クソビッチすぎるしずちゃんと、のび太さんのタフネス『ドラえもん』第2巻レビュー

クソビッチすぎるしずちゃんと、のび太さんのタフネス『ドラえもん』第2巻レビュー

ドラえもんの『指輪物語』的部分?

 

ガビン さて、てんとう虫コミックス版『ドラえもん』全45巻を菅俊一さんとレビューしていく企画の2回めです。1巻目の反響結構ありましたけど、どう思いました?

 このマンガは『ドラえもん』とは何か?の説明がいらないですよね。

ガビン そういえばなんの説明もしませんでしたね。

 それってすごいことだなと思うんですよ。ドラえもんとは何者で主人公は誰でなんのためにやってきたとか、未来の孫の孫から送り込まれてきているから現代にはない新しい道具を持っていますよ、というのが設定としてはあるんですけど、それは常識として扱われている。『ドラえもん』って、こんなマンガあったんだ!とはならないじゃないですか。

ガビン 説明してたらうざいくらいの。

 国民マンガですよね。そもそも、これ読まずにすますことって可能なんですかね?

ガビン でもアニメしか見たこと無い人はいるんじゃないですか?

 赤ちゃんの場合は、いまや『アンパンマン』から逃れることってほぼ不可能になっていて、それに触れたらはまっちゃうっていうのあるんですけど、アニメのドラえもんはそういう存在なのかな。あとでマンガがあったことも知るっていう。

ガビン まあ、そんな国民マンガについて、今回は第2巻についてなんですけども、その前にちょっと話しておきたいことがありまして。

 はい。

ガビン なんで「てんとう虫コミックス」版でやっているかってことなんですけどね。「全巻」と銘打ちながら、てんとう虫コミックスというのはいわば「よりぬき ドラえもん」なわけで、ドラえもんのすべてのお話ではないんですよ。そこを疑問に持つ人がいるかもしれんなと思いまして。

 一番みんなが手に取りやすくて、読んでるやつですよね。

ガビン そういうことですね。研究者になりたいわけでもないし……。

そもそも『ドラえもん』って、「正しい読み方」がないマンガだと思うんですよ。全話読んだからといって正しい読み方ではない。というのは、このマンガって学年誌で同時期に連載されていたものだから、リアルタイムでもすべての話を読む人は通常ではいなかったんだと思うんですね。

「学年誌」って、今はよくわからないかも知れないけれど、小学館だったら小学生向けにはその名も「小学一年生」から「小学六年生」という雑誌までがあって、『ドラえもん』はまさにそういう雑誌で連載されてたわけですね。そして各学年に違う内容の『ドラえもん』が掲載されていた、と。

なので連載時に想定されていた読者像っていうのは、例えば1970年に「小学一年生」に載っている『ドラえもん』を読んでいた子どもは、翌年には1971年に「小学二年生」に載っているドラえもんを読む読者なんですよね。

 いっしょに成長しながら読んでいく。

ガビン そうそう。就学前とか小学校低学年用の『ドラえもん』から学年を経るごとに基本的には高度な内容になっていくんですよね。学年誌を渡り歩いていくことが、ストーリー体験になっている。わかりやすく言うと『ドラえもん』を「卒業」するというストーリーなんですよね。そこまでが1セットになってる。

 はいはい。

ガビン 低学年の時は、絵本に毛が生えたような状態で夢のある「ひみつ道具おもしれー!」って話で。よく見る「道具に頼ってちゃダメだ」「ドラえもんに頼ってちゃダメだ」みたいな話が出て来るのは学年が上がってから出て来る印象。

 ふむふむ。

ガビン 『指輪物語』じゃん! と思ったわけです。欲望が具現化したようなひみつ道具で遊んだあとに、それを手放していくという物語なんだなーと。それってつまり「次の学年になると『ドラえもん』が連載してない」っていう卒業とセットになっているからなんだなと。

