実は先の展開考えてないんじゃ?疑惑の『ドラえもん』3巻レビュー

長らくおやすみしていたこの連載ですが、特に意味のあるタイミングでもなく唐突に復活です!

ガビン いきなりなんですけど、3巻読んで思ったのは「あれ? なんかもしかして、超てきとうに描いてないですか?」ってことなんですよ。

 ははは。

ガビン 超てきとうというのは、まあ、言い過ぎなんですけどね。言い方を変えると、毎月毎月必死でネタを絞り出して描いていたんだろうな、って思ったというか。それゆえに辻褄の合わないところかなりあるんだけど、てんとう虫コミックス版は、前も話したけどダイジェスト版なので、整理されてみえる。しかし実際には、締切に追われて切羽詰まっていろんなトライを繰り返していたんだろうなと感じられるわけです。

 はいはい。

ガビン で、そういう制作体制とその時の心境が素晴らしいストーリーの昇華されているのが第一話の『あやうし! ライオン仮面』だと思うんです。

あやうし! ライオン仮面

ガビン これは作中に登場する『ライオン仮面』というマンガがありまして、作者はフニャコフニャ夫先生です。そのフニャコ先生が、ストーリーに行き詰まっているんですね。で、先のこと何も考えずに主人公を絶体絶命のピンチにしちゃって、わー次の回どうしよう!?  って話なんです。見切り発車というか「未来の自分に託す」派というか。で、僕はですね、実際にF先生にはそういうところあったんじゃないかなって思うんですよ。

 マンガの中だけじゃなく。

ガビン というのも、ドラえもんが始まる直前に掲載された新連載予告というのがあって、これがすごいんですよ。

1969年の「小学四年生」12月号に掲載されたドラえもんの予告ページ。(出典:『ド・ラ・カルト』小学館ドラえもんルーム編 )
 
ガビン 「正月から新れんさい」って書かれてて、机からなにか飛び出してるんだけど「出た!」って文字が描かれているだけなんですよね。この「出た!」の勢いがぜんぜんドラえもんらしくない。そういうことから、これ内容決まってたのかな? と訝しんでるんですけど。

 ドラえもんの形もないんですよね。

ガビン 情報はほぼない。

 期待感をあおる、という意味に見えなくもない。

ガビン ティザー広告であると。そう思ったんですけど、この『ライオン仮面』読むと、この決めずに先を描いちゃう感じ、もしかしてそのままなのでは? って思っちゃうんですよ。

 ああ〜なるほど。

ガビン この話では、ドラえもんがタイムマシンで『ライオン仮面』掲載誌の翌月号を買ってきて、その内容を作者が知ってしまって描くって話なわけです。しかも最後のオチも面白くって、作者が倒れて、ドラえもんがタイムマシンで買ってきた原稿を写すという。こうなってくると作者は誰なんだという非常に面白い問題が出てくる。

 でもストーリーマンガって、多くの場合、おおまかにこっちにすすむであろうことは指針としてあるかもしれないけれど、細かいところまでは決めてなさそうですよね。つまり言い換えれば行き当たりばったりってことなんですけど。それにドラえもん自体は一話完結だから、先のことまで考えてなくても不思議じゃないですよね。

ガビン そうなんですよ。いきあたりばったりって悪いことじゃない。米国のドラマシリーズとかもそうやって作ってるって話あるじゃないですか。マシ・オカさんがロストの脚本について語っていたインタビュー読むと、シーズン1の最後の部分「このハッチの中に何がはいっているか」という謎、その答え考えないまま終わって、シーズン2の脚本家オーディションで解決法の面白かった人を採用したっていう話があって、大好きなんですけどね。それライオン仮面とまったく同じ展開なんですよね。

 それが回収されるかどうか知らないけども、伏線を張るのは張っておくと。それもすごいな。

ガビン そうそう。でも計画しきってしまうよりも、自分に対して無理難題を投げる方式は、悪くないやり方だと思うんですよね。

 そうですね。むしろ無理難題が無いと、自分の想像の範疇を超えられない、ジャンプできないみたいなこともありそうです。

ガビン あと、そのほうがおおらかじゃないですか。ドラえもんって、すごくよくできた名作ではあるんですが、作られ方は優等生的じゃなかったんじゃないかなと思ってきました。よく読むとだいぶいい加減さが残っていて、そこがいいなあと思うんですよ。最近はこういうのは許容されないかもしれない。おおらかさが初期のどらえもんにはあったなと。

