マンガの編集部に赴き、編集者が今おすすめしたいマンガやマンガ制作・業界の裏側などを取材する連載企画「となりのマンガ編集部」。第9回は、『月刊コミックバンチ』編集部を訪ねました。青年誌でありながら、女性向け作品も含めあらゆるジャンルや尖ったテーマの作品が彩り豊かに並ぶ『月刊コミックバンチ』。web媒体である『くらげバンチ』では、ドラマ化・アニメ化もされた『極主夫道』やAIを用いて作られた『サイバーパンク桃太郎』も話題を呼びました。『るるひかる-Vampire Memories-』や『133cmの景色』など今年注目の新作も数多く発信するバンチにおいて、多様な作品たちが一体どのように作られているのか。編集長の榎谷さんにお話をうかがいました。
取材:マンガソムリエ・兎来栄寿
――最初に、編集者を目指されたきっかけなども含め自己紹介をお願いします。
榎谷 バンチ編集長の榎谷です。最初は大学院に行くか、学校の先生になるつもりだったんです。ただ、文芸が好きだったので、ふと思い立って青春18きっぷで地方から東京に来て新潮社を受けました。2002年に入社したんですが、ちょうどその翌年に『週刊コミックバンチ』が創刊されるというタイミングで。家の本棚には夏目房之介さんやいしかわじゅんさん、また諸星大二郎さんが表紙を描いている『陋巷に在り』といった本(すべて新潮文庫)があったんですが、そういったことをいろいろと訊かれている内に「マンガに詳しいやつが入ってきた」と思われマンガ採用されたのか(笑)、新潮社で文芸ができると思って入ったらマンガの編集部に配属されて。
結局そのまま今に至るまで20年ちょっと、ずっと漫画編集一筋です。入社して最初は、今『月刊コミックゼノン』を作っている吉祥寺にあるコアミックスという会社に出向になり、そこで編集者を始めました。一番最初は北条司先生とこせきこうじ先生を担当させていただきました。
――一番最初がそのお二方というのはすごいですね。
榎谷 地方から誰も知り合いがいない状況で上京してきて、小学生の頃に大好きだった先生方に最初から付かせていただいて。本当にもう、そのときは東京のお父さんのような感じでした(笑)。今でも北条先生とこせき先生には足を向けて寝られません。編集者としてもそうですし、社会人としても全てを教わった気がします。教わったと言っても北条先生は喋る人ではなく、基本行動で示すという。自分もそうなりたいなと思いました。
――それは格好いいですね。
榎谷 そういう出逢いをしてから、やっぱりマンガも面白いなと思い始め自分で立ち上げて作っていくことの楽しさを覚えて。コアミックスはかなり実戦投入型でした。週刊誌って結構そうなのかなと思うんですけど、いきなり連載を担当していく感じで。新人でもネームが通ったらそのまんま決まっちゃうし。編集者の仕事は何もわからないままやりながら実践で覚えてきました。漫画家の先生方に寄りそいながら一歩一歩進んできたかなという感じです。ただ、常に素敵な出逢いがありました。『ブレイブ・ストーリー』という宮部みゆき先生が原作の作品で、作画の小野洋一郎先生が同い年だったので初めて一緒にコンビを組んで上手くいくという流れを掴ませていただきました。
その後は古屋兎丸先生が大好きでお声がけして担当となり、『彼女を守る51の方法』や『人間失格』、映画にもなった『女子高生に殺されたい』など古屋先生の作品を一緒にずっと作らせていただいたので、そこも先生に出逢って育てられたかなと思います。
――古屋先生も、作品はもちろん人格的にも素敵な方だとよくお話を聞きます。
榎谷 タイミング、タイミングで良い作家さんと良い出逢いをしていて。週刊誌の頃の最後、一番印象的なのが『ウロボロス―警察ヲ裁クハ我ニアリ―』という作品を立ち上げて担当するんですけど、作家の神崎裕也先生から持ち込みで編集部に電話がかかってきてたまたま出た私が担当になりました。
自分は『隠蔽捜査』など警察小説が大好きで、そういう本をかためて読んでいる頃にちょうど神崎先生にもそういうネームを持ってきていただいたことで、『ウロボロス』がすぐに始まって。本当に縁だなあという感じですね。結果的にドラマ化して一番売れた作品になって。そのお陰で週刊誌がなくなって月刊誌になったときも柱になってくれた作品となりました。『コミックゼノン』さんと別々になったときも、『ウロボロス』や『BTOOOM!』のお陰で今も新潮社のマンガ文化を残せています。偶然の出逢いというか、そういったところが面白いですよね。その後は、2018年から『月刊コミックバンチ』の編集長をしています。
