガといえば、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』が真っ先に思い浮かびます。
『こちら葛飾区亀有公園前派出所』、通称『こち亀』。
40年間という途方もない連載期間を駆け抜けた作品は、マンガの枠を超えて
アニメ、映画、舞台、グッズなど幅広い分野で人々に思い出を残してきました。
こち亀の思い出
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私自身も『こち亀』で思い出深いシーンがあります。
それは、アニメの冒頭でテレビを離れて観るように注意するところです。
軽やかなリズムで「てってっテレビを観るときは部屋を明るくして離れて観てね」ってお願いするんです。
他のアニメが、小さい字で画面の下に免責事項として載せていたのとは一線を画します。
完全に演出の中に取り込んでいる。
免責事項をこんなに楽しくできるんだ。
子供だった当時はうまく言葉に出来なかったですが、今の語彙で表すとこんなわくわくを感じました。
でも、大人になった私は純粋な心を失ってしまいました。
そんなわくわくよりも先に、とある疑念が湧いてくるのです。
「じゃあお願いしている側のあんたたちは、さぞかし離れてテレビを観ているんだろうな?」
とね。
まさか人にルールを守らせておいて、自分だけルールを破るということはないでしょう。
しかも、『こち亀』の主人公は警察官です。
東京都の出している『警視庁警察職員服務規程』(平成30年1月12日時点)にも、
「職員は、国民の信頼及び協力が警察の任務を遂行する上で不可欠であることを自覚し、
その職の信用を傷つけ、又は警察の不名誉となるような行為をしてはならない。」とありますからね。
信用をなくすような行動を起こすはずがありません。
とはいえ、悶々としていてもキリがないです。
実際に調べるしかないでしょう。
そこで、『こち亀』でテレビを観ているコマの距離を測ることにしました。
レギュレーション
・範囲は、コミックス『こちら葛飾区亀有公園前派出所』1巻〜200巻とする。
・扉絵を含む。
・両津、寺井、マリア、本田、乙姫、大原部長、中川、麗子、絵崎、ジョディ、ボルボ、左近寺、屯田署長の13名を対象とする。
・テレビの高さ÷画面とキャラクターの距離を算出する。
・画面の高さはモニター部分とする。
・裏向きの場合は本体の高さを測る。
・数値は、小数点第二位を四捨五入する。
・画面に向いてないコマは対象外とする。
・テレビと近い方の目からテレビまでの距離を測る。
・人の頭が後ろの場合は目のあると思われる位置からの距離を測る。
・やむをえずテレビの大きさや距離がわからない場合は対象外とする。
・妄想の中で見ているテレビは対象外とする。
・監視室のモニター、カラオケの画面は対象外とする。
・テレビ電話、PC用モニターのゲーム利用、タブレットのテレビ利用は対象に含める。
レギュレーションが細かくなってしまい恐縮です。
扱っているテーマが非常に広く、「これどうしたらいいの?」という例外がたくさん出てきたためです。
こち亀ならではの現象といえるでしょう。
テレビの設計視距離はNHKの研究に基づき、画面の高さの3倍(3H)となっています。
実際は、画面の大きさやテレビの種類、視力によって適切な距離は変わりますが、今回は基準として3H分だけ離れて観ているかを目処にしました。
因みに、この測り方ではコマの物理的な距離を測るため、遠近法が無視されています。
遠近法を含めた距離を計算して測定することは私には難しかったため、そちらの調査は後進に譲ることとします。
そんなことはさておき、調査した結果を見ていきましょう。
両津勘吉とテレビの距離
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まずは主役である、両津勘吉のテレビとの距離を発表します。
グラフの縦軸がコマ数(登場回数)で、横軸がテレビとの距離という見方をします。
横軸が3(テレビの高さ÷距離)を下回ったら、今回は近くでテレビを観ているとみなします。
両津は粗暴で型破りな警察官だけど、人情があって何だかんだ慕われているというキャラクターです。
集計対象にしたコマは、全部で410コマありました。
グラフ化した所感としては、「めちゃくちゃ近くでテレビを観ているじゃないか!」です。
どうなってるんだ両さん!
