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1980年代、内戦の続くモザンビークから東ドイツへ渡った3人の若者たちが主人公。
東ドイツで青春時代を過ごした経験がそれぞれの「故郷」との関係を変えることになる。
党に理想を抱く真面目なジョゼ
未来がないことを理解し遊びを大切にするバジリオ
残された家族のために働くアナベラ
本文によると、この3人は作者がインタビューを行った実在のドイツ移民たちを「結晶」したものなのだそう。
彼らの東ドイツ生活は、先進社会主義国の雰囲気・先のない単純労働・移民差別で窮屈なんだけれど、決してそれだけではなかったというのがとても印象的だった。
女の子と遊んだり、恋人に出会ったり、勉強を頑張ったり、映画・小説・ファッションを楽しんだりしっかり青春もしていた。
(東ドイツで出会った絵本や映画、アイスクリームのラベルなどが、フォトコラージュのように描かれるページがとても素敵)
鬱屈した遠い異国の地で、彼らなりに日々に楽しみを見出し生きている姿は読んでいてとても眩しい。
だからこそ、移民であるために訪れた残酷な青春の終わりには強い喪失感を覚えた。
それぞれが迎えたその後の人生は、日本でずっと暮らしている自分の想像も及ばない深い怒りと悲しみに満ちていて、彼らの感じた激しい想いが、ページにぶつけられたインクの色と形とリンクして訴えかけてくるのが壮絶。
故郷を離れたことがある人も、ない人も。
この本は故郷とは何かを見つめ直すきっかけになる本だと思います。