 自立の話だってことですよね。

ガビン 『ドラえもん』に対する批判として、努力せずになんでも手に入れてしまう、足ることを知らない欲望みたいなトーンがあるような気がしてたけど、そういう話でもないんだな、と。

ま、それはそれとして、本題の2巻の話をしていきましょうか。

2巻レビュー開始

ガビン はい、2巻です。1話ずつ見ていくとキリがない気もするのですが、何を端折ったらいいかも判断が難しいので、今回もまた様子見ということで、とりあえず1話ずつ見ていきましょうか。面白い話ほど長くなると思いますし。

 

テストにアンキパン

 ガビン 2巻の最初の話は、ひみつ道具の中でも有名な「アンキパン」が出てきますね。アンキパンは、トーストのカタチで、覚えたい文章なんかを転写して食べると暗記できるってものですね。これ、どうでした?

 アンキパンは結構面白いと思ってて、ふたつ見どころがあると思いました。アンキパンを出す前に、他の解決方法をドラえもんが提示しますよね。

ガビン 扇風機で学校を吹き飛ばそうとか、「動物ライト」で先生をゴリラにすればいいとか結構ひどいこと言うんですよね。

 試験を受けずにすまそうとする方法を提案するんですよ。その後にアンキパンが出て来る。要するにアンキパンはポジティブな解決方法として選ばれたってことだなと。

ガビン のび太さん勉強しないくせに、結構マジメなんですよね。もうひとつの見どころは?

 アンキパンと容量の関係ですね。アンキパンってパンなので、食べられる量が制約になってる。それがストーリー上うまく使われているところが面白いですよね。せっかく暗記したものを、食べすぎて出しちゃって忘れたり。

ガビン パンが体の中にあるときだけしか、覚えていられないんですよね。

 お腹が空いているってこと自体が、アンキパンを活かすためのリソースになっていて、そこが面白い感じに使われているなと思ったんですよね。

ガビン ムダなものいっぱい覚えて容量=おなかいっぱいになっちゃって。あ、あと、算数も暗記で解決しようとしてるでしょ。

 はいはいはい。暗記でぜんぶ大丈夫ってことにしてるんですよね。

ガビン この道具は、いいなあ。ひみつ道具の中でも特に有名な道具だってこともうなづける。

 なんか魅力ありますよね。食べてみたいとか。

ロボ子が愛してる

ガビン 次は問題作ですね。

 あー、ロボ子。

ガビン あらすじは、女の子に冷たくあしらわれたのび太に対してドラえもんが「ロボ子さん」という美少女ロボットを紹介してくれる。このロボ子が、のび太をすごく褒めてくれるという。そしてのび太もポーっとなっちゃう。

これは、人のカタチをしているので、遠い未来のひみつ道具に見えるんだけど、形を変えてもうすでに実現されているところもあるように思いました。自分のこと褒めてくれる恋人的な存在という意味では、恋愛シミュレーション、乙女ゲームとか。

このマンガでは、ロボ子に好意を抱くのび太を滑稽に描いてるけれど、2次元に夢中になったり、実際に現実世界の自分の状況を忘れさせているという意味では、そうしたゲームなどがロボ子の役割をすでに担っているとも言えそうです。

 そうですね。ただ、このロボ子は嫉妬するんですよね。それって自我か何かを持ってるってことでしょうね。そこがなかなかおもしろかった。

あと、問題解決の方法。例えば宿題を見るシーンがありますよね。間違いだらけなんだけど、とにかく一回褒めますよね。「すてき!! こういう個性的などくそう的なまちがいはだれにもやれるもんじゃないわ」とか言って。

 

ガビン そこも現代的なアプローチですよね。

 その褒められたことに対してのび太が「先生はおこるんだ」というと、「じゃ、先生向きの答えを書いておきましょうね」と手伝ってくれる。この切り返しの、知性の高さというか。

