日本人は家畜だ! 稀代の猟奇小説を巨匠が生々しく劇画化。石森章太郎『家畜人ヤプー』

原作の『家畜人ヤプー』と出会ったのは、40年以上前の19歳か20歳の頃です。

当時私はせっかく行かせてもらった大学を辞めるつもりで、ダラダラと過ごしておりました。

ネットもパソコンも家庭用のテレビゲーム機も無い時代です。

アルバイトに行く以外は漫然とテレビを見るか、漫画や小説に没頭するかの日々でした。

小説に関しては国内外のSFや推理小説は勿論、幻想文学や戦前の探偵小説にもはまります。

『夢野久作全集』を読破している頃に、何かの記事で『家畜人ヤプー』を知りました。

興味をそそられ早速買ってきたのは、当時新刊書店で売られていた分厚い文庫版です。

徹夜で一気に読みましたよ。

時間だけはありますからね。

その奇抜な発想の数々に驚き、とても細かい描写に感心し、初読みから40年以上経った今もあの時の読後感は忘れてません。

少しだけ内容を紹介しましょう。

2000年後の未来から円盤で時間旅行を楽しんでいた未来人が、不注意からの事故で1960年代の西ドイツに墜落します。

事故に巻き込まれたのはドイツ娘とその婚約者である日本人男性。

2000年後の未来は日本人は家畜として扱われており、1960年代の二人を巡って話が展開していきます。

既に語り尽くされるだけ語り尽くされて、研究や検証もなされた文学作品です。

検索すれば詳細な情報が手に入りますので、これだけの紹介にとどめておきます。

でも家畜ってどういう事? と思われた方もいらっしゃるでしょう。

これだけは説明しないといけません。

作中には奴隷が出てきます。

奴隷は最低レベルではありますが、人間として扱われてます。

しかし日本人は家畜であり人間として扱われてません。

食用にするという事では無く、肉体を改造して便利に使うという意味です。

ここは文章で説明すると膨大な文字数を費やすので、興味を持たれたならば原作を読むなり検索するなりしてみてください。

初読みから4、5年が経過した頃、私は古い漫画を集めるようになります。

そして『家畜人ヤプー』が石森章太郎さんによって劇画化されているのを知ります。

古書店で初めて目にした劇画版の『家畜人ヤプー』。

黒を基調に、日本語無しの英語での表記のみ。

『劇画家畜人ヤプー』(沼正三、石森章太郎/都市出版社)

ぱっと見、石森章太郎さんの漫画書籍だとはわかりません。

漫画専門店ならまだしも、普通の古書店では漫画の棚に置いてなければ何かの洋書と間違えそうです。

原作が最初に書籍として発行されたのが1970年。

その翌年の1971年に同じ「都市出版社」から石森版『劇画家畜人ヤプー』が発行されてます。

元版の『劇画家畜人ヤプー』には石森さん御自身の銘が入った文章はありません。

何故この速さで石森さんが『家畜人ヤプー』の劇画化に手を付けたのかは、検索してもわかりませんでした。

後に別の出版社から復刻され、続編も出てます。

残念ながら当時所有していた『家畜人ヤプー』関連の物は蔵書整理で手放しており、手元にあるのは最近入手した元版のみです。

内容は閲覧注意な画が多く、画像としてはカバーと本体の表紙だけにしておきます。

『劇画家畜人ヤプー』(沼正三、石森章太郎/都市出版社)

カバーの表紙と裏表紙に黄色く塗られた生物が描かれてますね。

どちらも改造された「ヤプー」です。

用途はグロすぎてここでは書けません。

原作を読んだ段階では脳内で想像するしかなかった、その奇抜な発想の数々。

石森さんの生々しい絵柄がとても突き刺さります。

こうやって記事を書いておきながら何ですが、苦手な方もいらっしゃると思うので充分ご注意ください。

以前は文学に長けていなくても古書の世界に携わるのであれば、知らないと恥ずかしい作品だった『家畜人ヤプー』。

最近はだいぶそれも薄れてきたように感じます。

古書店を巡っても原作、劇画版共にあまり見かけません。

とはいえどちらも稀少という程ではありません。

元版だけでなく改稿された版も出て、ネット上でも多く売られてます。

それでも令和の今、以前ほど語られることが無くなった印象がある『家畜人ヤプー』。

石ノ森章太郎という巨匠が手掛けたこの世紀の奇作を御紹介したくて記事を描いた次第です。

 

 

記事へのコメント

10代の頃に手を出してビビって読むのを止めた、石ノ森先生のヤプーをついに今年全巻読みました(笑)

電子だったのですが、この記事を読んでどの版だったのか気になりました。

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