心地よい他人同士の共同生活を描く『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』

『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』

オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』は藤谷千明さんの同名のエッセイを漫画化した作品です。全員アラフォーのオタクの独身女性の同居生活を通じて、適度な距離を保ちながらの他人との生活の楽しさを描き出しています。

同居のきっかけは、1人暮らしが寂しくなった著者の藤谷さんが、一緒に暮らす人がほしくなったこと。その時選んだのが、同性の女性でした。もともとSNSなどでつながっていた知り合いに声をかけたところ、候補者が集まり、物件探しを始めます。

もちろん物件探しは一筋縄ではいきません。候補者の職場からの距離など条件を絞れても、日本の賃貸物件には同性同士の同居をOKとするものが少ない。長い時間をかけ、ルームシェアが可能な一軒家に出会い、無事同居を始めます。

もちろんそれまで他人だった人の同居生活です。大変なこともあります。作中では、お風呂掃除のタイミングがつかめないなどの戸惑いが描かれます。ときには鍵をかけ忘れてしまうことも。日々のちょっとした失敗を、お互いカバーしながら少しずつ調整しながら過ごしていきます。さらに人間ですからずっと機嫌がいいわけでもありません。いやなことがあればふさぎ込むこともあります。

それでもエッセイや漫画に楽しく描けるのは、作者も作中で指摘しているようにSNSなどを通じてうかがえる、最低限の価値観が似ているからとのこと。同居人全員が、最初の同居の話から「面白そう」を最優先で動くという特性。それぞれが何かのオタクで、何かに集中的にお金を出すことを変に思わない。それよりも、例えば好きなバンドの解散など悲しみや辛さを自分ごとのように共有してくれる人がいることの喜びのほうが上回っているようです。

作品で描かれる、大人が日々心地よく過ごせてお互いを世話する負担がない空気感はどこから出てくるのか。それは作者が指摘しているように「生活は共有しているが人生は共有していない」というところからきていそうです。食材を共有したりお風呂の入る順番を調整したり、日々の生活がかさなることもある同居人は、確かに日々の生活の時間を過ごしています。しかし、同じ屋根の下にいても、それぞれがそれぞれの人生を歩んでおり、恋人や家族のような過度な干渉は期待していません。作者もほかの同居人の外での行動は干渉せず、それぞれの同居人の今の推しは知っていても恋人の有無は知りません。

このような楽しい生活が死ぬまでできる保証はないでしょう。あくまで同居人全員が収入があり、ある程度健康で自立的な生活ができているからこそ、こうした生活が成り立っているといえます。例えば介護が必要になるなどしたら生活を見直さなければなりません。それまでの間、なかなかうかがいしれない他人との同居生活の一端とヒントを垣間見たいと考える方にはいい作品です。

おすすめ記事

コメントする