じゃあ正しい答えを書きましょう、じゃなくて、先生むきの答えを書いておきましょうね、というのがなかなか優秀なロボットだと思ったんですよね

ガビン コミュニケーションが高度っすよね。非常によくできた話。

でも、僕この話ですごく気になるのはロボ子のことじゃなくて、しずちゃんのことなんですよね。しずちゃんが本当にクズだなと思って……。

 ははは。

ガビン 僕は『ドラえもん』を読み始めたばかりの素人で、まだ2巻なのでこの先しずちゃんが、どういう素晴らしい女性になるのかは知らないんですけど、とりあえず、1〜2巻を読んだ限りでは、この子を好きになる要素がとにかくゼロなんですよ。見た目がちょっとかわいいってことですか?

のび太が、ピーナッツを放り投げて食べるっていうのを見て、しずちゃんは「うちにきて見せてよ!」って言うんですよね。
それでのび太がしずちゃんちを訪ねたら「本気だったの?」って驚くんですよ……。
それで友達を電話で呼ぶんだけど、その時のセリフが「じょうだんのつもりだったのよ」ですよ。

 
 

ガビン これ、日本語に訳すと「キモオタが冗談を真に受けやがったんだけど」ってことでしょう。「本気にしやがって」っていう表情で……。

 そうですね。

ガビン さらにですよ。そこにスネ夫が「新しいゲーム買ったんだ」って言ったら、一瞬でのび太さんを置いてついていく。どんだけビッチなんだって話でしょう。

なのにね、のび太さんは誰もいなくなった部屋でピーナッツを投げて食べ続けるんですよ。そして、ひとりで家に帰ってきてね、ピーナッツでのどが渇いたからといって、水を飲むんですよ……この表情どうですか。

 

 これはつらいですよね。ひとりで水のんでて……。

ガビン この表情、ほんとにいいんですよね。それを後ろから見ているドラえもんが、ぼそりとつぶやく

さりげなくわらってはいるが…、

きみの気もちがどんなにきずついたか、ぼくにはよくわかる。

 

ガビン このシーン、なんども見ちゃうんですよね。のび太さんって、ほんといいやつなんじゃないかな。

 なんとなく、のび太に感情移入してましたね。気持ちがわかるっていうのは自分を投影してるっていうか。そうやって読んじゃってましたね。しずちゃん側では見ないですよね。

ガビン アメリカ映画とかで、チアリーダーとナードみたいな関係を見てるような気分になるんですよ。「なんであんな女のことが…」みたいな。

しずちゃんは……ちょっと僕は許せないですね。しずちゃんとか親しげに呼びたくない。しずかと呼び捨てにしたい、というか、名字で呼びたいですね。源って名字で呼びたい。

 そういった意味ではジャイアンの暴力みたいにわかりやすくないだけに、質が悪いのかもしれませんね。

ガビン いやあ……このシーンは堕ちるなあ……マジでクズですよミナモト…。

 クズ……。

ガビン 次いきましょうか……。

(次ページに続きます)

怪談ランプ

 これは怪談、てことになってますけど、どんな話してもそのとおりになるっていう道具なんですよね。

ガビン そうですね。機能としては怪談と関係なくも使えるはず。「話したりしたことが、そのとおりになる道具」ってちょいちょい出てきますね。結構同じモチーフを、設定変えて使ってきますよね。同じメーカーの商品のパッケージちがいなんじゃないか疑惑を感じてるんですけども(笑)。

 音が鳴るにしても、ただ鳴るんじゃなくて、強盗が入ってきてモノを漁って音が鳴るとか、関係ないことを強引に呼びつけることで、言ったことが現実になるんですよね。っていうのは、やっぱり1巻の「かならず実現する予定メモ帳」なんかと構造としては同じ。別の現実を結びつけるということがポイントですよね。

