第20回文化庁メディア芸術祭/マンガ部門優秀賞『総務部総務課 山口六平太』 林律雄✕みなもと太郎トークイベントレポート

写真:ただ(ゆかい)

こんにちは、マンバ通信です。

今年の3月に発表された「第20回文化庁メディア芸術祭」のマンガ部門で『総務部総務課 山口六平太』が優秀賞を受賞しました。それを記念して開催された、原作者の林律雄さんとマンガ部門審査委員のみなもと太郎さんのトークイベントの様子をマンバ通信がお届けしますっ!

まずは簡単にこの作品のおさらいを。

『総務部総務課 山口六平太』は、作画の高井研一郎さんと原作の林律雄さんのタッグにより、小学館のビッグコミックにて1985年〜2016年まで連載されていた作品です。

第20回文化庁メディア芸術祭受賞作品展での展示の様子

連載は1話読み切り形式。自動車メーカーの総務部総務課に勤務する山口六平太が主人公で、毎日のように他部署から総務へと持ち込まれる社内問題を、彼が機転をきかせつつ独自の方法で解決するというもの。この社内あるあるネタが多くのサラリーマンの心をつかみ、「サラリーマン応援歌」として長年愛読された作品です。昨年11月、作画担当の高井研一郎さんの急逝により30年間続いた連載も惜しまれつつ終了。

今回はマンガ家でありマンガ研究者でもあるみなもと太郎さんが聞き手役、司会進行を日本芸術文化振興会の戸田康太さんが務めるというかたちで、原作者の林律雄さんに連載以前からこれまでのことを振り返っていただきました。

六平太は「絶対出世させない」と決めていた

戸田 本芸術祭においての受賞を聞いて、まずはどういうお気持ちでしたか?

(左から)戸田康太さん、林律雄さん、みなもと太郎さん

 小学館の場合は功労賞というか特別賞だったんです。高井さんが亡くなったってことでいただけた賞なので。作品としてはこの賞が最初で最後ということになるので、ハッキリ言うと(高井さんが)となりにいてくれると嬉しかったですね。30年間続けて、ひとりではいただけない賞だったので。受賞するときもとなりにいてほしかったなと思います。

戸田 みなもと先生には審査をしていただいたのですが…

みなもと 審査中に高井さんが亡くなってしまったので、この作品が審査対象から外れてしまうんじゃないかという話がでたときに「それはとんでもない!」と大反対しました。六平太は最初からずっと変わらず、要するにサザエさん状態できてるんですかね?

 原作っていうのは読者が作画家と編集者の二人しか必要ないんですね。立ち上げた編集者もいるんですけど、長期連載やってますと、会社だからそのうち担当者も変わる、人が変わると「ちょっと変えたい」っていう話もでてきたりするんです。新しい色を出したいとなると、設定や話を変えるのが出しやすいんですよ。

みなもと でしょうね。

 それやるとこれまで作ってきたアンサンブルが狂ってくるんです。ちょっと心が動くときもあったんですけど、そのままいこうと。実はこの作品の前に私は少年サンデーで「おやこ刑事(デカ)」という連載の原作を担当してまして、あれでひとり殉職させてしまって失敗した経験がありまして、やっぱり一度失ったキャラクター以上のキャラクターを作るのは大変なんですよ。

