毒親にひたすら耐えるアイドルホラーマンガ『スポットライト』

『スポットライト』

 

みなさん、里中満智子先生はご存じでしょうか。
『天上の虹』をはじめ、少女マンガからレディースコミック、青年マンガとあらゆるジャンルで作品を発表し、マンガ家としてだけではなくタレントやデザイナーとしても活躍されていたマルチなかたです。
だがみなさん、里中先生がホラーを描いてたのは、ご存じですか? 
タイトルは『スポットライト』。主人公がスターを目指してがんばる話です。え、一見ホラーっぽくない? そうですよね。だけどマジこれ怖いんです。

ホラーの元凶は、主人公・望のママ。こいつマジやべえ……。
望のおうちは母子家庭で、ママは毎日せっせと働き、じっと手を見る貧乏暮らしです。それなのに望は小学生の頃から毎日、お歌やバレエを習わされていました。ママに「将来、スターになりなさい」と言われているからです。お稽古のせいで家計は苦しいし、友だちとは遊べない。とうとう望は「スターになんかなりたくない」と反抗します。するとママはバッタリ倒れてしまうんです。望は青ざめます。「二度とスターになりたくないなんていったら ママは生きてられないわ」

ママに脅される望(『スポットライト』1巻より)

連載当時は毒親なんて言葉はなかったですが、お見本のような毒親ですね!
母親が娘を自分の分身のように考え、自分の思い通りにさせようとするのは、母娘関係であるあるの問題です。その上、ママは娘が気に入らないことを言うとヒステリーで(医者の診断は過労だったけど)失神。こうやって子どもを自分の意のままに操っていくわけですな。

かわいそうな望は、ママの看病中、押し入れからスクラップブックを発見します。そこには、往年の母親の記事がぞろり。そう、望の母親は女優だったんです。そして監督の夏目誠士と噂され、大役を掴んだか? と思われたものの、主役の座も夏目監督の妻の座も、島さゆりという女優に取られ、ママは失意のままカメラマン助手の遠山と結婚し、そしてすぐにがんで夫を失います。なんかもう坂道転げまくってます。

そしてママはもう何年も経っているのに「島さゆりに夏目誠士も大役も奪われた」と嘆いています。そして「役もうばわれ恋人もとられて…みじめな気持ちをごまかすように下っぱの遠山といっしょになって……」とか泣いてます。てか遠山、何も悪くないのにかわいそすぎやしませんか! ママが死んだ夫を思うシーンはひとかけらも出てこず、ママの脳みそは夏目と島への怨念でいっぱい。いい加減に前を向いて歩いたらどうなんでしょうか。

自業自得です(『スポットライト』1巻より)
無理して買って来たばかりのテレビも破壊(『スポットライト』1巻より)

望はオーディション番組に出て「ブルーライト・ヨコハマ」を歌います。それがヘタクソだったのでママが怒り、望を玄関先で歌わせるんです。寒さと恥ずかしさで震えながら歌う望。ママ、それ虐待ですよ。というわけで私は「ブルーライト・ヨコハマ」を聴くと、いしだあゆみさんではなく望の顔が浮かびます。

その後、なんやかんやで望はスターになることに決め、家を出ます。そうして大変な苦労(と過ち)をして、ようやくスターへの道を歩み始めたところに、ママが不死鳥のように復活して登場するのです。一難去ってまた一難。
そしてママは復活するやいなや「望のことをいちばん考えているのはママよ。ママがついていれば望のためにいいしごとをえらぶことができるわ」などと大きなことを言って、まず望が所属する芸能事務所のお金を盗んで美容院に行き、全身コーデで服を買ってきました。いい仕事とは。

そして望の仕事についていき、歌番組で望にトップか最後に歌わせろとごね出します。そういや昔、映画のクレジットに「うちの娘はこんな女優よりも前に名前が載るべき」と文句言ってタレントの娘さんが乾されたステージママがいましたね……。

という感じで、ママは望に取り憑いた呪いのように望の人生を引っかき回して歩きます。非常にヒステリックで、もう死ぬとか言い出してベランダ(2階)から飛び降りようともします。かばった望が大けがを負って、後遺症まで残っちゃう。

いいですか望ちゃん。これは毒親です。捨てていい人間です。「ママには私しかいない」とか言ってますが、こんな自分勝手でヒステリックで人の迷惑顧みない人にお友達がいなくて当たり前。あなたは虐待されているんですよ。

『スポットライト』は全編を通して、起伏に富んでいて読み始めたら止まらない作品です。昔は「有名になる」って大変だったんだなという芸能事情もよく分かります。だが母親の虐待に気づかず尽くす健気な望ががんばる姿は、なんだかもうほんとホラーなのです。

 

 

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