半年かけて描かれた150ページの大作。単行本では更に5ページの加筆。佐藤まさあき『劇画 帝銀事件』

『劇画 帝銀事件』

昭和23年に起きた「帝銀事件」。

犯人として逮捕された「平沢貞道」は死刑確定から32年を経て、刑が執行されることなく95歳で獄中死(病死)。

この事件は数多くの書籍が出版され、様々な検証がなされてます。

私も過去に興味を持ち、古本で入手した数冊ですが関連書籍を読みました。

令和の今、この事件を御存じない方もいらっしゃるでしょう。

まずは検索で事件の事を調べてみるのをお勧めします。

そしてマンガにもなってます。

今回紹介するのは「佐藤まさあき」さんの『劇画 帝銀事件』です。

マンガになっているのは知ってましたが、2年ほど前に古書店で手に入れて初めて読みました。

出版社は日本文芸社。『漫画ゴラク』がよく知られてますね。

初出はその日本文芸社が出版したマンガ雑誌『カスタムコミック』1979年11月号です。

『カスタムコミック』(日本文芸社)1979年11月号

なんと150ページ一挙掲載の大胆さ。

この号、表裏表紙を入れて全356ページです。

通常号でありながら4割ほどをこの『劇画 帝銀事件』1作が占めているのは、なかなか無い事だと言えます。

それだけ編集部の肝入りなのでしょう。

掲載された各漫画家さんのメッセージが載った「作家からのメッセージ」というページが最後にありますが、企画の依頼が半年前と「佐藤まさあき」さんが書かれてます。

『カスタムコミック』の創刊が1979年の5月号。

つまり創刊の段階から『劇画 帝銀事件』は依頼され、半年かけて描かれ、隔月刊の為第4号の11月号で掲載という表紙にある通りの「巨匠入魂」の大作です。

資料提供と製作協力は森川哲郎という方。

「平沢貞道氏を救う会」を結成された方で、作品はこの方と「佐藤まさあき」さんとの共著と言っていいと思います。

といっても完全なノンフィクションではなく漫画作品として成り立つように登場人物など少し脚色も入ってますが、限りなく実録に近いフィクション作品でしょう。

先日この『カスタムコミック』1979年11月号を手に入れました。

単行本は所有していましたが初出の記載が無く、描き下ろしなのか何処かで連載されたのかは知りませんでした。

いつも行く古書店で「水曜教授さん、新しく雑誌が少し入ったよ」と店主に教えてもらい、そこに『カスタムコミック』数冊と他の雑誌がありました。

『カスタムコミック』は特に高いプレミアはついてなく、割と漫画を扱う古書店にはよく並ぶそれほど珍しい雑誌ではありません。

これまでに何度も目にして手に取ってきました。

しかし今回は別です。

表紙の「150ページ」に「えっ?」と思いましたよ。前後編とも書いてない。

「これ一回で全部載せたんだ」と驚きです。

見開きの扉絵が2色ページで絵柄の構図も素晴らしく、いきなり引き込まれますね。

『カスタムコミック』(日本文芸社)1979年11月号より

そして他の漫画家さんもなかなか渋い顔ぶれです。

『ガロ』と『ビッグコミック』と『アクション』を上手く混ぜ合わせた感じが良いですね。

で、単行本を引っ張り出して見比べていたらなんか妙だと気が付きます。

雑誌は左ページから始まって右ページで終り。

『カスタムコミック』(日本文芸社)1979年11月号より

単行本は同じく左ページから始まっているのに終わりが左ページ。

もしかして改稿された?と思い調べたら、5ページの加筆がありました。

まず「731部隊」に関する説明のところで2ページ新たに描かれてます。

そして追加された2ページに繋がるように前のページの説明文が変更されてます。

次は捜査にかかわる警部と新聞記者が港で対峙する場面。

突然船に積み込まれる荷物がロープが切れて近くに落下する描写が2ページ追加されてます。

これはサスペンス要素を出したかったのでしょうか。

最後は「平沢貞道」は犯人ではないと確信し、真犯人を追いかける警部がようやくその所在を突き止めるも酔っぱらって川で溺死していたという場面。

1ページ新たに描かれ、前のページも少し修正されてます。

この単行本化に当たっての加筆修正の理由は、今となっては知る由もありません。

でもこういう違いを発見できた時は嬉しいですね。不明な理由をあれこれ想像するのもまた楽しみの一つです。

この単行本は昭和57年(1982年)8月の発行。

B6サイズ、ソフトカバーの至って普通の漫画コミックスです。

単行本の巻頭には画家である「平沢貞道」氏が描いた絵がカラーで収録されてます。

『劇画 帝銀事件』(森川哲郎、佐藤まさあき/日本文芸社)より
『劇画 帝銀事件』(森川哲郎、佐藤まさあき/日本文芸社)より

豪華な画集も出版された「平沢貞道」氏ですが、マンガの単行本にあえてカラーで絵を載せる。

これは「佐藤まさあき」さん、「森川哲郎」さん、そして日本文芸社の意気込みとも取れますがどうなんでしょう。

雑誌と違って「森川哲郎」さんの後書きが2ページ載ってますが、平沢氏を無実と信じる森川さんの思いが伝わる熱い文章です。

佐藤まさあき」さんは貸本時代から描かれ、「劇画」の隆盛に大きく関わり数多くのマンガ作品を発表され2004年に他界されました。

令和の今、マンガを読む世代には馴染みが薄い方かもしれません。

帝銀事件もまた、昭和史の中でしか語られる事のない過去の事件なのも拭えない印象です。

そして『カスタムコミック』という雑誌があったという事も知って欲しくて記事を書いた次第です。

※編集部注…『劇画 帝銀事件』は、『実録昭和猟奇事件』(グループゼロ)5巻に収録されています。

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