子供向けのおもちゃ(プラモなども含む)と漫画は、しばしば大きく関わります。近年だと、『鬼滅の刃』の大ヒットに伴い「DX日輪刀」のようなおもちゃ(声も出るんで、漫画というよりはアニメ版の関連商品と言うべきかもしれませんが)が出ていたりしますね。
さて、こういうのは漫画が先にあり、その設定を元におもちゃが作られているわけですが、それとは逆、おもちゃが先にありで、そこから漫画が生まれるというパターンもしばしば見られます。例えば、筆者の幼少期、80年代に展開が始まりブームとなったプラモ『SDガンダム BB戦士』シリーズ。これは途中から「武者頑駄無」のような原作アニメには登場しないキットが主流となり、その世界観やストーリーは組み立て説明書に掲載された「コミックワールド」という漫画で説明されるようになりました(同作品は一部がバンダイの公式サイトで公開されていますので、どういう感じか知りたい方はそちらを)。また、漫画とはちょっと違いますが、やはり同時期に展開が始まったトミー(現・タカラトミー)の『ゾイド』シリーズにおいても、ジオラマ写真にストーリーを付けた『ゾイドバトルストーリー』という架空戦記があったりして、おもちゃの補完をしていました。これ、「ケンタウロス」という「ゴジュラスの上半身・ウルトラザウルスの下半身・サラマンダーの翼・ゴルドスのレーダー」と大型ゾイド4体の良いところを合体させた、ウルトラ怪獣で言うところのタイラントみたいなオリジナル改造ゾイドが登場したりして、子供心には興奮したものです(ストーリーは、戦死者もバリバリ出るし、戦争のむなしさとかも描く結構ハードなものなんですが)。
で、これらより前、70年代中盤にも、このような「漫画を使ってストーリー等を補完したオリジナルおもちゃ」というものが存在しました。それが、1935年に創業・61年からプラモデルを発売し始め、2022年現在も現役バリバリという老舗模型メーカー・青島文化教材社(以下アオシマ)による「合体プラモデルシリーズ」です。これはその名の通り、4種類の小型マシンのプラモを、合体させることで巨大ロボットや巨大宇宙戦艦としても楽しむことができるというのがコンセプトでして、古代アトランティス製の巨大ロボという設定の「アトランジャー」が75年に発売されてヒットしたのを皮切りに、以降は漫画家の今道英治をデザイン担当に迎え(もともと戦車や飛行機の模型作りが趣味で、作画の構図の参考にすることも多々あったそうで、そのへんからアオシマに声をかけられたとのこと。なお、望月三起也のアシを務めた経験がある人でして、人間の描き方なんかは確かに望月の面影があります)、「タイガーシャーク」「合体巨艦ヤマト」「レッドホーク」などといったオリジナル合体メカが次々と発売され、子供たちの人気を得ました。
そして、今回紹介するのは、デザイン担当の今道が自ら手がけた、本プラモシリーズの漫画版です(BB戦士のデザイナー・今石進が「コミックワールド」の作画も手掛けていたのとも似ていますね)。この漫画版、プラモの箱に封入されたり、学年誌に掲載されたりしたほか、「アオシマコミックス」としてアオシマ自ら刊行した全5巻の新書版単行本まで出ていたのですよ。当時の人気というものが伺えますね。紙の単行本はプレミアついてる状態が長く続いていたのですが、2015年に電子書籍版が刊行されており、今では手軽に読むことができます。こういうメディアミックス系作品は権利まわりが面倒になって再版されないことがしばしばあるのを考えるとありがたい話ですね。
さて、アオシマコミックスの第1巻である『スペースキャリア レッドホーク』の内容紹介に入りましょう。本作の舞台は宇宙暦2110年。宇宙空母・レッドホークを旗艦とし、地球防衛軍の中でも一番の精鋭部隊である「スター・チェイサー」と、かつて地球連邦政府の副大統領だったが、己の独裁的野心からクーデター未遂を起こして宇宙に追放された過去を持つギルダース総統率いる宇宙の侵略者「ブラック・ゴースト軍団」との戦いを描くという、王道の勧善懲悪スペースファンタジーがメインのストーリーです。
そして本作、「レッドホーク」という商品の販促が目的ですから、当然さまざまな形でその魅力を伝えていきます。まずは序盤、見開きでドドンと大図解。いつの時代もこういうのは子供心をくすぐりますね。
この図解で⑪で示されている「グレート・ネイル」は、個人的にはレッドホークというマシンの特性を端的に示していると思えるパーツでして、戦闘時にはこれを使って相手の戦闘機を直接叩き落とします。