ガビン 話としては普通っちゃ普通ですよね。どんどん次に行きましょう。

ゆめふうりん

ガビン これは、風鈴の音を聞かせると眠ったまま言うことを聞くという道具ですね。僕が面白いと思ったのは、のび太さんが将来の夢を聞かれて「ガキ大将になる」って言う。今なるんじゃなくて、将来ガキ大将になるって言うわけ。その理由は「こどものうちになれないから大人になってからなる」っていうもので、これは最高だなと思いました。

 僕はそれを語る前のコマがすごい好きで。のび太のスルー力が出てていい。ジャイアンがすもう大会やるから賞品もってこいと言って、賞品を取りにとりにみんな家に帰りますよね。で、のび太は一旦家にかえった時に横になってるじゃないですか。

ガビン ゴロゴロ寝てるんですよね、帰宅即よこ(笑)。

 戻る気なしっていうか。この強さはすごいなって思って。のび太はそういうところあるな、と思いまして。この強さ。

ガビン ありますねえ。

 普通、暴力に対する恐怖での行動だったら、慌てて賞品もってきますよね。他の子達はそういうことやってると思うんだけど。のび太はここで馬鹿馬鹿しいって言って寝に入るっていう。

ガビン ここに至る、みんなとジャイアンの関係の描写もいいですよね。今日はなんの遊びをしようか?ってみんなからいろんな意見を聞くんだけど、ジャイアンが「すもう!」って言った瞬間に、全員が「すもうでもいい」って言うこの感じね。この感じ小学生もわかるんですかね。そしてこの後、夜になって、自由にものが言える状態になっても、まだみんな「すもう」って言う。どんだけ恐怖なんだ。なのに、のび太だけがスルーする。

 なんだかんだいって精神的には強いんじゃないかと。

ガビン 精神はタフですね。肉体的には、すもうでしずちゃんに投げ飛ばされてますけどね……あのクズ女……。

ぼくが生まれた日

ガビン のび太が生まれた日を見に行くという話。
僕はこの最初のシーン好きです。せっかくやる気があるのに、お母さんに「勉強しろ」って言われたので、やる気がなくなってしまう。そういう心理バイアスが出ているエピソード。バイアスのマンガっていうと、菅さんがBRUTUSでやってた「ヘンテコノミクス」思い出しますけど。

さらに、お母さんが「好きなようになさい」って言ったら、のび太はいきなり遊びに行こうとして怒られるという。

 これも精神が強いですよね。

ガビン 2巻はとにかくのび太のメンタルの強さに感心するシーン多いですねえ。

ところで、この話は、自分の生まれたとこをを見行くじゃないですか。名付けのシーンとかがあって、結構有名なエピソードなのかなと思うんですが。

 小学校の授業で自分の名前の由来を調べなさいとかありますよね。そういうのも含めて多分に教育効果みたいなものを意識された話なんですかね。子供にとってはそういう話に見えるのかなと。だけど大人から見れば感動的であるっていう。親の思いを知るみたいな。

ガビン この会話、ドラえもんがさりげなくひどいこと言うんですよね。

「きみににたら成績優秀うたがいなし!」

「あなたににたら、運動ならなんでもこいのスポーツマン。」

「両方の悪いとこにににちゃったんだな。」

 

ガビン ひどい!

 くくく……。

ガビン そして両親に期待されたから、急に勉強しようとするのび太かわいい。

正直太郎

ガビン この話は、小心者のおじさんを助けるために「なんでも正直に話してしまう腹話術人形」みたいなひみつ道具を出すんですね。なにか気になるポイントはありましたか?

