麒麟・川島とかまいたち・山内が「面白いマンガ」に沼のようにハマって楽しむマンガバラエティ『川島・山内のマンガ沼』。今回は、次回放送の「令和に伝えたい!おすすめレジェンドマンガ」の模様を一足先にお送りします(放送を見逃した方はTVerもご覧ください)。
川島を競馬好きにしたマンガ
川島 今回のテーマは「令和に伝えたい!おすすめレジェンドマンガ」。昔読んだレジェンドマンガでまだまだおすすめしたい、逆に最近の人は知らないんじゃないかというマンガがめちゃくちゃあるんです。ぜひとも読んでいただきたいという懐かしの名作マンガを紹介したいと思います。私はおすすめするレジェンドマンガはこちら、『競馬狂走伝 ありゃ馬こりゃ馬』。
川島 僕が競馬好きになった理由の一つになったマンガです。競馬マンガはめっちゃ読んでて、『風のシルフィード』から『みどりのマキバオー』までいろいろあるんですけど、絶対にベスト3に入ります。1993年に「ヤングマガジン増刊エグザクタ」に初掲載されてから、週刊ヤングマガジンに移動して連載が始まりました。単行本は全17巻。特筆すべきはやっぱり原作者ですね。田原成貴さん。このマンガが始まった1993年はまだ現役のジョッキーでした。
競馬を知らない人でもトウカイテイオーという名前は聞いたことがあるかもしれません。有馬記念という大きなレースで、その馬が骨折してしまうんです。1年間休養して、1年後の有馬記念にまた出てくるんですけど、「最後まで無事走りきったらいいんじゃないか」と思われていたところを、奇跡の復活で勝ってしまった。その勝利ジョッキーインタビューで泣きながら「彼を褒めてやって下さい」と言ったのが、田原成貴さん。武豊さんが登場する前に「天才」と言われたジョッキーですね。
作画を担当しているのが土田世紀さん。この方は今ちょっと天国におられるんですけども、『編集王』などすごいマンガを描かれた先生です。田原成貴と土田世紀、熱量のあるこの2人がタッグを組んだのが『ありゃ馬こりゃ馬』なんですけど、原作が田原さんだから、ジョッキーの話をリアルに描いているんですよ。
これ、もう書店にはおそらく置いてないです。中古でもないんじゃないかな。今は電子書籍があるので、誰でも読みたいときに読めるようになりました。で、興味があって読む人がいたら……これは川島の感想ですけど、5巻までは捨ててください。
山内 えええええええ!
川島 5巻までが第1章と言っていいと思いますが、むちゃくちゃギャグマンガなんですよ。氷室翔というジョッキーが主役なんですけど、言ってしまえば5巻までは「競馬ギャグマンガ」なんです。馬を一生懸命追ってるんだけど、気合い入りすぎてうんこをもらしてしまって、後のジョッキーをおさえて1着でゴールインしたり(笑)。
山内 しょうもな(笑)!
