麒麟・川島とかまいたち・山内が「面白いマンガ」に沼のようにハマって楽しむマンガバラエティ『川島・山内のマンガ沼』。今回は、前々回放送された「マンガ家ガチアンケート・宮下暁編」をお送りします(放送を見逃した方はTVerもご覧ください)。
SEを辞めてマンガ家の道へ
川島 今回のテーマは「マンガ家ガチアンケート」です。今回は我々が大好きな「このマンガがすごい!芸人楽屋編」2021年下半期で第1位に選ばれました、『東独にいた』の作者・宮下暁先生にお越しいただきました!
宮下 よろしくお願いします。
川島 先生は顔出しNGということでございまして、映像では先生の自画像になっております。
山内 第1位に選ばれて、やっぱり売り上げって伸びました?
宮下 僕ちょっとよくわからないんで、担当編集者に聞いてみてください。
川島 今日は担当編集者さんにも来ていただいてます。マンガ沼第1位に選ばれて、売り上げどうですか?
編集 それが……あんまり変わってないんです。
山内 ええ!? なぬ !?
川島 あんまり変わってない!?
編集 そうですね。ほんの少しだけ上がったくらいで。
山内 じゃあ見てる人で、まだ読んでない人がたくさんいるってことですよね。
川島 まだ我々のおすすめを信頼してくれてないんだ。だから今日は先生と編集者の方に来ていただきましたから、今日でガラッと流れを変えていきましょう。では、まだ読んでない方のために山内さん、『東独にいた』のあらすじをお願いします。
山内 ではあらすじを紹介します。
宮下暁『東独にいた』(講談社)
- 2019年〜「ヤングマガジンサード」で連載がスタート
- 単行本は第5巻まで発売(現在は休載中)
- 舞台は1985年の東ドイツ
- 主人公のアナベル・フォードールは神軀兵器と呼ばれる東ドイツ軍の改造兵士であり、超人的な身体能力を駆使して反体制派のテロリストたちと戦っている
- そんなアナが密かに恋心を抱いているのが書店を営む日系人の青年ユキロウ・フジサキ
- しかしユキロウの正体は反体制派のテロリストたちを率いる指導者・フレンダーだった
- 冷戦下の東ドイツを舞台にした、重厚で先の展開が読めない人間ドラマと、「独特の構図」から生まれる臨場感あふれるアクション描写が魅力の注目作
川島 このマンガ、テーマがなかなか攻めたなという時代背景、そして国なんですけども。
宮下 まず、「ただのバトルマンガにはしたくなかった」というのがあって。それでいて、読んでいるうちに「(東ドイツは)こういうことになってたんだ」と知っていくほうが新鮮味があるんじゃないかなと思いました。
山内 では宮下先生のプロフィールをご紹介します。
宮下暁 先生プロフィール
- 1991年生まれ(30歳)
- 前職はシステムエンジニア
- 2017年、25歳の時にそれまでマンガを描いた経験は一切なかったが、マンガ家を目指して仕事を辞める
- マンガを描き始めて1か月、初めて描いた作品『少年の花』をヤングマガジンの月間賞に応募し、TOP賞を受賞
- マンガを描き始めて2年半、『東独にいた』の連載がスタート
宮下 もともと子供の頃からマンガ家にはなりたかったんですけど、20代半ばになって「今なら年齢的にチャレンジしても大丈夫なんじゃないか」ということで、そこから会社を辞めてマンガ家を目指しました。
川島 仕事を辞めるって、すごい勇気ですね。
宮下 そうですね。朝がすごく弱かったので、ゆっくり寝たいと思ってて……。
川島 え、そもそも仕事ちょっとやめたかった(笑)?
宮下 「マンガ家目指したい」と「ちょっと眠かった」が半分半分くらいですね。
川島 眠たくてシステムエンジニアを辞めたんだ(笑)。
山内 そんな朝早いんですか、システムエンジニア。
貯金が尽きたらマンガ家はあきらめるつもりだった
川島 デビューするに至るまでは、どういう流れなんですか?
宮下 サラリーマン時代にお金を貯めて、「貯金がなくなるまでチャレンジしよう」と思ってました。その貯金がなくなるのが大体1、2年くらいだったので、「それまでに芽が出なかったらやめよう」と思ってたんです。
山内 だいぶ短期決戦ですね。
川島 これ聞いてもいいですか。仕事辞めたとき、どれくらい貯金があったんですか?
宮下 300万くらいです。それくらいあったのが、連載始まる直前には残高5000円くらいになってました。
川島 あぶな! 299万5000円負けてるやん(笑)。
山内 ギリギリだ。「結果が出なかったらどうしよう」って普通は不安になると思うんですけど、それはどうだったんですか?
