うつ病でない人のためのうつ病漫画『マンガでわかるうつ病のリアル』

 世界的に患者が増えているといわれているうつ病。しかしほかの病気と同様、周りに実際にかかった人がいなければ患者が何を考えているのかなかなかわかりません。また患者本人が常に適切に状態を伝えられるわけではありません。そんなうつ病の人との周りの人をつなぐのが錦山まる先生のエッセイコミック『マンガでわかるうつ病のリアル』(KADOKAWA、以下うつ病のリアル)。うつ病にかかった人が何を考えているのかが少し垣間見えると同時に、周りの人がどうするべきかを教えてくれます。

 

<生々しい体験談>

 『うつ病のリアル』は忙しい仕事でうつ病になった女性とその友人の会話を4コマ漫画にしたものです。「自分がたるんでいるだけ」と思って仕事を頑張るも重大なミスが続いていた中で、精神科で「重度の抑うつ状態の条件を満たしている」と告げられるところから物語が始まります。親身になってくれる友人との会話から、抑うつ状態になっている人がどういう状態に陥るのかを説明していきます。

 錦山先生ご自身がもともとうつ病患者であったことに加え、コミックのためにほかの患者の方々にリサーチをされているためうつ病患者が苦しんでいることはすごく具体的です。曰く、入浴など日常生活が厳しい、美容院に行くのすらつらい、家事もできない、好きなことにも興味がなくなるなど。サルのキャラクターからツッコミが入りながらも生々しい実態が明らかになります。しかし一緒に書かれる解説をみると「なるほど」と納得できるものばかり。「そんなことあるわけない」と否定せず、聞き入るに価値ある経験談です(というより、私も疲れてくると家事ができなくなるので他人事ではありませんでした)。貴重な精神病院の閉鎖病棟のエピソードもあります。

 

<うつ病の周りの人のためのメッセージ>

 『うつ病のリアル』が伝えるのはうつ病の実態だけではありません。抑うつ状態になった女性の友人とのやりとりからなるそれぞれのエピソードでは「うつ病の周りの人がどうするべきか」というメッセージも込められています。うつ病でない人に必読です。

 例えばうつ病の症状が少しよくなると、仕事など決まった時間に責任をもってしなければいけないことはできなくても気分転換の外出などはできるようになります。しかし仕事をしている人からすると、たとえ病気で休んでいるとはいえども「ズルい」と思ってしまうもの。錦山先生はこうした感情は人間として自然な流れと認めつつも、「本人に感情をぶつけず、見えないところで吐き出してほしい」と訴えます。これ以外にもうつ病には波があることを知らずに「そろそろ仕事に戻れるんじゃない?」と声をかけること。ありがちですが、患者本人に無理をさせてかえって悪化させることになるそうです。これ以外にも安易に民間療法を薦めない、運動して筋肉をつければ治るなど簡単に言わない、などついつい親切心でしてしまいがちな避けるべき言動がまとまっています。うつ病の人が周りにいる人にとっていい手引きのひとつになります。

 

<誰でもうつ病になる可能性はある>

 それでも「私や私の周りの人はメンタル強いしうつ病になんかならない」「うつ病になるのは心の弱い人だ」という考えてしまいがちではないでしょうか。しかし『うつ病のリアル』でも触れられているようにうつ病についてはまだ研究の最中で、どのような原因でうつ病になるかははっきりしていません。日本人が生きているうちにうつ病になる確率は人口の3~7%といわれています。自分や周りの人が、今うつ病でなくてもいつかなる可能性があるは十分にあるのです。 

 実際、最近は著名人がうつ病歴を明らかにするケースが増えています。最近は棋士の先崎学氏が『うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間 』(文藝春秋)を公表しました。精神科医師やアスリート、芸能人にも抑うつ状態であることを明らかにする人も少なくありません。たとえ病院で判断される抑うつ状態でなくても、「なんとなくいつもと精神状態が違うな」「いつもより落ち込んでいる」と思うこともあるでしょう。そうした「万が一」に備えて『うつ病のリアル』で「予習」しておくのも悪くありません。

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話題に出た作品のクチコミ

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沼袋
2020/06/02
とても読みやすいうつ病エッセイ漫画
明確な原因はわからないけれど、うつというものは気づかないうちにじわじわと近づいてくるものなんだなと、やはり他人事ではないんだなというのを改めて実感した1冊でした。 本書は、将棋界へ復帰できるかどうかというところで、精神科医であるお兄さんに闘病について文章にしてみるよう薦められて終わりますが、ウィキペディアによるとその後にしっかり復帰されたようでホッとしました。 うつと向き合う中で、少しずつ回復傾向であると思っても、その日のうちで調子の良し悪しに波があったり(夜は元気でも朝起きると悪くなっているとか)、文字が読めなかったり、将棋の初歩の初歩すら分からなくなっていたりと今まで当たり前にできていたことが出来なくなるというのはどれだけ辛いことだろうと、読んでいて心配になるんですが、自暴自棄にならず医者からのアドバイスも素直に聞き入れ、将棋への意欲が再び芽生えたことに喜びを感じられたからこそ復帰までたどり着けたんだろうと思います。 やはり受診する病院や医師によって良くも悪くも左右される病気だと聞くので、身内に優秀な精神科医がいたことが幸運だったと思います。しかし兄は精神科医、弟はプロ棋士となんと優秀な家庭だろうと、うつと関係ないところでもなかなか興味深い部分がありました。 最後の方に羽生善治棋士と少し会話するシーンが有るのですが、なんとなくクスッと笑ってしまう微笑ましさがありました。