響子と父さん

「ネムルバカ」(石黒正数)のアナザーストーリー

響子と父さん 石黒正数
六文銭
六文銭

本作を読む前にぜひ「ネムルバカ」を読むことをオススメします。 「ネムルバカ」は1巻完結となっておりますが、自分的には本作とセットで2巻とみなして欲しいッ…とさえ思っております。 小生「石黒正数」作品が好きなのですが、なかでも「ネムルバカ」は名作だと思っておる勢です。 本作は「ネムルバカ」の主人公の一人だった春香の「家族」を描いた作品。 「ネムルバカ」のアナザーストーリーともいえる位置づけ。 ネムルバカの衝撃的なラストで気持ちがロスした人は、この1冊を読めばなんとも救われた感じになるかと思います。 内容としては、春香の姉響子と父との日常を描いた物語。 突飛な行動をした父に響子が振り回される形で進んでいきます。 日常のちょっとした疑問や不思議を織り交ぜて面白くする様は、いつもの石黒節とも言える雰囲気です。 とにかく父が良い味を出しているんですよ。 破天荒な春香によく似た父で、頑固でシニカル、ぶっとんだ発想が「THE・昭和の親父」臭がしてたまらないです。 親父にだって何かと苦労があるのですが、誰もわかってくれない空回り具合と、それでも自分の価値観を曲げずに生きている様は不思議と勇気づけられます。 春香の過去や、ちょっとですが現状の春香も登場します。 あのラストで心配だった「ネムルバカ」ファンの人は一見の価値があると思います。 テーマとしては「家族」的なものなのでしょうが、 家族の暖かさだけでなく、身内故にままならない部分もあって、酸いも甘いも表現されているのが個人的に好きなポイントです。 「ネムルバカ」が思春期の衝動と葛藤的なものだとしたら、こちらの「響子とお父さん」は一歩引いた大人の味なのかもしれません。

EDEN It’s an Endless World!

ジャパニーズSF漫画の看板の1つ

EDEN It’s an Endless World! 遠藤浩輝
さいろく
さいろく

アフタヌーンで読んでいた頃はこんな超大作になるとは思っていなかった。 個人的アフタヌーン作品ベスト5に入る大好きな作品。 ガワだけ硬質化してしまって中身がドロドロになる人間の終焉を表したかのようなウィルスによってボロボロになった人類はそれでも地球でしぶとく生きていた。 第一話はタイトルにもあるとおり、エデンとは何なのかを示唆している(最初はこの1話だけでの読み切りの予定だったとかなんとか) 二話から初めて主人公となるエリヤが登場、彼の素性や性格などを少しずつ描いていくが、ディストピアとなった地球は弱肉強食であり、それはまた人類も同じだった。 電脳ハックやロボットとの融合など、理にかなった説明があり腑に落ちるように描かれていて遠藤浩輝の素晴らしいのはここなんじゃないかと感じる。 今読み返しても2巻までの間に死んでいく仲間(というか脇役達全部)の印象深いシーンが読んだ当時まだ大人になっていなかった自分の脳裏にトラウマレベルで焼き付いていたことがわかる。 女性が酷い目に合うシーンがたまにあるんだがそれがまたしんどい。。 ただ、圧倒的な暴力の食い物にされるような展開は嫌いだが、この世界では仕方がないと思えるところもちょっとある。それでも数冊に渡って出ていたキャラに痛々しい死に方をされるのは心に来るものがあるが。 ストーリーはもちろん、そもそもの世界観や主役級の登場人物たちの背景の描き方など、天才としか言いようがない。人種の表現力もまた素晴らしく、日本人の良さや中東の儚さや辛さ、欧米軍人の強さと容易さなど本当に評価に値するところばかり、と私は思っている。 とかいうわりにだいぶ久しく読んでいなかったので最後までもう一回読み返そう。電子の合本版でもいいんじゃないかな。 自由広場のスレであった「女の子の部屋にあったら惚れ直す」みたいなタイトルの中に是非加えたい作品。