あまり忙しくしすぎない、でも若い時には無茶も必要
――続きまして、バンチ編集部が今推したい作品を教えていただけますか。
榎谷 あまり巻数の行っていない作品をメインに挙げさせていただくと、ひとつ目は『ディノサン』ですね。
恐竜マンガを書きたいという気持ちが非常に強い作家である木下先生が、他社さんで企画を通そうとしてたけどもなかなか通らなかったそうで。そんなときに縁があってバンチに持ち込みをしていただき、そこで出会った担当が企画を練っていくんですけど、ネーム会議に修正案が提出されていく中で恐竜の動物園、恐竜園という組み合わせが出てきました。職業ものを恐竜でやるという発想で、しかも恐竜が結構リアルで。それは新しいなと驚きました。
――『ジュラシックパーク』のような作品はありましたが、サスペンスではなく恐竜の日常を描いていくというのは珍しいですよね。
榎谷 残虐で怖い恐竜が出てきてそれを倒す、みたいなものではない視点で、もし日本にジュラシックパークがあったらどんな感じなのかという。江ノ島が舞台でいろいろキャッチーな部分が詰め込まれてますし、大人が読んでも子供が読んでも楽しめるのがいいですよね。
――私自身も恐竜が大好きなので楽しみに読ませていただいていますが、本当にいろんな恐竜がリアルに描かれていつつ、その中でかわいい部分なども描かれていて好きです。
榎谷 ふたつ目は、『おひとりさまホテル』です。
1巻が出てから評判も良くて重版もかかっています。『いつかティファニーで朝食を』のマキヒロチ先生の新潮社からの新作となるとやっぱりここが読みたいよね、というのをちゃんと企画として成立させているなと。『いつかティファニーで朝食を』を読んでいた人がもう少し年を重ねて、今や朝食ではなく今度はホテルへひとりで行くという。ちょっとした非日常というか、日常の中で高品質を楽しむというか。日頃の疲れを癒すというのはテーマとしても素敵ですし、女性読者がメインではあるんですが、男性が読んでもよく共感できます。これが大河ドラマ的になっていったときに、どういう風になっていくのかというのは楽しみです。
3作目はコミックスになるのが8月で、始まったばかりなんですが、『133cmの景色』です。
これから期待という意味で、あえて挙げさせていただく感じですけど。見た目というかルッキズムというか、やはり今そこで辛い目に遭ってる人、そこでいろんなことを判断されてしまい息苦しさを感じてる人というのは、たくさんいらっしゃるだろうなと思います。そこを切り口にした作品ですね。最初の反響がすごくて、Twitterで上げたときに10万以上のいいねがついて。
――『133cmの景色』は読切版がすごく良くて大好きでした。すぐに連載化されて嬉しいですし、単行本になったときに多くの人に広まって欲しい作品です。
榎谷 主人公の悩みや成長ががメインですけどそれ以外の人たちもみんなそれぞれ年齢に対する悩みだったり、女性管理職としてのいろんな葛藤だったりとか、ちらちらと発露してるんです。そこも突っ込んでいったら面白くなりそうだなと。テーマ性が強いというか、今この世の中にちょっと問いたいというところがある作品が、自分が好きなのかもしれません。ただ面白いというのも、もちろん良いんですけど、その中でちょっと考えさせられるとか読み終わったときに世界がちょっと変わって見えるとか、他の人に対する見方が変わったりちょっと優しく感じられたりというのは、良いなと思います。自分がニュースを観ていたりとか、日頃生活しつつも「あれ?」と抱く違和感とかをテーマにしてマンガを作ったりすることが多いので、こういう系統の作品は贔屓してしまいがちかもしれないです。自分が立ち上げた作品に『セブンティウイザン』という作品があるんですけど、年を取ってから産んだら子供がかわいそうというような意見があったりして、それは本当にそうなのかなと。
30歳だったら、40歳だったらって見ていくと70歳だったらどうなんだろう、みたいな話で。ちょっとファンタジックなところもあるんですけど、ああいう切り口にすることによって、みんなちょっと客観的に見ることができるというか。生まれた子供は大切ということには変わらないんですけど、ああいう設定にすることによって30代での悩みだったりも解りやすく浮き彫りになりますし、そういうのもいいですよね。
――『セブンティウイザン』、『セブンティドリームズ』も大好きすぎて先日の完結巻発売後にラジオで紹介させていただき、長文の紹介も書かせていただきました(笑)。榎谷さんが現在担当されている連載中の作品では何かありますか?