 うんうん。

ガビン 単にいま僕がこういうおおらかさを求めてるからかもしれないんだけど、実際にF先生がこういうだらしなさ持っていたら嬉しいなあと思ってしまうんです。

 しかしこの時間を越えて新しい情報を持ってくれば解決できるっていう話の構造は、よくよく考えると複雑ですよね。そういったパラドックスを扱う話っていうのが、3巻は比較的多い。

ガビン ですねー。しかし一話目から語りすぎましたね。次いってみましょう。

日付変更カレンダー

ガビン さっそくこれも時間がテーマなんですが。

 なんですけど、影響範囲がすごく狭い。

ガビン 「この近所だけ」なんですね。ストーリーとしては、のび太がクリスマスプレゼントを待ちきれなくて日付をいじるというもので。だけど実際には日付は変わってなくて、周りにいる人が勘違いするだけなんですよね。新聞とかは正しい日付のものが届くし。だから時間操作の装置に見えて、実は人の心を操ってるだけとも言える。

 そうですね。読書体験としてこの話が面白いのは、今日が何日として描かれてるかということを理解してないと読めない。のび太の家族だけは日曜日だけど実際には……ということを理解してないと楽しめない。これ結構高度な読み方を要求してくるんじゃないかと。

ガビン アー。ぼーっと読んでるとあたまぐるんぐるんになってきますね。コントで演ったら面白そう。

ママをとりかえっこ

ガビン 「家族合わせケース」というひみつ道具で家族をシャッフルしちゃう話です。自分のママにそれぞれうっぷんが溜まってるんですね。

 これは立場を変えてものを見るっていう話ですよね。さっきのと同じで、関係する人にそう思い込ませるという。

ガビン しずちゃんのママはのび太が自分の子供だと思い、のび太のママはスネ夫を自分の子供だと思うという具合に。

 家族の設定を変更するっていう道具だと思うんですけど、「怒ってばかりのこんなママいやだ!」って思うけど、同じのび太のママに対峙したスネ夫は「のび太のママやさしいじゃない」と思う。のび太に向かって「公平に見てきみにも反省すべき点があるよ」って言ったりしますよね。立場が変わると、評価の視点が冷静になるっていうのは面白いですよね。

 あと意外だったのは、のび太がしずちゃんの家にいくじゃないですか、そこで人形ばっかりで遊ぶものがなくて暇だからって、宿題やったりお手伝いし始めるという。あれ? やるんじゃんとか思ったり。

ガビン 環境が人変える論者なんだろうか。あと、このオチはどうですか。のび太がしずちゃんちで水をかぶってしまって着替えをした時の忘れ物を届けられて。

 のび太のママに「どうしてしずちゃんのところで、パンツなんか忘れてきたの。」って問い詰められる。

ガビン これダメなヤツですよね。自分の息子が、小学生の女の子の家に遊びにいってパンツ届けられたら、土下座しますよ。

 あと、これ届けられたってことはパンツに名前書いてあったんでしょうね。「のび太」って。

 

シャーロック・ホームズセット

ガビン シャーロック・ホームズ読んで感化されたのび太が推理するという話です。道具に頼ってますけど。事件は、しずちゃんの本=シャーロック・ホームズがなくなってしまうというものなんだけど。まあ、のび太がなくしてるんですよね。

 そのなくす瞬間が、ちゃんと描かれてるんですよ。冒頭、のび太がシャーロック・ホームズを散歩しながら読んでいて、そのままシャーロック・ホームズのストーリーがマンガで描かれて。

ガビン 劇中劇的に。

 で、そのマンガから戻ってきた時に、もうのび太の手に本がないんですよね。

ガビン ホントだ! 実に自然になくなってる。

 その後、本を散歩の途中でなくしたってことで伏線が回収されますけど、そういうことちゃんとやってるんだなって。

ガビン 自然に見せるために結構複雑な構成になっているんだけど、それを感じさせないですね。

 道具も複雑。名前からしてホームズ・セットなので。方向示したり、覗いて手がかりを示したり、いろんな道具がセットになってる。これって、のちのち出てくる道具のいくつかのヒントになってるような気がするんですよね。

