たか
たか
2019/05/14
ネタバレ
圧倒的な構成と画力
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絵も話も圧倒的に上手い!作者はいったい何者…? 「付き合ってみたけど、思ってたのと違う」といって別れるのは思春期あるあるですが、それを暗喩を用いてここまで見事に描いているのがすごい! ・放課後小川さんと行きたかった場所 ・よくできてる海のキーホルダーを買った理由 ・映画が面白いと思った訳 小川さんと付き合い始めてから、何ひとつ言わなかった主人公・原田が、初めて自分の考えを言ったのはセックスした直後。 「別れよう」 「付き合うって自分のモノになることだと思ってたのに、気遣いばっかりでもううんざりなんだ」 うそでしょ…くそすぎる…! というのも実は、原田の部屋には「原田のゲロから生まれた小川さん」がいる。 原田とは何でも気が合い、いちいち原田と違う考えを主張し摩擦を起こす本物の小川さんとは違う、まさに「小川さんじゃない小川さん」。 ゲロ小川さんののように何でも「だよねってなれる、摩擦のない会話。摩擦のない関係」こそが、相性がいいことだと思っていた原田は、本物の原田さんと寝たあとすぐに分かれを切り出す。 その後、原田は自分の意見を持たないゲロ小川さんが「原田自身」の姿をとったことで、原田は考えを変える。 「オレは海を掴んだんだ」という自分の意見を黙って飲み飲んでいた原田が、相手に寄り添うことの大切さに気がついた瞬間にキーホルダーを手放す演出が好き。 ネットに作者の情報がなさすぎでは!? どの媒体でも構わないので、ぜひまた三ト和貴の作品を読みたいです…! (追記) 「全然情報見つからねえ〜!」と思ったら、ヤンジャンのサイトは「三ト和貴(カタカナのト)」になってて、ご本人のTwitterのお名前は「三卜和貴(占いのうら)」になってるためでした。 https://twitter.com/mitok07
たか
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2019/05/08
3つの恋の短編集(アンリミで読めるぞ!)
マンバ通信の記事で知り、Kindle Unlimitedに入ってたので読んでみました。3作品からなる短編集なのですが、どれもこれもお話の完成度高い! 表題作の「恋はなに色?」はオープニングがすごくいい。 縦割りのコマで、主人公のナレーションと物語が同時に進行し、ページを捲って天使がドーーンという見せ方がもう上手いな〜と、ワクワクしながら読みました。 主人公は秀才だけど地味な紅。双子の妹は勉強は苦手だけどとっても可愛い藍。この漫画のいいところは、紅が自分の器量のことをまーったく悲観していないところ!周りにいじられても凹んだりしないのは、本当に自分の見た目のことで全く悩んでいない証拠で、そのあっけらかんとしたありようがすごく素敵。 いわゆる「サバサバ系」とも違う、本気で容姿を気にしてない自然体なところがスキップとローファーのみつみちゃんぽい(2人ともとてもかわいいです) 昔の少女漫画特有のコメディパートのあのノリと、ミシェールの耽美な天使姿のギャップ…! この両立が、やはり少女漫画の魅力だとあらためて感じました。 その他に高飛車な女子大生と双子の青年の恋を描く「お気に召すまま」と、病気で留年してかつて出会った少年と同級生になる「恋の不等式」も収録されていて、この2作品もまあ〜!設定を活かしきってて面白い!! 昨今の**「イケメンのイケメンな言動にときめく」マンガではなく、登場人物たちの関係性や心の変化を楽しむマンガ…!**これはすごいぞ!! 1冊の中でめちゃくちゃ楽しめる恋愛短編集です。 https://www.amazon.co.jp/dp/B075J9CZTJ/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_U_wXQ0Cb9HYA1Z6
たか
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2019/05/08
ネタバレ
老若男女必読! いま最も応援したいおじさん
