『こどものおもちゃ』は大人になってからの三周目がオススメ

『こどものおもちゃ』

これは漫画に限らず映画や小説、ゲームなどにも言えることですが、それを享受する年齢や自分が置かれている状況などによって、多かれ少なかれ作品の見え方や感想が変わってくるものだと思います。

子供の頃に大好きだった作品たちに大人になって再び触れてみたとき、あの頃と同じように笑えたり泣けたり感動したりするけれど、大人になった今の視点からは見える世界が少し違っていて、あの頃には気づかなかった新たな発見があったり。

実は僕にとって、「再読での新たな発見」が漫画を読む上で一番の幸せかもしれません。

もちろん新しい漫画に触れるのもワクワクとドキドキが溢れて新鮮で楽しいのですが、過去に読んだ漫画を数年後に再読して新しい発見や新しい感想があることの方が大きな喜びを感じています。

(注:という理由で僕の記事で取り上げさせていただく作品は最新のものではなく少し懐かしい作品であることが多いです。多分これからも。)

そんな僕が今回紹介したい作品は、僕に何度も新しい発見をくれた伝説の少女漫画『こどものおもちゃ』です。

当時アニメ化もされ小中学生の女子を中心に大人気だった伝説的な作品なので、普段少女漫画を読まない方でもタイトルくらいは知っているという方も多いのではないでしょうか。

レジェンドクラスの名作なので、今更僕が紹介するまでもなく、子どもの頃に読んでましたよ~という方も多いと思いますが、今回の記事ではそんな方たちに、おとなになった今、再度『こどものおもちゃ』を読んでみてほしい、ということをお話します。

もちろん、まだ読んだことがないという方にも是非オススメしたい作品ですので、よろしければ最後まで記事を読んでいただけますと幸いです。

ちなみに、記事タイトルで「3周目」と言っていますが、実際には僕はもっと再読しています。その中で、作品の見え方が大きく変わったタイミングを1周としてカウントさせていただきました。

一周目:こども時代

二周目:青年時代

三周目:父親になった今

という感じです。

 

こどものおもちゃ』とは?

こどものおもちゃ』(以下、『こどちゃ』)は、『ママレード・ボーイ』『天使なんかじゃない』『赤ずきんチャチャ』『グッドモーニング・コール』などと同時期に少女漫画雑誌『りぼん』で連載された、『りぼん』の黄金時代を代表する作品のひとつです。

人気子役タレントの“倉田紗南”と、そのクラスメイトで超問題児の“羽山秋人”のふたりをメインに、小学校時代から中学校時代までを描いた学園漫画です。

…とだけ言えばごく普通の少女漫画のように聞こえますが、実はこの作品、当時の少女漫画としてはかなり尖った作品でした。

というのも、他の作品が恋愛やファンタジーをメインにしたものがほとんどである中、『こどちゃ』は数々の社会問題を作中で取り扱っていて、とても小中学生の女子をメインターゲットにしているとは思えないほど重いエピソードが多く、当時の『りぼん』の中では異彩を放っていました。

学級崩壊、いじめ、育児放棄、虐待、乳児遺棄、血の繋がりのない親子、体罰、教師から生徒へのいじめ、少年犯罪、殺人未遂、身体障害、精神病…

ざっと軽く挙げただけなのでまだまだありますが、このようなテーマを取り扱っています。

これだけを見ると「夢も希望もない物語」だと思われてしまいそうですが、シリアスなシーンだけではなく、作中にはコメディタッチで描かれているポップな部分や平和なシーンなども多い(むしろそっちの方が多い?)ため、ずっと重苦しく読み進めるような漫画ではありません。

 

一周目:こども時代

僕が『こどちゃ』と出会ったのは、たしか小学5・6年の頃だったかと思います。

多分当時小学生くらいだった読者の方はほとんどみんなそうだと思うのですが、重いテーマの部分はそれほど深く理解せずに、天真爛漫な紗南ちゃんが元気に活躍するラブコメ漫画として楽しく読んでいたのではないでしょうか。

僕の小学校でもいつもクラスの女子たちが“羽山派”か“直澄くん派”かで熱く議論していたのを覚えています。

『こどものおもちゃ』(小花美穂/集英社)第9巻 99頁

もちろん小学生でもしっかりと深い部分まで理解していた読者さんもいるかと思いますが、それでもやはり当時の小学生のほとんどは普通のラブコメ漫画として楽しく享受していた人の方が多かったように思います。

