2020年夏にオリンピックをやったかと思ったらもう冬季オリンピック・パラリンピックなんですね。なんだか時空がねじ曲がってる気がします。
ウィンタースポーツはいくつもありますが、少女マンガ脳的にアガるのは、やっぱりフィギュアスケートです。
日本はかなりフィギュアスケート大国だと思いますが、その理由のひとつに少女マンガがあると思っています。フィギュアスケートは手を変え品を変え、少女マンガで取り上げられてきたんですよね。それを読んで育ったお母さんたちが子どもたちにスケートを勧めてきたのかな、と想像しています。
そしてフィギュアスケートマンガの代表格と言えるのが『愛のアランフェス』です。
もうタイトルからしてラブが溢れています!
この作品は、フィギュアスケートの女子シングルに彗星のごとく現れた少女亜季実と、男子シングルのトップ選手黒川さんが、お互いラブになってペアを組む話です。タイトルに偽りなし。
70年代の少女マンガは、今よりもなんでもかんでも恋愛色が強いです。登場する男性たちは柔和で優しく寛大で、メンヘラぎりぎりの主人公を支えてくれます。
冒頭、亜季実はフィギュアスケートの大会に突然やってきて「出場させろ」と無茶を言います。同じく黒川さんはチケット完売だと言われているのにごり押しして観戦します。アイ・アム・ア・ルールなこの2人、本当にお似合いです。
そしてそれぞれシングルで活躍できる選手なのに、黒川さんはボートに乗りながら亜季実に「きみとペアを組みたい」と告白。いやもう愛の告白です、愛のアランフェスだけに。ペアを組む=愛してるから、くらいの勢いです。
男子トップの筒美さんも「相手をしてくれるパートナーが見つからないから独身(ひとり)でやってるわけで……」「真紀子姫をパートナーに口説きたいのだけれど ふられっぱなしってわけです」と言っています。
まるで「相手がいないから一人暮らししてるんです」みたいな。シングルは愛するパートナーを見つけてペアをやるまでの通過点みたいな扱いです。
フィギュアスケートの裏側には詳しくないですが、現実にはシングルとペアはまったく別のスポーツと言っていいんだと思うんです。ずいぶん前だけど、髙橋大輔選手が、エキシビジョンで浅田真央選手とペアにチャレンジしてたけど、ちょこんと抱っこする程度でした。シングルの練習の合間にペアをやる、みたいなことはなさそうです。求められる技術が違うので「愛する人と踊りたいからペアで」という簡単な話ではないのでしょう。好きと競技は別でよくね?
でもこれが当時の少女マンガの正義なんですよね。そもそも少女マンガでは、スポ根にだいたい恋愛が絡んできます。クラシックバレエやフィギュアスケートは、スポーツという名目で男女がイチャイチャできる格好のラブ・スポーツなんですよね。和久井は男性の「手相を視てあげるよ」なんて常套手段に引っかかったことがあるんですが、下心があるボディタッチは気持ち悪い。だけど競技においてボディタッチが必須なら仕方がないですもんね。もちろん、男性は競技中にムラムラしたりもしません。あくまで理性的にイチャイチャが行われるのがポイントです。
公私混同は、少女マンガでは大いなる萌えです。仕事に恋愛を持ち込むことこそが愛の証なんですね。なんならせっかく高給取りの男性を捕まえても、何もかも捨てて、仕事より自分を選んでほしいのが少女マンガです。
『愛のアランフェス』では、ペアへ転向した亜季実がコーチたちのよくわからない指導に泣きわめいてだだをこねる様子を、黒川さんが辛抱強く支えていきます。遠く離れても浮気もせずに一緒に滑ることを目指してくれるんです。こんな相手が見つかるなら私もフィギュアスケートをやればよかった……!
でも黒川さん、自分のせいで怪我をした女の子に対して責任を感じてスケートをやめようとした上にプロポーズまでしてました。女の子を庇護下において苦労をしたいタイプなのかもしれません。
ちなみに作品では、コンパルソリーを滑るシーンがあります。これは「規定」というやつで、音楽もかけず、地味ーに円を描いていきます。1990年まで男女シングルで行われていましたが、廃止になりました。見てる方は面白くないですものねえ。まだ女子がトリプルジャンプをほとんど飛んでいなかったころのお話で、フィギュアスケートの歴史も垣間見ることができます。
女性の自立や、仕事、好きなことに打ちこむ女性たちの活き活きとした姿を描く槇村さとる先生の初期代表作です。