試合中に選手が死亡? トンデモから戦略重視まで。サッカーマンガの歴史

『キャプテン翼』

明治大学国際日本学学部の藤本由香里ゼミ、ご存じの方も多いでしょうか。
サブカル系の研究で大人気のゼミで、毎年2月に行われる卒論発表は多彩なネタがいっぱいでとても楽しいです。

今年は「サッカーマンガの描かれ方の変遷 〜小中高の育成年代を中心に〜 」という峯﨑大陽さんの発表がとても興味深かったので許可をいただきご紹介します。
ちなみに和久井はサッカーではなくテニスで留学しテニス誌でライターをしていたくらいのテニス好きでサッカーマンガにはちょっと疎く、この論文はとても新鮮でした。サッカーファンならどれほど楽しめるだろうと思います。

峯崎さんの調査によると、リアルなサッカーとサッカーマンガとは密接な関係があるそう。マンガの世界では『キャプテン翼』でサッカーが注目されるようになりましたが、サッカーがメジャーなスポーツになったのは、やはりJリーグができた90年代以降です。それまでサッカーの試合を観たことがない人や、学校にサッカー部がないなんて珍しくありませんでした。社会的にサッカーブームがあると全体の作品数も跳ね上がり、Jリーグが開幕した1993年は前年比4.6倍、日韓ワールドカップの2002年は2.1倍、南アフリカワールドカップが開催された2010年は2.4倍になるなど、突出して作品数が多いのです。1992年までは平均年間5作品前後だったのに、Jリーグ開幕以降、毎年10作品前後はコンスタントに発表されています。サッカーマンガ全320作品のうち、峯崎さんの詳しい調査の対象は、小中高のサッカー部とクラブユースを舞台にした75作品ですが、ちなみに最もマンガに登場した数の多い外国人選手はマラドーナの23作品、次点でペレの13作品。釜本邦茂選手は60年代のすべての作品に登場したとか。

サッカーにはポジションがあるので、主人公がどのポジションかも重要そうです。やはり得点が入る場面が最も盛り上がるので、フォワードが主人公の定番だそう。次点がミッドフィルダー。ディフェンダーを主人公にした『アオアシ』 (小林有吾、2015)は、主人公を素人にもわかりやすいフォワードから始めて、途中でディフェンダーへ転向させ、サッカーの奥深さを伝えたそうです。

面白かったのは、ケガの描かれ方。
くたばれ!!涙くん』(石井いさみ、1969)では、主人公を含む3人が試合中に亡くなってる!

『くたばれ!!涙くん』(石井いさみ/ナンバーナイン )8巻より

それはもうスポーツではないような……。80年代までは「サッカーは人殺し」「サッカーボールは凶器」などというセリフがあって、危険なプレーでも審判が止めないことが多かったとか。なんだかテニヌみたいですね。

また、『風のフィールド』(みやたけし、1986年)では、正しい蹴り方を覚えさせるために、カッターで足の甲をザクッと切るシーンがある。

『風のフィールド』(みやたけし/オフィス漫)1巻より
『風のフィールド』(みやたけし/オフィス漫)1巻より

いたたた、なにすんねん! 『キャプテン翼』(高橋陽一、1981)でケガをして途中退場する選手が描かれるようになり、90年代には重いケガは描かれなくなったそうです。よかった、もう死なないんだ! 

多くのマンガ読者が感じているように、90年代以降、スポーツマンガはどんどんリアリティ重視になっています。サッカーでも80年代までは必殺技が10作品、現実的な技が4作品だったのに比べ、90年代には逆転し、必殺技4作品、現実的11作品になりました。以後、現実的な技が過半数です。試合中に人が亡くなる話から、戦略的にファウルをとる作戦が登場するようになるなど、かなり現実的・頭脳的になっているんですね。

私がスポーツマンガで思い出すのは『テニスボーイ』(原作:寺島優、作画:小谷憲一、1979)なんですけど、バブル期にテニスしてた人は全員読んでいるレベルの有名トンデモテニスマンガでした。舞台はテニスの英才教育をするバブリーな施設。ラケットの面を2人重ねて打つ「ツインビーム」なんてかわいいもので、選手同士足首をチェーンでつないで試合をするとか、もはやテニスではないなにかが延々と描かれていました。そういえば主人公は、試合中に背中を痛めるんですが、すごい体勢でボールを打ったら治っていました。私も腰痛を無茶なプレイで治したいです。

『テニスボーイ』(小谷憲一, 寺島優/ビーグリー)1巻より。「うけてみろーっ!!」とか言ってますが、重ねて打ったところで威力は出ません。

2000年代を代表する『テニスの王子様』(許斐剛、1999)では、テニプリで登場した技術をテニス誌が連載で紹介するなど(最初のうちは)リアルテニスマンガだったんですよね。スポーツ漫画全般がリアリティに寄ってきているのに、テニプリは時代に逆行しているのが面白いです。

スポーツマンガは、時代背景を理解していると、ぐっとおもしろさが増します。マンガでも昔はサッカー部がないとか、弱小校からのしあがる話が多かったけれども、2000年代になって強豪校が描かれることが増え、海外でプロサッカー選手になるようになったとか。そういえば競技かるたを扱う『ちはやふる』でも、かるた部を作るところから始まっていましたね。

峯﨑大陽さんの論文では、具体的なデータや引用を豊富に用いて解説されています。サッカーファン以外の人も、時代背景からきちんと説明してくれているので、理解しやすいと思います。サッカーマンガ一覧もズラリとあるので、サッカーファンにももちろんお勧めです。論文なのにちょこちょこマンガのコマが出てきて、たまらなくおもしろいです。サブカル系の研究ってほんとサイコーですね。
藤本ゼミの卒論は冊子にして(受かれば)コミケにて頒布予定とか。このほかにも「少年の「声変わり」と女性~原点としてのウィーン少年合唱団」「全プリキュア論:データで捉えるプリキュアシリーズ」など、興味深いタイトルが並んでいますので、コミケに行く方は是非チェックを! サークル名は「藤の素」です。

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