かしこ
かしこ
2020/01/18
バタアシ金魚のカオル君みたいになりたい
あなたにとって望月ミネタロウの代表作は何ですか? 私にとってのそれは「東京怪童」なんですけど。こないだ始まった「フレデリック」で【あの「ドラゴンヘッド」と「ちいさこべえ」の作者の新連載がスタート!】と紹介されててビックリしました。あれ!?「バタアシ金魚」は!?と。まあ、代表作があり過ぎるということかもしれませんが…。 私が「バタアシ金魚」を読んだのは10年位前ですが、主人公・カオル君のブレーキが壊れた熱血さが理解できなかった。これは連載当時との感覚が合わないから起こるギャップなのかな?と思ってたのですが、どうやらリアルタイムで読んだ人にとってもカオル君の熱さは時代遅れで、みんなソノコ状態だったそうです。でも圧倒的に表現の仕方が新しくてカッコ良かった!と聞いたことがあります。 岡崎京子のエッセイでも「バタアシ金魚のカオル君みたいに」という言葉がありましたが、カオル君のバカみたいなガムシャラさって、本当はどんな時代でも一番カッコいいことであるべきなんじゃないかと思います。 今、このクチコミを書いてて「ちいさこべえ」の主人公とカオル君って似てるかも?と気づきました。望月ミネタロウが描いている、人間にこうあって欲しいと思う姿(ヒーロー像?)って、初めから変わっていないのかもしれません。
かしこ
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2019/12/14
短編集『心臓』の集大成みたいな読切作品 #読切応援
久しぶりに帰省した主人公は東京で女芸人をしている。父と母は兄の子供である孫に夢中で、90歳を過ぎた祖母はボケてきていた。今現在の時間の流れを主人公の視点で語りつつ、そこにボケて子供に返った祖母の記憶と意識が混ざる構成。 祖母が子供だった頃の村では凶作で食うに困った人達が芸を見せて金をもらい歩いていて、同情した父親が彼らを家に泊めたが、翌朝に物が盗まれていたことがあった。主人公はパソコンの画面越しにネタ合わせしていた相方に「どうして里帰りしたの?」と聞かれ「自分は子供に返りたかったのだ」と気づく。子供に返ってしまった祖母と子供に返りたい孫。二人ともそれぞれの過去と現在のしがらみに苦しんでいる。 物語の最後で東京に帰ろうとする主人公を玄関先で呼び止めて「私からもらったと言うな」と祖母がお菓子を握らせる。おそらく祖母のボケた思考回路の中では、子供心に印象的だった貧しさから盗みをしてしまった人物達と、同じく芸をしている孫を混同しているが、この行為は祖母からの泥棒をしたあなた方を恨んでないというメッセージだと思う。主人公は自分が買ってきたお土産を渡してくる程ボケても子供のように可愛がってくれる優しい祖母だと感じている。 ある意味ここで意思のすれ違いが起きているけれど、同時に祖母も孫も救われている。そこに気づけるのは読者だけ、というのも面白い。 短編集『心臓』に収録されていた作品それぞれに登場したモチーフが数多く見つけられた。高野文子のオマージュのような表現もそう。今回の「あんきらこんきら」で一つの完成形に達したような感じがする。けれども奥田亜紀子の進化はまだまだ続くと確信を持てる傑作でもありました。
かしこ
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2019/11/13
くらもちふさこの良さをギュッと凝縮したような短編
ちょっと誤解しがちなタイトルだと思うんですけど「百年の恋も覚めてしまう」なので「冷めてしまう」話とはちょっと違います。けれどもストーリーとしては主人公の笙子が小学生〜大人になるまでの成長物語で、その時々で好きになった片想いの相手に何度も「冷める」からダブルミーニングでもあるのですが。そういうところもくらもちふさこらしくて面白いです。 小学生の時は魚屋さんちの新田君が好きだった笙子ですが、ママから「あの子目と目が離れてておもしろい顔してるわよねー」と言われて急に新田君のことが嫌いになってしまいます。中学生の時に好きだった広瀬君は声変わりする瞬間を聞いて嫌いになってしまいました。高校生の時は友達に紹介された宇佐美君のことを出会った瞬間から「もう会わないだろうな」と思ってたけど、笙子の本心に気づきながら優しくしてくれた宇佐美君の気持ちを知って切なくなったりしました。大人になった笙子は編集者になり漫画家のおつかいで昔住んでいた町の商店街に行きます。そこには新田君ちの魚屋があって二人は再会します。 ほとんどネタバレしてしまいましたが、あらすじを知っていても心に響く作品なのでぜひ読んでください。こんなに少女の気持ちに寄り添って描けるってすごいです。あんなに好きだったのに些細なことで嫌いになったり、自分の不誠実さに反省したり、誰もが経験したことあると思う。そういうことを大げさじゃないエピソードで語れる素晴らしさもある。現実の人生って細やかなことの積み重ねだから、そこを汲み取ってくれることがとても嬉しいんです。 この短編の為に作られたような一冊ですが、その判断はめちゃくちゃ正しいと思います。
かしこ
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2019/07/26
必読!東村アキコの名作
小学生の時に本屋でジャケ買いをした思い出。「海月姫」「東京タラレバ娘」から人気が爆上がりした東村先生ですが、今の絵柄になったのは「ひまわりっ ~健一レジェンド~」「ママはテンパリスト」で週刊連載と育児を抱えて超多忙になられた頃からではないでしょうか?それ以前はこの「きせかえユカちゃん」のような女性マンガらしい線の細い(自伝的マンガ「健一レジェンド」では祥伝社系とご自身がネタにされていたと思います)絵柄でした。とはいえオシャレな表紙だと思って買ったものの内容は東村節全開のギャグです!ちなみにギャグを描かれたのもこれが初だと思います。しかし個人的な意見を正直に言えば数ある東村作品の中でもズバ抜けて面白い!月刊連載で時間に余裕があったのかなと邪智してますが凝ったネタが多いです。超大好きなのは「ボイン夏の陣」の話。主人公ユカちゃんがお姉ちゃんの彼氏に「お前ボインな女と浮気してないだろうな?!」と問い詰めるんですが、ライバルのボイン含め脇役キャラも主役級に濃くて最高!この「きせかえユカちゃん」があるからこそ私はずっと東村アキコ先生が好きなのです。