麒麟・川島とかまいたち・山内が「面白いマンガ」に沼のようにハマって楽しむマンガバラエティ『川島・山内のマンガ沼』。今回は、前回放送された「川島・山内のおすすめマンガ」後編をお送りします(放送を見逃した方はTVerもご覧ください)。
鬼が桃太郎を倒すマンガ
山内 僕のおすすめマンガはこちらです。『桃太郎殺し太郎』、成瀬乙彦先生。
- 2022年からWEBコミックサイト「コミックヒュー」にて連載中
- 単行本は1巻まで発売中
川島 『桃太郎殺し太郎』? どういうことですか?
山内 この世界は、人間と鬼が熾烈な生存競争を繰り広げる世界なんです。初代桃太郎から力を授かったイヌ、サル、キジは、その力を後世に伝え、子孫たちは桃太郎役として鬼退治を続けています。だから、イヌとサルとキジが御三家みたいな形で犬家、雉家、猿家みたいな感じで桃太郎の力を引き継いだ人間たちがいて、それぞれが鬼退治をずっとしてるんです。その犬家の正当な後継者、猿家の正当な後継者みたいなのがいるんですけど、桃太郎の力を受け継いだ3人は、鬼に対してめちゃめちゃ強いんです。普通の人間じゃ太刀打ちできない鬼たちを、桃太郎役であるこの御三家の人たちは倒していける。なぜかというと、「犬飼家は鬼をにらんで金縛りにできる」など、
川島 なるほどね。
山内 無敵に近いんですけど、桃太郎役の1人である犬飼静三郎が鬼側の何者かに殺されてしまうんです。
山内 「えっ、あの御三家の犬が死んだ!?」となって。そしたら、この桃太郎役を殺したのは、人間の子供だったんですよ。
川島 鬼じゃなくて人間が?
山内 人間の子なんですけど、こいつは鬼側についているんです。鬼は自分たちじゃ桃太郎を倒せないので、「桃太郎を殺してくれ、俺たちの無念を晴らしてくれ」と頼んだ。だからこれは「桃太郎が鬼を退治する物語」じゃなく、「鬼が桃太郎たちを殺していく」という物語で、この主人公というのが桃太郎殺しのロクロウ、つまり『桃太郎殺し太郎』なんです。
川島 それでこのタイトルか! 桃太郎キラーなんですね。
山内 御三家の1つ・犬飼が殺されたことによって、他の猿家(猿飛家)、雉家(雉子宮家)が本気を出して戦いに行くんです。桃太郎殺し太郎を殺したろうと。
川島 もうどっちが正しいとかじゃないんですね。
山内 どっちも正義を持ってて、鬼は「普通に暮らしてたのに、桃太郎にやられた」と言ってるんです。
川島 鬼サイドとしては、そういうことですよね。
山内 で、このマンガ、本家の桃太郎がまだ出てきてないんですよ。桃太郎がエネルギーをイヌ・サル・キジに力を分け与えたという設定なので、もしかしたら御三家の上に、桃太郎の正当後継者がいるのかもしれないです。そのへんはまだ謎に包まれてるんですけど。
川島 主人公の、桃太郎殺し太郎であるロクロウ。そのロクロウという名前が、すごいヒントになってる気がするんやけど。
山内 名前が?
川島 だって太郎から始めたら、次郎、三郎、四郎、五郎と続いていくじゃないですか。で、こいつの名前がロクロウやから。さかのぼっていったら、こいつの先祖が桃太郎ちゃうんかと。想像ですけどね。ここからなんぼでも話を動かせそうですね。おもろそう。
山内 桃太郎をテーマにしたマンガって、けっこうあったと思うんですよ。その中においてちょっと異質な『桃太郎殺し太郎』。まだ1巻なので、ここからどうなるか分かりません。ぜひ読んでください。
ドラえもんのたどり着いた先がハライチ岩井だったら?