川島 だからここで紹介したのをきっかけに読んだ人は、「マジか」と思うかもしれない。そう思われるのが嫌なので、「絶対に5巻まで読んでほしい」と言いたいんです。そしたら、その「しょうもな」も全部フリになりますから。それまではギャグ、ギャグ、ギャグで来るんですけど、4巻あたりからグッとテイストが変わるんですよ。
氷室がアニキと慕っている西影というジョッキーが出てきます。この方もいろいろあって、かつては天才と言われたジョッキーなんですけど、天狗になってけっこう馬を壊しちゃって、乗鞍(騎乗する馬)が減っちゃうんですけど、ある馬と一緒に復帰を賭けるんです。このアニキが頑張る姿を見て、氷室も「俺も負けられないぞ」みたいなことになってくる。このへんから面白くなってくるんですけど、そこからさらにシリアスな展開に入ってくるんです。
それが、競馬界ではタブーとされてる八百長問題なんです。氷室は私生活がスキだらけで、お酒は飲むわ、キャバクラ行くわ、賭け麻雀はするわ、ずっとそういうことをやっている。でも一応乗鞍はあるから適当に騎乗する。人に挑発されたらムキになって馬を追い込んで、馬がバテてしまう。それでも全然いいや、飲んで忘れよう……みたいなことをずっと繰り返してるんですね。
そんな風に私生活がスキだらけだから、悪い連中に狙われちゃうんです。「一番人気の馬に乗ってわざと負けてくれたら、なんぼかお金を払いますよ」みたいなことを持ちかけられる。ただ、この氷室は「それだけやらへん」と断るんです。でも、その一番人気の馬に乗って、普通にボロ負けするんですよ。そうすると競馬界から怪しまれるわけです。あいつ、なんか変なレースをしたぞ、と。わざと負けたんじゃないか。そういえば悪い連中と最近飲みに行ってるらしい……みたいな感じで噂が噂を呼んじゃうんです。それでJRAに呼ばれて、「やったのか」「やってません」と言うんだけど、噂が広まっちゃって、ジョッキーとして干されちゃうんです。5巻でいきなりこんな展開ですよ。
山内 急にシビアになりましたね。ちょっと前まで、うんこもらしてたのに(笑)。
川島 じゃあどうしようかとなるんですけど、とにかく時間はたくさんあるんで、牧場に修行に行くんです。そこで、みんながどんな気持ちで競走馬を育てているかを目の当たりにする。暴れん坊の馬がいて、ジョッキーがまたがる鞍を付けようとしても、暴れて付けられない。じゃあバスタオルを付けるところから始めてみようか……みたいな苦労を重ねていって、何年もかけてデビューまで持って行くわけです。
その牧場主が土川というおじさんなんですけど、彼から氷室は「お前はジョッキーとして大事なことが何もできてない」ということで、一からいろいろ教わるんです。氷室が「馬に乗りたい」と言っても乗せてもらえず、「これを運べ」とか、「家から自転車でここまで来い」とか、関係なさそうなことばかりやらされる。
ずっと馬に乗せてもらえないので、「それなら帰る」みたいなことになるんですけど、「じゃあ乗ってみろ」となったら、競馬と何の関係もないように見えたそれまでの訓練が、実は全部競馬につながっていたとわかるんですよ。ちょっと『ベスト・キッド』みたいな話なんですけど。それで氷室はめちゃくちゃ成長して、中央に帰ってくるわけです。
川島 リアルだなと思うのが、その牧場でじゃじゃ馬と言われていたシンケンという馬がいるんです。人を乗せないと言われていたシンケンが、氷室とのコンビでどんどん勝って競馬界で這い上がっていくんです。そうなると氷室の評価も上がって、今度はファイアスターというとんでもない血統のサラブレッドを任せられることになる。これまた強い馬で「いい馬を手に入れたな」となるんですけど、シンケンとファイアスターは同世代だから、いずれは(大きなレースで)どちらに騎乗するかを選ばないといけない。
氷室からすると自分は拾ってもらった身なので、どちらも断れない。それでもマスコミは「どっちなんですか」と聞いてくる。そこにファイアスターの関係者がいたから「ファイアスターいいですよね」みたいなことを言ったら、スポーツ新聞に「ファイヤースターに乗る シンケンはクソだ」みたいな記事を書かれてしまうんです。それでシンケンの関係者が「あいつを二度と乗せるな」と激怒する……という、リアルにありそうなやり取りを描いているんですよね(「サンエイサンキュー事件」がモデルと思われる)。「競馬が大好き」「馬はカッコいい」と思ってる人にも、現実を知る意味でもこれを読んでいただきたい。今読んでも怖いですよこれは。
