マンガ酒場【12杯目】酒好きすぎるアイドルのガチ飲みがすごい!◎作:宮場弥二郎・画:さきしまえのき『アイドランク』

 マンガの中で登場人物たちがうまそうに酒を飲むシーンを見て、「一緒に飲みたい!」と思ったことのある人は少なくないだろう。酒そのものがテーマだったり酒場が舞台となった作品はもちろん、酒を酌み交わすことで絆を深めたり、酔っぱらって大失敗、酔った勢いで告白など、ドラマの小道具としても酒が果たす役割は大きい。

 そんな酒とマンガのおいしい関係を読み解く連載。12杯目は、酒好きすぎるアイドルのガチ飲みを描く、作:宮場弥二郎・画:さきしまえのきアイドランク』(2017年~19年)にスポットを当てる(アイドルだけに)。

『アイドランク』

 主人公(語り手)は、人気アイドルグループ「アイドランク」のリーダー・赤羽(あかば)サキ。公称19歳で「好きなものはミルクセーキとマカロン♥」という設定になってるが、実は23歳で好きなものはビールとレバテキという酒飲みだ。

 ライブが終わって帰宅すると、まず冷蔵庫から缶ビールを取り出し、ソファにドカッと腰を下ろす。プルタブをカシュッと開けたら、一気にゴゴッと飲んで「ップ…ヘァ~~…」と言葉にならない声を上げる。その姿はほぼおっさんである【図12-1】。

【図12-1】仕事終わりのビールに唸るアイドル。作:宮場弥一郎・画:さきしまえのき『アイドランク』(フレックスコミックス)1巻p6より

 久しぶりの休みの日には、ここぞとばかり昼間から飲みに行く。一応変装して(といってもメガネをかけただけで)顔バレの危険が低そうなおっさんだらけの立ち飲み屋へ。ところがそこに先客として同じグループの後輩・大宮ほのか(公式設定15歳、実年齢22歳)がいた。このほのかが、妹系アイドルで売ってるくせに、ガチでヤバい酒飲みなのだ。

 おっさんだらけの立ち飲み屋にも馴染んでいるというか完全に常連で、注文の仕方も堂に入ったもの。顔バレも気にせずワンカップを飲み、大将に「お待ちどう! ほのかちゃん! サービスしといたよ~!」と言われるほど、芸名のまま仲良くなっている(ちなみに本名は木下幸子)。サキにも普通に「サキさ~ん!」と話しかけるので、ほかの客にバレるんじゃないかと気が気じゃないサキを尻目に、飲みまくるほのか。が、サキも酒には目がないほうなので、一緒になってついつい飲んでしまう。

 しこたま飲んだ翌朝、駅に向かう途中の立ち飲み屋で、またしても朝から元気に飲んでるほのかに遭遇。昼から仕事があるというのに、ほのかの誘いと酒の誘惑に負けて、立ち飲み屋で一杯やったあと、河岸を変えてさらに2時間楽しく飲んでしまう。が、ほろ酔い気分で臨んだラジオの収録は、いつもよりノリがよく結果オーライ。酒臭いのがバレないよう、スタジオに香水を振りまいて立ち去るサキであった。

 一事が万事この調子で、ことあるごとに飲むわ飲むわ。サキ&ほのかに、センターの座を狙うNo.2のクール系・難波鶴子(公式・実年齢とも23歳)、のちに新メンバーの渋谷キリン(公式・実年齢とも20歳)、薄野(すすきの)あさひ(公式17歳・実年齢20歳)を加えた5人がメインキャラだが、そろいもそろって酒好きときた。女王様キャラの鶴子は比較的弱いが、先輩にもタメ口の強気なあさひは酒にも強く、「それ(焼酎ストレート)だと度数20%くらいあるよ」と心配するサキに「四捨五入したら0%じゃん?」と言い放つ。

 なかでも、やっぱり一番ヤバいのがほのかである。ダンスレッスンに水やスポーツドリンクではなくスキットルに入れたウイスキー持参【図12-2】。サキに叱られ、「普通の持ってきてないの? わけてあげようか?」と言われて「ありますけどぉ…」と取り出したタンブラーの中身はビールだった。ファッションイベント「ラブリーガールズコレクション」の出番前に、隣の会場で開催されているクラフトビール祭りで買ってきたビールをひっかけるなんてのは序の口で、ライブの楽屋に業務用ビールサーバーを持ち込んだことも。

【図12-2】ダンスレッスンの水分補給はウイスキー!? 作:宮場弥一郎・画:さきしまえのき『アイドランク』(フレックスコミックス)1巻p64より

 ビールだけならアルコール度数も低いが、ほのかにとってビールは水orチェイサーの位置づけ。夏フェスの出番が終わり、「あーもう喉カラカラ~」というサキに「お水どうぞ~」と透明な液体の入ったグラスを差し出し、「命の水(ウォッカ)じゃなくて」とツッコまれる。新メンバーとの親睦会では、キリンが大好きなナポリタンを毎朝食べるという話の流れで「私も毎朝テキーラ飲んでますよ~」と発言し、あさひに「さすがに病気じゃん?」とツッコまれる。そんなほのかの酒ボケに対するメンバーの当意即妙のツッコミも見どころだ。

 しかし、どんなにツッコまれても、ほのかの酒飲みモンスターぶりはとどまるところを知らない。サキの家でみんなで飲もうと集まったときの手土産は、クーラーボックスに詰め込んだ大量かつ種類豊富な酒。買い出しに行けば樽酒とビアサーバーを買おうとする。彼女における酒の単位はミリリットルではなくリットルなのだ。前述の夏フェスで自分たちの出番が終わったあとに観客として楽しもうというときには、野球場の売り子よろしく自前のビアサーバーを背負っていた。

 その酒知識と飲み屋のテリトリーの広さは吉田類も裸足で逃げ出すレベル。ほのかがサキらを案内する店は実在の店をモデルにしたもので、そこで彼女らはひたすら飲みまくる。アイドルとしてどうか、というより人としてどうかという酒浸りの日々。が、そのリミッターを振り切った飲んべえぶりがあまりにも楽しそうで、素晴らしくもうらやましい。

 当初は主役のはずだったサキが、ほのかとあさひの暴走によりツッコミ役に回る。しかし、彼女自身もほのかに感化され、だんだん自制心が薄れてきて、どんどんダメな酒飲みになっていくのがまた味わい深い。キリンと二人の撮影の仕事が終わったあと、普通にお昼を食べるつもりで入った店で、例によって神出鬼没のほのかと鉢合わせ、当然のように飲む流れに。「夕方からジム行く予定だったんだけどなぁ…」などと言いつつ「明るいうちのお酒って なんでこんなに美味しいんだろう」とキラキラした最高の笑顔を見せるのは、腐ってもアイドルというべきか【図12-3】。

【図12-3】昼酒飲んで最高の笑顔を見せるサキ。作:宮場弥一郎・画:さきしまえのき『アイドランク』(フレックスコミックス)3巻p39より

 そもそも「アイドランク」とは「アイドル(idol)」と「ドランク(drunk)」を掛けてるわけで、名詞としてのdrunkは「酔っぱらい」「飲んだくれ」の意味である。それがグループ名なんだから、そりゃもう飲んだくれるのは運命だ。ほのかと飲んだら肝臓がいくつあっても足りないが、サキや鶴子とはぜひ一献傾けたい。が、公称未成年と飲むのはリスクが高いので、やめたほうが無難かも……!?

 

 

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