ガビン ああ〜。確かに。今回オールインワンな感じで登場したけど、ひとつひとつ面白い機能ありますね。それと冒頭で、のびた自身もホームズ読んだ影響で賢くなってるんですけど、いいこと言ってるんですよねえ。

「ようするに注意ぶかく観察することがだいじなんだ。そして考える」

ガビン このセリフ、菅さんの著書『観察の練習』の言ってることと同じですよね。

 そうですね。これはあくまで持論なんですけど、賢さって突飛な才能とかそういうのとは関係なくって、ただひたすら「丁寧に考える」ってことだと思うんですよね。だから、この話でものび太が色々冷静に現状を見て、よく考えてみると…っていう感じで賢い推理を見せるのは、そうそうそうだよな〜って思いました。

スケジュールどけい

 
ガビン これ冒頭のシーンが最高に好きなんですよ。ドラえもんがぼーっとしているのび太に向かって、なに考えてるのと聞くと
 
「いろいろしなくちゃならないことがたくさんあってさ。
あれをしようか それともこれをはじめようかと考えているうちに………。
時間がすぎちゃって、けっきょくなんにもできないの。」
ガビン なんてこと言わせるんだと思いました!

 まあでものび太のキャラクターを端的に表していますよねえ

ガビン 自分のキャパシティを超えるとなんもできないというか。

 シャットダウンするという。

ガビン 防御本能として正しい気がしないでもないですね。それはさておき、マンガの内容の方は、とにかくスケジュールを時間通りにこなさせるマシンですね。

 意味がなくなっても、とにかく守らせるというところの滑稽さですよね。雨が振っていても時間になったから野球をやらなかきゃいけないみたいな。でもドラえもんが巻き込まれるっていうのは珍しいパターンじゃないですか?

ガビン のび太スケジュール設定しようとしてうまく設定できず、かわりにドラえもんが操作したことでドラえもんが機械のターゲットになってしまう。このドラえもんの行動が、結構ダメじゃないですか。

 だいぶダメですよね。

ガビン これドタバタコメディっぽく描かれているけど、現代の視点で見るとも風刺がバリバリのマンガに読めちゃいますね。規律を守ることが絶対で、効率を考えてない。役所や学校の問題点を揶揄するような。

 時間どおりに出社してれば仕事はできなくても評価されるみたいな。そういうことと近いですよね。

(次のページに続きます)

 

うそつ機

ガビン 「うそつ機」をつかってうそを言うと、簡単にだますことができるという機械ですね。なんでも信じちゃう。

 うそで現実が変更されるんじゃなくて、単に言われた人の認識だけが変わるってことですよね。そう思い込ませちゃう。だからホントになるんだ、じゃなくて。人の心を変えてしまう。

ガビン メンタリストみたいなもんですか? メンタリストのこと全然知らないで言ってますけど。

 最初のジャイアンのうそが秀逸ですよね。エイプリルフールに「おまえ何言ってんの、今日4月2日だよ?」っていうのはすごいハイブロー。ウソの種類としてかなりのレベルですよね。

ガビン 終盤の「火星人がせめてきたぞう。」っていうのが、有名なオーソン・ウェルズがやったとされるラジオのネタですよね。H・G・ウェルズの「宇宙戦争」を使った。当時ラジオドラマを鵜呑みにした人たちがパニックになったという話があるじゃないですか。どこまでホントかわからないけど。「それはやりすぎ」というのはそういうこと。F先生はSFファンだからこれはそういうネタなんでしょうけど、ドラえもんにそういうカルチャーネタが入ってるって意外ですよね。

スーパーダン

ガビン まあ、スーパーダンっていってるけどスーパーマンですよね。スーパーマンに感化されたジャイアンが、正義を行使したがりすぎてて、なのに悪いやつがいなくてだんだん機嫌が悪くなってくるという。

