多くの書籍や雑誌が並ぶリアルの書店。日々数々の書籍が行き交うこの場所は誰がどう作り出しているのか。そんな疑問に応えてくれるのがいまがわゆいさんの『コミックエッセイ 本屋図鑑 だから書店員はやめられない!』です。私たちの本探しを助けてくれる書店員が日々どのように店舗の裏側で動き、考えているのかをまとめたこの作品は、書店員を疑似体験できるお仕事マンガにもなっています。
いまがわさんは岡山県の書店で働く書店員。そんな地方の書店員の1日を開店前から夕方の退勤まで、4コママンガで描いていきます。朝から大量の雑誌や書籍が押し寄せ、レジ業務の合間に来店者からの「こんな書籍を探している」という問い合わせに答える。そしてそんな忙しい仕事の合間を縫って、店頭の販売動向や来店者の様子を見ながら、次に売る書籍を仕入れていく――書店がいかにして私たち読者とまだ見ぬ新刊との出会いを工夫して演出しているのか、そして奮闘しているのかが垣間見えます。入荷の遅れなど、地方の書店ならではの事情も描かれます。
総務省統計局によると2020年の日本の書籍の新刊点数は68608点、雑誌の出版点数は2626点。これだけ大量の書籍と雑誌が書店に流れ込むわけです。開店前から雑誌や書籍の詰まった段ボールを開封し、店頭に並べられるように準備していく。紙の束である書籍や雑誌は意外に重い。書店員の仕事はそんな重いものの数をさばいていく、力仕事でもあります。いまがわさんは午後の書籍の陳列を「試合再開!!」と表現していますがまさに書籍との格闘技、しかも試合相手は数と種類が多い、総合格闘技のようです。
書籍や雑誌は1点1点が内容が違い、2つとして同じものはない。いまがわさんもお客さん見ながら陳列変えたりどのように店頭に並べるか頭をひねります。すごい数が出るからこそ、どれを限られた書店に置きどれを返品するか――そんな苦悩や逡巡も描かれ、「書店と訪れたときに目当ての本が置いていなくても仕方ないな」と思ってしまいます。丹念に練られた棚が、書店員のこだわりを語ってくるからです。
そんな『本屋図鑑』に登場するのは書店員だけではありません。書店の運営を支える、出版社や取次の影響担当者も多く描かれます。彼らは書店員の仕事がひと段落した午後に店舗を訪れ、新刊の紹介や販促策を提案します。いまがわさんら書店員と出版社などの営業担当者のやりとりからは、書店員や出版社の営業が日々どうやって本を広めようとしているか、届けようとしているかが見えてきます。
書店の閉店がインターネット上で話題になるなどオンライン書店や電子書籍の広がりはリアルの書店に逆風になっています。しかし『本屋図鑑』で描かれるように、リアルの書店の向こうには、多くの書籍や雑誌から「これぞ」というお薦めを選び抜いている書店員がいます。『本屋図鑑』はそんな書店のよさも思い出させてくれます。