 これって、このひみつ道具の機能を正しく使った時、つまり正直に内面を吐くことをすると、いいこと何もないんですよね。思ってることを話してもいいことはない。ここがポイントだと思うんですよ。

ガビン たしかに。本音を言った結果、ひどいことが起こりますね。F先生の世界認識がそういうものなんですかね(笑)。

 どうなんでしょう。正直に話していいこともあるんだろうけど、このマンガで語られているところだけ見ると、ネガティブに働いてますよね。人間って心情をさらけ出してもいいことなんて特にないんだよなっていう描き方してます(笑)。

ガビン 円滑な社会生活は、空気読んだりして気を使って成り立っていると。

 そういう心理みたいなものをテーマにしてるっていうのは面白いなとは思ったんですよね。この2巻は、のび太がひみつ道具のいい使い方を見つけるというよりも、翻弄されていることが多いような気がして。

ガビン でも、それってのび太のせいじゃなくて、ドラえもんが出すひみつ道具が、間違ってるっていうことですよね(笑)。

 そういうところありますよね。うまく使えば便利な機能もあるんだけど、それが反転して働くと、っていうこともあるので、わりと翻弄されているケースが2巻では多いなと思って。

しずちゃんのはごろも

ガビン これは善良な、お伽話みたいなヤツですね。はごろもを使った。

 これが学年が低めの話なんですかね?

ガビン 頭身も低いし、話も単純なので、低学年用でしょうね。ところで、この段階でタケコプター自然に使ってますよね。さも、誰もがしってる道具風に使い方してる。

 説明がないですよね。

ガビン 1巻でおしりにつけて飛ばされてたのになんの説明もなく「常識」に格上げされている。さすが国民マンガです。

うそつきかがみ

ガビン これはもう表紙がやばすぎる

 ははは。

 

 

ガビン お話としては「正直太郎」と対になってますね。こっちはウソしか言わなくて、結果褒める。正直太郎は本音を言って人間社会をぎくしゃくさせたんだけれど、こっちはウソによってみんながコミュニケーションを成り立たせてる感じが皮肉です。

でもこれSNSっぽいっていうか、今のSNSとか見てると、たとえば展覧会とかやっても知り合いの評価は基本は褒め。リアルでは結構ネガティブなこと言ってても、あんまりネットに書かれてない感じがします。

 SNSは完全にこっちですね。

ガビン つまりSNSはウソだってことなんですよ(笑)。

 ああ〜〜。

ガビン まあ、全然そんなテーマのマンガじゃないんだけど! でもウソなんだけど鏡にほめられた人たちが、鏡中毒になっていくの、かなりよかった。ハンサムだって言われたのび太なんかジャンキーみたいになっていくでしょう。

 

ところで、あと最後に鏡に反省させているシーンがありますよね。あそこビックリしませんでした?

 あれ、自我があるんだ!? っていうのがちょっと突然出てきて面白かったですね。

ガビン 着ぐるみの中の人がしゃべりだしたような違和感がありました。

タイムふろしき

 このエピソード、マンガとしてめちゃくちゃテンポいいなと思ったんですよ。後半の風に飛ばされてどんどん飛んでいく下りとか。時間の早送りと巻き戻しがふろしきでできるよっていうことなんですけど、そのできる事例をだいたい見せてる。

無機物の時間も巻き戻せるし、動物にも植物にも髪の毛みたいな部分的なものも巻き戻せる。人体を巻き戻すと子供になる。そして最後は、戻し過ぎっていう概念もあるよ、と。つまり、新しい概念を伝えるためのモデルケースとしてすごくわかりやすかと思ったんですよね。

ガビン 確かに、すごくテンポよく次々と事例紹介してますね。うまさの光るお話です。

ところでこの話でのび太たちがしようとしてるのは、古い道具を時間戻して転売することなんだけど、これってリサイクルショップとかそういうことですよね。リサイクルショップがやってるメンテナンスや掃除って、アレは時間を巻き戻してるってことなんだな。

しかし、タイムふろしきには労働が含まれてなくて、単にボロ儲けなので、みんなが転売ヤーみたいになっていってしまう。

 はいはい。それでいうと、ジャイアンが母親に

「見のがしてくれたら、あとで一万円やるぜ。」

っていうこのセリフ。

 

ガビン くくく……これはしびれるセリフですね。

 親に対しての……。

ガビン いいですねえ。あと関係ないけど、クルマ乗ってるの、本人ですよね。

 F先生の自画像に似てますよね。結構、いいクルマですよね。

 