マッチョテイスト

マッチョガールという生き方

マッチョテイスト 小池一夫 中村真理子
たか
たか

最近ネットを見てたら偶然、このマッチョテイストの主人公・灯が描かれた 「私はマッチョさ!! 女のくさったみてえなてめえらなんかよりず〜〜っと男らしい女 マッチョガールさッ!!」 というコマを見かけて「なんだこのかっこいい女は…!?」となりソッコーで古本を購入しました。 読んでみると初っ端からわからない昔の言葉やスラングの連続で笑ってしまったのですが、このレトロでアウトローな空気が最高…! ギャグとシリアスの境目を行き来するような言動ばかりで、全部書ききれないほど名言が多かったです。 物語は「洗濯船」という名前の船の形をした女性専用アパートが舞台。そこにはファッションや恋愛を楽しむ普通の女性たちが住んでいるのですが、ある日、マッチョを自称する主人公・室戸灯が越してきたことで、彼女に鼓舞された住人たちもまた『マッチョテイスト(男らしい感覚)』を得ていく。 灯はマジで普通じゃない女で、アパートの庭で上裸でダンベル上げたり、いけ好かないプレイボーイの前でこれまた上半身裸になったり、ボディビルの大会でトップレスになったりする。 トレーニングを始めた女性たちが周囲からの反応を期待してウキウキしていると、「虚栄心を捨てるのさッ!! 他人に見せるとか見られるとか思っちゃァダメなんだッ」と一蹴する。 住人たちが不景気で金がないとぼやけば、「何でも欲しがるガキ(干し柿)だから、金がなくなると苦しいんだ」と一喝し、全員の食費やら何やらを徴収したあと「10日間、テレビも新聞も見るな。風呂に入るな、歯も磨くな。食費がなくなったら朝トレーニングして糞して寝ろ」と言う。 精神・肉体ともに普通の女性ではない。 まさにマッチョ。 作中ではレイプとかナンパとか結婚とか貧乏とか、いろんな試練が訪れるんだけれど、そのたびに灯による「マッチョの心得」が説かれ、それに叱咤されてみんなはなんとか壁を乗り越えていく。 先にも書いたとおり、この漫画はギャグとシリアスぎりぎりのお話……というか、四捨五入するとギャグなんですよね。ウェディングドレスでバイクに乗ったり、セックスの代わりに「街のダニ」に喧嘩を売ったりパンチの効いたエピソードが多い。 けどそんな面白エピソード以前に、そもそもこの時代(そして今も)「いい年こいた女が化粧もせず結婚もせず、ただひたすらに自分の体と精神を鍛えている」っていうこと自体がもう、そもそも世間から見たらギャグなわけですよね。「なにこの女ヤバ笑」っていう。 灯のことを普通の女性ではないと書いたけど、よくある言い方をすれば「女を捨ててる」。 けど、ただ女を捨てて終わりではなく、代わりに彼女は努力して「マッチョ」という新しい人間になったんですよね。 女じゃないので世間の「なにこの女ヤバ笑 女捨ててる笑」とか関係ないしダメージを受けたりしない。マッチョなので。 そしてふと、現代にはマッチョじゃないけどこのダメージと無縁な女性がいるな〜と思い出しました。 腐女子のつづ井さんです。 https://note.com/happyhappylove/n/n28f73ff5cdce 女性が1人でそのまんまありのままで超元気に生きてる物語が『裸一貫! つづ井さん』だとして、女性が男らしい感覚を手に入れてハツラツと生きるこの『マッチョテイスト』は、そのカウンターにあたるの物語なのかもしれない。 もう古本でしか手に入らないのですがぜひたくさんの人に読んでほしいですね。電子書籍化してくれ〜!!

