意図せぬ場所替えが生み出す自分の価値『少女漫画家vsドイツ人』

意図せぬ場所替えが生み出す自分の価値『少女漫画家vsドイツ人』

場所が変われば評価も変わる――こう考えるのは簡単ですが実践するのは難しいもの。しかしこれを想定していなかったドイツ人との恋愛・結婚で実現したのが漫画家、夏目ひらら先生です。この経緯をまとめたコミックエッセイ『少女漫画家vsドイツ人』( 実業之日本社)は「VS」とついているものの、ぎすぎすした雰囲気はまったくなし。日本人とドイツ人の生活や仕事に対する考え方の違いに加え、新しい環境で思いもよらない能力を発揮し評価を得られる姿が描かれています。

 

■こんなに違う、日本人とドイツ人

明治時代の政府が当時のドイツの憲法制度などを参考にしたことから、日本人はドイツ人になんとなく親近感を抱く人が少なくありません。欧州の国の中では自動車などの製造業が盛んという経済環境、生真面目なイメージがあることもこうした感情を抱きやすくしています。

しかし『少女漫画家vsドイツ人』で描かれる日本人とドイツ人は生活スタイルも仕事に対する考え方も差が大きい。もちろんここで描かれたことのすべてを一般化するのは危険ですが、2人の生活からは大小いろいろな違いが見えてきます。

夏目先生はお相手のハセガワ(仮)に日本で出会い、出会った直後に告白されて付き合い始めます。そして4か月半後、ハセガワの休職をきっかけに日本で同棲をスタートさせました。

一緒に暮らすとなるとすり合わせが必要となることのひとつが食事の問題。しかもハセガワはドイツ帰国中にベジタリアンになっており、食事メニューを考えるのも一苦労です。日本で売っている食材には肉類以外にもありますが、多くのドイツ人には馴染みのないものも。2人はときには言い合いをしながら、折り合いのつけられるところを見つけていきます。

こうしたすり合わせを経て、夏目先生は休職期間の終わったハセガワとともにドイツにわたり、結婚に踏み切ります。結婚となればハセガワの家族を含むドイツ人との付き合いも増えます。ここで夏目先生が戸惑ったのは、たとえほかの人と意見が違ってもストレートにいうドイツ人。相手の感情を害しない夏目先生の気遣いは「気遣い」にならなかったのです。

ドイツで仕事を始めるなどしたことから、夏目先生は働き方の違いにも直面します。夏目先生が感じたのは、とにかくドイツ人は仕事を苦しんでまでやらず、常に職場は労働者ファースト。とすると、店舗の営業時間も限られ、かつ相手が病気や休暇で返答が遅れることもあります。ドイツでは、仕事中も人間らしさや寛容さを認めることが求められているのです。

 

■ドイツの漫画事情 異国の地で花開く才能

ドイツに移住した夏目先生は、日本の出版社にネームを送り続けます。しかしなかなか採用されずあきらめかけたところ、ハセガワ(仮)の助力でドイツの出版社にコンタクト。そこで提案されたのが、ドイツの人気キャラクターを日本の少女漫画にアレンジするプロジェクトでした。

それまで日本の出版社にネームをボツにされてきたことで、不安ながら始めた企画でしたが、ドイツ版のコミケでサイン会をするほどの人気に。夏目先生も作中で指摘するように、本人は変わらなくても評価は周りの人やコミュニティで変わることもあるのです。

もちろん日本で成功できない人が全員海外にいけば成功できるわけではありません。夏目先生の場合、ドイツの出版社がマーケティングのために日本人の漫画家を探しており、求められていた絵柄に彼女が得意な分野がマッチしたという事情もあるでしょう。しかし夏目先生が四苦八苦していた日本市場から飛び出て、新しい関係の中で一歩踏み出せたのは事実です。単なるカルチャーギャップの面白さを描くだけではない本作の面白さがここにあります。

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