公団2DK住宅 高橋葉介『魔実子さんが許さない』全1巻

 マンガの中から昭和を探る「マンガの中の昭和のアレ」。今回のアレは、公団2DK住宅。マンガは高橋葉介の新刊『魔実子さんが許さない』全1巻(KADOKAWA)を取り上げる。

『魔実子さんが許さない』

 戦後の高度経済成長がはじまったばかりの1955年7月、地方から都会に移り住んだ勤労者に住宅を提供する目的で、日本住宅公団(現在の都市再生機構)が設立された。公団は都市近郊の丘陵地などを開発して、集合住宅の団地を次々に建設した。これが公団住宅だ。
 最初に入居者募集が行われたのは、56年の大阪府堺市の金岡団地。次いで同年、東京都三鷹市の牟礼団地の入居者募集が行われ、これ以降、公団の団地は各地に建設された。
 建物の多くは、鉄筋コンクリート造4、5階建の中層フラットで、階段室の左右に各家の玄関がある構造だった。開放廊下やエレベータはないが、向かい合う2軒で階段を共有するため、プライバシー保護や防犯、通気性、採光などにすぐれていた。ほかに、中央に階段室を置いて居住棟を3方向放射状に配置したスターハウスがあった。

 内部は2つの和室と、台所と食堂が一体化した板張りのダイニングキッチンで構成される2DKスタイル。電気、ガス、水道が完備され、内風呂があり、トイレは水洗だった。
 それまで、狭い台所で調理して、寝起きする部屋にお膳を出して食事をするのが一般的だった日本人の生活スタイルは、2DKの登場で一変する。同じ頃、冷蔵庫や電気炊飯器などの家電も普及して、女性の家事負担も軽減された。
 家賃は4000円台と、大卒の初任給が平均8700円だった時代にしては、ちょっと高め。それでも、都会で働く若い夫婦には憧れの住まいになり、入居申込みの抽選はいつも大変な高倍率だったという。
 当時、盛んに建設された民間の集合住宅や企業の社宅なども2DKスタイルを取り入れ、これが高度成長時代前期のスタンダードになった。
 ところが、60年代後半になると人々の暮らしはさらに豊かになり家財が増えた。子供が成長すると子供部屋も必要になり、2DKでは手狭だ、という声が出始める。70年代に増えた分譲マンションでは、3つの居室と、リビングとダイニングキッチンが一体になったリビングダイニングで構成される3LDKの間取りが主流になり、新築される公団住宅も3DKや2LDKに移っていった。
 高層化も進み、72年には高層団地の先駆けとされる東京都板橋区の高島平団地で入居申し込みが始まった。さらに、時代が昭和から平成に移る頃には、老朽化した公団住宅の建て替えやリノベーションが始まり、公団2DK住宅がある懐かしい団地風景も次第に消えていったのだ。

 高橋葉介の『魔実子さんが許さない』は、KADOKAWAが年3回刊行する怪談とホラーの専門誌『怪と幽』Vol.01(2019年4月)からVol.12(22年12月)に連載された連作ホラー短編だ。
 昭和の公団住宅を連想させるレトロな団地がある架空の街を舞台に、団地の住人で霊や魔物を封じる力を持つ魔実子さんが、児童虐待やいじめ、自殺など、現代社会の闇が生み出したさまざまな怪事件に絡んでいく。
 本とコミックの情報誌『ダ・ヴィンチ』23年5月号に収録された「お化け友の会通信」のインタビュー記事によれば、編集部から提案されたのは、『夢幻紳士 妖怪編』だったが、すでに他誌で『夢幻紳士シリーズ』の新作連載が始まっていたため、『怪と幽』の前身のひとつで年2回刊の怪談専門誌『幽』に発表した短編に登場した女性キャラクターを活かし、女性目線で夢幻魔実也を描いたのが本作。舞台として古い団地を選んだのは、高橋自身が子供時代に4階建ての団地に住んでいたからだという。

 団地という設定のほかに、もうひとつ注目したいのは、魔界と現実とを結ぶ存在として「押入れ」が使われていることだ。
 昨今の3LDKマンションは畳の部屋が1室か、下手をすると全部洋室だが、昭和の2DKの居室は畳敷きの和室だった。そして和室には、布団や季節外れのものをしまうための押し入れがあったのだ。押し入れはしばしば、悪さをした子供を懲らしめるのにも使われた。反省させるためにここに閉じ込めてしまうのだ。暗い押し入れは、幼い子供にはまさに魔界だった。
 作中では、巨大化して娘を追いかける父親が逆に閉じ込められ、殺されて林に埋められたはずの女がころがり出し、成仏できない霊が吸い込まれ、ときには魔物たちがひしめき合うといった具合。今風のクローゼットでは、なかなかこういう描写はできない。
 ほかにも、魔実子さんが活躍する舞台には、団地の家々に水を届けるための給水塔やブランコのある公園など、どこか懐かしい風景が登場する。効率や便利さばかり追い求めるいまの日本は、ホラーや怪異の舞台には向かないかもしれない。それはそれで、ちょっとさみしい気がするのだが……。

第4話「昔殺した女」より 54〜55ページ

 

 

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