 なにかしたいから、問題がなくても「問題を解決させろ!」って言ってくる。解かなくてもいい問題を解くみたいな感じですよね。

ガビン まずこの設定が面白い。これも現代の視点でみるとむちゃくちゃ皮肉が利いてると思うんですよ。

 そうですね。

ガビン で、そのジャイアン演じるスーパーダンに対抗するためにドラえもんが出したのが、未来で売られている「スーパーダンごっこ」の道具。空が飛べるんだけど、玩具だからぜんぜんスピードでなくて歩くより遅いとか、めちゃくちゃおもしろい。この設定は天才だな〜と思いました。

 高くも飛べないし、弾丸も跳ね返すけど、痛いことは痛い。

ガビン ジャイアンとの対決でも、ギリギリ勝てるくらいのパワーで。

 たいしたことできないっていうか、たいしたことが、適度にできるっていうのが、いい感じですね。

ガビン そうなんですよ。歩くより遅いのにマントの力を使ってる時点で、のび太も目的と手段を間違えているんですよね。そしてさらに、マントのパワーを持ったことでのび太も「この力を使いたくてしょうがない迷惑な人」になっていく。僕はこれかなり好きな話です。

ボーナス1024倍

ガビン まず1024倍っていう数字にまず親近感ありすぎる。お話としては『ライオン仮面』と同様の。

 時間の話ですよね。

ガビン お父さんのボーナスが少なかったために、お目当ての自転車が買ってもらえなくなったのび太がドラえもんに相談すると、銀行にあずけてタイムマシンで100年後に行って利子がついた額を引き出すと。でもこれ今だと金利的にこんなに儲からないですよね

 そうですね。「定期預金だと10年で倍くらいになる」って。

ガビン うらやましすぎる。あと僕、ドラえもんがね「忘れてやしませんか、タイムマシンがあることを」とか言うの、すごいやばい感じするんですよね。え、それ言ったらもうなんでもありでは……っていう。

 完全にアウトですよね

ガビン ドラえもん倫理観なさすぎ。

 モラルがゼロ。

ガビン このへんの感覚は、これが描かれた頃とはかなり変わっているかもしれませんね。

 だけど、最後の古銭を買えばいいんだっていうところは、アイデアですよね。飛躍だなと思った。未来に何倍になってても、未来のお金のお金を貰えるだけだとしょうがないってところから、むかしの一万円札を買えばいいんだっていうところがうまいなって思いましたね。

ガビン 確かに。いまから100年後だと、現金残ってるのか問題が新たに発生しそうだけど。

ミチビキエンゼル

ガビン はい。これは「いちばん自分のためになるアドバイスをしてくれる」人形ですね。

 このエンゼルが言うことは絶対に正解ってことなんですよね。それがすごいなあって。未来が完全に見えている。

ガビン そうなんですよ。ちょっと怖い。

 エンゼルの言う通りにしておけば、完全に合理的にことが運ぶ。失敗はないわけですよね。人間の方が、こっちが近道だな〜とか思って行動するとうまくいかない。

ガビン 現実にありますよね。運転してて、ナビに示された道が納得いかなくて自分で判断して渋滞のどツボのハマったり。でもまあナビは完全ではないので、逆のケースももちろんあるわけだけど。ナビが成熟しきった世界を見るようでもある。AIが囲碁で定石を無視するなんてことも思い出したりしました。

 あとこれ、ドラえもんのために頑張る話でもありますよね。

ガビン ドラえもんが調子悪くなってることを知ったのび太が、すぐ行動を起こす。

 最終的には不合理だけど「今はドラえもんの方がだいじだ」って言って、エンゼルを無視する感じがいい。

ガビン 非効率でも人間の情がまさる瞬間。結構感動的な話なんですよね。

 あとこの回で見逃せないのが、ドラえもんって、ネジでできてるんだっていうのも。

ガビン おなかの中が描かれてるじゃないですか。こんなんなってるんですね!