基準である3Hに達しているコマは20コマで、全体の約5%です。
残りの95%は、3Hよりも近い位置でテレビを観ていることになります。
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最初にテレビを観ているコマからもう顔が近い。
今にもかじりつきそうな距離です。
この2コマ後、イライラしてテレビを壊します。
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コミックス31巻では、初勤務時の様子が描かれています。
ここでも近くでテレビを観ています。
年とともにテレビを近くで観るようになったわけではなく、昔から近くでテレビを観ていたことが分かる資料です。
中川圭一とテレビの距離
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2番目にテレビを観ているコマが多かったのは、後輩巡査の中川です。
大金持ちで顔立ちも整っているキャラクターで、先輩の両津に振り回される役になることが多いです。
初期から最後まで満遍なく出番があった関係で、テレビを観る回数も上位に入りました。
集計対象コマは、ちょうど200コマありました。
両津のグラフと形は似ていますが、0.5H以下の距離でほとんど観ていないのが特徴です。
これは、両津がかじりつくようにテレビを観ているのに対し、中川はそういったことをしないために出た差だと考えています。
所作の気品がデータに表れているんですね。
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とはいえ、ごく初期に問題児としての立ち位置を取っていたときもあります。
二人とも拳銃が好きという部分では共通しているんですよね。
今見ると、私の知る中川像よりもあどけないのが面白いです。
秋本・カトリーヌ・麗子とテレビの距離
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3番目にテレビを観ているコマが多かったのは、同じく後輩巡査の麗子です。
中川同様に大金持ちでルックスもいいのですが、こちらは女性です。
中川よりも気の強い性格を活かした両津とのやり取りを基本としています。
麗子がいることで、他の女性キャラクターとも違和感なく接点を持てるという役割もあります。
集計対象コマは、152コマでした。
こちらも0.5H以下ではほとんどテレビを観ていません。
やはり品がありますね。
中川が、2.5〜3のゾーンでガクッと頻度を落としているのに対し、麗子は1.5〜2のゾーンで頻度が落ちます。
これは、オチのテレビの席が影響しています。
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こち亀のオチには、いくつかの黄金パターンがあります。
その中の一つが、「無茶をした両津がニュース報道されるのを、派出所の皆がテレビで観て呆れる」というパターンです。
主に、「中川+麗子+大原部長+オプション」で構成されます。
このときに麗子はテレビの近くに配置される傾向があります。
なぜなら、セリフがない、或いは短いことが多いから。
マンガの構成的に、吹き出しのあるキャラクターは、コマの端に寄せた方が画面を使いやすいんです。
なので、セリフを言うことの多い中川や部長がテレビと遠い画面端に配置されることが多く、
麗子がその割を食っているような形になっています。
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余談ですが、初めてテレビを観たシーンでは、相撲に夢中になっています。
大ちゃんというのは、当時活躍した朝潮太郎という力士の愛称ですね。
現在の麗子像と少し違うのが、中川同様興味深いです。
大原大次郎とテレビの距離
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4番目にランクインしたのは、大原巡査部長です。
厳しくも温かい上司で、両津を制御することの出来る数少ない人間でもあります。
集計対象コマは148コマで、3位の麗子と僅差でした。
0〜0.5のゾーンが極端に低く、0.5〜1のゾーンも低めなのが特徴です。
最もグラフの突き出たゾーンが1〜1.5なのは、メインの4キャラで部長だけです。
「あまりテレビに近づきすぎてはいけない」という大原部長の規範意識の高さ、生真面目さが出た形でしょうか。
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大原部長は、プライベートでもテレビを娯楽にしています。
プライベートではテレビを観なかった中川や麗子と違い、署外でもコマ数を稼ぐ手段を持っていました。
反面、最新のテクノロジーには疎く、両津たちに教えてもらう展開が多々ありました。
本田速人とテレビの距離