宮下 そこは本当に馬鹿で良かったなって(笑)。
川島 いや、馬鹿の一言で片付けられないよ。そんなわけないもん。
宮下 寝られる喜びの方がでかかったですよ。
山内 そんなに寝たかったんだ(笑)。
川島 まだ会社を辞めてそんなに時間経ってないから、まだ「会社の仕事から解放された喜び」が勝ってるってことなんでしょうね。ところで、マンガを描き始めて2年半で連載を持つって、これは早いほうなんですか?
編集 もう異常なレベルの早さです。めちゃくちゃ早いです。
川島 やっぱり他の人とはちょっと違うものがあったんですか?
編集 そうですね。やっぱセリフですかね。
山内 『東独にいた』、確かに印象深いセリフあるんですよ。
川島 鳥肌立つセリフもいっぱいありますよね。さあそれでは、そんな宮下先生のガチアンケートに行きましょう。最初の質問はこちらでございます。
川島 先生の回答はこちら。
この作品の特徴は主人公が二人いる点です。
敵対する二人の主人公の視点を交互に切り替えながら戦いを描いているので、あまり見たことがない構造になっていて面白いと思います。
あと、他のマンガと差別化するために、かなり実験的な演出をいくつもやっているので楽しんでもらえると思います。
川島 そうなんです。どちらが正しいとかじゃないですからね、この作品は。主人公が2人というのは、もう最初から構想にあったことですか?
宮下 そうですね。2人の視点で交互に切り替えながら戦争を描くっていうのは、ずっとやりたかったので。
川島 「実験的な演出」というのは、具体的にどういったシーンですか?
宮下 鉛筆で背景ばっかりを描いて、6ページセリフなしでやったんですけど、それはけっこう評判が良かったですね。マンガって1ページの中に、コマがあってフキダシと人物があるので、背景が入り込む余地はあまりないんですね。で、「どうやったらマンガの背景を読者の方に意識してもらえるかな」と考えたときに、どうしても6ページくらい必要だったと。本当は30ページやりたかったんですけど。
『バキ』を参考にしている理由
川島 続いては私からの質問でございます。
川島 先生の回答はこちらです。
マンガで参考にしているのは『バキ』が多いですかね。実写やアニメにはできない、マンガ表現ならではの絵の魅せ方がとても参考になります。
あとはアクション映画などからもよく影響を受けているので、『東独にいた』は映画っぽいとよく言われます。
川島 なるほど。『バキ』を参考にされていると。
宮下 『バキ』って、マンガの表現ならではの絵の見せ方が多いんです。
川島 確かに、板垣先生の画力は現実離れしてても説得力が出ちゃいますよね。具体的にはどんなシーン?
宮下 ピクルとジャック・ハンマーが戦って、ピクルのパンチがジャックのアゴにヒットしたシーンです。
川島 ああ、絵の迫力ありますからね。
宮下 実は僕が注目しているのは、活字の使い方なんです。ジャックが「神さま どうか私に勝たせてください」と祈ろうとしているところに、ピクルのパンチが飛んできて、「勝」の文字が途中で消えてしまうという。こういう表現こそ、実写映画やアニメではなかなか真似できない表現だと思います。『東独にいた』でも、それに影響されたシーンがあります。「誰か助けて」の途中でフキダシが消え去ってしまうという。
川島 「誰か助けて」という、その思いをもう消し去ってしまうという圧倒的スピード。これはアニメじゃ無理だわ。
山内 フキダシの字ごと持っていかれてますもん。
川島 「字も絵なんだよ」ということですよね。さあ続いていきましょう。
川島 先生の回答こちらです。
あまり見たことがないマンガを作ることを目標にしているので、マンガの中でも手垢のついていない「東西冷戦」を選びました。
日本人にとって「冷戦」はあまり実感のないものだと思いますが、その分、壁で隔たれた人々のドラマや戦いを描けば、新鮮に受け取ってもらえると考えました。
宮下 せっかくマンガを作らせていただくチャンスをいただけているので、どうせならあんまり見たことがないものを作りたかったんですね。
川島 東ドイツ(旧東ドイツ領)、実際に行ったんですか?
