『世界の片隅で地味に生きる』は、深蔵さんによるアラフォー男性の日常を描いたエッセイマンガです。買い物かごの中に何を入れるかなど身の回りのことを淡々と描きながらも、誰もが思い当たるエピソードが共感を呼びます。
作者はそろそろ身体の臭いが気になってきた1983年生まれ。作品を描いた時点で38歳のアラフォーで、いわゆる「中年男性」と呼ばれる人です。周りの人から大いに好かれたいわけではない。でも迷惑がられるのもいやだ。「せめて世間から疎まれない存在でありたい」という気持ちがすごくわかります。
自分にとってスーパーのレジはキャラクター番付所ととらえて、かごにいれるお菓子などを戦略的に考え抜き、お茶目さを演出。パリッとしてみせるために、ちょっとシュッとした人たちのいる店に洋服を買いに行く。仕事で付き合いがある人に置いて行かれないように、若い感性に追い付こうとする。日常のちょっとしたところで、周りの目からみていい感じのおじさんでいられるか気にしながら生活する深蔵さん。もしかしたらほかの人は気にしていないかもしれないけれども、自分としては気になる――そんなアラフォーのもやもやを描きます。
どんな人もライフステージが変わった相手とは、なかなか予定を合わせにくくなります。そんな中でアラフォーは、若いころのように気軽に友達と旅など遊びに行くことも一苦労です。
深蔵さんの場合は、ひとりで楽しめるようになろうと切り替えます。好きなことができなくなるよりも、ひとりでうごけるようになるのは健全なのではないでしょうか。
スーパーに行く、仕事の合間に公園に散歩に行く、洋服を買いに行くなど基本的には日常の1コマを描いていますが、深蔵さんの大きな生活の転換が家の購入です。確かに年を重ねるにつれ、住の確保は重要で気になるところですが、深蔵さんは思い切って戸建て住宅を購入することに。
友人と戸建てを一緒に買い、シェアすることにしました。もちろんお互いにいろいろあったらどうなるのかという懸念はありつつも、思い切って購入の契約書にサインする姿はカタルシスをもたらします。「男ふたり家を買う」などのタイトルで、住宅購入への決意から購入までの過程だけで1冊のエッセイ漫画になりそうな雰囲気を感じさせました。
エピローグで深蔵さんは、それまでのような世間の目を気にするのではなく、人目を気にせずいられることもありうると気が付きます。それまでの周りの目を気にする自分を否定することなく「こういう可能性もあるかも」と示されることで、読者側もちょっと考えを変えるように促されます。私たちはこうしていい意味で回りを気にせず、自分のやりたいことをやれるようになるのかもしれません。