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ここからはテレビを観ているコマ数がガクッと下がります。
白バイ隊の本田は、44コマ集計対象のコマがありました。
3H以上の距離で観ることはほとんどなかったものの、グラフの形自体は中川に似ています。
バイクに乗っていないときの彼はいたって温厚ですので、お行儀悪く至近距離でテレビを観ることは少ないのでしょう。
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本田は、両津と一緒にテレビを観たりゲームをしている場面が多かったです。
仕事上でも助け合うシーンがいくつもありました。
本田も両津も下町育ちのため、水が合うのでしょう。
左近寺竜之介とテレビの距離
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両津の同僚である左近寺は、柔道、空手などの師範の資格を持つマッチョマンです。
全体で27コマ集計されています。
レギュラー陣でなく、しかも初登場がコミックス99巻と出遅れた中では健闘したのではないでしょうか。
サンプル数が少ないためか、分布にそれほど特徴は出ていません。
1回も3Hを越えなかったくらいですかね。
全体の分布に近い形です。
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左近寺といえば、格闘技とテレビゲームです。
彼の登場した1996年は、プレイステーションやニンテンドー64といった家庭用ゲーム機が隆盛を誇っていました。
画像のコマでも、バーチャファイターによく似た格闘ゲームで両津と遊んでいる姿が確認できます。
このときはまさか、硬派な左近寺が恋愛ゲームにハマるなんて思わないですよね。
寺井洋一とテレビの距離
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同じ派出所勤務の寺井(後に丸井ヤング館)は、25コマでテレビを観ていました。
数少ない庶民派の警察官として、影が薄いながらも細く長く出場を重ねました。
グラフの形はかなり異様ですね。
0.5〜1が突出して高いこと、出番の割に3H以上の頻度が高いことの2点が大きな特徴です。
前者には、寺井のオーソドックスな面が出ています。
0.5〜1のゾーンは、全体集計で最も頻度の高いゾーンです。
やや乱暴ですが、こち亀の世界での標準的な近さと言い換えることもできます。
この「こち亀の標準」から大きくはみ出すことがないために、寺井の距離が0.5〜1に集中していると私は捉えています。
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後者に関しては、影の薄さが遠さに繋がっています。
つまり、何かのおまけみたいに描かれているため、遠くにいる割合が高いんです。
この画像でも、心配する中川、怒る部長に対し、呆然とするだけです。
どこまでも一般人で主張が弱いために、後ろに追いやられやすいというわけです。
彼の特徴をよく表したグラフと言えます。
屯田五目須とテレビの距離
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大原部長よりはマイナーですが、屯田五目須(とんだごめす)こと署長も20コマほどテレビを観ています。
警察としての階級は警視正で、警視総監、警視監、警視長に次ぐ偉さです。
両津と出会っていなければさらに偉くなっていたという話も作中にあるので、組織人として優秀な人材なのかもしれません。
グラフの形は、平坦な分布という特徴があります。
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最初にテレビを観たのは、両津が有名女優と番組に出ることになり、それを警察署で待っていた場面です。
桃屋のCMらしきものが映っていますね。
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地位の高いものが低いものに振り回されるというコメディの王道を活かすために、大原部長とセットになることも多かったです。
これはオヤジギャグが寒すぎたために、強制的にお笑いの映像を見せられているシーンです。
めちゃくちゃだ。
麻里愛とテレビの距離
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麻里愛(あさとあい)ことマリアは、なぜか両津に惚れ込んでいる男性(後に女性)です。
初登場は67巻でしたが、特異な立ち位置とビジュアルで最後まで生き残りました。
集計対象は8コマありました。
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マリアが初めてテレビを観たのは、コミックス109巻ですね。
