床屋のマンガとしてのKindle Unlimited

床屋のマンガとしてのKindle Unlimited

 こんにちは。流行りにのって、トランプ当選で急に言うこと変えてみてる伊藤ガビンです。このサイト『マンバ通信』の編集をやっております。マンガとその周辺についてぶらぶらと考えていることをこのコラムで書いていけたらと思います。

 さて、いきなりですが、Kindle Unlimitedってみなさん使ってますか?
 Kindle Unlimitedのことを知らない方もいらっしゃると思いますが、詳しいことは各自ググってもらうとして、かいつまんでいうとAmazonがはじめた電子書籍の定額サービスですね。Unlimitedに登録されている書籍を、 月額980円でヨミホーダイできるというもの。サブスクリプションモデルってやつですね。

 このサービスが日本でリリースされた今年の8月、そっこーでサービスに申し込んで使ってきたわけであります。
 でまあ、あらかた満足しているわけなんだけど、世の中の解説と僕が使用して感じている実感に結構差があるなと思って、そのあたりのことを書いてみます。

 これまで目にしてきたKindle Unlimitedに関する記事を眺めると、
・こんな面白い本が読めるのか!
・人気本がごっそり消えたで!
というのが主流ですかね。あとビジネスの話とか。

 そこらあたりをウンウン頷きながら読んで納得もしたんだけど、自分のこのサービスの楽しんでるポイントとナンカチガウナーと思ったんですよね。

 僕がどのようにKindle Unlimitedを利用しているかというと、床屋や定食屋で読むマンガを読んでる感じに近いな、という感じです。

 床屋とか定食屋とかラーメン屋とか病院にいくとマンガが置いてあるじゃないですか。僕が行ってる床屋には『美味しんぼ』『風の大地』『島耕作』シリーズとかが置いてあるんですけど、あのあたりのラインナップ。こういっちゃなんだけど「あるから読む」感じのラインナップ。僕のKindle Unlimitedの利用方法は、まさにアレだなーという思いです。
 ちなみに『美味しんぼ』『風の大地』『島耕作』シリーズもUnlimitedにはないと思うんですけどね(もしあったらすいません)。

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 で、具体的に僕がどういうものを読んだかといいますとずばり『女帝』( 倉科 遼 / 和気 一作 )ですよ。

 全24巻すべてUnlimitedで読めます。(2016年11月19日現在)。

 最高でした。。。

 なぜ今まで読んでなかったのかバカバカ。

 これどういうお話かみなさんご存知でしょうかね。タイトル通りの銀座の「女帝」を目指す話なわけですが、僕は勝手に脳内に描いていたものとはだいぶ違うものでした。

 僕の脳内『女帝』は、とにかく賢くて勝ち気な女性が銀座のクラブで手段を選ばず女帝への階段を駆け上っていくってものでした。ピカレスク・ロマン的な側面というか。毒を食らっても上り詰めていく女、、、そして悲劇へ。みたいな。

 そしたら実際は主人公彩香は信じられないくらい善人なんですね。そして善人のまま数々の困難(それはもちろん悲劇を含むんだけど)を乗り越えていく話なんですよ。

 どこまでネタバレしていいものかと思うんだけど、例えば一例をあげると、自分の店のホステスたちが年を取った時にどうしたらよいのかということを彩香は悩みます。その結果、ホステス引退後の職を考えたり、住環境を整えたりするんですよね。

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『女帝』 14巻 「魂の寄る辺」より

ホワイト企業なのこれ? 富士そば?

 しかも24巻読み終わったあとは、彩香の娘である明日香の物語『女帝花舞』(全28巻)が待ち受けているんですよ。これもすべてKindle Unlimitedで読むことができます。

 こっちはさらに『女帝』の独特の考え方がスケールアップしていってですね、まるまる1話すべて「首相の所信表明演説」だけの回とかがあるんですよ。

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『女帝花舞』24巻「所信」より。

米国支配から抜け出そうという演説がまるまる1話続くんですよ。結構意外じゃないですか。

『女帝花舞』24巻「所信」より。なんかスケールでかい。
『女帝花舞』24巻「所信」より。なんかスケールでかい。


 ある意味『島耕作』なんですよね。 

 『女帝』の話は無限にできてしまうんだけど、Kndle Unlimitedの話に戻しましょう。

 Kindle Unlimitedみたいな新しいサービスが始まった時、僕は新しい体験を期待してしまうみたいなんですね。
 古臭いことを言えばウォークマンが発売された時に初めて音楽を町に手軽に連れ出せるようになって、町の景色が違って見えた。それがiPodにとってかわられた時には自分の音楽アーカイブを持ち出せることが、またくそ面白い音楽体験をもたらしてくれた。
 そうした発明が生まれ、宣伝されるときには、こんなに便利、こんなにお得みたいなことが言われるんだけれど、実際に生き残る発明やサービスは新しい体験をもたらしてくれるものっすよね。
 で、いうと、Kindle Unlimitedが何を僕の生活に与えてくれたのかというと「床屋のマンガを自宅に」みたいな体験だったというわけなんですよ。
 となると「床屋のマンガ」って何なんなのかってことになるわけだけど、まず、前提として「床屋のマンガ」は滅びつつある、というのがあります。

 なぜなら世の中から「待ち時間」ってもの自体がずいぶん減ったなって思うんですよね。床屋でもレストランでも病院でも予約システムが洗練され、使う人たちもそれに慣れたじゃないですか。

 その結果、待ち時間というものはなくなっていって「床屋のマンガ」を読む機会が失われていった。残っているとしたら、ひまづぶしで入った漫画喫茶くらいかな。

 だけど「床屋のマンガ」みたいな存在やその読まれ方ってすごくいいもんだと思うんですよね。平日の昼間「科捜研の女」の再放送を見るでもなく見るような体験。ちょっと時間があいたからといってNetflixで『ストレンジャーシングス』みるのとは別の軸をもった体験じゃないですか。

 朝ドラとかもそうですよね。娘の弁当の卵焼きを巻きながら見ることに最適化されている。ストーリーについていく必要があるわけで、何回か見なくても流れがわかる必要がある。

 Kindle Unlimitedで、「今読みたいあのマンガがあるかどうか」で判断するのは、要するにお金の節約な視線ですよね。それはこのご時世だから大事なことなんだけど、その視線だけだと逆にもったいないなと思うんです。

 というわけでまだ掘り始めたばかりのKindle Unlimitedですが、とりあえず今の時点では「床屋のマンガ」コーナーとして眺めるとなんだか異様に楽しいぞ、ということをお伝えしておきたいと思いました。

 ちなみに、このタイプのマンガの常としてお色気シーンが多めに配合されているのでKindleやiPadを持ち出して満員電車で読むのは要注意です。『女帝』では「主人公のモノローグはほとんどシャワーシーン」というお色気文法が採用されているので、もうめちゃくちゃに湯を浴びております。

 

記事を読んだ感想や『女帝』について語りたい方はマンバまで!!

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