はやくしたいふたり

令和のソーシャルディスタンスラブコメ? #1巻応援

はやくしたいふたり 日下あき
sogor25
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高校2年のJK・長谷川結理は、近くの男子校に通う同学年の男子・葛城慶一郎に告白し、付き合うことになる。その告白の流れで慶一郎にキスをしようとする結理だったが、なぜか慶一郎から拒絶されてしまう。「完全にキスの流れだったじゃん」という結理に対して慶一郎は、告白にOKはしたが「性的な接触については同意していない」という謎の回答をする。 実は慶一郎は祖父・父ともに元内閣総理大臣と言うエリートで、さらに"葛城家のしきたり"として「十八歳まで異性との性的接触を禁止されている」という厳格な家庭に育った人間だった。結理と同い年である慶一郎が18歳になるまではあと1年半。つまりそれまでの間、結理が慶一郎に気安く触れることは許されないらしい。 それからというもの、結理が不意打ちで彼に触れようとしたらまるで痴漢を撃退するかのごとく関節を決められたり、2人でいるときも実は葛城家のSPに監視されているということが判明したりと、なかなか恋人として(物理的に) 距離を近づけることができない。 そんな、恋人同士のイチャイチャに夢を持っていた結理と、何よりも自身の家柄としきたりを重んじる慶一郎との交際を描いた作品。 あらすじを見ると、アプローチを仕掛けて行く結理に対して慶一郎があしらっていくという形のラブコメのように見えるのだが、実際にはそれだけではない作品。というのも、導入部分からは読み取れないのが、読み進めていくと結理が慶一郎のことを好きな以上に慶一郎が結理のことを大好きで、彼自身も結理に近づきたい、触れたいという感情を我慢しながら彼女に接しているということが分かってくる。 そんな彼が、基本的には葛城家のしきたりを第一に行動し結理との距離を保とうとするが、ある時には正攻法で、ある時にはしきたりの隙を突いて結理の期待に応えようとしてくれる、そのギャップが可愛らしい。 ただ、そんな慶一郎の行動が若干的外れだったり、そもそも結理の期待しているようなイチャイチャとはかけ離れていたりして、なかなか結理自身が満足する交際はできない、その様子もラブコメとして楽しい作品。 1巻まで読了

エンとゆかり

二つの「縁」が繋がる異世界冒険譚! #1巻応援

エンとゆかり しろううらやま
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

酒場の店員・ゆかりの命を救ったのは、記憶喪失の剣士・エン。二人の不確かな道が交わる時、不思議な縁が大きな物語を引き寄せる……。 ★★★★★ ドラクエ的世界観はとても分かりやすく、面倒な世界観の説明無しに、ゆかりとエンと、二人の周囲の関係性に自然と入っていける。 エンに惹かれて冒険者を志すゆかりだが、彼女は強力なスキルどころか、才能の片鱗も見せられない。それでもスリルに喜びを見出し、無茶をするゆかりと、ゆかりに友達と言われた事が嬉しくて、彼女を助けるエン。二人の思い合う心は、それぞれの縁を繋げていく。 ゆかりの友人達とも親しくなるエン。記憶喪失のエンを拾って共に旅をしてきたパーティ、王都でアトラクションを経営する「魔王代理」とその一味……全員がコメディに参加しながら、何か不明なものを内に秘めている。彼らが1巻の後半に少し繋がる時、平和な世界に大きな動きを予感させ、この先への期待感を煽る。 複雑な世界観はなくても、思い合う人々の「縁」を繋げて輪を広げて行くだけで、世界はこんなにもワクワクしていく。そういう楽しさを、今後もゆるく追っていきたい……本当に何も出来ないクセに、度胸は人一倍なゆかりを心配しながら。

女子攻兵

松本次郎を語るには外せない奇作(快作)

女子攻兵 松本次郎 新潮社編
さいろく
さいろく

新東京都市では女子高生の形をした巨大ロボ、女子攻兵(以下JK)での戦争が繰り広げられている。 パイロットは軍人(おっさん)であることがほとんどだが、長い間このロボに搭乗していると精神まで女子高生になっていってしまい、精神汚染ランクが8になると電波を受信していもしないはずの友人や家族とケータイで連絡を取るようになってしまう(もちろんJK搭乗時にそれと話したりしてるわけなので巨大なケータイを使っているわけでもある) 近未来のようでケータイがガラケー型でJKのスカートの短さなどからも90年代後半のJKのイメージを松本次郎的にマッシュアップした戦争モノだが、巨大ロボ×JKというだけでもよくやったと言って差し支えない本作は、連載当時のバンチでも異彩を放つ作品だった。 精神汚染の原因はイカれてしまった汚染ランクの高いモンスター(元JK)との密な状況や接触であり、多くは物理攻撃によるJK自体への汚染が原因でコックピットにいる軍人(JK乗り)を巻き込んで汚染していくものである。 殺伐とした世界なくせにネオン街ではセーラー服を着たキャバや風俗が繁盛しているという割と救いようのない世界観だが、どこかドロヘドロのようなパンクさとMADMAXのような退廃・荒廃感を感じる。 あ、コッペリオンとも少し空気や設定も似ているとこがある。アイアムアヒーローもそうだ。つまりは世紀末感があるということだが、ここまで書いておいて松本次郎の作品でそれが感じられないのは「いちげき」ぐらいかもしれないw

