食べる幸せ>ダイエットが和む『ふっとりさん 痩せたいけど食べたーい!』

『ふっとりさん 痩せたいけど食べたーい!』

成瀬瞳先生の『ふっとりさん 痩せたいけど食べたーい!』はダイエットしなくてはと思いつつも、ついつい食べてしまう成瀬先生自身の姿を描いた作品。食べる幸せを感じられるエピソードがホッとする雰囲気を漂わせます。

2児の母親で40歳の成瀬先生。在宅でイラストレーターとして働いており、ついつい家にいると何か食べてしまう。運動をする機会も少なく、その結果が「体重計の数値が人生最大の記録」。健康を考えてダイエットに取り組むなどしますが、なかなか続きません。

ともすれば「ダイエットやってみた」になりそうなところ、成瀬先生はそうなりません。義理の母親に助言されても運動をせず、ホットヨガに行ったあとはご褒美にカフェで甘いドリンクを飲む。そして、ダイエットを決意してもついつい子供の残した菓子パンを食べてしまうーー痩せるには向いていない考え方や行動なのですがこのまま見守りたくなってしまいます。疲れて動けないと思ってもお菓子を取るためなら俊敏になるなど「わかる」と思えるエピソードも和みます。

健康意識から痩せることに価値を見出す風潮がまだ強い中で、「痩せない」成瀬先生を安心して見られるのは成瀬先生が太っている自分を受け入れているからです。子供の頃から太めだという成瀬先生と脂肪との付き合いも長いもの。折を見てダイエットに取り組まれますが、作品全体からは脂肪を傍にいるものとして認めている態度がうかがえます。作中の成瀬先生から、太っていることへの悲壮感は感じられません。ついつい食べてしまい運動もしないという自分の「ダメなところ」も受け入れています。

『ふっとりさん 痩せたいけど食べたーい!』(成瀬瞳/オーバーラップ)より

そしてなんといっても、ご飯や甘いものを食べているときの成瀬先生の表情が本当においしそう。成瀬先生は甘いものもしょっぱいものも揚げ物も大好き。たまに食事内容に気をつけようとするけれども、目の前の唐揚げには勝てない。制限なく食事を楽しんでいる幸せがそれぞれのエピソードからにじみでています。思わず読んでいるほうも幸せになります(逆に食事制限をしているときのエピソードは本当につらそう)。

「買ったけど眠っているダイエット用品のコーナー」があるなどこの作品を読んでも決して痩せられませんし、ダイエットのモチベーションは高まりません。でも食べられることの幸せを感じるエピソードを見ていると、いつしか痩せていることが最上であるという強迫観念が少しずつ後退していきます。もちろん健康への配慮は必要ですが、食事を楽しめることの嬉しさは忘れたくないと思える作品です。

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