とにかく3巻までは我慢してください。4、5巻から加速していくんで。
山内を哲学者にさせたマンガ
山内 僕のおすすめレジェンドマンガはこちらです、『寄生獣』。レジェンドすぎて恐縮なんですけど。
1988年から1989年にかけてモーニングオープン増刊にて、全3話の中編作品として連載後、1990年から1995年、月刊アフタヌーンにて連載されました。単行本は全10巻、累計発行部数は2400万部以上。作者は岩明均先生です。「マンガ好きな人で読んでない人っているのかな?」くらいのマンガですよね。
川島 もう教科書みたいになってますよね。
山内 簡単なあらすじなんですけど、ある日突然、地球に謎の寄生生物「パラサイト」が出現。それは知性を持ち、人間の脳に侵入して体を乗っ取り、他の人間を捕食する生物でした。人知れずパラサイトが増殖していく中、主人公の平凡な高校生・新一に潜り込んだパラサイトは脳への進入に失敗し、右腕に居座って「ミギー」と名乗り、彼に共存を持ちかけます。
川島 1巻の最初、怖いよね。すごい衝撃だった。でもこれ、人間賛歌なんですよね。
山内 人がたくさん死ぬマンガなんですけど、中高生くらいの頃に読んでたら、最後の方で涙が出てきちゃって。「このマンガは大事にしなきゃ」と思った記憶があるんですよ。僕が一番印象に残ってるのが、「人の命と他の生物の命、どっちが重いのか誰が決めるんだ」みたいなシーンがあるんですけど、そこがすごく哲学的なんですよ。それで一瞬、哲学者の方に向いてた時期がありました。
川島 え、山内さんが?
山内 アリが死んでるのを見て、「このアリの命と俺の命、どっちが重いんだろう?」と考えたりして。そういう哲学的な気分に浸らせてくれたマンガですね。
川島 前半は「バトルものかな」と思うんだけど、5、6、7巻で変わってきて。そして8巻の表紙になっている田宮良子。彼女の存在がすごいですよね。実はこの人が主役じゃないかという気もする。
山内 そうですね。命のこととか、赤ちゃんのこととか、いろんなことを考えさせる。ただのグロいマンガじゃなくて、本当に命の重みを教えてくれるマンガでしたね。
川島 パラサイトは「我々はか弱い」と言ってて、最初はそれ、ボケなのかな?と思ったんですよ。
山内 「いや、めちゃめちゃ強いやんけ!」って思うんだけど……。
川島 だんだんその意味がわかってくるという。印象深いのは、パラサイトに乗っ取られた人間同士が子作りをしたら、いったい何が生まれてくるんだと。結局生まれてくるのは人間の赤ちゃんなんですけど、じゃあ我々パラサイトは何なんだと。繁殖もできない。何の影響力も持たない。だからか弱い生き物なんだという。あそこはちょっとしびれましたね。僕は高校生のときに全部読んだけど、多感な時期に読んで良かったです。「マンガってこんな深いの!?」と思ったから。
川島 我々の世代が10個名作あげるとなったら絶対入ってくる作品ですよね。逆に若い人がもう読みたくないくらい、我々から推されてるマンガでもある。「おっさんって『寄生獣』ばっかり推すやん」って(笑)。でもぜひ読んでほしい。僕は人生の中で何回も引っ越してますけど、一番取りやすいところに『あしたのジョー』と『寄生獣』を置きますからね。この番組、いろんなマンガ家の先生に出てもらいましたけど、好きなマンガとして『寄生獣』の名前がけっこう挙がってて、そういう意味では今のマンガ家さんを作ってるのもやっぱりこの作品なんじゃないかな。
昔は「『寄生獣』おもろいで」といっても、(絶版で)本屋になかったんですよ。今は電子書籍でいつでも買えるようになったから、こうやって紹介したというのもあります。ぜひダウンロードして読んでみてください。
次回放送は「令和に伝えたい!おすすめレジェンドマンガ」をお送りします。
(構成:前田隆弘)
【放送情報】
次回放送
読売テレビ●3月18日(土)深1:28~1:58
日本テレビ●3月23日(木)深2:29〜2:59
「令和に伝えたい!おすすめレジェンドマンガ」を放送。
(TVerでも配信中!)
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