マンバ通信で知った、下着を作っていたおじさんが下着で働く女の子たちと出会う物語。⚠️ネタバレあり⚠️ https://manba.co.jp/boards/103525 地味で真面目なおじさんが慣れない環境で頑張っているのを見ると泣きそうになる。妻を亡くし、いままで縁のない風俗業に飛び込んでるならなおさらです。 下着メーカーの営業を定年まで勤め上げた進さん。1話では最初風俗と知らずに出勤し抵抗感を感じたまま働いていたのに、最後にはワイシャツに汗ビッショリかきながら掃除をしている。 そして必死に掃除する進さんの尻ポケットには、若かりし日の妻との写真があって…んもう!そういうところが本当に素敵…!! https://i.imgur.com/deFlUCK.jpg (『はたらくすすむ』安堂ミキオ) (ネタバレになるのであまり書きたくないのですが、進さんは元々ファッションデザイナーを目指していてお洒落への感度が高かった、というギャップもまた萌えます) 2話の「ナプキンを買って来い」と若い女の子にパシられるエピソードでは、予想を裏切る120点の完璧な対応で一瞬で進さんに惚れてしまいました。格好良すぎる(震え) 気づけば心の中で「進さん…!」と、さん付けしていました。持ち前の真面目さで、毎回毎回、自分で気付きを得る進さんに好感度うなぎ上りが止まらない。 進さんが好きすぎてここまで進さんのことしか書いてないですが、いままで漠然としか知らなかったピンサロとはどんな場所で、どんな業務があるのかしっかり描かれていて、大変勉強になります。 今後いつ娘にピンサロのことを打ち明けるのか、回想でしか登場していない息子との関係(これは来店フラグか)、和子さん視点での夫婦生活など、まだまだ気になることがたくさん。 風俗に縁がある人もない人も、どんな世代・性別の人が読んでも楽しめる作品だと思いますのでぜひ…!
たか
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2019/05/06
ネタバレ
地獄みたいな復讐劇 やっぱすえのぶ先生は最高だぜ…!
「おめーの席ねぇから!」で知られる(?)すえのぶけいこ先生の「ライフ」。漫喫でライフ2 ギバーテイカーの背表紙を見かけ「あ〜、そういえばスゲーハードな少女漫画あったな〜!!」くらいの認識のままこの作品を読んでエライ目に遭いました。 んもう、とにかく主人公・樹に降りかかる悪意が尋常じゃない!(エグさでタメ張れるのは秘密のチャイハロくらいなものだと思います) 妹を殺され、未成年の犯人は釈放され、自分の手で警察内部では女だと見下され、親友に「妄執」していると一方的に軽蔑され、世間には誤認逮捕のクソ刑事と叩かれ、職場では仕事を干され…。 もう人生の闇と苦痛全部乗せ! こんな状況でも挫けずらひたすら喰らいついて戦う主人公のタフさが最高です。 読んでる間は主人公の唯一の味方・今井さん(紺田照に似てる)が癒やしでした。 この作品は表紙・裏表紙ともに奇数巻が樹、偶数巻がルオトとなっているため、紙の本を並べるとまるで「裏表紙のルオトが表紙の樹を見つめている」よう…。 …読んでる途中でこれに気がついてゾッとしました。 少女漫画らしい人々の悪意と、青年誌らしい暴力・殺人が見事に合わさった作品。全6巻なので映画1本見る感覚でぜひ読んでみてください!!
たか
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2019/04/29
ネタバレ
好きとしか言えない
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ノーベル文学賞を受賞した「戦争は女の顔をしていない」のコミカライズ。 1話は「従軍洗濯部長政治部長代理」という肩書を持つワレンチーナという女性に、戦争の記憶を尋ねるところから始まる。 部屋にサモワールが置いてあることから、ロシアなんだろうなとなんとなくわかる。 手の爪が抜け、腸がハミ出ても、臭い石鹸でひたすら洗濯。 そりゃ当然誰かが汚れた軍服洗っていたはずだけど、そもそも「兵士の洗濯物を洗う役割の人がいた」ことなど想像したこともなくて、急に戦争が現実味を帯び身近に感じられた。 愛情深く女の子たちを導いてきたワレンチーナが言う、「女の子は女の子ですから」というセリフが最高…。 夜中に抜け出したり、森の中で踊ったり。 **どんなに過酷な世界でも、変わらなかったものがある。それが「女の子が女の子らしさを失わなかった」ということ。** 命のやり取りにくらべれば取るにならない些細なことだけれど、守り抜くのはむずかしいもの。「戦争ですら女の子らしさを奪うことができなかった」という事実が、現代を生きる自分にとっては唯一の救いに写った。たとえそれが、この「洗濯部隊」の少女たちだけだったとしても。 苦役を耐え忍び、お互いを思いやる優しさ、いたずら心。 女性が備えてる辛抱強さと明るさが愛しくて、好きとしか言えない。 https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_AM00000019010000_68/
たか
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2019/04/27
女子ちょっと集合〜!ヤンキーがアイドルになるマンガだよ!