タイガーマスク

白いマットのジャングルに今日も嵐が吹き荒れる

タイガーマスク 梶原一騎 辻なおき
さいろく
さいろく

ルール無用の悪党に正義のパンチをぶちかませ とありますが、パンチはプロレスでは反則となります。 (歌詞を記載するのはNGなんでしたっけ?) タイガーマスク世代ではないのですがプロレスファンとしてプロレスを語るのに外せないタイガーマスクのお話。というか原作ですね。 実在したプロレスラーであるタイガーマスクは新日本プロレスが当時海外修行に出していた佐山サトルという若手の天才(イギリスだったかな?で東洋人だからということでブルース・リーのような黄色いジャージに黒ラインの衣装で現地でも大人気だったそうです)を日本に呼び戻し、講談社・梶原一騎と正式なタイアップとして実現させてヒーローを具現化するプロジェクトにより誕生した本当のヒーローです。 当時のプロレス人気は凄まじく、日本全国でタイガーマスク旋風が巻き起こっていたとかなんとか。 当時の映像をNJPW WORLDという新日本プロレスの公式動画配信サービスで見ることが出来ますが、タイガーマスクは他の選手と比較にならない動きをしてます。本当に圧倒的に違うし、一人だけ格ゲーのキャラみたいな動きをバンバン繰り広げていく様は今見ても体幹・センス・スピード・運動神経のレベルが常人のそれを遥かに上回っている事がわかります。一度見てみてほしい。 タイガーマスクで大成功を収めた新日本プロレスですが、当のタイガーが相手がいなくてつまらん、こんなルール(プロレス)では最強になれないので最強を目指すため辞めます!と言って人気絶頂のところで本当に辞めてしまい非常に困った状態になってしまったのでした(初代タイガーこと佐山さんはここから総合格闘技の前身とも言える修斗(シューティング)を創設、後の格闘技界に多大な影響を与えます) ただ、タイガーの影響でプロレスラーを志す若者は後を絶たず、結果としてプロレス業界を力道山・アントニオ猪木に次いで盛り上げた人物といえるのではないかと思います。諸説あるのは重々承知ですので文句がある人は一緒に飲みながら語りましょう。 ちなみにプロレスファンなら最近まで現役だった獣神サンダー・ライガー選手をご存知かと思うのですが、そちらも永井豪先生の原作との公式タイアップで生まれたキャラで、そちらも名に恥じぬ豪腕・スーパースターぶりを発揮し、私も含め多くのファンを魅了し続けた名選手でした。 というわけで脱線しまくりですが、漫画のほうでも色々とあります。 孤児院で育った「伊達直人」という主人公が、「虎の穴」という悪のレスラー養成所に攫われて(スカウトだっけな)訓練して殺人拳を学んで覆面レスラー(悪役)としてデビューするところから始まります。 虎の穴での修行は常軌を逸したもので、伊達直人は自分と同じような境遇の孤児たちにつらい思いをしてほしくないと願い、ファイトマネーを孤児院に投げ入れていくのですが、それが虎の穴からは裏切り行為とみなされて虎の穴からの刺客たちと戦う羽目になる…という流れだったと思います。違ったらごめんなさい。 ただ、その「伊達直人」という名義で幼稚園や保護施設に匿名に近い形で莫大なお金を寄付する人が度々現れているんですよね、現実に。 2005年だか2007年だかぐらいにもあったんですが、当時はすでにTwitterが生まれていたので割と話題になったのを憶えています。 まぁ何が言いたいかというと、本当に全国のちびっこ達の心を掴んだ作品であり、そのちびっこたちが大人になって力を得た結果として慈善事業が潤ったりプロレス業界が潤ったりしていて、色んな所へ波及しているのがわかるんですよね。 漫画に限った話ではないですが「本当に素晴らしい作品」とはこういうのを指すのだろうな、という話でした。 長くなりすぎたのでこの辺で。正直絵が古いのは否めないのですが一度読んでおくとためになるかもしれませんよ!