そう、レッドホーク、空母なのに格闘戦にめちゃくちゃ強いんです。「”艦載機を発進させるだけ”よりこの方が子供も喜ぶやろ!」と言わんばかりのサービス精神を感じます。途中では、飛行甲板が上方向に開くことを利用し、甲板で敵戦闘機をガンガン殴り飛ばしたりします。
もちろん、プラモ自体の最大の特徴である「4つのマシンが合体してレッドホークになる」というギミックも、「レッドホークが4つのマシンに分離する」という形で描かれており、ぬかりはありません。
メカだけでなくキャラ描写も、短い尺の中に頑張って書き込まれており、特に敵であるブラック・ゴースト軍団の面子は、「工作員としてレッドホークに潜入し、敬愛する上司が危機に陥ってるのを見て自爆攻撃を敢行する人間型ロボット・ゲスポ」と「ゲスポの死に涙を流し、命と引換えにでもスター・チェイサーを倒そうとする熱血漢・ドーベル大尉」など、みなキャラが立っております。
そして、本作を語る上で何と言っても外せないのは、クライマックスでブラック・ゴースト軍団が地球を襲うその作戦です。何がすごいって、使う武器が「土星」なんですよ。言葉だけだと何言ってるかわからないと思いますが、地球が土星にやられるんです。
……土星の輪をこんな風に使うのはさすがに類例がないんじゃないかと思います。「質量のデカいものがこんなに地球の近くに寄ったら……」とか言い出すのが野暮に思える圧倒的なイマジネーション。いやー最高ですね。
なお、たまに混同している人を見かけるのですが、コマだけ一部で有名な「”土星の矢”に気をつけろ!」(手をクロスさせながら)というのは、本作ではなく、3巻目に当たる『レッドホーク連合艦隊』の一シーンです。
なお、このアオシマの合体プラモシリーズそのものについては、はぬまあん『超絶プラモ道2 アオシマプラモの世界』、有田シュン『アウトサイダー・プラモデル・アート—アオシマ文化教材社の異常な想像力—』といった解説書も後に出版されております(前者はちょっと入手困難ですが、後者は電書化されてて読むのは容易です)。筆者などは後からこの辺の書籍で本シリーズを知ったクチなんですが、たしかに独特のキッチュな魅力があるんですよ。合体を前提とするあまり、各マシンが時に「キャタピラの上にロボットの生首が載ってる」みたいなシュールなものになってたり、「ライデンマシン」「シデンマシン」「ハヤテマシン」「カミカゼマシン」の4体(最後のヤツもうちょっと名前なんとかならんかったのか)が合体して「……零戦というよりP-38じゃない?」という見た目のマシンになる「合体ゼロセンヤマト」とか、4体の戦車型マシンが合体して地球クリーン作戦に使えそうなキャタピラー付き宇宙戦艦になる「合体戦艦ナガト」とかのオリジナリティが高すぎるデザインのマシンがあったり、はては合体するとカウンタックとかフェラーリとかになる商品もあったり(当時は、『週刊少年ジャンプ』連載の池沢さとし『サーキットの狼』のヒットで、子供たちの間にスーパーカーブームが起きていたことによるんですが、「スーパーカーと合体メカ、子供の好きなものを足したれ」というお子様ランチ的な足し算の発想が良いですね)と、とにかく破天荒なんです。さすがは人間喜ばし機製造業(注)。根強いマニアがいるのもよく分かります。あまり有名ではないですが、『空中軍艦大和1944』(表紙だけ見ると普通の架空戦記っぽいが、全編が昭和初期の冒険小説風の文体で描かれており、「アオシマ老人」が与える力で戦艦大和が合体巨艦ヤマトにパワーアップしたりする2010年代架空戦記界屈指の奇書)なんてのもありましたしな……。
(注)アオシマ、80年代には、社長自らが怪しげな風体で登場し、「わしゃ人間喜ばし機製造業じゃ」と言って自社の製品を紹介しては「アオシマじゃよアオシマじゃよ かっかっか」と笑って〆るというテレビCMを打っていたのです。なお、2021年になって、プラモ発売60周年を記念してということで、現社長による当時のCM再現動画が作られています。
漫画紹介以外の文章がむやみに長くなりましたが、70年代子供向け文化の一つの空気を手軽に味わえる一品。当時を知る人も知らない人も読んでみるとよいでしょう。ちなみに電書版、紙版には収録されていなかったプラモ封入版漫画作品や、15年時点での作者あとがきなども追加で収録されているため、「自分は紙版持ってるぜ」という人も普通に買いです。