恋が続く相手は、一目ぼれした人か、長く付き合ってきた友人か。小木カンヌさんの『報われない恋の占い方』(双葉社)が描くのはこんな究極の悩みを突き付けられる人の姿です。長く続いた片思いのあとに、告白されても簡単に受け入れられないもどかしさも描きます。
物語は占い師として働くゲイの美波のところに離婚した高校時代からの親友、北原が泊めてもらえないか頼むところから始まります。美波はずっと北原に片思いをしており、北原が結婚・離婚を繰り返してきたのも親友として見てきました。北原の恋愛相手が女性で自分は当てはまらないと思ってきたからこそ親友のままでいた美波ですが、美波による占いの間に「女より男の方がうまくいくかもよ」と言われたことをきっかけに、北原は偶然出会った美波の元カレの日比を恋愛の相手として意識し始めてしまいます。
美波としては自分を恋愛相手として意識してほしかったのに、占いの間に口にしたことが裏目に出てしまったパターン。焦った勢いで北原にキスをしてしまいますが、そこまでされても北原にはずっと親友だった美波を恋愛相手として見るという考えは浮かんでこない。北原は「恋愛相手は一目ぼれした相手」と考えているからです。
結局北原に押し切られる形で、美波は日比を交えて3人で何度か食事にいくことになります。この均衡状態は美波が勢いで北原にずっと好きだったことを告白することで崩れます。普段とは違う表情と勢いに、さすがの北原も美波とこれからどういう関係でいたいのかを考えることに。友人のままでいるのか恋人同士になるのか、美波の告白で今後の2人の関係を決めるボールは北原の方に移ります。しかも北原が覚悟を決めて告白をしても、「恋愛相手は一目ぼれした相手」という北原のこれまでの恋愛遍歴を知る美波はすぐには受け入れられません。北原は、不安を抱える美波に恋人になってもらうために言葉を尽くすことになります。
恋愛物語の醍醐味のひとつは、外側から見ている読者からすれば気持ちがお互いに向いているはずの2人がなかなか踏み出さない時期をどう描くかにありますが、『報われない恋の占い方』もそこが上手いです。読者は北原と美波の心の声がわかる分、「早く直接伝えようよ」と思いたくなりますが、北原が友人を恋愛相手から外していることに加え、美波は「せめて友人という立場は失いたくないという思い」を抱えています。告白をして拒絶されたら友人ですらいられなくなるのではないかーーこうした懸念が美波に強いからこそ、一歩踏み出せない時期に説得力が出てきます。
『報われない恋の占い方』の特徴は、こうした長い付き合いの友人が恋人になるときの不安や懸念をうまく物語の展開にいかし、恋愛におけるハードルを作っているところにあります。美波が北原との関係を切りたくないと思うからこそ、このハードルは高くなります。ラストで北原が美波に告白したあともこの思いがあるからこそ、一筋縄ではいかないと描けるのです。
『報われない恋の占い方』でこの葛藤を崩すのは、北原の言葉です。これまで一目惚れに頼って恋愛をしてきた北原ですが、美波の言葉をきっかけにそもそも自分にとってずっとそばにいてほしい相手は誰かを考えることになります。これまで北原に振り回された女性陣には気の毒ですが、彼にとって「誰よりもそばにいてほしくて、相手にいつも自分のことを考えてほしい」という相手はずっと親友だった美波だったということになります。
2人がそれぞれの葛藤を乗り越えてお互いの気持ちを確かめる物語は、BLで描く王道の恋愛物語といえます。若いときほど思いきれない大人が一歩踏み出す瞬間を見たい方に是非読んでいただきたいです。