知ることで偏見がボロボロと剥がされる60代男性。ピンサロ再就職マンガ『はたらくすすむ』(安堂ミキオ)を読む。

知ることで偏見がボロボロと剥がされる60代男性。ピンサロ再就職マンガ『はたらくすすむ』(安堂ミキオ)を読む。
はたらくすすむ』(安堂ミキオ)を読んだんですよ。なにキッカケでこのマンガを手にしたのかさっぱり思い出せないのですが、読んでみたらこのマンガに脳みそのどこかをキックされた感触がありまして、そのあたりのことを書いてみようと思います。
 
画像はすべて『はたらくすすむ(1)』 (安堂ミキオ ヤングマガジンコミックス)より
 
主人公は見た目からしてさえないおじさんの長谷部進(以下すすむ)。下着メーカーを定年退職し、さらに妻にも先立たれて、うちひしがられております。毎日亡き妻の仏壇に話しかけてる。
さして仲良くなかったくせに、というか、それゆえに無理解だった自分を悔いてグズグズしております。
 
 
そうした状況の中、娘にちょっとウザいと思われているということを知って、外に出て働く決意をするんですね。その働き先が、風俗店なんです。普通の清掃員としてのバイトに応募したつもりが、風俗店だった。
 
 
真面目一辺倒だったすすむが、風俗店で働くなかで何に気づき、どう行動するのか……。面白そうな設定ですよね。引きが強い設定だなと、素直に思います。
 
しかしながら、非常に個人的な話になりますが、わたし的にはかなり苦手な設定ではあるんですね。というか風俗を題材にしたマンガに苦手意識がある。苦手意識というより、警戒心か。
 
たとえば風俗嬢を題材にしたものだと、その人がこの仕事をしている理由とかが語られたりしますね。なんなら苦労してたり。複雑な家庭環境が語られたり。そういうのが語られているのを読む時、居心地の悪さを感じるんです。
もちろん、そうした事情を持つ人は実際にたくさんいるでしょうし。だけど僕としては、なんの理由もなく、セックスワーカーとして働いている人のことが置き去りにされてる気になってしまうんですよね。よけいなお世話ですが。理由っているんかな、と思ってしまう。
 
でもドラマやマンガは物語というものの特性上、そうした理由を求めてしがいがちで、それもわからないでもなし。
 
そんなこんなでこのマンガを開く時も、多少身構えていたんです。
そして、このマンガにも身の上話がもちろんあるんだけど、それ以上にいままでの風俗店マンガとはちがう要素があるなと思ったんですよね。
 
結論から言ってしまえば、このマンガは、知ることで偏見をなくしていく、ということをドズドスと打ち込むように描いています。また風俗で働いている人たちをちゃんと労働者として描こうとしてる。必要以上に不幸な境遇みたいに描いておらず、過酷な環境で働く労働者として描こうとしている。そして客に対する視線も同じようなトーン。
そしてところどころに現れる意表をつく道具立てのポエジー。
 
読むキッカケになるかと思って、大事なシーンをひとつ紹介させてください。
 
 
これは主人公のすすむさんが、勤め先のピンサロの店内を掃除しようとした時、目にした光景。
これは? これはFRISK的なミントタブレットが床に散乱してる様なんです。ピンサロ嬢は、忙しくブロージョブをしていて、口をゆすぐ暇もなく、ミントタブレットをわし掴み放り込んで乗り切っていると。そのミントタブレットがこぼれ、散乱した様が、ブラックライトに照らされて、星空のようなになっているというシーンです。
 
 
エんモ〜い。
 
ほかにも、店長が嬢に浴びせたセクハラ発言に苦言を呈したことに対する現場の反応。
 
 
 
よかれと思って行動に移した「正義」が、あっさり拒絶されるシーン。
 
 
 
偏見は時に正義の顔をして現れてくるでしょう。そういうことを、さらっと描いてくる。
すすむさんは善人で、そして善人がゆえに分厚く身につけてしまった偏見を、マンガは丁寧に掘り起こし白日の下にさらしていきます。
 
1巻が出たばかりなので、娘さんとの関係がどう変化していくのかなど、この先の展開が楽しみです。

はたらくすすむ(1巻) | 安堂ミキオ

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