「今、世界で一番面白い漫画は何?」と聞かれたら、頭の中でいくつものタイトルが同時に浮かびますが、私の口から一番最初に出てくる言葉は「『忍者と極道』です!」となります。私が思う世界で一番面白い漫画は他にいくつもある(矛盾しているようですが本心です)のですが、面白さや人への勧めやすさなど『忍者と極道』のポテンシャルを真っ先に信じたくなるのです。
タイトルからしてストレートです。『忍者と極道』。この5文字に惹かれない人が居るでしょうか。忍者も極道も社会の表舞台には出てこない存在でありながらも、主君のために尽くす忠義者と、暴力によって自分本位で反社会的な行動をとる厄介者という、相反するイメージが対比されています。光と影。陰と陽。太陽と月。忍者と極道。世界を司る美しい対比の1つです。
そもそも、日本で生まれ育った男の子のほとんどは、幼少の頃に移動中に車窓の風景を眺めながら、自分が脳内で作り上げた架空の忍者を屋根の上などを跳び回らせていたことでしょう。そんな脳内忍者とともに育った少年たちは、『忍者ハットリくん』や『忍たま乱太郎』を見て忍者のイメージが良いまま固定されているはずです。そして、思春期に少年から大人に変わる道を探していた時に、様々なフィクション作品で極道という大人の闇の部分に出会うことになっています。真っ当に生きることができなかった極道という大人の存在を知り、少年は大人へと変わっていくのです。そう、日本男子は全員、忍者と極道が好きなのです! 要するに、「男の子ってこういうの好きなんでしょ…?」だけで構成された漫画になっているのです!!
内容に入る前にタイトルの5文字だけでいろいろ語ってしまいましたが、もちろんその内容も素晴らしいです。主人公は、忍者側の新鋭・多仲忍者(たなかしのは)と、極道側の若きリーダー・輝村極道(きむらきわみ)。裏社会で数多の悪事を行い稼業(シノギ)としてきた極道(ごくどう)と、そんな非道な悪事から人知れず市民を守ってきた忍者(にんじゃ)は、江戸時代から300年以上に渡る因縁がありお互いを忌み嫌っています。しかし、忍者(しのは)と極道(きわみ)はお互いをそれと知らずに、趣味(※明らかに『プリキュア』をモチーフにしたアニメ「プリンセス」シリーズ)を通じて惹かれ合う。これがたまらなくエモいのです。作品タイトルも、連載開始当初は『忍者と極道』と書いて「忍者(しのは)と極道(きわみ)」でした。忍者(しのは)と極道(きわみ)の出会いから始まった物語は、それと並行して、忍者(にんじゃ)と極道(ごくどう)のどちらが生存(いき)てどちらが死滅(くたば)るかという壮絶な戦いへと進んでいくことになります。
その壮絶さは、第1話から十二分に伝わってきます。第1話から忍者(にんじゃ)を誘い出すために都知事を拉致して護衛(エスピー)を余興じみた早撃ち勝負で皆殺しにした極道(ごくどう)ですが、そこへ駆けつけた忍者(しのは)によって皆殺しにされてしまいます。
『忍者と極道』1巻36ページ
ページ一面に乱れ飛ぶ極道(ごくどう)達の生首! 一呼吸する間も無く首が飛ぶ! とにかく命が軽い!
このシーンだけ見ると、「いくら悪者相手とは言え、忍者もやり過ぎでは…」と引く人も居るかもしれません。しかし、通して読むとそんな気が微塵もしないくらいに極道(ごくどう)は徹底的な「悪」として描写されており、先程の場面もスカッとする読後感が味わえるようになっています。生首を見てスカッとできることなんてそうそう無いですよ。
『忍者と極道』1巻100ページ2-4コマ目
名もなき極道(ごくどう)がサラッと語っていますが、「女子供10人ぽっち拷問しただけ」とか、倫理観が完全にブッ壊れています。「拷問しただけ」なんて日本語を使う奴はこの現代に生きていてはいけない!
『忍者と極道』1巻188ページ3-4コマ目
生首100個は、そんな「文化祭の準備」のようなノリでみんなで協力して作るものじゃねえ!
この漫画の極道(ごくどう)達は、このように悪事を悪事とも思っていないブッ壊れた倫理観を持っているのですが、そんな非道な極道(ごくどう)達を忍者(にんじゃ)討伐の手駒にして利用しようと目論み操る極道(きわみ)の悪のカリスマっぷりは、さらに偉大(パネ)ェです。
『忍者と極道』1巻133ページ1コマ目
自分の手で倒した忍者(にんじゃ)をひき肉にして歌舞伎町の路上へ放置! 不良が喧嘩をする時の定型文「ひき肉にしてやんよ!!!」を実演してしまう、圧倒的な悪辣さ! 過去のトラウマから笑うことができず友達が作れず孤独な忍者(しのは)と対比するように、極道(きわみ)は常に笑顔を振りまき周りに人が集まってきます。そんな忍者(しのは)と極道(きわみ)を惹き合わせ、逢うたびに熱く語り合うのがアニメ「プリンセス」シリーズ。
『忍者と極道』1巻141ページ1-2コマ目
お前らのことだよ!!!
このシーンの忍者(しのは)と極道(きわみ)のプリンセスシリーズ語りは、いずれそのまま『忍者と極道』の感想に流用できてしまうことでしょう。現時点ではお互いの素性にまだ気付いていませんが、いずれクライマックスで訪れるであろう、敵対関係の裏で育まれし友情が忍者(しのは)と極道(きわみ)…そして読者(われら)の心をかき乱す時を待っています!
忍者(にんじゃ)も極道(ごくどう)も一般市民も、みんなとにかく命が軽く扱われて首が飛びまくり人体が爆散して燃えまくるというケレン味たっぷりの展開に、この記事でも数々引用しているルビ芸のような独特の言語センス。そして、その物語の核となる忍者(しのは)と極道(きわみ)の、友情と敵対が重なり合った関係性のエモさ…。やはり私は今、自信を持ってオススメできます。「『忍者と極道』は、世界で一番面白い!!!」