あんきらこんきら

短編集『心臓』の集大成みたいな読切作品 #読切応援

あんきらこんきら 奥田亜紀子
かしこ
かしこ

久しぶりに帰省した主人公は東京で女芸人をしている。父と母は兄の子供である孫に夢中で、90歳を過ぎた祖母はボケてきていた。今現在の時間の流れを主人公の視点で語りつつ、そこにボケて子供に返った祖母の記憶と意識が混ざる構成。 祖母が子供だった頃の村では凶作で食うに困った人達が芸を見せて金をもらい歩いていて、同情した父親が彼らを家に泊めたが、翌朝に物が盗まれていたことがあった。主人公はパソコンの画面越しにネタ合わせしていた相方に「どうして里帰りしたの?」と聞かれ「自分は子供に返りたかったのだ」と気づく。子供に返ってしまった祖母と子供に返りたい孫。二人ともそれぞれの過去と現在のしがらみに苦しんでいる。 物語の最後で東京に帰ろうとする主人公を玄関先で呼び止めて「私からもらったと言うな」と祖母がお菓子を握らせる。おそらく祖母のボケた思考回路の中では、子供心に印象的だった貧しさから盗みをしてしまった人物達と、同じく芸をしている孫を混同しているが、この行為は祖母からの泥棒をしたあなた方を恨んでないというメッセージだと思う。主人公は自分が買ってきたお土産を渡してくる程ボケても子供のように可愛がってくれる優しい祖母だと感じている。 ある意味ここで意思のすれ違いが起きているけれど、同時に祖母も孫も救われている。そこに気づけるのは読者だけ、というのも面白い。 短編集『心臓』に収録されていた作品それぞれに登場したモチーフが数多く見つけられた。高野文子のオマージュのような表現もそう。今回の「あんきらこんきら」で一つの完成形に達したような感じがする。けれども奥田亜紀子の進化はまだまだ続くと確信を持てる傑作でもありました。

はやくしたいふたり

令和のソーシャルディスタンスラブコメ? #1巻応援

はやくしたいふたり 日下あき
sogor25
sogor25

高校2年のJK・長谷川結理は、近くの男子校に通う同学年の男子・葛城慶一郎に告白し、付き合うことになる。その告白の流れで慶一郎にキスをしようとする結理だったが、なぜか慶一郎から拒絶されてしまう。「完全にキスの流れだったじゃん」という結理に対して慶一郎は、告白にOKはしたが「性的な接触については同意していない」という謎の回答をする。 実は慶一郎は祖父・父ともに元内閣総理大臣と言うエリートで、さらに"葛城家のしきたり"として「十八歳まで異性との性的接触を禁止されている」という厳格な家庭に育った人間だった。結理と同い年である慶一郎が18歳になるまではあと1年半。つまりそれまでの間、結理が慶一郎に気安く触れることは許されないらしい。 それからというもの、結理が不意打ちで彼に触れようとしたらまるで痴漢を撃退するかのごとく関節を決められたり、2人でいるときも実は葛城家のSPに監視されているということが判明したりと、なかなか恋人として(物理的に) 距離を近づけることができない。 そんな、恋人同士のイチャイチャに夢を持っていた結理と、何よりも自身の家柄としきたりを重んじる慶一郎との交際を描いた作品。 あらすじを見ると、アプローチを仕掛けて行く結理に対して慶一郎があしらっていくという形のラブコメのように見えるのだが、実際にはそれだけではない作品。というのも、導入部分からは読み取れないのが、読み進めていくと結理が慶一郎のことを好きな以上に慶一郎が結理のことを大好きで、彼自身も結理に近づきたい、触れたいという感情を我慢しながら彼女に接しているということが分かってくる。 そんな彼が、基本的には葛城家のしきたりを第一に行動し結理との距離を保とうとするが、ある時には正攻法で、ある時にはしきたりの隙を突いて結理の期待に応えようとしてくれる、そのギャップが可愛らしい。 ただ、そんな慶一郎の行動が若干的外れだったり、そもそも結理の期待しているようなイチャイチャとはかけ離れていたりして、なかなか結理自身が満足する交際はできない、その様子もラブコメとして楽しい作品。 1巻まで読了

こいで、こがれて

繊細なタッチの作画と内容のシンクロ率1000%

こいで、こがれて 卯月ココ
名無し

12月にデザート2月号を購入し、 このレビューを描くために再読しました。 ・作画に関して 「新人」にも関わらず、 絵がとても繊細で、透明感があってキレイでした。 雑誌の中から漫画を探すとき、 一回目に読んだ時同様、二回目もほかの作品に 紛れるくらい違和感がなく、一瞬だけ迷子になりました(笑) ・個人的に好きなシーンについて 私はコマと少ないページを十分に利用して 作中、そのシーンだけ長い時間が経過しているイメージを与える手法? が好きです。今作でもその手法が確認できました。 見開き2ページという短く制限されていたにもかかわらず、 主人公の帰宅という何気ないシーンでも、主人公と読者にとっては 長い長い時間が経過しているという印象を受けました。 ・内容について 私は成人しているため、高校生が舞台の少女漫画に対しては 「もう卒業かな、、、」と思い、少女漫画への興味が薄れてしまい 敬遠していました。 しかし、SNSでの噂を聞きつけ、少しだけ興味が湧きました。 また、作品の絵柄も好みであったため読んでみようと思い、 購読しました。 これがびっくり、思わずにやけてしまいました。 私が現役の高校生だったらわーきゃーと言いながら悶えていました。 (さすがに現在は内心にとどめていますが・・笑) 男の子の所作が女子のハートを丸掴みしています。 相手は無意識でも、やられているこっちは 色々な考えが巡ってしまうんですよね~ 長々と失礼しました!