ガビン 僕はドラえもんに対して、マンガ家が出て来るとかそういう楽屋落ちの印象なかったんですけど、実際にはかなり出てきますよね。

かならず当たる手相セット

 ガビン これねえ……。

 これは……。

ガビン お話としては、手相を描き換えることで、その運勢になるってものなんですけど。
しかし、それ以前に現代の目で見るとギョッとするところありますねえ。まず父親が、浮浪者の格好をして会社のパーティーの余興の練習してるっていう。

 これはショックですよねえ。

 

ガビン 僕はこの話、すごく良く出来てるなと思うのが、のび太の占いに対する態度です。「手相なんてくうだらない」ってイイつつ、すごい気にしてるっていう設定がいいですね。ロジカルには信じてなくても、いやなことを言われると心理的にはダメージを受けてしまう感じとか。占いってそういう構造をベースにしてますよね。

 
 

 理屈ではわかっているけれど、ってところですよね。

ガビン あと、記号をのび太がテキトーに描くじゃないですか。ある意味、自分の運命を左右するコマンドなのに。マニュアルを絶対読まないタイプですよね。

 そもそもなんでこんな悪いコマンドを載せてあるのかという話もあるんですけど……。でもこの話、いいですね。

ガビン 赤ちゃんのキャラもいいし。

 笑顔で包丁振り回すサイコパスな感じとか。

ガビン そして最後「手相なんか気にしてるときりがない」とか言い出すのび太。これがつまり自立の話ですね。

 

 でもこのび太どこ見てんだろうとか結構怖いですよね。ドラえもんに向かって言ってないじゃないですか。

ガビン 確かにどこに向かって言ってるんだろう。自己啓発に目覚めたやばい人の顔ですよね。

オオカミ一家

ガビン 絶滅したはずのニホンオオカミを、オオカミ男に変身するライトで探しに行く話です。

ぼく、見つけよう!」

とかいきなり言って。って、最初からドラえもん頼りなんだけど。

 

 この話で気になったのは、本物のオオカミと、のび太が変身したオオカミと、意外とすぐ打ち解けますよね。もちろん種が少ないという設定だからっていうのもあるんですけど。のび太がオオカミの巣にいって、子供をかわいいねって抱き上げるシーンとか、この適応具合はすごいなと思って。

ガビン またまた、のび太の強さを語るエピソードですね。

 やさしさも出てる話ですね。捕まえにいったオオカミを最終的には逃すみたいな。

ガビン 自分がみんなにした約束を守れなくてもかまわないんですね。

N・Sワッペン

ガビン 磁石ネタですね。N極とS極のワッペンを貼ると、磁石のようにくっついたり反発しあったりするという。
それはさておき、のび太が最初のジャイアンをバカにするシーンいいですよね。磁石の面白さを喜々として話すかわいいジャイアンをようしゃなくバカにするのび太。

 

 「おくれているなあ」っていう。あとこいつら、こういう時に相手のことを指を指すでしょう。

ガビン あー。それは全然気にしてなかった。

 煽ってますよね。

ガビン のび太は基本的にジャイアンのこと、バカにしてるんですよね。2巻はそれがすごくはっきり出てるなあ。

 お互いにお互いを。バカにしてるっていうすごい世界ですね。

ガビン このNSワッペンって、顔を合わせなくていい方法として使ったりしてるじゃないですか。これって、ストーカー防止法とか、そういうアレみたいですね。アラートを出すことはいまのテクノジーで出来そう。

 技術としては、このマンガでは、物理的に移動させちゃうっていうのが面白いですよね。消しちゃうとか隠しちゃうとかじゃなくて。

あとこの話、磁石の知識を使わないと理解できないですよね。同じ極は反発しあっちゃうという。小学校の理科で習うわりとおもしろい知識でではあるんですけど。それをしっていると、最後はくっついちゃうという