みなもと そうですよね、ディズニーだってミッキーマウス以上のものは出てこないですから。

 それもあって、この登場人物に関しては絶対動かさないと決めてました。しかも、出世もさせない。

みなもと それもすごいびっくりしたんですよ。

戸田 登場人物設定を見比べてもほんとに誰もかわってないですよね。

1巻と81巻の登場人物紹介ページ

 絵柄が変わってるんですよね。1巻の方が絵柄がトンガッてる感じで。最後の方になると六平太がふくよかになって。

『総務部総務課山口六平太』左が1巻、右が81巻

みなもと 長くやってるとね、マンガ家はどうしてもそうなります。ゴルゴさんだって最初は殺気の塊でしたから(笑)。 今はどっか落ち着いた人になってます。

 初期のゴルゴさんは随分しゃべってましたよね(笑)。

戸田 等身に関しましても1巻の方がシュッとしてて、最後はまるっこくなる感じですね。

みなもと これはねどうしても短くなります。顔も縮みます。

 六平太の場合は30年もやってると徐々に時代背景が変わってくるんですね。

みなもと はいはいはい。そうですよね、連載が始まった頃はまだ会社の中でタバコ吸い放題でしょ!

戸田 六平太の初期の特技が、タバコを社内で吸ってて、社長とすれ違うときに舌でくるっと巻いて隠しちゃうんですよね。これがしばらく特技として描かれてますよね。

六平太がタバコを口の中に隠すシーン

 一番最初に編集者さんから「面白くなかったら1回で終わりなんで」って脅かされるわけですよ。そうすると、1回目で主人公のキャラクターを伝えなければいけないので、あまりいい方法じゃないけど、印象づけるという意味でタバコを舌で巻くっていう特技を入れました。これは、昔大学の友だちが実際にやってたんですよ。自分でやろうとは思わないですけど(笑)。 マンガで使ってみたら結構良かったんですが、だんだんそれをする必要がないくらいキャラクターがついてきましたね。

みなもと キャラクターがいきてきたんですね。

 それぞれのキャラクターの言葉もやってくうちに自然とかたまってきましたね。最終的にコマ割りにセリフだけがあって、絵がいっさい入ってないっていうページがあるんですが、それだけでもちゃんと誰が話しているかがわかるんですよね。

みなもと ひとりひとりのモノの言い方が全部かたまってきたってことですね。

 不思議なことにいつの間にかそれらしさが出てきますね。

林律雄さん

戸田 複写なので少し見づらいかもしれませんが、こちらは『総務部総務課山口六平太』の第1話が掲載されたビックコミックの表紙になります。注目いただきたいのが1985年の9月23日の増刊号というところ。32年前の今日の日付で発行された号で第1話が発表されているんです。中身は単行本の1巻1話に収録されてる内容と同様なので、先ほどお話にもでてきたタバコのことも描かれていますね。

『総務部総務課山口六平太』の第1話が掲載されたビックコミック増刊号(1985年9月23日発行/小学館)の複写

みなもと そうなんですね! まさに32年前の今日(トークイベントは2017年9月23日に開催)! それは鳥肌が立ちますね。

大御所のマンガ家さんほど原作に忠実だった

みなもと 高井さんとの思い出はたくさんありますよね。作品をつくるとき、会って呑みながら相談するんですか? それとも原作だけが先に進行していく感じですか?

 当初、高井さんが原作つきのマンガをやるのは初めてだったので、話作りに関しては一切介入しないという立場でやられてましたね。それは最初から最後までそのスタイルでした。構成の途中でセリフを前後させたり、カットしたりというのはありましたが、根本的なストーリーは変えない方だったので、こちらも安心して見ていられるという感じでした。

みなもと 林さんは原作をやるようになったのはいつ頃から?

 私は早いんですよ。大学を卒業してすぐ就職するような感覚でこの業界に入っちゃったので。まず、持ち込みの時代があって、編集者さんに覚えてもらえるようになった頃に「やってみないか」というお誘いがきて、それからだんだんと力を認めてもらえるようになって、一本立ちするという。そんなに時間はかからなかった気がするんですけど。25歳で少年サンデーで『おやこ刑事(デカ)』の連載がスタートしました。

『おやこ刑事』原作:林律雄 / 作画:大島やすいち(小学館)

戸田 六平太については、基本的には林さんが書かれたストーリーを高井さんにお渡しして料理してもらうっていうのが基本的な流れなんでしょうか?