宮下 行きましたね。連載前に現地の方に通訳していただきながら、いろいろ調査をしました。写真も数千枚ほど撮りましたね。
川島 そうか、街並みとか歴史的な背景とか、いろいろ資料になるわけですね。続いてはこちらでございます。
川島 先生の回答はこちら。
評判のいいキャラは“違う顔”という名前の殺し屋です。
通常、恐ろしいキャラを演出する場合はバイオレンスかサイコパスなのですが、そのどちらでもない「あんまり見たことのない恐ろしいキャラ」はどうやったら表現できるのかと試行錯誤しました。
川島 このキャラ、知らない人もいると思うので、山内さん説明をお願いします。
山内 では“違う顔”とはどんなキャラなのか、説明させていただきます。
世界一の殺し屋 “違う顔”
- “違う顔”という通り名を持つ、裏の世界で有名な世界一の殺し屋
- 東ヨーロッパの少数民族で、一族がすべて同じ容姿に成長する「アジャーエフ族」の末裔だが、一族の歴史上で初めて“違う顔”に生まれた
- 年齢不詳で男なのか女なのか性別もよくわからない謎多き存在で、民族の言語ではない自分独自の言語で話す
山内 いやあ、すごい設定。
川島 設定としてまずすごいんですけど、どんな顔にするか悩みませんでしたか? 小説だったら読者の想像におまかせでいいんですけど、マンガは具体的なデザインを描かないといけないわけですから。
宮下 “違う顔”は、僕的には徹底的に普通の顔に描いたんですね。その普通の顔をものすごく凌駕するパーソナリティさえあれば、キャラが魅力的になるんじゃないかなと思って。
川島 これは反響あったでしょ?
宮下 そうですね。「このキャラがいるからこのマンガを読み始めた」という人もいました。
山内 相方の濱家も『東独にいた』が好きなんですけど、“違う顔”があるキャラに対して言う「これを“格が違う”というのです」のシーンを大絶賛してました。
宮下 僕もこれけっこういいなと思っていたんですけど、知り合いの編集者の方からは「こんなのいちいち言葉で説明するなんて」とちょっとお叱りをいただきました。
山内 誰ですかそれ!? 名前出してください!
担当編集も気づかなかった、マンガに込めたネタ
川島 続いてはマンガ沼恒例のこの質問でございます。
川島 先生の回答はこちら。
- 音楽
- お笑い動画・ラジオ
- 薬(腰痛・頭痛・目薬)
- 眼鏡クリーン
- ポーズ人形
- 電動ヒゲ剃り
-
歯間ブラシ
川島 音楽はどういったを聞くんですか?
宮下 Mr.Childrenが多いですかね。
川島 ラジオは誰のを?
宮下 ポッドキャストとかで、過去の放送を聞いてます。僕、くりぃむしちゅーさんが好きなので、よく「くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン」のネタをマンガに入れたりしてます。
編集 いや全く気付かなかったです……。そんなの初めて知りました。
川島 編集さん気を付けて。先生こっそりいろいろ仕掛けてきますよ。原稿もらったら透かして見たほうがいいですよ(笑)。
山内 あぶり出しとかやりそうだから(笑)。
川島 仕事場の写真もいただきました。
川島 モニター2つと、ペンタブで描かれていると。
宮下 連載当初はアナログだったんですけど、だんだんデジタルの割合が増えていって、もう今はデジタルだけになっちゃいました。
山内 先生の中で、『東独にいた』はいま全体の何%くらいまで進んでいますか?
宮下 60%くらいですね。
川島 じゃあ単純に言うと、10巻くらいでストーリーは終わらせられるかなという。
宮下 そうですね。
川島 いやこれはちょっと勿体ない。やっぱりもっと知ってもらわないと。ということでございまして、最後にこの場でサインを描いていただいてよろしいですか。それでは宮下先生、よろしくお願いします。
(サイン執筆中)
川島 ちょっとお聞きしたいんですけど、先生、『進撃の巨人』はお好きですか?
宮下 すいません。本当に普段あまりマンガを読まないんです。
川島 そうですか。なんかちょっと近い匂いを感じてたんですけど……。
宮下 でもそれはよく言われますね。
川島 そうなんだ、それは面白いな。だから『進撃の巨人』好きな人は、絶対『東独にいた』も好きだと思うんですよ。
山内 何回も読めますからね。
川島 5巻読んでまた1巻戻って、みたいな読み方ができるからね。
山内 先生のサイン、完成です!
川島 さらに先生から僕らにプレゼントがあるということですが。
宮下 似顔絵なんですけど……。
川島 ということで我々ファンは連載再開を祈っております。そして『東独にいた』が完結すること、めちゃくちゃ願っておりますんで、先生これからもお体に気をつけて頑張ってください!
次回放送は「川島・山内のおすすめマンガ」後編をお届けします。
(構成:前田隆弘)
【放送情報】
次回放送
読売テレビ●5月14日(土)深1:28~1:58
日本テレビ●5月19日(木)深1:59~2:29
「川島・山内のおすすめマンガ」後編を放送。
(Tverでも配信中!)
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