川島 私が紹介したいのはこちら、『ムムリン』。
山内 出た! これ、岩井のですよね。
川島 はい。原作はハライチの岩井君です。
- 2021年より『ヤングマガジン』にて連載中
- 単行本は1巻まで発売中
川島 ポコムー星人のムムリンは、宇宙旅行の帰り道に宇宙船が故障してしまい、緊急離脱することになる。これはまあよくあるというか、こういうかわいらしいマンガではそうなりますよね。で、たどり着いた先が地球、日本に住む小学生コウタ君の部屋だったと。簡単に言うたら『ドラえもん』に近いですよね。藤子先生をはじめ、いろんなマンガの平均的なところを取ったとは思うんですけど。
宇宙でちょっと迷子になって、ある日突然小学生の男の子の家に行くという『ドラえもん』風の設定だと思っていただいて結構なんですけど、分かりやすく言うと、ドラえもんがたどり着いた先が、のび太君じゃなかったという話なんです。のび太君というのは、勉強もスポーツもできないけど、誰よりも心が優しい。それをドラえもんがサポートしていって、友情や冒険が始まるマンガなんですけど、これは「誰しもがそんな小学生じゃないよね」という話なんです。「このムムリンがたどり着いた先にいた小学生が、ハライチの岩井君やったらこんなことになるんやろうな…」というマンガです。
山内 その説明、分かりやすい。
川島 最悪でしょ(笑)? みんな真っすぐ生きてるわけじゃないよと。
山内 今からでも居候先を変えたらいいのに。
川島 ムムリン、ルックスはかわいらしいでしょ? しゃべり方もかわいいです。だから持ち前の愛嬌で大歓迎されると思ってるわけですよ。「宇宙船で迷っちゃった」って言ったら、普通のマンガは「大変なの? じゃあ、うちに住みなよ」となりますよね。でも小学生コウタ君は岩井のDNAを受けついでるんで、「え、宇宙船は?」みたいなリアクションなんです。「いや、宇宙船は故障してないんだ」「じゃあ、一緒に住むなんて無理です。まさか宇宙人ってだけで珍しがられて優しくしてもらえると思ってるんですか」みたいなことを、初対面の2分くらいで言われてる。
山内 岩井やなーー(笑)。
川島 岩井ですよ。ただ、正論なんですよね。「正論であれば相手を傷つけてもお構いなし」という岩井節全開です。読んでてきついんですけど、でもたまにはこういう正論で自分をボコボコにしてほしいと思うんですよ、僕。大人になると周りの人が同調してくれるのが多くなって、怒ってくれる人がいなくなるから。バシッと怒られたい時にぴったりです。
山内 全部正論なんですか?
川島 全部正論(笑)。ちょっと象徴的な話を、簡単に言わしていただきたいんですけど、公園に行くと、かわいらしい女性がいるんです。かわいらしい女性が、かわいらしいワンちゃんを散歩させてる。で、ムムリンが「かわいいワンちゃんだね」と言ったら、コウタ君が「まあ見せイヌだからね」って言うんですよ。「あれ、見せるためのイヌだよ」って。ちょっと離れたところでは、おっちゃんが柴犬と戯れてるんですけど、それを見て、愛し合ってるならこうだと。泥んこになりながら2人でよしよしよしってやってるけど、あの女は普通に座って、イヌとも目を合わせず座ってる。身に付けてるブランド物と一緒であれは見せイヌや…みたいなことを言うんです。
こんなこと言ったって、誰も得しないですよ。ほんで「でも、あの女性も実はかわいそうなんだよ」「え、なんで」って言ったら、「あの女性も見せ嫁だからね」って。つまりその旦那にとってのアイテム的な存在だというわけなんです。で、「見せ嫁だからね」って言った瞬間、その旦那が迎えに来るんですけど、全身がブランド物なんです。グラサンして高級な腕時計付けてる、その旦那が山内そっくりなんですよ(笑)。
山内 おい、岩井!!! 何してくれてんねん!
川島 スニーカーも履いてますから。おそらく、ちょっといじってるんちゃうかと俺は思うんですけど。
山内 次会ったら、岩井を問い詰めます。
川島 コウタ君は嫌なことばっかり言うんです。ムムリンは何の道具も出さないし、コウタ君に圧倒されるばかりなんですけど、でもそれだけじゃないんです。例えばお金持ちの男の子に、コウタ君がラジコンを自慢されるんですよ。「ええラジコンやろ? お前もやりたいやろ?」「いや、別にやりたないよ」みたいな。コウタ君は「お父さんが買ってくれただけでしょ、自分の力じゃないでしょ」みたいなことを言うんだけど、やっぱりコウタ君も子供なんで、ラジコンをやりたい。
そしたらムムリンが家にあるおもちゃを使って、ボロボロながらもラジコンを作るんです。「これでどう?」「こんなラジコン誰がやんねん」みたいなことを言いつつ、公園で遊ぶんです。それを見た金持ちの息子が「ボロボロやん、何が面白いの?」と言うんだけど、「僕ラジコンやるの初めてだから、これで十分面白いんだよ」みたいなこと言って。見えないところでムムリンのことをちゃんと守ってたりする。血は通ってんのよ。
山内 なるほど。
川島 それは岩井にも言える。
山内 岩井にも…。
川島 意外としゃべってみたらええやつやで、ってなるところもあって。だからこれ、岩井をまるまる濃縮還元したようなもんです。
山内 めっちゃ人気というのは聞きました。
川島 絵も非常にきれいやし、読みやすい。ただ、子供のためには買わないでほしい。岩井になるから(笑)。