榎谷 その流れで行くと、『僕の妻は発達障害』です。
この作品はドラマ化しまして……あんまり言うとちょっと自慢ぽくなってしまうんですけど、自分の担当作品は映像化していただいたものがいくつかあります。『鹿楓堂よついろ日和』も自分の担当なんですが、これはアニメとドラマになって。
『セブンティウイザン』もそうですね。他には『ウロボロス』や『女子高生に殺されたい』、『ブルーサーマル ―青凪大学体育会航空部―』など。映像化を狙って作っているということはないんですけど、でもやっぱり自分が世の中に対してちょっと疑問を感じているとか、何かここら辺をもうちょっと解決したいな、もっとここを見てほしい、この問題に気づいてほしいと思うようなことをテーマにしたりするので。自分の中でも企画書を書いたりする時にそれが明確になってくるんです。そうすると、やはり映像化していただく際の企画書と大体合致しているというか。世の中で共感されて、ちょうどそのテーマでドラマや映画を作ろうと思っていた人たちと意見が合うことが多いのかもしれません。特に『僕の妻は発達障害』がドラマになったときは嬉しかったです。
――そういった世の中のいろいろな情報を取り入れるために心がけていることなどは何かありますか。
榎谷 あまり忙しくしすぎないことでしょうか。やっぱり忙しいと、もう目の前のことで追われてしまうので。常にバッファというか、ちょっとぐらい暇にしておきたいです。いろんなトラブルとか突発的な問題というのはいつでも起こりますし、難しいことを理解しなければいけないことも出てくるので、そのときにそのバッファを使って対応していくみたいな感じの方が、精神衛生上いいかなと。
――編集者の方はすごく忙しいというイメージが皆さんあると思うんですが、榎谷さんはどうやってバッファを作っているんでしょう。
榎谷 そうですね、無理しないことですかね。若い時はめちゃめちゃ無理しましたけど(笑)。まだできる、もっとできるってやっていくと、どんどんアウトプットばかりになってしまって上手く行かなくなっていくことがありました。チャンスや運というのは、心の余裕があるときにしか気づけない気もしますし。例えばTwitterでマンガが流れてきて、それを面白いと思えるかどうかとか。追われているときだと多分流れちゃうでしょうし、どんなニュースを見ていても小説を読んでいても、余裕があって楽しんでいるときじゃないとなかなか本質をキャッチできないなというのがあります。私だけかもしれませんが。
――忙しいときに流し読みしてしまうと名作でもしっかり入ってこないので、とてもよく解ります。
榎谷 トラブルも、心の余裕のあるときは対処できます。本当に忙しい時だと対処を間違えてしまうとか、慌てて返信して失敗するとかやってしまいがち。だから常に、今週でこの本1冊か2冊読めるぞ、というぐらいの気持ちにしておくように心掛けています。今は忙しすぎて本を読むのも大変じゃないですか。村上春樹の新刊出たよと言われて手に取ってみたものの「これいつ読むの?」「読み始めたものの、読み終わらない」みたいな気持ちになっていると嫌ですよね。本って何日間か向き合わないと読み終わらないので、他の人が読んでいない宝の宝庫なんですよね。なので基本は本であったり、実際にどこかへ足を運んだりというところに時間を使うことを心がけています。ただ、自分も20代のときはガツガツやっていましたし、人生で頑張らなきゃいけないときはありますしね。作家さんもそうで、そういう時期がないとブレイクスルーしないかもとは思います。それをしないでバッファは作れないかもしれないので、人それぞれ自分のキャリアにあったやり方を見つけてほしいです。
長所を伸ばし、やりたいことをやれる編集部
――今、編集部内で最近流行ってるものやことはありますか。
榎谷 みんな全然個性が違うんですけど、最近はバイクに乗ってるという人が急に増えていますね。自分は全く蚊帳の外なんですけど(笑)。1人でバイクに乗ってどこでも行けるのが楽しいらしいんですよね。女性も男性も含めて、週末とか休みの日になんか、どこどこまで行ってきましたとか。ソロキャンプ的なことをしているのかもしれません。しらんけど。
