「いろいろやっておこう」を後押しする『中年女子画報』シリーズ

『中年女子画報』

生きている限り、歳を重ねることからは逃れられません。特に女性はこれまで歳を取ることをネガティブに捉えがちだったため、「保護者でも子供でもなく組織や仕事の看板背負っているわけではない女性」は、漫画やアニメといった創作物の中でもなかなか登場しませんでした。しかしこの動きは少しずつ変わりつつあります。40代女性の恋愛を描く漫画が登場する一方、コミックエッセイの分野では漫画家経験の長い方々のエッセイが登場してきました。柘植文さんの『中年女子画報 』(竹書房)もそのひとつ。最新刊の『中年女子画報~ためらいの48歳~』では、中年を自覚した柘植さんが、折り返しに来た人生で「色々やっておかなきゃ」とアクティブに挑戦する姿が描かれます。

26才で初めて漫画が雑誌に載り、漫画家として作品を発表してきた柘植さん。40才になり「正しい中高年」を目指そうと雑誌で勉強し、雑誌を見て気になった写真や言葉を切り抜いて1枚の紙にまとめる「ビジョンマップ」を作り、「中年が楽しむべきことはなにか?」を模索していきます。連載開始当初は40才になったことに心を乱し、50代に向けて何をするべきか迷う作者ですが、徐々に「人生折返し 色々やっておかなきゃ」の精神で多くの活動に挑戦します。

登山や美術鑑賞など「中年ぽい」と作者が思う趣味に挑戦したと思えば、広角の下がりを気にして国立天文台の定例観望会へ。若い編集者の態度からヤングとの違いに思いを馳せ、そして旅に出る。若いころのような体力はなく、健康や老後のお金と不安はあるものの、その不安に悩むよりも「やってみたいと思ったことをやってみる」の精神で作者は前に進みます。

その姿は、連載が進むにつれて歳を重ねてうまく力が抜けていくようも見え、若い人は先の備えに、同じ世代は「ああ、わかる」を楽しめます。最近、公園の緑の中で何もしない時間を過ごしている私としては「道端の草花に目が行く」「中高年になると自然を愛でたくなる」という指摘にうなずきました。身体に不具合も出てきますが、それはすでに回答があるもの。作者は「先人たちの経験により作られた『老いレール』の上を進むのは安心感がある」と表現します。

実は、こうした「保護者でも子供でもなく組織や仕事の看板背負っているわけではない女性が中年になって楽しそうにしている姿」は日本の漫画やアニメでは実は限られたものです。エッセイコミックも含め漫画やアニメでこれまで描かれてきた「女性」は「これから恋愛に向かう若者」「子育て中の親」「子供や親戚との関係に悩む老後」「知恵を出す存在としての刀自」が中心。特にリアル社会を舞台にしている作品では顕著で、いずれも血縁関係もしくは組織の中でなんらかの役割を背負って登場します。もちろん彼らの姿は同じ性別の女性読者を惹きつけますが、『中年女子画報』のように「結婚もしていないし子供もおらず働き続けている女性」の姿はなかなか見えてきませんでした。

ただ創作物の中で「結婚もしていないし子供もおらず働き続けている女性」がまったくいなかったわけではありません。文筆家の岡田育さんは映画『マレフィセント』から『更級日記』で作者の菅原孝標女に源氏物語を送った人物まで、幅広いコンテンツの中から中年女性が目標にできる「おばさん」の姿を探し出し、『我は、おばさん』(集英社)にまとめられました。岡田さんは著書を通じて、「おばさん」を前向きに捉え直すこと、それを通じて上の世代からの負の連鎖を自分たちの代で断ち切りつつ、その重ねてきた経験を通じて若い世代の苦悩や辛抱、重荷を肩代わりする存在になりたいと指摘します。

この岡田さんが提案する「おばさん」になる前提には、そもそもまずは「おばさん」自身がその人生を楽しんでいる姿がなければ、成立しないのではないかと思います。「おばさん」が苦しみや辛抱だけを見せていては、そもそも次の世代は重荷すら見せてくれない。とすると、『中年女子画報 』のように自分の行く先の人が楽しそうにしている姿は純粋に嬉しく、中年女性が歩めるかもしれないレールのひとつを見せてくれるといえます。もちろん、描かれていることがすべてではないとわかっていますし、置かれている状況によって悩みが違うことも重々承知ですが、漫画を通じて現実社会でなかなか身近に見つけにくい「中年女性の目指したい/目指せる姿」に会える日が近づいているといえそうです。

 

記事へのコメント

目標にしたいおばさん像は自分の中で持っておくに越したことはないですね。
中年女子画報は前から読みたいと思ってました。同時に岡田育さんの本も読みたいです。

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