少なくともこの頃の僕の感想としては、「楽しい!」「面白い!」「ハッピー!」しかありませんでした。(暗いシーンは無意識に読み飛ばしていたのかも)

 

二周目:青年時代

これは人によってタイミングが違うかと思いますが、僕は高校を卒業した後の19歳くらいでの再読がすごく刺さりました。

久しぶりに読んでみよう、と思って本棚から引っ張り出してきて再読すると、こどもの頃の記憶には残っていなかった暗くて重いシーンたちがたくさん飛び込んできて「あれ?こどちゃってこんなんだったっけ…?」と困惑しました。

単純にラブコメ部分だけを楽しんでいたこどもの頃とは違い、この頃には社会問題を取り扱っている漫画として、しっかり内容を理解しながら読めました。

もちろんラブコメパートだけでも十分に面白かったのですが、家庭問題のシーンや学校での問題シーンなど、少しセンシティブな内容を含んでいることで20歳前後の自分にとって、さらに読み応えのある漫画へと変貌していました。

この頃に僕は、「ついにこどちゃの真髄に触れた」と思っていました。

実の姉から「悪魔」と呼ばれている羽山の心の闇や、育ての母と産みの母が違うということを知った紗南の心の葛藤など、こどもの頃には深くまで理解しようとしなかった登場人物たちの悩みや苦しみが少しは理解できるようになり、しっかりと感情移入して読むことができました。

『こどものおもちゃ』(小花美穂/集英社)第3巻 152頁2コマ目

 

三周目:父親になった今

そして本題の三周目です。

実は最近(2020年の大晦日)に第一子となる娘が誕生し、僕は父親になったのですが、自分が「親」という立場になってから読む『こどちゃ』は、今までとさらに違う作品のように思えました!

青年時代に読み返して、いろんな暗いシーンや重いシーンが刺さって『こどちゃ』の真髄に触れていたはずなのですが、感じ方や共感の仕方が、これまでとはまっっったく違うものになりました。自分でもびっくりです。

というのも、『こどちゃ』では数多くの社会問題や重いテーマを扱っていますが、その中でも「出産」「親子」「家庭」に関する問題が特に多く取り扱われています。

『こどものおもちゃ』(小花美穂/集英社)第4巻 42頁1-2コマ目

 

親子や家庭に関する重いテーマについて描かれている部分を、19歳の頃に再読したときにも既に理解したつもりにはなっていたのですが、やはり自分が親になってから読むと刺さり方が全然違ってて、また新しい感想を抱くことができました。

ずっと僕は『こどちゃ』はこどもを中心に描かれた学園漫画だと思っていましたが、こども目線でこどもとおとなの成長を描いた人間ドラマなんだと気付かされました。

こどもから見た“おとな”は、すごく大きくて頼りになる存在として描かれることが多いですが、『こどちゃ』の登場人物たちはこどももおとなも同様に悩みや不安など心の中に多かれ少なかれ闇を抱えていて、おとなだって道を間違えることがあるんだというリアルを教えてくれている気がします。

 

最後に

何度も言いますが、小学生・中学生の頃に『こどものおもちゃ』を読んでいた方たちには是非、大人になった今、改めて再読することを強くオススメします!

(もちろん初見の方にもオススメ!)

多分誰もが、こどもの頃に読んだ『こどものおもちゃ』とおとなになってから読む『こどものおもちゃ』は見え方が全然違っていて、まるで別の作品のようにすら見えてくると思います。

それぞれ読むタイミングや置かれている状況などによって感じ方は変わると思いますし、もしかしたら状況次第では「重すぎて読めない…」という方もいるかもしれません。

しかし、『こどちゃ』で扱う暗いテーマは重く暗いまま終わることはなく、必ず登場人物たちが悩みもがき苦しみながらも解決していきます。

おとなになった今、何か悩みを抱えることがあったら、『こどものおもちゃ』を再読することで何か人生に役立つヒントが見つかるかもしれません。

おとなにこそ読んでほしい少女漫画です。

記事へのコメント

自分も小学生でこどちゃに出会い、何度も読みましたが、漫画そのもののテーマがなんなのかということは一切考えてなかったですね。ラブコメだな、というくらい。
大人になって読むと物語全体を俯瞰で見ることができるので、そこでやっと「こういう漫画だったのか」と気づけた気がします。

親の目線でも読んでみたいけど、果たして叶うのか。

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