麒麟・川島が語る『おかえりアリス』|川島・山内のマンガ沼web

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麒麟・川島とかまいたち・山内が「面白いマンガ」に沼のようにハマって楽しむマンガバラエティ『川島・山内のマンガ沼』。今回は、前回放送の「川島・山内のおすすめマンガ」の模様をお送りします(放送を見逃した方はTVerもご覧ください)。

「男を降りる」新しい性を描いたマンガ

川島 今回のテーマは「川島・山内のおすすめマンガ」。久々ですね。まずは川島からいきます。私のおすすめマンガ、『おかえりアリス』です。読んだことはないですか?

山内 読んだことないです。

川島 6巻まで出てますけど、めちゃくちゃおもろいですよ。ちょっと概要を紹介させてもらいましょうか。

押見修造おかえりアリス』(講談社)

  • 2020年〜「別冊少年マガジン」にて連載中
  • 単行本は第6巻まで発売
  • 幼稚園からの幼なじみである洋平(ようへい)、慧(けい)、結衣(ゆい)の3人の男女関係を描いた青春物語

川島 ベタですけど、幼稚園からの幼なじみである洋平くん、慧くん、結衣ちゃんという3人がいるんですね。男の子2人と女の子、常に一緒にいた3人なんですよ。幼なじみでずっと友達でやってきたけど、中学生になると恋というものが生まれてくるじゃない? メガネをかけた洋平くんが主人公なんですけど、洋平がまず結衣ちゃんのことを好きになるんです。ずっと幼なじみで、あの子ええなあ、いつか付き合えたらええなあと妄想していたんですけど、イケメンの慧が結衣ちゃんとキスしてるのをたまたま見ちゃうんですよ。ああ、2人は付き合ってたんやと。

 ずっと友達と思って3人でやってきたのに、2人が付き合ってるのを自分だけ知らなかったなんて……となるわけです。で、3人の関係がバラバラになっていく。洋平くんは慧くんが話しかけてきても冷たくしちゃうんですよ。お前はもう結衣ちゃんと幸せになっとれ、俺は知らん、みたいな感じになるんです。

 そこから3人はバラバラになるんです。キスを目撃された慧は、どこかに転校しちゃって行方がわからなくなっちゃう。で、それから洋平くんと結衣ちゃんは同じ高校に進学して、久しぶりに一緒になったから、仲良くなろうかなどうしようかなとなっているところに、北海道からめちゃくちゃ美少女が入学してくるんです。誰やあの美少女、とクラスの男の子がざわめき立つんですけど、よくよく話を聞いたら、実はこれが慧くんだと。

 

撮影/池ノ谷侑花(ゆかい)

 

山内 女装してるってことですか?

川島 ナイス質問なんですけども、これ難しいんですよ。女装じゃなくて「男を降りた」という状態で来てるのね。

山内 男を降りた? 完全に女子として。

川島 女装癖があるわけでもないし、女子に憧れてやってるわけじゃなくて、「男という役割をもう私は辞めました」という存在になって帰ってくるんですよ。だからLGBTと言えるかも難しくて。

 で、なんでこんな姿になって帰ってきたのか。私は男に疲れたから、男を降りてこういう状態になったんだと。じゃあ目的が何なんだとなるんですけど、この美しい慧は実は洋平のことが好きだったというんです。じゃあなんであのとき2人はキスしてたんだってことになるじゃないですか?

山内 ですよね。

川島 あのキスは事故的なことだったんですよ。ここは読んでいただきたいんですけど、お互い好きでキスしたわけじゃなくて、実は慧くんが女の子を試すためにキスしてみたものの何か違ったわ……という確認のためのキスやったんですね。それを洋平が見て「この2人は付き合ってる」と思われてしまった。慧くんは洋平が好きだったんですけど、打ち明けられなくて関係がギクシャクしちゃったんで、北海道に転校したんです。それで、新たな自分となって、洋平に愛を伝えるために帰ってきたんですよ。

山内 なるほど。

川島 慧が洋平に愛を伝えても、洋平からしたら「いやお前、慧やろ」と。それはできないよとなるんですけど、高校生の男子って性欲パンパンじゃないですか。こんなに美しい慧がめちゃくちゃ色仕掛けでやってくるんですよ。心理戦というか、もう本当に手を出してくるんです。そうやって、洋平の中にある結衣ちゃんへの気持ちを排除したいんですね。で、洋平は結衣ちゃんのことが好きなんだけど、美人の慧に実力行使で迫られて、何もできないんですよ。欲望に負けて、慧に体を許してしまう。結衣からしたら洋平を慧に取られたのが面白くないので、結衣のほうから洋平にアプローチしていくんです。

山内 結衣はその美少女が慧って知ってるんですか?