「んもー!!こんなに面白いなら早く言ってよ〜!!」と言いたくなったマンガ。女子はちょっと悪い男の子とアイドルが好きですからね(諸説あり) 1話はある広島の田舎町で、男の子2人が伝統の神楽を舞うシーンから始まる。 もーーッ!!1人で舞ってても格好いい神楽を2人で息ピッタリやっちゃうとかさぁ、も゛ーーッッ!! でもちょっと待って!! どう見ても表紙ヤンキー漫画じゃない??そう!何を隠そう、蓮と清春はケンカばっかりのヤンキーで、幼馴染で、神楽のかけがえのない相方なんです!! しかしある日、清春は蓮と神楽を捨て町を去る。次に姿を現したとき、清春はテレビの中でトップアイドルになっていた―――。 というわけで、連は清春と同じ舞台に再び立つため東京で養成所に入る。 この養成所ってのが木造の古い旅館のような建物で、ここに住むポッチャリ、俳優の二世、漫画家志望、ちっちゃいヤンキーと共にアイドルを目指すことになるのです…! アイドルに夢中になったことがある人なら、この養成所の部分は語らずともどんなにドラマチックか想像できると思います。 そしてこのマンガはクローバーの平川哲弘が描き週刊少年チャンピオンに載ってるだけあって、とにかくヤンキー力が高い(アイドルものとは思えないケンカ率)。 つまり!! ・アイドル業界 ・ヤンキー業界 の2つの領域でそれぞれ熱い戦いを見せてくれる最高の漫画なんです…!!! そもそもよく考えたらヤンキーもアイドルも、仲間を大切にして夢に向かって頑張るんだから似たようなもんですよね。 男の子たちの血と汗と涙の青春。読めば必ず箱で推したくなります…!!
たか
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2019/04/24
洋菓子から転向!下町と修行と人情と
「パティシエールを目指していた女の子が、和菓子職人の弟子になる物語。「そんなん面白いに決まってんじゃん…!」と読んだら、案の定面白かった! (違う世界に挑戦する話が大好きなんです…Real Clothes、スピナマラダ!、空手小公子 小日向海流みたいな) まずこの絵柄がいい! キラキラした少女漫画やシュッとした少年漫画じゃ出せない「素朴さと温かみ」が下町の義理人情を引き立ててたまらない。 そして職人の在り方・心構えをガッツリ丁寧に描いてるところがいい! 和菓子を作るには、材料から日本の四季と文化に精通しなくてはならない。よって親方や女将さんがなっちゃんを育てるために、あれやこれや手を尽くすし、なっちゃんも期待に応えるために真剣に努力する。 店には親方、兄弟子、店を取り仕切る女将さんがいて、和菓子の道を極めるうえで主人公彼らとは「師弟関係」という線引きがある。 尊敬と愛情で繋がる「親しいが馴れ馴れしさはない」、職人の世界の人間関係がすごくよかったです。 そして何より、全く道の厳しい世界でもヘコたれない、主人公の真っ直ぐな心とタフな根性が読んでいて気持ちがいい! こういう子好きです。 何も知らずに読み進めていたところ、20巻のあとがきで衝撃を受けました。 作者の方がご病気で逝去されており、その遺志を継いで未完のまま完結させるというお知らせでした。 アメリカから来た新しい弟子となっちゃんの関係がどう決着するのか本当にワクワクして読んでいただけに、「ここでなっちゃんの世界は終わり」といきなり知らされショックで呆然としました…。 未完ではありますが、作中の下町人情や美味しそうなお菓子、日本の伝統文化は本当に最高。 最初から未完であると知ったうえで楽しんで読んでほしい名作です!