結婚するって、本当ですか

青年漫画の偽装結婚ものは珍しい?#1巻応援

結婚するって、本当ですか 若木民喜
六文銭
六文銭

少女・女性漫画では、一大ジャンルになっていると思う「偽装結婚」ものだが、青年誌では珍しいなと思い読んでみた。 私、ドツボです。 「モブ子の恋」もそうなんですが、こういう恋愛に対して地味めなカップルが恋愛を意識していく過程みるの好きなんですよ。 それが例え、偽装でも。 特に、恋愛以外に強い価値観があって、それを中心とした生活に満足しているようなカップルーいわゆる恋愛脳ではないので、そこからどうやって発展していくのかが興味津々なのです。 本作も、そんな感じ。 主人公大原は、他人よりもワンテンポ遅れているようなのんびりした性格で、猫と暮らすことに生きがいを感じている。 ヒロインの本城寺は、人をみつめる癖があるのに無表情・無口なため職場で異様な怖さを出しているが、家で一人地図を眺めるのが好き。 二人共、家で過ごすことに喜びと生きがいを感じている。 そんな中、二人の勤務先の旅行会社で海外に出張しなければならない(しかも、ロシア)人員の選抜がはじまる。 候補は独身者。 充実したシングルライフを守るため、大原と本城寺は結婚して(厳密には結婚したことにして)、この選抜から逃れようという流れ。 自分のメリットがなければ結婚しないという、なんとも現代的な価値観だが、納得感のある感じ。 職場の人間に結婚を報告し、祝福されるのを二人が一生懸命取り繕っていく過程で、少しづつお互いの価値観を共有・理解していきます。 まだ1巻なんですが、最後に少し意識しはじめる描写があり、これからの展開に期待しかないです。 続刊楽しみすぎる。 余談ですが、本城寺さんが死ぬほど可愛いです。 年上だからと張り切る姿も、結果空回りして反省するところも、何より1人部屋でスウェットみたいなの着てニコニコ地図を眺める姿・・・普段、無表情だからか、そのギャップにやられてしまいました。 ベタですが、いいものです。

ファインダー―京都女学院物語―

ほぼ日常、ときどき秋本ギャグ

ファインダー―京都女学院物語― 秋本治
名無し

特別な写真家としての才能があるわけでもないし、 人一倍のカメラへの情熱があるというわけでもない。 ネコの写真を撮ろうかな、程度の気分で写真部に 入部した女子高生4人組の物語。 あまりヤマとかタニとか多くはないストーリーだが それならそれで淡々とした日常ドラマかといえば、 写真部の部長は女子高生でありながら 戦場カメラマン志望だったり、 いかにも「こち亀」の秋本治先生らしい ギャグ・キャラも何人か登場したりする。 なので日常系漫画とも評しがたい。 おかげで面白い漫画になっている部分はあると思うが。 カメラについてのマニアックな話も出てくる。 京都のフォトジュニックな街並み紹介もある。 とはいえカメラマン漫画にありがちそうな、 一生心に残る写真が撮れました、みたいなエピソードは 強く全面に押し出されてはいない。 むしろ偶然に取れた写真が評価されたり、 課題写真をこなすのにごまかしをしたり、 真面目に写真を撮っている人達からしたらオイオイと 言いたくなるような展開もあったりする。 もしかしたら秋本先生からしたら 「だって女子高生の日常なんてそんな感じでしょ」 ということなのかもしれない。 後々になって振り返ればかけがえの無いひと時だったとしても、 第三者から観たらただの日常。 常に全力でしたとか真剣でしたとか、 実は深かったとか愛が溢れていたとか、 そういうものでもないでしょ、でもそれもいいでしょ、 と秋本先生は言いたいのかもしれない。 そんな感じに達観した上で、そういう青春を良しとし、 あえてそういう世界を全一巻で描いたのかもな、と思った。

