菊池真理子先生の「『神様』のいる家で育ちました~宗教2世な私たち~」は宗教2世の人々の壮絶な人生のエピソードを漫画にしたもの。彼らの存在を「知らなかった」で周縁化しないために必読の1冊です。
宗教2世とは、親がある特定の宗教を信仰している家の子供のこと。親の宗教活動に子供が連れていかれたり、その宗教独自の教義を守ることを強いられたりしています。
特に子供は生まれる家庭や親を選べません。その狭い世界の中で親が特定の教義を貫くということは、子供の活動に大きな制約を課すことになります。例えば学校の修学旅行のキャンプファイヤーに参加できなかったり、アトピーの薬を使えなかったり。子供も教義を守ろうとすると、どうしてもほかの子供と違う生活になります。
「ほかの人と違う」ことを自覚しなければ親と価値観を共有できている生活は幸せです。漫画の中でも子供のころは親を信じきった幸せな生活が描かれます。しかし作中でも描かれているように、その生活に疑問を抱くようになると矛盾を抱え、悩みだすことになります。
もちろんこうして漫画になるエピソードは宗教2世の方々の抱えた厳しさの一部にしかすぎないのでしょう。漫画の各話では、それぞれの宗教2世の方々のその人なりの折り合いのつけ方が描かれていることがエッセイ漫画として読んでいる私たち読者の救いになっています。それぞれのエピソードは厳しいものでありながら、「漫画」として読みやすくなっています。
こうした宗教2世の話を私たちの多くが知らず、この漫画に驚くのは普段の生活の中で知り合いの信じている宗教の話などをすることが少ないからです。政治信条と並んで、宗教というのはなかなか話題にしにくいタブーともされています。さらにその陰になっている宗教2世の話はなかなか普段の生活で前面にでにくい。だからこそ、こうしたエッセイコミックが出版される意義があります。
ちなみにこの作品は、ある出版社で連載されていたところ宗教団体からの抗議を受けて、全話が公開停止になりました。いったん連載が終わり、どうなることかと思っていたところ文藝春秋から単行本が出版されることになるという経緯をたどりました。宗教の話は普段の生活でなかなか知っている人の間でもできないこと。こうして漫画を通じて知らなかったことを知る機会が得られることは幸運だといえるでしょう。