たか
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2019/04/19
早く教えて欲しかった漫画…!苦くて熱いジュブナイル
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元合唱部としては絶対読まねばと思いつつ積ん読していたこの作品。んも〜〜!!ただただ最高でした。 主人公・藤吉晃(あきら)は声が低すぎることがコンプレックスな工業高校の1年生。彼と同じ1年生には合唱部を作ろうとする「並の精神力ではない」凄みを感じさせる男・木村仁がいて、毎日毎日昇降口で1人で歌っている。 理論的な発声・和音の知識を持つ仁は作中で少年探偵の「コ○ン」と呼ばれるけど、実際その精神力の強さは弱虫ペダルの坂道くんのよう。 なんというか…物事に本気の人間だけが見せる狂気じみた強いハートが仁の魅力で、彼を見ているとあっという間に作品に引き込まれていきました。 仁が主人公の名前を聞いて「三善晃みたいだね」と言った合唱部ジョークにはファミレスで読んでて噴きました!(曲集「生きる」大好きです…!) 工業高校の授業、個性的な友人、家庭環境、人体・歌唱の理論的な解説。 あらゆる要素がまさにハーモニーを作り出していて読み応えがあります。 1巻を読みながら2巻をポチって読破しましたが、2巻は予想だにしない壮絶な展開で圧倒されました…。 でも何より、その重い展開を合唱曲が理論と精神両面から救いをたらすという構成が最高でした!! 今度合唱部の同期と会うときは人数分用意して配ります。 (画像は1巻より)
たか
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2019/04/19
1人の少年が身体を手に入れるまでの物語
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 新刊発売を楽しみに待っていた作品。    小さいころは男でも女でもなく「子ども」でいられた主人公・リラが直面した、二次性徴という危機。それをどうやって乗り越えて、男性としての身体と人生を手に入れたのかを成長に合わせてじっくり丁寧に描かれていて素晴らしかったです。    またナタンが「自分は何者なのか」という葛藤や家族との摩擦の中でも、髪を短くしたり、弟のTシャツを着たり、彼女と付き合ったり、自分がやりたいことを貫いた姿がとても心に残りました。    わたし自身は、ナタンのように男の子とスポーツで遊ぶ方が好きな子どもで、当時は大人の女性にはなりたくないと思っていました。とはいえ身体と性自認が一致していたことで、ナタンのような大きな葛藤なくいつの間にか性別を受け入れて大人になることができました。    このマンガを通じて、『自分がたまたま経験しなかった苦しみ』の存在があることを知れて、本当によかったです。     作品の舞台設定に関して、主人公が部屋中にジャスティン・ビーバーのポスターを貼っているシーンやスマホから、舞台は現代(から少しだけ前)なのかなと想像しつつ読んでいましたが、あとがきによると主人公のモデルとなった人物は現在大学生だそうです。    友達とFacebookのメッセージ上で揉めたりクラブに行く描写は、彼が同じ時間を生きているのだととても身近に感じられました。    最後に、出版社である花伝社のnoteがとても素晴らしかったのでここでシェアします!  FtMの方の『一人称のお話』や、原作者が副題に込めた『少女が少年に「なった」物語ではない』というエピソードなど…様々な方の想いを大切にして作られたことが伝わってくる素晴らしい記事なので、ぜひ「ナタン」を読んだ方はチェックしてみてください。 https://note.mu/kadensha/n/n77106bb5c3f9
たか
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2019/04/04
移民、青春、そして故郷
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1980年代、内戦の続くモザンビークから東ドイツへ渡った3人の若者たちが主人公。 東ドイツで青春時代を過ごした経験がそれぞれの「故郷」との関係を変えることになる。 党に理想を抱く真面目なジョゼ 未来がないことを理解し遊びを大切にするバジリオ 残された家族のために働くアナベラ 本文によると、この3人は作者がインタビューを行った実在のドイツ移民たちを「結晶」したものなのだそう。 彼らの東ドイツ生活は、先進社会主義国の雰囲気・先のない単純労働・移民差別で窮屈なんだけれど、決してそれだけではなかったというのがとても印象的だった。 女の子と遊んだり、恋人に出会ったり、勉強を頑張ったり、映画・小説・ファッションを楽しんだりしっかり青春もしていた。 (東ドイツで出会った絵本や映画、アイスクリームのラベルなどが、フォトコラージュのように描かれるページがとても素敵) 鬱屈した遠い異国の地で、彼らなりに日々に楽しみを見出し生きている姿は読んでいてとても眩しい。 だからこそ、移民であるために訪れた残酷な青春の終わりには強い喪失感を覚えた。 それぞれが迎えたその後の人生は、日本でずっと暮らしている自分の想像も及ばない深い怒りと悲しみに満ちていて、彼らの感じた激しい想いが、ページにぶつけられたインクの色と形とリンクして訴えかけてくるのが壮絶。 故郷を離れたことがある人も、ない人も。 この本は故郷とは何かを見つめ直すきっかけになる本だと思います。