東京エイリアンズ

「青春×機関銃」NAOEさんの新作スペースファンタジー #1巻応援

東京エイリアンズ NAOE
sogor25
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普通の高校生・郡司晃(ぐんじ あきら)は下校途中、なぜかフードをかぶった青年と杖をついたおばあさんの二人しか乗っていないガラガラの電車に乗り込みます。すると次の瞬間、おばあさんは背中から何本も触手のようなものを伸ばし、それに対して青年は 刀のような武器で応戦するという、およそ現実とは思えないような戦闘が始まってしまいます。 突然の出来事に呆然とする晃でしたが、戦闘の隙を突いて逃走を図るおばあさんに触手で捕まり、そのまま拉致されてしまいます。おばあさんの家まで連れてこられた晃は、そのおばあさんから彼女が宇宙人であること、地球には一般人に紛れて宇宙人が普通に生活していること、そしてそんな宇宙人を管理している「Arien Management Organization」通称「AMO」という組織が存在することを知ります。 この物語は こんな経緯で宇宙人の存在を知った彼が AMO の一員となり戦いに巻き込まれていくという話です。 実は地球には人間に紛れて宇宙人が住んでいたという設定は ファンタジーとしてよく見られる設定ではあると思いますが、迫力のある戦闘シーン、主人公の晃が宇宙人の側にいきなりさらわれてしまうという導入、そしてその後の晃がAMOに所属するまでの一連の展開が面白くてつい物語に見入ってしまいます。 また、普通の高校生だと思われていた晃にも、本人すら知らない秘密があり、実はその伏線が一番から隠されているという構成の上手さもあり、とにかく先へ先へと引き込まれる作品になっています。 1巻まで読了

医者と被験体さん。

お互いを想うからこそ"絶対に知られてはいけない秘密" #1巻応援

医者と被験体さん。 篠崎ゆうま
sogor25
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大学病院に勤める医師の穂並は新村さんという女の子の患者さんを持っています。彼女はは小さい頃から喘息の持病で通院を続けており、今は穂並先生に週に数回診察をしてもらっています。 診察をしていく中で2人は「薬が効いて新村さんの病気が良くなったらに一緒に遊園地に遊びに行こう」という約束をしていましたその約束を楽しみにしている新村さんは先生の前ではとても明るく振る舞います。 しかし実は新村さんはこの約束を果たすために穂並先生に隠していることがありました。そして穂並先生もまた新村さんには言えない秘密を抱えていたのです。 新村さんは傍から見ても分かるくらい穂並先生のことが大好きで、穂並先生も新村さんに対しては特別気にかけている様子が見受けられます。その2人の思いというのにはちゃんと理由があって、物語が進むにつれてそのエピソードが丁寧に語られます。 週数回の診察と言う2人の束の間の日常は、そこだけを切り取ると和やかに過ぎているように見えるのですが、そこには2人それぞれが抱える秘密そしてこの秘密をお互いに相手に知られては絶対いけないという強い思いが暗い影を落としています。 2人それぞれの背景や思いがとても丁寧に描かれているため、2人の幸せな未来を願わずにはいられないのですが、2人の両方の秘密を知っている読者視点だとおそらくそんな幸せな未来が待っていないであろうことがわかってしまう、そんな切ない思いが溢れてしまう作品です。 1巻まで読了