 ここ、はずれるんだ!? ってなりますよね。

ガビン そうそう、メンテしやすいように作られてるのか! って。
 

 意外とバネとか歯車とかネジとかそういう感じなんだなって。

ガビン 半田ごてとかじゃなくて、やっとこみたいなヤツで直してて悶絶しました。

そっくりクレヨン

ガビン 絵を畫くと、実物の方が絵に似てしまうクレヨンの話です。

 ひみつ道具によって絵をうまくするわけじゃなくて、絵は下手なままで、現実の方を湾曲させてしまう。その人の絵はまったくうまくなってないことがポイントですよねこれは。

ガビン これも低学年向けなのかな。たった5ページの話なんだけど面白い。

 マンガならではの表現ですよね。

ガビン マンガの中で描かれる「現実」って、マンガとして描かれた絵だってことを使ってますね。

 そうですね。実写の映像では面倒くさいというかできないという類の。

ガビン 最近だと子供が描いた絵をそのまんまぬいぐるみにしてくれるサービスとか、フリーハンドで描いたものを3Dプリントするとか、「ヘタ絵」の実体化って実現されているんだけど、それとは少し違いますよね。マンガの中の世界では「実体」も2次元のままでよいというのが効いてますね。

着せ替えカメラ

 
ガビン デザインを取り込んで実体化させるカメラのお話。これは、もう広い意味で実現されてるっちゃされてますよね。ARで着せ替えするものもそうだし、3Dプリンターとかもある意味そういうものだし。
 

 デザインを入れないと裸になるっていうのは面白かったですね。ドラえもんが「着物をつくっている分子をばらばらにほぐして、組み立て直すカメラだよ」って言ってるんで、まあそういうことになるんだなという感じですけど。

ガビン 映画の『ザ・フライ』の転送装置みたいな発想なんですよね。あとスネ夫がファッションデザイナーを、ジャイアンがモデルが夢だっていうのも、グッときました。

ああ、好き、好き、好き

ガビン 弓矢で打って当たると、相手が自分のことを好きになってしまうというひみつ道具です。

 本命の人にあたらなくて、好かれたくない人に好かれることが面白いとか、おじさんに急に好かれるのが面白いとかそういう価値観のギャップみたいなもの笑いにしようってことですよね。これって現在ではアウトなんですかね。

ガビン この話、全体的にアウトでしょうねえ。まずひみつ道具がパーティドラッグ、デートドラッグを使うような話じゃないですか。あと、のび太の本命である美少女とまちがって、ボタ子ちゃんに矢を放って惚れられることを笑いとして扱ってるのもキツイなと思ってしまう。ブサイクに惚れられるのを笑いとして描いてる。これもダメですね。

 ボタ子って名前からしてすごいけど。

ガビン あと、矢が刺さっておじさんに夢中になったドラえもんにのび太が注意すると「うるさい、じゃまするな!」っていうシーンが怖い。洗脳とか薬物中毒とかを連想してしまいました。いろいろやばい話ですね。

ゆめの町、ノビタランド

ガビン あーこれはいい。ガリバートンネル使って、子供たちだけの街を庭に作る話です。

 これは完全に子供の夢ですよね、自分だけの町がほしいっていうのは。

ガビン お人形遊びのど真ん中というか。想像力で入り込んできた世界に、実際に入れる感じすごくいいですよね。

 こういう箱庭的なものってテンションあがりますよね。

ガビン 物語としてもそうだけど、ミニチュアに入る感覚が異様にテンションあがる。僕、建築模型とかも大好きなんですよ。あれもすごいアガリませんか?

 アガりますね。

ガビン 最近だとVRのウォークスルーとか作ったりしますよね。でも模型のアガリ方半端ない感じするんですよ。データじゃなくて、模型のほうが楽しい。

 あらがえない魅力ありますよね。この話を読むと、ミニチュアの町に入ってアレもやりたいコレもやりとたい、という気持ちがわかると思うんです。

ガビン 小さい本屋さんとか、もうほんとうっとりしちゃう。

 さりげなく「遊び場がない」とか、都市開発とかがすすむ時代背景とかそういう話も入ってますよね。

ガビン 今のほうがよっぽど遊ぶ場所ないと思うんだけど、これを執筆した時点でも遊び場はなくなりつつあったんですね。それにしても、これ遊ぶ場所の確保を庭でやってるじゃないですか。いまや東京にはこんな庭あるうちないもんね。

 のび太も今から見ると、すごくいい家に住んでますよね。

ガビン こんな庭があったら全部Timesになってますよ。しかし遊び場がなくなったみたいな話はあんまり聞かなくなった感じもありますね。体を動かすのはサッカーや体操、水泳、バレエなんかの習い事に吸収されて、友だちと遊ぶフィールドはゲームになってしまったのかも。
しかしこのマンガの、小さい世界に入っていく感じってドラえもんのコア部分のひとつですよね。