なんと登場から8年が経過しています。
この間にスラムダンクが始まって終わっていると言えば驚きが伝わるでしょうか。
派出所でプレイステーションの電車でGO!をプレイしている場面です。
確かに流行りましたからね、電車でGO!。
和むなあ。
マリアも同じ派出所に勤務しているので、もっと宿直室のテレビを観てもよかったと思うんですがね。
料理を作ったりキックボクシングの経験を活かした立ち回りをしたりと動的な役割が多かったので、
テレビの場面での登用は抑えられたのでしょう。
ボルボ西郷とテレビの距離
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ボルボは、元軍人の警察官です。
サバイバルゲームなどミリタリー趣味の回のときに活躍します。
集計対象のコマは5コマでした。
あまりテレビとは縁のないキャラクター人生を歩んだといえます。
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極稀にこうして派出所の面々と両津のニュースを観るくらいですね。
アウトドア担当なので、中々テレビを観ている姿はお目にかかれませんでした。
ジョディー・爆竜・カレンとテレビの距離
ジョディは、ボルボの嫁候補であり、アメリカ海軍所属の軍人です。
さっぱりとした性格で、サバイバルにも長けています。
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こち亀200巻の内、唯一テレビの画面を観ているのがこのコマです。
オンラインゲームの回で、両津と電話で話す場面です。
ゲームのモニター利用をレギュレーションで含めておいてよかったですね。
含めなかったら0でしたからね。
これは貴重ですよ。
乙姫菜々とテレビの距離
乙姫は、警察官兼少女マンガ家という二束の草鞋を履いたキャラクターです。
華奢な外見に似合わず体力すごいですね。
先述した本田の交際相手でもあります。
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乙姫は、最後までテレビを観ているコマはありませんでした。
PCでマンガを描くシーンはあったので、惜しかったですね。
両津たちとの接点の弱さがそのままテレビとの接点がなかった原因になります。
まず、両津たちと違う交通課の白バイ隊に勤めていたこと。
そして同じ白バイ隊の本田が両津と仲がよく、派出所にしょっちゅう遊びに来ていたのに対し、
乙姫は特に派出所の誰かと仲が良かったわけではなかったのが響いています。
やむなし。
絵崎コロ助とテレビの距離
絵崎は、中川の恩師として登場した、いかがわしい研究者です。
彼も乙姫と同じくテレビを観ているコマはありませんでした。
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自らがテレビに映っているコマはあったんですがね。
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最も惜しかったのは、このオチのコマです。
もうちょい!
もう数歩進んでもらえたら、テレビを観た数としてカウントできたのに!
薬でフナムシを大きくしている場合じゃないんだよ全く。
まとめ
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トータルでは、1040コマ(1つのコマに複数キャラがいるもの含む)を集計しました。
ご覧の通り、ほとんどの場面で3Hよりも近づいてテレビを観ていることになります。
マンガで3Hの距離を取る構図が難しいのか、こち亀のキャラクターたちのモラルの問題なのか。
舞台版で皆がゲームをやる回があれば、明らかになるかもしれません。
あるかは調べていませんし、舞台映えしなそうなのでおそらくないでしょう。
ところで、一人だけ「テレビを観るときは」に出ていて、集計対象にしていない人物がいます。
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ジョディの父である爆竜大佐です。
なぜだと思いますか?
揺れているだけで一切歌っていないからです。
参考資料(URL最終確認は2019/1/12)
『こちら葛飾区亀有公園前派出所』1〜200巻 1976〜2016 秋本治 集英社
『液晶テレビの好ましい観視距離』2011 窪田悟、岸本和之、合志清一、今井繁規、五十嵐陽一、松本達彦、芳賀秀一、中枝武弘、馬野由美、小林雄二 映像情報メディア学会誌65巻8号
『警視庁警察職員服務規程』2017改正
[完結] こちら葛飾区亀有公園前派出所のマンガ情報・クチコミ
こちら葛飾区亀有公園前派出所/秋本治のマンガ情報・クチコミはマンバでチェック!200巻まで発売中。 (集英社 週刊少年ジャンプ)「第48回星雲賞」 「第21回手塚治虫文化賞」などを受賞。別名、こち亀。