世界は終わっても生きるって楽しい

滅びた世界で「生きること」を全力で楽しむ旅路 #1巻応援

世界は終わっても生きるって楽しい 鳥取砂丘
sogor25
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文明が滅び、"赤い霧"という謎の自然現象に覆われた世界。 そんな世界を、大きなハムスターのような生物・ヤゴ、そして球体の浮遊する機械・メイとともに旅する少女ヤコーネの物語です。 いわゆるポストアポカリプスの世界を描いてる作品で、1巻の段階で人らしき生物は主人公のヤコーネ以外には見当たりません。その代わりに人間を襲う未知の生物がたくさん現れてヤコーネたちの行く手を阻みます。そんな何が起こるかわからない状況を潜り抜けながら彼女たちは旅を続けています。 ヤコーネたちの旅に大きな目的はなく、強いて言うなら「生きること」を目的にしているように見えます。ただ、その旅では困難はあれど決して悲観的なものではなく、タイトルにある通り、滅んでしまった世界を旅しながら全力で「生きること」を楽しんでいる、そんな印象を受けます。 また、不思議な生物が多く出てくる作品ですが、主人公のヤコーネもまた私たちが思っていた"普通の人"ではないような描写が徐々に見えてきます。もしかしたらそのあたりに、滅んでしまったこの世界全体の謎がヒントが隠されているのかもしれません。 純粋にポストアポカリプスの世界観だけでも楽しめる作品ですが、この世界が滅びた謎についての考察もできるし、それ以上にこの厳しい世界観の中で見せるヤコーネたちの「生きること」対してとにかく前向きな様子に、読んでいて不思議と明るい気持ちになれる、そんな作品です。 1巻まで読了

殺し屋ちゃんと死なないターゲット

殺し屋の少女と不死身のマフィアの不思議な同居生活 #1巻応援

殺し屋ちゃんと死なないターゲット 古賀由人
sogor25
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幼い頃から教育を受け凄腕の殺し屋となった少女メメント・モリ。彼女がターゲットであるマフィアのボス・レオナルドの首を落とした場面から物語が始まります。レオナルドの部下たちが乗り込み、敵討ちをしようとメメント・モリに銃口を向けるのですが、次の瞬間、切り落とされたレオナルドの首から白煙が上がり、彼の体が元通りに再生されます。これは彼自身も知らなかったようなのですが、実はレオナルドは何度殺しても再生する不死身の体の持ち主だったのです。 その後、何度もレオナルドのことを殺すメメント・モリでしたが、その度に彼は生き返ります。 依頼を遂行するまでは帰れないと言い、彼の館に居座るメメントモリ。そんな彼女に対してレオナルドは、彼が死にはしないけれど不老であるわけではなく「ヨボヨボになっても死ねないなんてかっこ悪いだろ」ということで彼女に自身の殺害を自ら依頼します。そんな奇妙な縁でメメント・モリがレオナルドやマフィアの一味と共に暮らし始めるという物語です 暗殺のターゲットであるレオナルドはマフィアのボスなので、善か悪かで言えばおそらく悪の側の人間だと思うのですが、違法な薬物は取り扱わない、自身の利益となるための殺人はしないなど一本筋の通った人物として描かれています。そして屋敷に居つくことなったメメント・モリに対しても自然とマフィアの一員、仲間であるかのように扱い始めます。 そして、元々は殺し屋として徹底した教育をされており、任務のためなら自分の命を惜しまないというメメントモリだったのですが、レオナルドたちと暮らしていく中で、1人の人間として扱われることとで徐々に人間らしい感情を獲得していくという物語にもなっています。 なので、殺し屋とマフィアと言う非日常的な登場人物ばかりですが、いわゆる疑似家族もののような読後感のある作品でもあります。 2人が同居する目的はあくまでメメント・モリがレオナルドを殺すことにあるのですが、それを忘れてしまうほどの関係性が二人の間に構築されていきます。今後、2人の関係性がどのように変化していくのか、そしてレオナルドが改めてメメント・モリに依頼した彼自身の殺害という任務がどうなっていくのか、ハッピーエンドもバッドエンドも想像できるからこそ今後が楽しみな作品です。 1巻まで読了

どるから

梶原一騎先生を越えられるか?