ソーナルじょう

ガビン ソーナルじょうは薬ですね、ソーナル錠。

 これは思ったことが、そのまま自分の中の世界に反映されるってことですよね。ただ現実の世界はそのまま、いつもののび太の家なんだけど、いまは海の中になってますよ、と。

ガビン ですね、そこの部分は限りなく幻覚剤に近い。だけど違うのは、プールの中だと思いこむと、現実世界でも宙に浮いて泳げちゃうんですよね。

 だから読者の側にも、のび太の見えてる世界を想像して、そういう世界として見る、ってことが必要だってことですよね。

ガビン 普段着ののび太の行動を見て、のび太が水着でプールにいるってことを想像しないといけないんですよね。

 のび太の思い込みでひどいめにあったりとか、溺れたりとか(笑)。

ガビン そうなんですよね〜。のび太がすごくネガティブなこと言う。「大うずまきでもおきそうな気がする」とか。それでえらい目にあう。そんなこと想像する必要ないのに……。

ガビン でもこれ大学で学生さんたちに「自分の理想とするこれからの5年間を想像してみて」って質問すると、結構な人数が「2年めで仕事に行き詰まり……」とか言うんですよね。

 真剣にシミュレーションした結果ってことですよね。

ガビン どうだろう。順風満帆に大成功に至るをイメージもてなくなっているのかな。能天気な感じになれとは言わないけれど、理想的な経路を描けないのは厳しいなとは思いますね。ただ僕はカウンセラーじゃないんで、自己啓発おじさんみたいになりすぎないようにしてるんだけど、だけど、自分でネガティブな想像しかできないのはあんまりいい状況とは言えないですよね。

 うーむ……。ポジティブな未来を年長者が提示できていないっていうのは、結構マズいって思いますよね。そう考えるとドラえもんは、なんだかんだで「未来はこんなにすごい道具が使えるようになる!」っていうポジティブな価値観に基づいている話なんですよね。

ガビン マンガの話に戻すと、のび太の想像の中で起こっていることが目にはみえないけれど、のび太には実際に作用しちゃう(つまみ出されるとか、日焼けしちゃうとか)っていうのはすごい面白いですよね。VRでゲームして、撃たれたら怪我しちゃうみたいな話で。こういうのSFだとそこそこありますけど。

 さすがに日焼けまではないけど、プラシーボ効果とか考えると多少はこういうことありますよね。

ガビン 洋服着てるのに、海パンのところ以外焼けてるのすごいなあ思って(笑)。
あ、あともうひとつ! のび太が、みんなからプールに誘われた時に、泳げないから断って、どらえもんがプールで練習すればいいのに、っていうと、泳げるようになってからいくよ。っていうところ、かなりいいですね。

 泳げるようになってからいくよ、っていう気持ち、すごくわかりますねえ。

ガビン ですねえ。行って、恥をかきながら練習する方が上達は早いと思うけど。

ぼくを、ぼくの先生に

ガビン 未来の自分に家庭教師になってもらって勉強を教えてもらおうって話ですね。これは3巻で繰り返し出てくるパターン。

 タイムマシーンの形が前は抽象的だったのが、今知ってる形になってますね。

ガビン あ、いつの間に!

 中学生のび太って、性格的にはあきらかにのび太ですよね。小学生の時に勉強していればこんなことにならなかったんだぞって、昔の自分のせいにする感じとか。

ガビン そこに高校生ののび太がやってきて、またこれが全然変わってない。変わったのは、太ってたことくらい。

 でも高校には入ったんだなって。

ガビン そこか〜。

 「どうもぼくはいくつになってもだめみたいだね」

ガビン 高校生の自分に向かって批評を。でも、その自分のダメさを知ることからスタートかもしれませんね。

 スタートがゼロだと思えば、よくなる一方なので、気の持ちようで変わるような気もしていて、コップに半分に入った水を、まだか、もうこれしかないと思うか言い方のちがいだけなので。

ガビン 自分の未来を知ってしまって、やけになって、じゃあかわらないからやらない、じゃなくて、変えようと努力するんですね。わりとポジティブなところもあるのが面白い。

 未来は変えることができる、というのはドラえもんに共通したメッセージであるような気がしますね。

(次のページに続きます)