――コロナ禍で個人でできるレジャーが流行りましたもんね。
榎谷 1人で楽しめる趣味をみんな充実させていて良いな、羨ましいなと思います。自分は20代、30代の頃にそういうのは全くなく、仕事仲間と飲んでばかりいたので……その時間を半分でいいから返して欲しいですね(笑)。
――編集部おすすめのお店や行きつけのお店はありますか。
榎谷 「龍朋」は今すごいですよね。ちょっと前くらいは普通にお腹すいたな、チャーハン食べたいなと思ったら気軽に入れる店だったんですが、最近は行列になっていて。ここで言うとあれかもですけど……とても美味しいんですけど行列に並んでまで食べるお店ではないのでは、と(笑)。近くの働いてる人たちが美味しいチャーハンを気軽に食べられるお店を返してほしいです(笑)。あと、うちの会社は社員食堂が200円で、しかも大盛山盛り社員食堂で『サラメシ』などでも取り上げられて有名なんです(※昭和41年の創業以来200円という価格を貫いている伝説の社員食堂だそうです)。あまりにも炭水化物が多いので逆タニタ食堂とか言われて(笑)。人を見て多めに盛っているのかもしれないですけど。日替わりですし、社員食堂を使っている人が多いです。
――そんなバンチ編集部が自慢できることを一つ挙げるとするとなんですか。
榎谷 担当編集がやりたいと思っていることが自由にできること、作品に編集者の個性が出ているところでしょうか。ジャンルにまとまりがないはないんですけど、それでも全部ちゃんと面白いものを載せているというところは、揺るぎないです。それぞれが自分の抱えているテーマだったり、作家さんが持っているテーマだったりを求めている読者に向けて作っているところさえあれば、どんなマンガでも許容しています。『133cmの景色』や『おひとりさまホテル』は女性誌向けの作品だと思いますし、『怪獣自衛隊』のような大人男性に人気の作品や、またキャラクター人気がある『鹿楓堂よついろ日和』があったりと、いろんな作品が担当の熱意によってしっかり実現して載せていけているのは良いかなと思います。
――なかなかこの辺が同居している雑誌は珍しい気がしますし、まさに「雑誌」という感じで良いですね。
榎谷 漫画家さんや編集者は良いところもあれば悪いところもあり、それはもう見方によって短所にもなるし長所にもなるわけですから、基本的には長所を伸ばしていくというか。良いところを見ていく加点方式が好きです。こいつは朝起きないから駄目とか、こいつはこれができないから駄目だとかなっていくと、人ってどんどん狭まっていっちゃいますけど、とても食べっぷりが良い、話を聞いてくれて笑ってくれるから最高、みたいなぐらいにしておくのが良くて。漫画家さんもネーム出してくれるだけで最高、締め切り遅れてきたけど、めちゃくちゃ面白かったからOKみたいな。いろんな人がいて良いと思います。
思い出の作品はあえて読み返さない
――編集者が繋ぐ思い出のマンガバトンということで、毎回編集者の方の思い出のマンガ作品をお聞きしているんですが、榎谷さんの思い出の1冊を挙げていただけますか。
榎谷 子供の頃は少年誌が大好きでした。それこそ「少年ジャンプ」「少年サンデー」は夢中で読んでいました。でも一番自分の中に刺さっている少年誌の作品は『うしおととら』ですかね。
ふつうなら敵となる妖怪のとらと、うしおの相反する2人がコンビを組んで戦っていくという設定。小学生の頃に『うしおととら』で初めてそういう関係性の設定に触れて目覚めました。少年誌大好きな子だと『ドラゴンボール』の悟空と敵だったベジータが一緒に戦ってると嬉しいみたいな感情がありますけど、映画などでも警察と逃亡者が一緒にコンビを組んで何か輸送する話とかワクワクしますし、割と自分の中の原点になっていますね。結局『ウロボロス』もそうなんですけど、そういう設定の作品は好きになりがちです。
