磨き上げられた骨と肉、そして神の与えし顔(かんばせ)
兎来栄寿
兎来栄寿
3日前
『インヘルノ』や『美女が野獣』のマツモトトモさんの最新作。 「剣聖」と呼ばれた祖父を持ち16年間剣道に邁進してきた少年が、3人の美形ダンサーと出会ってA(エース)と呼ばれるようになり、ダンスの道に引き摺り込まれていく物語です。 印象がほぼ闇金の人であるリーダーのJ(ジョーカー)、派手なK(キング)と地味なQ(クイーン)。抜群に顔が良くてダンスも上手い3人の素性・バックボーンは物語を読み進めるにつれて明らかにされていきます。そうしてキャラクター性が確立されてくると、脇役も含めて全員とても魅力的でどんどん彼らが織りなす物語を読みたくなります。 シリアスとギャグがいい塩梅で調和しており、Aが最初のボックスステップで 「これは…靴を履かされた実家の犬…!(ポポちゃん3歳)」 と言われたシーンでは声を上げて笑ってしまいました。しかし、剣道一筋で培った体幹や身体をコントロールする技術によってみるみる成長していくAの姿はワクワクします。 絵柄が非常にスタイリッシュですが、それに加えて 「磨き上げられた骨と肉」 「顔面が良すぎる…!全てのパーツがすっきり整った圧倒的端正なお顔立ち…ああ神の与えし顔(かんばせ)…!!」 「踊るということは 常に今の自分を否定されるという事」 など、随所に出てくるさり気ないセリフやモノローグのひとつひとつにパワーワードが溢れており、惹き付けられます。 こんなにスタイリッシュな作品なのに、 「この漫画を読み終わったら社員食堂の本棚の美味しんぼの隣あたりにスッと置いといてもらえると嬉しいです」 という冒頭の作者コメントも何とも良いです。
リズムナシオン
小林多喜二もびっくり #1巻応援
兎来栄寿
兎来栄寿
13日前
まさか、あの『蟹工船』がこんなSFバトルマンガにされるとは小林多喜二氏も想像もしなかったことでしょう。 この『新約カニコウセン』は、日々命懸けで「蟹」との死闘を繰り広げる立場の弱い奴隷のような労働者と、彼らを支配する者を描いた作品となっています。 恐ろしい進化を遂げた「蟹」とのバトルシーンは非常に激しく、緊迫感があります。傷つけ過ぎると商品としての価値が損なわれるのでただ殺せばいいというわけではないのは、モンハンでの捕獲の難しさを髣髴とさせます。 アクションも良いのですが、この作品の一番の見どころは何と言っても原作『蟹工船』に通底するテーマ性です。原作が書かれてから100年近くが経ちましたが、労働者の苦しみは今の世でも不変。もう少し未来になれば、AIなどによる労働が普及して人間が働かなくていいようになり事情も変わっているかもしれませんが、過酷な労働を課せられて命まで絶ってしまう人は令和になっても存在します。 しかし、もし仮に人間が全く働かなくて良くなったとしても、別の面で人間は互いを相対比較してマウントを取り争いを起こし優越感に浸る体験を求めて止まないし、それによって傷つき悲しみを抱える人間は尽きないであろうなという絶望感を感じさせるエピソードが描かれます。 SFバトルアクションになりはしましたが、一見した印象とは違い深奥のテーマとしてはしっかり『蟹工船』を踏襲しており、リスペクトも感じる内容です。 時代を越えて人間の普遍性へ響く名作の力を感じずにはいられませんでした。
新約カニコウセン