伏線がきいてるし、これは理科マンガ的にはいい感じだと思うんですよね

ガビン 学習マンガというか、学習してること前提のマンガですね。

基本的に冗談が効く幅って、共有してるリテラシーが広ければ広いほど自由度が拡がるから、小学生とかは学んだことベースでギャグを作るのって楽しいことなんじゃないかな。学習マンガ要素は、今後たくさん出てくるんだと思うんですけど。

地下鉄をつくっちゃえ

ガビン これすごいなあ。お父さんが毎日乗っている通勤電車が混んでるから、地下鉄を通そうっていうお話。すごいですよね、のび太の発想力、イーロン・マスクみたいなスケール感ですね(笑)。でかい男ですよ

あと関係ないけど電車待ってる中に石ノ森章太郎がいるんですよね。

 

 あ、ほんとだ!

ガビン 例の楽屋落ちが入ってる案件ですね。

 僕、このコマが好きなんですよ。

 

 とりあえず、よろこんでおいてるドラえもん。こういうコマ好きなんですよね

ガビン なんでです?

 なんですかね。単純に喜びを分かち合ってる感じがわかるというか。それがいいアイデアかどうかは関係なく、人が喜んでいることに対してよかったよかったっていう。ドラえもんの純粋さがかなり出ているんじゃないかと。

ガビン ドラえもんって初期の頃って、結構アホなキャラで、そのよい部分が出てるところなのかな。

タタミのたんぼ

 ガビン ああ!これ! これ一番好きかな2巻の中で。

 これって結構覚えてるんですよね、ずっと。

ガビン 僕も、覚えてるな。お話としては、餅の奪い合いを解決するために、米を作るところから始めるんですよね。単行本をちゃんと読んだ記憶がないのに覚えてるという……。

 なんか覚えてますよね。

ガビン キットになっているのが、好きなのかな。今後のドラえもんに出てくる「キット」の走りなのかなって思いますけど。

小さい世界を作るんだけれど、雲、カカシ、田んぼ、太陽、キットになってて、その世界を部屋の中で組み立てる、それがすごくいい。

 

ガビン シートなのに、足がズボッと入るこれとか。この感じ、すごく好きですね。

 

 やってみたくなる。他のひみつ道具みたいに、できないことができるようになる、というのとちょっと違いますよね。箱庭的な楽しさというか。こういうことに憧れるんだなと思った。

ガビン これが唯一の解決方法じゃないですもんね。

 餅を自動でどんどん出してくれる機でもいいわけなんで、それをこれはわざわざもち米から育てるっていうところからお餅を作る。面倒くさいんだけど、その面倒くさいこと自体が喜びというか、うらやましいなということになってるのが面白かったな。

ガビン ディティールもいいですね。安物を買ったから季節があんまり安定しないとか、そういう設定もリアルで。イナゴの卵までセットしてあった、ってことに関してドラえもんが「てきとうに苦労するよう、できてるんだ」って言うじゃないですか。これやばくないですか。実際にほどほどたいへんなキットとかあるじゃないですか、エコな人のための商品とかで。

 ありますね。

ガビン 小さな苦労で達成感がある。でもできあがったものは買ってきたものと別にかわらないんだけど。

 苦労が娯楽になる。

ガビン あとアプリとかで育成系のゲームあるじゃいですか。「なんとか農場」みたいなやつ。あれにも似てるでしょう。苦労して育てる系。面倒みてやることが娯楽になる。ってことを僕らは知ってるけれど、これは早いですよね。面倒なことをするのは労働だと思われていたと思うんですよ。だけど娯楽になるということを明らかにしてしまっている。

 そうですね。

ガビン オチもすばらしいんだよ。出来た餅が奇数個になったら結局喧嘩って。この話は、名作ですね〜。

このかぜうつします

ガビン これはまず、冒頭のお父さんの社畜度に注目です。

 