マンガ界・伝家の宝刀を使ったマンガ
山内 次に僕が紹介したいマンガはこちらです。さの隆先生『君が獣になる前に』です。
- 2021年より『ヤングマガジン』にて連載中
- 単行本は3巻まで発売中
山内 さの先生は『君が僕らを悪魔と呼んだ頃』というマンガを描いてる先生で、そのマンガも、ちょっとホラーサスペンス的な感じで面白かったんですよね。で、新しく描いているのが『君が獣になる前に』。
年末の都内ターミナル駅で発生した史上最悪のガステロ、666人の死傷者を出した事件は、ヨハネの黙示録にある「獣の数字(666)」にちなんで「The Beast」と呼ばれることになります。実行犯の希堂琴音は人気絶頂の若手女優であり、主人公・神崎一のたった一人の幼なじみということで、なぜ琴音が獣にならなければならなかったのか……という真相を探っていくマンガです。
まず神崎と琴音はすごく仲がいいんですよ。琴音は女優としてスターになって、神崎とは全然違うステージにいるんですけど、2人とも仲良しで、琴音は変装して神崎に会いに行ったりする。ちょっと恋愛感情もあるんじゃないか…というくらい仲良かったんですけど、仲いい感じでしゃべった後に「The Beast」と呼ばれるあの事件が起きてしまう。神崎は「そんな事件が起きたんだ」くらいに思ってたら、警察から呼び出されて、「あの犯人は琴音さんです」と告げられる。「いやいや、ちょっと待ってください。そんなわけないじゃないですか」みたいに言ってたら、被害者が撮った映像を見せられて、そしたらそこに琴音が映ってたわけです。
なぜ琴音がそんなことをする必要があるのか? ということで、琴音が犯人じゃないと思ってるメンバーや、犯人だとしても何か理由があるはずだと思ってるメンバーで原因を探っていこうとするんですけど、そこに謎の外国人の女性が現れて、主人公の神崎が殺されちゃうんです。
川島 ええっ、急!
山内 急展開です。「ちょっと待ってくれ、俺は何も知らないまま死ぬのか…」と思ってたら、ここでタイムリープです。
川島 マンガ界の伝家の宝刀(笑)。
山内 伝家の宝刀・タイムリープが起きて、「The Beast」の現場に行っちゃうんです。そしたらやっぱり琴音が出てきて、その事件を起こすわけです。その事件に巻き込まれて神崎はまた死ぬんですけど、今度は自分の肉眼で間違いなく琴音がやったというの見てしまう。で、「なんでこんな事件を起こしたんだ?」と思いながら死ぬんですけど、ここでもう1回タイムリープです。
川島 起こるねー、タイムリープ(笑)。
山内 今度は事件の半年前までタイムリープします。それで神崎は事件が起きるまでに、琴音がなぜあんなことしないといけなかったのか、全部を明らかにして止めてやると決意するんです。事件の当日だけ止めたところで、ちゃんとした解決にはならないから、根本を止めてやると。絶対に何らかの事件に琴音は巻き込まれてるはずなので、それを探っていく…というお話です。
川島 だから『君が獣になる前に』というタイトルなんですね。
山内 そうです。「The Beast」が起きる前までに、琴音が獣になることを止められるかという。『君が僕らを悪魔と呼んだ頃』も、胸が締め付けられるようなストーリー的なグロさがあったり、主人公クラスの人が容赦なく死んでいったりする展開があったんですけど、さの先生はこのマンガでもそれをふんだんにされてます。まだ3巻までしか出てないんですけど。お薦めです。
川島 血やグロさで読んでるわけじゃないんやね。素晴らしいマンガに、たまたま血とグロが入ってただけという。
山内 首は切られたりしますけど。
川島 いくねえ。
山内 脳天は撃ち抜かれますけど、まあ軽いほうです。ぜひぜひ読んでみてください。
川島 さて、今回のおすすめマンガいかがでしたか?
山内 やっぱりこの企画が面白いですね。もう毎回これでいい。
川島 他の人からのおすすめ、めっちゃ来ますよね。SNSとかで。インスタのDMをたまに見たら、「なんでこれを紹介しないんですか?」とか、めっちゃ来る。一番困るのが、ちょっと仲良しの人が「これ絶対読んでください。マンガ沼で言ってくれたら絶対流行ると思うんで」って読んだやつが、自分にとっては駄目だったりすることがあるのよ。ちゃんと買ってますよ? 買ってるけど紹介しないってことは駄目だと分かってください。
山内 俺もです。「おもろいから」と言われて全巻まとめ買いして、8巻でどうしても止まっちゃうマンガもあります。そういうのは紹介しません。
川島 いろんな方におすすめを言っていただけるんだけど、でも我々、好きなように読みたいんです。
山内 自分のペースで読みます。
川島 マンガ沼は、自分のペースで見つけたマンガだけを紹介させていただきます!
次回放送は「マンガ家ガチアンケート・渡邊ダイスケ編」前編をお届けします。
(構成:前田隆弘)
【放送情報】
次回放送
読売テレビ●8月20日(土)深1:28~1:58
日本テレビ●8月18日(木)深3:04~3:34
「マンガ家ガチアンケート・渡邊ダイスケ編」前編を放送。
(Tverでも配信中!)
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