 私の書き方は映画のシナリオ的なんです。最初に場所設定とト書きがあって、セリフがあってという。何十年とやってきてわかったのが、力のある巨匠さんたちほどシナリオ通りにやってくれましたね。さいとう・たかをさんにしても、かわぐちかいじさんにしても……。新人の若い人たちの方が自分の個性を重視しがちなので、原作をいじってしまう傾向にありますよね。

予想していなかった最終回は理想の最終話だった

みなもと 今回展示されてる最終回の原作を見たんですが、これは特に最終回とは思わず書かれたものですよね?

第20回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展での展示の様子

 そうですね、だけどカタチの上からいくと理想的な最終回ですね。終わることがわかってて書いたものとはまた違いますから。話的にも終わってもおかしくない終わり方だと思うんですよね。

みなもと 一番いい余韻の残り方かもしれませんね。それと、今でも手書きで書いていらっしゃったので大変驚きました。書き直したところもなくて、きれいに清書された原稿のようでしたから。

第20回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展では林律雄さんによる最終話の原作原稿が展示された

 書き直した部分は捨てて、もう一度書き直しますね(笑)。

みなもと 林律雄さんの律は、律儀の律ですからね(笑)。

 そうですね、一度も原稿を落とさなかったですからね(笑)。 高井さんとも以前話したことがあったんですが、二人とも「原稿は落としたくない」っていうのがありましたからね。だけど、1話読み切りっていうのは、アイデアを考える意味でいうとキツイですよね(笑)。 だから考えているとドンドン〆切までの時間が押してくるわけですよ。私だけで完成というわけじゃないから、高井さんはずっと待ってるんですよ。

みなもと そういうときは前半だけ先に渡すとかっていうのはしなかったんですか?

 あります。FAXで1枚ずつ渡す(笑)。  きっと高井さんは「勘弁してよ」って思ったでしょうけど。

戸田 原作の1話分のエピソードを書くには、だいたい何日くらいかけるものなんでしょうか?

 何をやるかっていう方向性が決まれば2~3日で書き上げてしまうんですけど、それがまとまるまでの時間というのが別にあるんですよ。だけど試験前の学生みたいに、集中したくなくて逃げたくなるもんなんですよ。

みなもと それはマンガ家だっていつもそうですよ。

 夏だと甲子園を見て過ごしてしまったり、本屋に行ってしまったり。〆切がいよいよ…!ってなったときに2日間くらいで仕上げちゃうんです。

みなもと マンガ家からすると「原作者は楽でいいなァ」と思ってたんですけど、そうでもないんですね。

 実は私、商売にはならなかったんですけどマンガを描いたことがあるんです。この業界に入る時、マンガと原作の両方を編集部に持ち込んだんです。で、その時に編集者さんから「絵はまだまだだけど、話は面白いから」と言われて、マンガはスッパリ辞めました。

みなもと じゃあ、やっぱりマンガが好きでこの世界に入ったんですか!

 そうですね。高井さんに一度自分のマンガを見せたら笑われましたけどね(笑)。

みなもと それは未発表ですか?

 もちろん未発表ですよ、あれはもう燃やすしかない(笑)。

みなもと太郎さん

みなもと 梶原一騎さんみたいに本当は小説家になりたかったけど、最初はマンガの原作からかよ……というマイナスの始まりではなかったんですね。

 若い頃は小説家か映画監督かマンガ関係かと思ってました。こういう原作の書き方を覚えたのは映画のシナリオからですね。大学2年の時に渋谷であったシナリオ講習会に参加したんです。そこで表現するかたちを覚えたんです。

