今回紹介する『マイルノビッチ』は、2011年~2014年まで少女漫画雑誌『マーガレット』で連載されていた佐藤ざくり先生の代表作のひとつなのですが、連載終了から7年経った2021年になって実写ドラマ化されるなど、根強い人気の作品です。
2021年2月からHuluオリジナルドラマとして限定配信されている実写ドラマでは、桜井日奈子さんや神尾楓珠さんなど、旬の若手俳優・若手女優がキャスティングされ話題となっていますが、皆さん、原作漫画の方は既にチェック済みでしょうか?
もちろん実写ドラマもとても気になりますが、少女漫画ソムリエの僕としてはドラマだけではなく是非原作漫画の方も多くの方に読んでいただきたいところです。
どんな漫画か簡潔に言いますと、「どブス」「毒キノコ」と呼ばれる地味でモテないヒロインが、とある事件(?)をきっかけに「綺麗になりたい」と決意し、それまで散々自分を馬鹿にしてきた世の男たちを見返すためにメイクやオシャレを覚えて綺麗になっていく、いわゆるシンデレラストーリーです。
目立たない地味なヒロインが美人に変身して素敵な男子と恋愛をするサクセスストーリー、とだけ聞くと、よくある超王道な少女漫画設定と思われがちですが、実はこの漫画、既存の少女漫画の枠を大きく超えるほど【リアルすぎる恋愛を描いた成長物語】なんです。
今回の記事では、出来る限りネタバレしないように、この作品の中で僕がリアルすぎると感じた部分を紹介していきたいと思います。
まず1つ目の“リアル”ですが、ちょっとしたネタバレにはなってしまいますが、この物語の大前提として、ヒロインのまいるは全12巻のうちに何人もの男の子と恋愛をします。
少女漫画によくある「ひとりの男の子をずっと想い続けて色々な苦難を乗り越えて最後に結ばれる2人…」のような王道展開にはなりません。
メイクとオシャレで美人になったとは言え、中身はかつての「毒キノコ」のままなわけで、恋愛においてはまったくの初心者ですから、当然と言えば当然です。
最初から上手くいくわけがありません。
恋愛初心者ならではの失敗がたくさん描かれていて、読んでいると学生時代の自分の黒歴史的な恋愛を思い返して何とも言えない気持ちになってしまう読者さんも多いかと思います。
それが2つ目の“リアル”な部分です。
この漫画では、誰もが共感できるような、自分やまわりの人が体験しているような身近な恋愛がたくさん描かれています。
例えば、顔を知らずにメールのやりとりだけで好きになった男の子と実際に会ってみたら物凄くビミョーな顔をしていて冷めてしまったり、SNSで知り合った年上でお金持ちの優しいイケメンが一見完璧だけどちょっと人として欠けている部分があったり、FacebookみたいなSNSで彼氏の女友達のページを探してめちゃくちゃ見て勝手にモヤモヤしちゃったり……
挙げるとキリがないほどの“恋愛あるある”が作中で描かれています。
誰からも相手にされなかった地味な“毒キノコ”が一夜にして超絶美人になって注目の的、という超漫画的設定でありながらも、誰もが共感できるリアルな恋愛模様を描くことで、漫画的な部分とリアルな部分がすごく絶妙なバランスを保っていて、引き込まれる内容になっています。
それから、これは完全に個人的な偏見も含まれているのですが、まいるがある男の子に失恋したショックでオシャレをしなくなって元の毒キノコに戻ってしまい、最終的にはお笑いにハマってしまい若手のお笑いライブに通うようになる、という部分にものすごく“リアル”を感じました!
(何度も言いますがこれは僕の勝手な偏見であり、すべての方がそうだと言っているわけではありません!)
お笑いに限ったことではないですが、失恋したショックでオシャレやメイクをしなくなり現実逃避する、というのは本当によくあることなのではないかなと。
でも、リアルすぎて意外とあまり少女漫画などでは描かれることのなかった心情なのではないかと、初めて読んだときは感動すら覚えました。
少女漫画で失恋した女の子の心情を描くシーンは多々ありますが、ちょうどよいリアルさの闇を描いた名シーンだと勝手に思っております。
最後に、読者目線ですごくリアルに感じた部分があるのですが、とてもネタバレなしでは語れない部分でして……
簡単に言うと、まいるのすべての恋愛を近くで見ている第三者(読者)として、こうすれば幸せになれるのに、と思う方向とは別の方向にばかりまいるが進んでしまうことが多々あるのです。
これって現実世界に置き換えると、誰が見ても幸せじゃなさそうな恋愛をしていて、みんなから反対されている人ってよくいると思うのですが、まさにあの状態です。
はたから見ると良くない方向に進んでいるときでも、当の本人はその時は気づかないんですよね。
しかも本人がそれでいいと思っているなら周りが口を出す問題でもなかったりするので、周りは見守るしかないという。
この作品では、まさにそんな気持ちをリアルに味わわせてくれます。
読者にとってのまいるはすごく身近な女友達のようで、なんとかしてあげたいけど見守るしかないという、そんな目線で最後までまいるの成長を見届けられる作品なのです。
少女漫画の長い歴史の中には、『マイルノビッチ』のようなシンデレラストーリーを描いた作品は数え切れないほど沢山あります。
しかし、少女漫画という枠の中で、“シンデレラ”の苦悩と努力の側面を、リアルに描きながらも暗くなりすぎないようにバランス良くラブコメとして上手く表現している作品はそれほど多くはありません。
“シンデレラ“でありながらも身近でリアルな存在のヒロイン・まいるの成長物語を、みなさんも是非見届けてみてください!