川島 知ってる。この3人の三角関係が6巻まで続いてるんですけど、全く飽きないというか、全員思春期という背景があるので、みんなブレブレなところもあるんです。結衣ちゃんは慧に対してマウントを取りたいから、洋平を落とそうとしてくるんです。だから、ちょっと本物の愛とも言えないっていうか。

 洋平としては結衣ちゃんと付き合いたいんで、自分に来てもらうのはうれしいんだけど、結衣が自分のことを利用しているだけだと分かってきて、内心ボロボロになってるんです。マジでこの人間関係だけでここまでおもろくするなっていう。登場人物はだんだん増えてきたんですけど、基本的にはこの3人の心のフォーメーションが変わっていくだけの、誰がどうくっついて幸せになるの?という展開が連続していくんですね。

山内 アリスというのは女装した慧のこと?

 

撮影/池ノ谷侑花(ゆかい)

 

川島 慧くんのことを言うてます。押見修造先生自身が「男たるもの性欲があって当然やないか」「性欲がないと男らしくない」みたいに言われたことがあるらしいんです。そういう偏見に疲れ果てたんですって。私は女性を満足させるような能力はない。じゃあ心は女性なのかというとそれは違う、心は男性だと。これはどういう存在なんだろう。男女という2択には入らない。でも女装したいわけでもない。みたいなところから「男を降りた」というテーマでマンガを描こうとなったと。これは新しい今のマンガですね。

山内 おもろそうっすね。

川島 こんだけ少ない登場人物でようこんな深い話するなっていう。ぜひおすすめのマンガでございます。

病で病を倒す、病医者(やみいしゃ)の物語

山内 僕がおすすめするマンガはこちらです。『不治の病は不死の病.』。

へちぃ不治の病は不死の病.』(集英社)

  • 2020年〜少年ジャンプ+にて短期集中連載
  • 2022年〜少年ジャンプ+にて連載中
  • 単行本は第2巻まで発売
  • 未知の病が降り注ぎ、病が病を生む世界へと荒廃した時代
  • 主人公は治療のためにあまりに変質な治療を繰り返し、医学界から追放されたヤミ医者イクル
  • イクル自身も致死性の高い病気をわざと自分の体内に取り込み、患者を治療しながらの自分の体を痛めつけ楽しむ死性愛(タナトフィリア)
  • さらには死にたくても死ねない不死身の病を抱えていた
  • 死にたい彼が死にたくない世界を救うSF医療冒険マンガ

山内 未知なる病が空からばーって降ってきて、みんながいろんな病気にかかるんですよ。その病気の種類がジョジョのスタンドみたいな感じで、それぞれがいろんな病を持ってるんですよね。主人公のイクルはかかった病が不死の病なんです。「死なない」という病にかかったんです。

川島 それが病気なんだ。

山内 じゃあ主人公が他の病気と闘うってどういうことやねんってなるんですけど、やばい病を持ったやつがその病でいろんな人を襲うんですよ。で、このイクルは不死の病になってるんで、その病気にかかっても死なないんです。プラス、その病にかかったことで免疫ができて、1回かかった病は自分自身から治療薬が作れるようになるんです。それで治療薬ができてしまったら、相手の病を倒せるんですよ。

川島 1回、相手の病気にかかるんだ。

山内 相手の病を取り込んで治療薬作って相手を倒す。だからイクルは、自分の病を倒してくれる病を探して回ってるんです。

川島 それ深いテーマですよね。その病、治っちゃうと死ぬやんって思っちゃうけどね。

 

撮影/池ノ谷侑花(ゆかい)

 

山内 彼はもう死にたいんですよ。

川島 死んで終わりたいんだ。

山内 終わりたいんですけど、治らない不死身の病にかかっちゃってるんで、自分の不死の病より強い病を探して冒険している、というストーリーですね。より強い病を持った敵もいっぱいいて、まだシルエットだけのやつもいるんですけど、どんな病を今後見せてくれるんだろうという楽しみがあります。念能力とかスタンドとか呪術もそういう楽しみがあるじゃないですか。

川島 こういう時代だからこそ、というマンガですね。コロナ禍だからこそ出てきた感じもある。でも、集英社的な王道の要素もあるということですよね。

山内 そうですね。適度に血しぶきも出る。

川島 面白そう。ちょっとネガティブな要素を武器にするっていう。私も読んでみます。以上、おすすめマンガでした!

 

次回放送は「マンガ家ガチアンケート・意志強ナツ子編」後編をお送りします。

 

(構成:前田隆弘

 


【放送情報】
マンガ沼 公式サイト
次回放送
読売テレビ●7月8日(土)深1:58~2:28
日本テレビ●7月13日(木)深2:29〜2:59
「川島・山内のおすすめマンガ」を放送。
TVerでも配信中!)
公式HP公式Twitter

記事へのコメント

川島さんが自然体(態?)で紹介してくれたので、読み出しました。「おかえりアリス」没入感を味わって4巻まで一気に。翌日5・6巻を購入して読んでいます。
男を降りたい 👍良いね。メジャーな作品でこの台詞を読み、少し自分が慰められました。あと作者様の後書きが作品に負けじと濃くて・まぁ共感します。大多数の側で生活してはおりますし、男のえぐい利益を甘受している。実は、、の部分に刺さりました。後書きも
それでは6巻も楽しく拝読させて頂きます。
ご紹介に感謝します。そうでなければ手を出さなかったでしょうね。

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