どるから ハナムラ 石井和義
名無し

転生話ってのは漫画ジャンルとして定着したと思う。 自分は好きではないので殆ど読まないでいたが。 また、K-1の創始者・石井館長は間違いなく 一時は格闘技界で勝ち組だったと思う。 自分は好きじゃなかったし脱税で捕まったが。 そんな嫌いな要素のそれぞれが合体した話「どるから」。 とりあえず二巻まで読んだが、メチャクチャ面白い(笑) かつてK-1が人気絶頂だったころ 「K-1はプロレスのスタイルを取り入れて  格闘技を興行的に成功させた」 と、よく評された。 細かく言えば、プロレスの興業システムを取り入れ、 プロレスファンと格闘技マニアと一般人それぞれを取り込み、 格闘技をイベントとして成立させた、と思っている。 格闘技の達人でありながらイベント感覚・成功術も 身につけていた人、それが石井館長だと思う。 その石井館長が、あらたに取り組んだ (取り込んだ、というほうが正しいか)のが 「転生話」と「梶原一騎スタイル」。 この二つをミックスしたのが「どるから」だと思う。 転生話については詳しくないのでイメージで感じるだけだが、 「ああ梶原一騎先生のスタイルをかなり踏襲し、  そこにさらに新味を加えているな」 とは強く感じた。 かつて梶原先生は、それまでにないマンガストーリーと セミ・フィクションという、事実とロマンを混合した 独特の世界を作り上げてマンガファンを熱狂させた。 「どるから」で石井館長は、K-1創始者・世界の石井という 実績をもとに、格闘技論としても格闘技系経営術としても ファンに有無を言わせない説得力を見せつけている。 石井館長が凄いのは、梶原先生的な 「実体験を話しに盛り込む」スタイルにプラスして、 自分をオッサンであると貶めて漫画化したり、 時に失敗談なども披露していること。 梶原先生が、結局は自分も美化して、 道化になりきれないレベルで自分や自分の体験談を 作中で披露していたのと比べれば、その点で 石井館長は梶原一騎先生より一歩踏み込んでいる。 また、お金が絡む話に関しても、梶原先生が 実利よりも男の矜持、というラインを維持した (少なくとも主人公は)のと比べると 石井館長は「金を稼げなければ何も出来ない」 というのが基本になっており、ここでもリアリティでは 梶原先生より深く突き込んでいる。 また古武術から総合格闘技的な闘いの解説など、 これもかなり実践的視点から判り易く漫画化していて、 リアリティが感じられると思う。 もっとも転生話という時点でSF的であり、 リアリティの面では後退せざるを得ない。 「どるから」が今のところ、それほど世間で話題に なっていない(少なくとも私は聞いていない)のは その辺が一番の理由かな、とも思うが、 あの石井館長が転生して女子高生に、というだけで インパクトは凄いのだから、もっと話題になって、 ヒットしても良いと思うんですけれどね。 ギャグとかも面白いし。 転生の経緯については今のところかなり謎のままだから、 後々で、この点に説得力や面白さを披露できたなら このマンガは凄い名作になるのではないか? そう思って期待しています。

むさしの新聞日記

忘れてたけど、また読みたい良作

むさしの新聞日記 春田りょう
ひさぴよ
ひさぴよ

思い出せない漫画コーナーを見て、「そういえば一度読んだけど忘れていて、また読みたいなぁ…」と最近思い出したのがこちらの作品。 2019年だったか、Dモーニングの連載獲得マッチにて勝ち上がり、Dモニのアプリで連載されてた漫画です。なので読んでた人は殆ど見かけないですが…。 タイトルの通り、西東京の地方新聞社を舞台に新入社員・飯盛光(いさかりひかる)が体当たりで仕事に挑む、新聞記者のお仕事を描いたマンガです。 全国ニュースになるような大事件を扱うわけではなく、地元で起きた事柄を地道に取材して記事にするのですが、取材を重ねる中で次第に地方の新聞が担っている役割を意識するようになります。 地域密着というのはこれからの社会において重要なテーマだと思いますので、そこに対しても真面目に取り組まれている漫画なのです。 「西東京」が舞台というのも良かったですね。西東京のおだやかな雰囲気がとても良く出ていました。まるっきり田舎というわけでもなく、ひたすら発展し続ける都心に近いようで遠いので「東京」と一括では語れない問題があると感じます。 主人公が何かと世話になる警察のお兄さんや、渋い上司のオジさんなど、脇を固める人物たちも記憶に残る人ばかりで、ふともう一度読みたくなる魅力がありと思います。 単行本はいまのところ出てませんが、WebサイトのコミックDAYSで読めます。 https://comic-days.com/episode/10834108156689989899