 

白ゆりのような女の子

ガビン 3巻最大の問題作です。

 最初の絵からしてすごい。

ガビン お父さんの美しい思い出の中に白ゆりのような美少女がいて、その写真を撮りにタイムマシンを使うという話です。しかし3巻には家族の歴史とタイムトラベルというのがほんとにたくさん詰め込まれていますよね。

 タイムマシンで時代をさかのぼって、関わっていくというのが。

ガビン 異様に多い。ネタバレですが、オチを描いてしまうと、その思い出の美少女が、タイムマシンで訪れたのび太だったという話。衝撃的ですよね。

 これ父親との話なので、子供の時のお父さんがのび太にそっくりだということとか、さりげなく出てるんですよね。髪を坊主にしたら気が付かれないとか。あと、世代的に、戦中の話になっていたりとかも面白い。

ガビン 昭和20年6月10日という設定。つまり最後の東京大空襲と敗戦の間の、疎開先の話ってことになりますよね。ちなみにF先生は昭和8年生まれなので、のび太のお父さんと同じ世代ってことになる。そう考えると、ますます味わい深い話だと思います。

おはなしバッジ

ガビン 物語ごとにバッジがあって、ある物語のバッジをつけるとそのおはなし通りのことが起きるという道具です。

 これは、例えば「ももたろう」をみんなが知っていて、ももたろうで起きたこととマンガで起きることとの対応関係を楽しむってことですよね。他の昔話もそうですけど、ここと、ここがリンクするんだ!っていう面白さ。

ガビン みんなが知っている普遍的な話、ということになるとももたろう、花さかじいさん、うらしまたろう、あたりになる。そしてうらしまたろうの話で玉手箱らしきものをもらって、「あけるとおじいさんになるのかな?」といった瞬間に、孫のセワシくんがやってきて、実際におじいさんになるというのきれいなオチ。

 うまいですよね。

ガビン きれいなオチですよねえ。箱あけて、お誕生ケーキみたいなの出てるけど、これも年をとったことにかかってるのかな。

 現実世界に物語の展開がやってくるの面白いですよね。

ガビン あと、F先生が、カメオ出現してるんですよ。喫茶店でサボってる。

 ほんとだ!

ペロ! 生きかえって

 これも時間の話ですけど、かなり倫理的にも、ありなのか、みたいな。かなり……。

ガビン しずちゃんの愛犬ペロが病気でなくなって、それを亡くなる前の時間に移動して治してしまうという……タイムマシンの倫理的に完全にアウトですよね。しかも未来の薬をつかっている

 どんな病気にも効くくすりって。

ガビン テキトーすぎる(笑)。

 実際に生き返らせちゃってるのはかなり……。

ガビン あと小ネタだけど、すごい驚いたのが、タケコプターの使い方。警官を追い払うためにタケコプターで強制的に飛ばすっていう。こんな暴力的な使い方できるんだなあって。

まとめ

ガビン 3巻、ひとつひとつ見ていくとなかなか濃い内容でしたね。特に印象に残ってるのはどれですか?

 好きなのはのび太ランドなんですよ。完全に子供の夢を果たすっていうのが。

ガビン これは空想の世界への入り口を開いちゃうなあ。

 あとは、ドラえもんらしい話として面白かったなあ。
というのは1話の「あやうし! ライオン仮面」ですね。象徴的だなと思ったんです。未来と現実のつながりとか、時間を巻き戻したりすすめたりとかすると、こんなことが起きるんだ、こんなことができるかもしれないんだ、っていう。話の構造が象徴的だなと思って面白かったですねえ

ガビン 3巻通して、この主題が変奏されますね。

 未来はかえられるって話ですからね。

ガビン だけどタイムマシン使った話、これいまやるとだいぶ矛盾を突っ込まれたりするのかな? ドラえもんを読んでいて思うのは、このいい加減な感じが心地いいなと。世間のイメージよりもだいぶゆるゆるなんじゃないでしょうかね。整合性はわりとどうでもいい。

 ああ〜。

ガビン 物語を読んでるっていうより、同じメッセージを繰り返し受け取っているような。

 これはいい話だから読もう、とかそういうことではないですね。そういうマンガもあるとは思いますが。

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