ちなみに、小学生時代に好きだった思い出の作品はあえて読み返さないようにしています。小学生の頃は空想ばかりしていました。自分の中でものすごくイメージが付与されていてすごく面白くでき上がってる神作品なので。今の大人の視点で読み返してしまうと、いろんなことが気になってしまうんです。夢や妄想などで少年の頃に肉付けされていた大好きなマンガは、頭の中で大切にしておいた方が良いのかなと。なので、想像上の『ドラゴンボール』や『うしおととら』をいっぱい使わせていただいてます。
――次の方へのバトンとしまして、同じマンガ編集者の方へ向けて何かコメントをお願いします。
榎谷 マンガ編集者って何なんだろうって思いますよね。読者も読んだところで解らないでしょうし、やっている本人たちも解らないながら試行錯誤でやっているところもあるんじゃないでしょうか。自分も「編集者をやってるぞ!」みたいな感じはなくて、たまたま会社がお金を出してくれて求人をもらえているからやれているようなところもありますし。それでも好きなことで、好きな作品を好きな作家さんと一緒に作れるというのは本当に幸せなことです。これが仕事になっているというのは奇跡的なことで恵まれていると感じます。
でも、やっぱり人と人との出逢い、人の才能に惚れ込むことがないと自分はちょっと頑張れないですね。20代・30代と違って40代になると出逢う確率も減ってきます。いわゆる仕事みたいになっちゃった途端にマンガ編集者ってつまんなくなっちゃうなという感じはしますので、いつまでも新鮮な才能に惚れこむことができるよう感性を維持していきたいです。
――何かお知らせなどありましたら、お願いします。
榎谷 『バンチ』の魅力として、先ほども述べたようにいろいろなジャンルの作品があり、その中には『おひとりさまホテル』や『133cmの景色』のような女性誌向けの作品があるので、バンチコミックスというレーベルの中に女性読者向けのコミックスだけのレーベルを新しく作ります。「バンチコミックス コラル」という名前で、珊瑚という意味のコラルなんですけれども。世の中的にもジャンルが溢れている時代なので女性読者向けの作品をちょっと見つけやすく書店の棚でも判りやすくしたいなと。バンチコミックスの中にはこういう作品もあるんだ、ということが少しずつでも浸透していけば嬉しいですね。
――最後にバンチ読者の皆さんと、マンバ通信の読者の皆さんに何か一言ずつお願いできればと思います。
榎谷 マンバさんは、編集部や編集者のことをこのように発信してくださる素敵な媒体だと思います。世の中にはいろんな少年誌・青年誌や女性誌など素敵な雑誌や媒体がたくさんあるので、ここを読みに来て興味があるなという方はぜひ読んでみてください。バンチは『死役所』とか、『Artiste(アルティスト)』とか、コミックスはまだもう少し先ですが『ドルおじ #ドールに沼ったおじさんの話』とか……挙げだすときりがないほど面白い作品があります。気に入った作品があればコミックスを買っていただければありがたいです。
――本日はどうもありがとうございました。
かつて『うしおととら』を立ち上げた編集者・武者正昭さんは「マンガは林業」「5年、10年は平気でかかります」という発言をしていました。榎谷編集長のお話から、その言葉を思い出しました。ビジネスとなるとどうしても短期的な成果を求められがちな世の中ですが、マンガは決してビジネスだけでもないものですので、そういったスタンスで作品づくりをしていてくださることに嬉しさと安堵を覚えます。また、常にバッファを持つことの大切さであったり、世の中に対する問を常に持ちながら繊細なバランス感覚でこの新しい時代を渡り歩いていらっしゃるところは個人的にも響き見習いたいと思った部分でした。バンチレーベルでは『マンガに、編集って必要ですか?』が近年でも大好きな作品のひとつですが、榎谷編集長とお話をさせていただいた後であれば少なくとも編集者がいなければ世に生まれなかった名作はたくさんあるなと一層強く感じます。これからも新潮社のマンガ文化が続き、ますます栄えて素晴らしい作品が生み出されていくことが楽しみです。
以下は取材時の写真です。