つい先日のことなんですけどね、東京駅構内の書店のマンガコーナーをブラっと見に行くと、平積みされたマンガに貼り付けられたこんなPOPが目に入りました。
この春卒業するスタッフの推し漫画です。何卒よろしくお願いいたします…!!担当者より
いやー、ムリなんですよね、こういうの。卒業とかっていう字面がもうムリで。情に訴えかけてくるのがだいぶムリで。春を強調する桜っぽい柄が輪をかけてムリでね。そもそも知らねえスタッフが卒業しようが何しようがカンケーなさすぎるううう! って思いつつ買いましたわ。買っちゃうわこれは。ぜんぜん知らん人のラストメッセージみたいなやつをしっかり受け取ってしまいました。この『ROUTE END』(中川海二・集英社)というマンガを。
このへんの心情は説明しにくいんだけど、すごく乱暴に言うと、僕は自分が拒絶してしまうようなものが好き、というところがあるんですね。これひねくれてると思われがちなんだけど、そうじゃなくて、新しいものに出会いたいとき、好きなものから探すより嫌いなものから探すほうが効率いいじゃないですか。だって嫌いだから見たことないしね。
まあ、それはおいといて、とにかくこのマンガを買ったわけです。
そしたら、みごとに面白かったんですよ……。全然ノーチェックだったのが恥ずかしいくらいに。
主人公・春野は「特殊清掃業」。いわゆる事故物件の現場を清掃することを生業としている青年。
なぜこんな人が嫌がる仕事をしているのかと言えば、春野が幼い頃母親が自殺してしまったということのトラウマから逃れるためなんですね。
「十歳の俺は 母の生きる理由にはなれなかった」「十歳の時から俺はそう思って生きている」
死にたいという気持ちから逃れるために、自分のすぐそばに死を置いておくことを選んだわけです。常に死体がそばにある特殊清掃という仕事を。
そこに「エンド事件」という連続殺人事件が起こる。
犯人は殺害した人間をバラバラに切り刻み、その人体パーツを使って「END」という文字を作るド変態です。キャプチャはちょっぴりグロいのでやめておきますね。
そして、ここからヒジョーに入り組んだ、それでいてわかりやすいストーリーが展開されます。事故物件と主人公の家、その家と刑事の女性、事故現場じゃないと興奮できない特殊清掃の同僚……登場人物それぞれが抱える事情が交錯しつつ、ひとつの物語を織りなしていきます。
特に注目すべきは主人公春野が所属する会社『特殊清掃アウン』の橘浩二社長です。橘社長は人格者で周りからの信頼も厚い人柄。主人公春野は、この職業についたことよりも、橘社長との出会いで生き延びたと感じている。
しかし、とある現場に出向く直前に社長が語りだす。
お前が『特殊清掃アウン』の後継者だからな
いいか春野―――終わるんだ
この会話を最後に社長は音信不通になってしまう。
物語はここからグイグイとドライブがかかっていきます。社長からの意味深な最後のメッセージから、春野は事件の深部へと引きずり込まれていきます。
とまあ、そういうマンガなんですが、僕自身は、この社長のメッセージのくだりを読んでしばらくしたところで、アレ!? と思ったんです。最後のメッセージにからぐいぐい物語の内部に侵入していく感じ……これは僕が卒業する書店員からの最後のメッセージ(
冒頭の写真)でこの物語に引きずり込まれたのと同じ構造だ!
と。
まあ、書店員さんがそこまで意識したかどうかは別にして、僕はそういう受け止め方をして、そこでウワ〜〜とアガったわけです。
これはすごくいい紹介のされ方(勝手に?)をしちゃったなあ、と。
このサイト「マンバ通信」は、マンガを読むこと語ることをブーストしたいと思って運営しているですが、新しいマンガの紹介ってほんと難しいんですよね。
僕自身は、批評も好きなんだけど、このサイトでやりたいのは批評ではなくいってみりゃ紹介なんですよ。面白いマンガに出会って読んでもらえたらそれでいい。
でも新しいマンガの面白さを伝えるためには、どうしたってその「面白い部分」を描写しなければならないじゃないですか。でもほんとはその「面白い部分」は読者のためにとっておきたいんですよねえ。
だからほんとはね、信頼できる友人のように「これ面白いよ」って勧めるだけで読んでもらえるのが一番いいと思っています。でも、それには信頼ってやつが必要なわけで。
信頼のない状態で、中身もわからず、作者も知らず、ジャケ買いとかでもなく、オススメされたものを読むみたいな機会はまずないんですが、今回がソレでしたね。
全然知らない店員さんが書いたエモいPOPを、まるでダイイングメッセージのように勝手に受け取って読んでしまったという幸運。マンガとの出会い方は、まだまだ研究の余地があるなあと思った次第であります。
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