ガビン そしてのび太の善人っぷりがわかるお話ですね。まずお父さんの風邪を自分にうつさせる。それを誰かにうつそうとするんだけど、相手にわるいからうつせない。のび太さん、ほんといいやつ。

 善人な感じでてますよね。オチが、風邪を求めている人に出会ってうつして「かわった人がいて、たすかったね」っていうところも。

ガビン 最終的には人助けとして、かぜをうつしてるんですよねー。

勉強べやの大なだれ

ガビン 運動嫌いののび太が、スキーをやることになる話です。練習すればとか言われるんだけど、のび太が、下手くそなところを人に見られたくないから、練習さえも人に見られたくない。これが共感ポイントとしてある。ただ、これって、できるようにならない人のパターンなんですよね。うまくなってからみせるって。

 ははは。

ガビン ドラえもんが出してくれたひみつ道具は、VR的な、シミュレーターでもあり、Wiiスポーツみたいな要素もある。で、装置の欠点をのび太が指摘して、ひとつずつ改良していく。景色がほしいとか。

 はい。

ガビン ネガティブな人は装置の欠点を探してしまうことでもある。

 その機能がないからやりたくないわけじゃないんですよね。練習をしたくないだけで、よくクレーマーとかにありそうなことなんですけど。本当にそれに問題があるわけじゃなくて、単に自分の話を聞いてほしいとか。嫌だから理由を探すとか、そういったことが、端的にあらわれているなあと。

ガビン あと、これ停電によって閉じ込められちゃうじゃないですか。これマトリックスですよね。

 ふふふ。

ガビン いろんな要素が詰め込まれていて面白いですね。

恐竜ハンター

ガビン 恐竜ものです。ドラえもんというと、恐竜のイメージ結構ありますね。この話は未来ではメジャーな娯楽? であるところの「恐竜がり」に行くというとても面白そうなテーマ。なので期待したんだけど、わりと普通でした(笑)。

 そうですねえ……いざという時に失敗するみたいなのは。

ガビン ストーリーとしてはとても普通なギャグでしたね。

 気になったのは、意外とのび太が機転を利かせるじゃないですかここは。メガネを使って光を集めて恐竜をやけどさせる、みたいな。のび太ってそういうところあるんだなあって(笑)。

ガビン 機転の効くのび太さん。

 あと、ドラえもんとのび太、あんなに仲よかったふたりも、どちらかが食べられるという危機的状況になると

「おさきにどうぞ。」

「どういたしまして、そっちがおさきに。」

危機的状況におちいったときの二人の関係の変化も見どころとしてはあるのかな。

 

出さない手紙の返事をもらう方法

ガビン さてやっと2巻最後の話です。「返事先どりポスト」というひみつ道具が、手紙を出す前に返事の内容がわかるという道具で。これはすごいですね。

 もし送ってたらどうなるかを見てしまうんですよね。

ガビン シミュレーターですよ。なんかこれって、アマゾンがサービス作る時にプレスリリースから作るとか、モックアップ作って反応みるとか、そっち方面に近い発想を感じますね

 はいはいはい。

ガビン 先に反応みて。

 ゴールから考える。

ガビン ポストを使った人が、だいたい思ったとおりの返事が返ってくる感じも面白いですね。よく考えればわかる。この道具だけでもかなり広げられそうなアイデアだと思いました。

 そうですね。

ガビン というわけで2巻はこれで終了なんですが、どうでしたか?

 この2巻全体にも通じる話なんですが、便利な夢を実現してくれる機能もあるけれど、それが反転して働くこともあるっていう技術の二面性が、話のキーとして色々出てきたのが印象的でした。単に二面性を言うだけだと、ディストピアの話みたいになっちゃうんですけど、ドラえもんでは、話を面白く転がすための道具として扱っているところがやっぱり上手いなあって思います。

ガビン 端々にそういう要素あって、読み応えがありますねえ。しかし、今回だけで1万2500字も使ってしまいました。もうダメだ、この調子だと全巻ムリです。次回400字とかで終わらせましょう!


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