みなもと 映画のシナリオから入られたんですね。じゃあ今もシナリオ形式で原作を書かれているんですね。

 そのやり方で書くと場所設定やセリフが書き分けられているので、何がどうしているのかがひと目でわかるんです。

みなもと なるほど、わかりやすそうですね。

 以前、編集部で梶原一騎さんと小池一夫さんの原作を見せていただいたことがあったんですけど、梶原一騎さんは小説的な書き方でしたね。その中に「ブオオオオ」という擬音が書かれていたりしてました。小池さんはシナリオ形式で書かれていたんですけど、小池さんが考える絵の構図が書き込めるようになっている特殊な原稿用紙を使われていました。

みなもと アニメの絵コンテ紙みたいな感じですかね。

 私も絵で描いてくださいとか言われたり、言葉だけだとあやふやになりそうな時は絵を描くときがありました。

ユーモアセンスの近い高井さんとは組んでいて一番おもしろかった

みなもと お仕事の掛け持ちはされてましたか?

 若い頃は「来た仕事は全部やってやろう」と思ってやってましたが、37~38歳の頃に身体を壊しまして(笑)。 やっぱり週に何回も〆切がやってくるという生活は長く続かないですね。

みなもと 組んでおもしろかったマンガ家さんっていらっしゃいますか?

林 それはやっぱり高井さんが一番でしたね。年が12歳違うんですけど、会った瞬間から構えなくていい感じでしたね。当時高井さんを見て「楽に生きてる人だな」って思ったんです。怒ったり苦言を呈されたりもしたんですけど、高井さんがいろんな人を紹介してくださったお陰で人付き合いも仕事も幅が広がりましたからね。

みなもと 楽しい人でしたよね、生きてるうちに生前葬をやったりして(笑)。「一周忌」も「一周喜」と書いてやってましたね。

作画の高井研一郎さん/『総務部総務課山口六平太』第81巻所収「研ちゃんサヨナラ追悼文」

 生前葬の時、ちょうど京都に行く用があって出席できないと伝えたんです。そしたら「電報を送れ」と言われて、弔文の電報を送らされました(笑)。

みなもと とにかく顔が広い方でしたよね。マジシャンが来たり、ダンサーが来たり、ミュージシャンも来てたし……マンガ家さんもね、高橋留美子、浦沢直樹、あだち充が来て。

 トキワ荘メンバーとか、そうそうたる人たちが来てましたね。本人は「赤塚不二夫のアシスタントではない」とも言ってましたよね(笑)。

みなもと そうそう!「自分は協力してあげたんだ」と。実はイヤミもチビ太もデカパンも元は高井さんが原形を考えて、そこから今のキャラクターになっていったと。すごい才能でしたよね、だけど自分から「オレは!オレは!」とは一切言わない。九州出身なのに、すごく江戸っ子のにおいがしますよね。

 ユーモアの部分ではお互い落語好きだったりしたので、近いところがありましたね。高井さんとの間にユーモアセンスの近さがあったのは、六平太をやってて大変ありがたかったところですよね。

──ここでトークは終了し、来場者からの質疑応答の時間へ。

サラリーマンの経験がなくても30年やってこれました(笑)

質問者 林先生は大学卒業されてすぐにデビューされたそうですが、六平太は企業が舞台ですよね。林先生自身、サラリーマンの経験は?

 就職なんかしたことないですよ(笑)。

質問者 原作は2日で書き上げるというお話でしたが、資料を読みこんだり、取材したりというのは一週間のうちどれぐらいの日数を使っていたんでしょうか?

 取材はほとんどしません。何年かに一度、会社の方に話を聞きに行ったりはしましたけどね。、結局ドラマって人間関係ですから、総務のことがわからなくても話は作れますよね。会社っていうのは特殊な人ばかりが集まってるわけじゃないので。

みなもと サラリーマンの経験がなくて、この六平太を30年以上やってこられた。いや、これは素晴らしいことですよね。

 人を殺したことなくてもゴルゴは描けちゃいますから(笑)。

『総務部総務課山口六平太』作画:高井研一郎/原作:林律雄(小学館)(C)HAYASHI Norio,TAKAI Kenichiro  SHOUGAKUKAN


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