ママにはそれぞれ死角がある「消えたママ友」

ママにはそれぞれ死角がある「消えたママ友」

TLでチラッと見かけた「消えたママ友」というマンガ。

「ママ友」という言葉とセットで使うことがまずなさそうな、「消えた」というサスペンスワードが付いているのがまず気になった。表紙もめちゃくちゃ怖くて、すごく引っかかったのです。コミックエッセイ的なタッチであるところが、余計に怖さを引き立たせるというか。

もともとは雑誌「レタスクラブ」で連載されていたもの。あとがきによると作者の野原広子は、幸せな奥さんが読んでそうな「レタスクラブ」に不穏なテイストの作品を発表することに戸惑いがあったが、当時の編集長の「誰にでも、後ろ暗い物語に触れたいという気持ちがある」という言葉に後押しされて、描き始めたらしい。

で、どんな話かというと。

ある日、仲良しのママ友・有紀ちゃんが、息子のツバサを置いて姿を消した。
保育園ではまたたく間に「男と逃げた」という噂が広まっていく。
有紀ちゃんと仲良しだった春ちゃん、ヨリちゃん、友ちゃんの3人は、有紀ちゃんが消えたことにショックを受けると同時に、彼女が消えた理由を何も知らないことにもショックを受ける。
しかし3人には有紀ちゃんについて、それぞれ思い当たることがあった。
「なぜ消えたのか」
春ちゃん、ヨリちゃん、友ちゃんは日々の暮らしの中でその問いに向き合っていくが、有紀ちゃんが消えたことでママ友3人の関係にも、少しずつ亀裂が生じていくのだった…。

4コマの形式(4コマ✕6=24コマで1話分)で描かれているので、非常に読みやすく、サクサクと読めるのだけど、しかし内容的には全然サクサクしてない。ついページをめくる手が止まってしまうような場面があちこちにある。

「なぜ有紀ちゃんは突然消えたのか?」がストーリーを引っ張る軸になっているのだけど、これねえ、どんどん読み進めていっても、その理由がさっぱりわからない。もちろん最後まで読めばわかるんだけど、そこに至るまでは「え、これって…」みたいな「疑惑の断片」が出てくるばかりで、その断片がつながっていくわけではない。だから謎がだんだん明らかになるどころか、読めば読むほど謎が深まるような展開になっている。「好書好日」のインタビューの中で、インタビュアーが「ゴーン・ガール」を引き合いに出していたのは、うまいたとえだなと思いました。

「疑惑の断片」というのは、たとえばこういうやつ。

「これ、友達の話なんだけどさー」と言って、ふだん大っぴらに言えないことを言う…というのは、わりとあるあるの話。「死にたい」と思っていたのはきっと有紀ちゃん自身で、何か重いものを抱えていたんだろう…くらいはなんとなく想像がつく。でもその「重いもの」が何だったのかは、なかなか見えてこない。

「ママ友なんて、あくまでも子供を媒介にしてつながっているだけの特殊な関係」と言うこともできるけど、このママ友4人組が仲良しだったのは間違いない。でも「仲良し=お互いのことを深く知っている」ということではない。有紀ちゃんには、他のママ友3人には見えない(見せていない)「死角」があった。

その「死角」について、3人それぞれが思いを馳せるうち、春ちゃん、ヨリちゃん、友ちゃんにもまた「死角」があることがだんだん見えてくる。ママ友にも、夫にも、義父・義母にも見えない「死角」が。

春ちゃんの場合。

ヨリちゃんの場合。

友ちゃんの場合。

その「死角」がまた、誰にでも起こりうる/身に覚えのあるようなものばかりなのだ。有紀ちゃんの「死角」をチラつかせつつ、3人の「死角」を描いていく…このマンガの真骨頂はきっとそこにある。

その過程で、ママ友たちに起こったある「事件」も描かれる。「事件」と書くとすごい意味深だけど、中身は「子供が保育園で誰かに靴を隠された」というもの。他愛もないっちゃ他愛もない。しかし、ここから少しずつ関係性に亀裂が生じていく。その描き方が非常に丁寧で、身につまされる。他の作品は未見だけど、こういう部分を丁寧に描けるのがこの作家の強みなのだと思う。

最後まで読めば、消えた理由は明らかになる。なるんだけど、大団円という感じではない。「ママ友たち(というかママたち)は、常日頃からギリギリのバランスの中で生きている」という感覚だけが自分の中に強く残る。ラストのコマも印象的です。

ストーリーの話ばかり書いたけど、コミックエッセイ的な線の少ないタッチで、細やかな感情をしっかり描き分けているのも見事だと思う。「消えたママ友」、コミックエッセイ慣れしてない人にも勧めたい一作です。

記事へのコメント

メチャクチャ読んでみたくなった
あえてコミックエッセイ風の絵柄で描く手法いいな。エッセイとフィクションの境が曖昧になる

消えたママ友読んでますけど、

有紀ちゃんの「死角」をチラつかせつつ、3人の「死角」を描いていく…このマンガの真骨頂はきっとそこにある。

ここの文章でなんかすごい腑に落ちたというか、納得感がすごいある…

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