漫画にアニメ、アイドルなど自分の好きなことにお金を使い人生の楽しみに花を添えるオタクたち。しかしそんなオタクにも共通に訪れるのが老後。特に、金融庁が個人の資産形成を促すために「老後資金が2000万円不足する」と公表したことをきっかけに、多くに人が老後に向けたオカネのことを考えることになりました。おののぶし氏による『カネなしアラサー、おふたりさまぐらし~健康で文化的な老後のための資産形成物語~』(以下『カネなしアラサー』、講談社)に登場する、老後に不安を持ったアラサー女性2人もそんなオタクの仲間。節約、支出の見直し、そして投資へと老後資金への不安を少しでも和らげる一歩を踏み出します。オタク特有の感情の激しい上下を楽しみながら、自然とお金の面での老後を考えるきっかけになります。
■究極の節約術、ルームシェアへの挑戦
『カネなしアラサー』に登場するアラサー女性2人。1人はフリーランスのWebデザイナー、もう1人は事務職。それぞれ働きつつも趣味への散財が大きいという、典型的な強度のオタクです。程度の差はあれども「好きなものにお金をつぎ込みたい」「でも老後のお金が心配」という、自分と切っても切り離せない好きなものがあるオタクが抱える葛藤を抱いています。
ここで『カネなしアラサー』の2人が、死ぬまで好きなことを続けるための究極の節約方法として採用したのがルームシェアというアイデア。このアイデアは『カネなしアラサー』を監修したフィナンシャル・アドバイザー(IFA)も、食費や住居費の面で1人当たりの負担が減るとのお墨付き。ルームシェアをする相手の選び方や、関係が悪化する懸念などがあるものの、基礎的な生活費を抑える方法として興味深いアイデアが提示されます。実際の家探しのエピソードには、物件条件をはっきり伝えるなどルームシェアではなくとも家探しをする人が絶対に知っておくべきヒントも詰まっており、お得感を高めます。
■己を把握し、自分なりの支出コントロールを見つける
もちろん支出の抑制は食費や住居費といった生活に必須の分野だけはありません。本来であればオタクが大事にする「娯楽費」も対象になりますが、そこは『カネなしアラサー』のオタクの2人。聖域として触れられず、まずは娯楽費以外で削れるところがないかを探っていきます。
老後資金を作るための基本は、「支出の見直し→余裕資金を作る→運用」ですが、この支出のコントロールは監修のIFAの方も作中でご指摘されるように、その人の生き方やライフスタイルにあわせて調整することが不可欠。オタクがオタク活動のために費用を削るのは、場合によってはオタクのメンタルを押し下げることになります。収入が大きく増やせないのであれば、支出を削ることは不可欠ですが、その支出削減は「何のためか」を考えたい。オタクが老後資金のことを考えるのは、ただ生きのびるだけではなく自分が好きなものにお金を出しながら生きていたいから。この出発点を考えると、娯楽費以外で削れるところはないかを考えるのが先決――一般的な節約術を描くコミックエッセイとは違い、あくまでオタク支出を譲らない『カネなしアラサー』にオタク読者は安心できます。
■投資に向いているのはどんな人?
『カネなしアラサー』がほかの節約エッセイと違うのは、資産運用に踏み込むところ。お金を増やすことを考えるときに、主な手段は「節約して支出を減らす」「収入を増やす」「投資」。収入を増やすことはなかなか難しい中、可能な限りの節約で当面使わない余裕資金ができた人に、監修のIFAは投資=お金に働いてもらうことを勧めます。
もちろん投資には損失リスクがあるのは事実。『カネなしアラサー』では向いている人と向いていない人をきちんと明記。ずばり、お金のちょっとした増減にストレスを感じる人は「やめておいたほうがいい」と言い切ります。成果を待てない短気な人や心配性な人も、リスクの高い投資には向いていないとのこと。
ただこれらの条件をクリアして「できそう」と思った人に、『カネなしアラサー』では投資を始めるための証券口座の開設方法から投資商品の選び方まで投資を始める人のための基礎の基礎まで載せています。「何からすればいいのかわからない」という初心者中の初心者の疑問にストレートに答えにいきます。
■次の一歩のための入り口に
もちろん支出のコントロールも投資も含め、老後資金の準備のすべての答えが『カネなしアラサー』でわかるわけではありません。仕事の事情や病気でライフスタイルが変われば、一度決めた節約の方針は見直す必要があります。資産形成についても触れられているのは導入中の導入で、実際に運用をするということになれば注意することや考えるべきことはあります。
しかし「老後のための資金の準備」と言われて何もできず思考停止してしまう人には、たとえルームシェアを考えていなくても読んでほしい作品です。オタクとしての日々の支出や活動を否定されることなく、どのような一歩を踏み出せばいいのかが見えてきます。