『アステリオス・ポリプ』の登場人物たち

『アステリオス・ポリプ』の日本語版出版のためのクラウドファンディングが開始となり早3週間となった。まだまだみなさまの翻訳企画へのご参加をお待ちしている。参加を考えあぐねている方のために、そして(たいへんありがたいことに!)すでに翻訳企画にご参加いただき、本書が手元に届くのを待ち望まれているかたのために、今回は『アステリオス・ポリプ』の登場人物たちを紹介させていただければと思う。

 

図1 『アステリオス・ポリプ』書籍見開き

 

前回クラウドファンディングの紹介の記事では、この本のグラフィックノベルならではの視覚的なしかけの楽しさや、本自体のこだわりや美しさについてご紹介したが、『アステリオス・ポリプ』はいちど遭遇したら忘れられないようなたくさんの個性的な登場人物たちもその大きな魅力のひとつである。

ぜひ今回の登場人物紹介をみて『アステリオス・ポリプ』への興味を一層高めていただければ大変ありがたい。また、このクラウドファンディングは成立しなければ手元に本をお届けすることができないため、少しでも興味が湧いたらぜひ企画へのご参加をお願いしたい。

 

アステリオス・ポリプ

図2 この物語の主人公 アステリオス・ポリプ

 

この物語の主人公 アステリオス・ポリプは6月22日生まれの蟹座。ちょうど50才の誕生日に自宅アパートに雷が落ち、着の身着のまま焼け出されることになる。アステリオスの誕生日は 6月22日で、1日早く生まれていれば双子座だったということが実はこの物語において重要な意味を持っている。アステリオスは建築家だが「ペーパーアーキテクト」で、彼の設計した建築物が実際に建設されたことはない。自分本位な性格で、妻の言動を軽視していたために妻のハナを失うが、まだハナに並々ならぬ未練がある。

 

アステリオスの両親 

図3 アステリオスの両親

 

アステリオスの父は子供の頃にアメリカに移民として渡ってきた。名字が長かったため、その際にエリス島の係員から最初の5文字だけ残して半分にされてしまい”Polyp”となった。この「半分になる」ということが、父親の名字から脈々とアステリオスにまで引き継がれるポリプ家の象徴となる。

アステリオスの母は、卒中を起こして寝たきりとなった夫の介護を長く続けているが、たまに遊びに来た息子に思い出話をすれば「それもう聞いたよ」と言われてしまう。

 

ハナ

図4 アーティストであるハナ、アステリオスの元妻

 

日本語で「花」というという意味の名前を持つハナは、ドイツ系アメリカ人の父と日本人の母のもとに5人兄妹の末っ子として生まれる。両親が女に大学教育は不必要という考え方だったため、一流芸術大学を全額支給奨学金で卒業し、ショーウィンドウのデザインをしながら大学院を卒業した。努力家でとても優秀なアーティスト(造形作家)であるが、彼女の生い立ちは作中で明かされるように、常に男兄弟の影に隠れていたために自分に自信がもてず劣等感を感じている。男性中心的な社会ではスポットライトから外れてしまう存在であり、その出自からアメリカ社会では二重のマイノリティである。愛猫家でノグチという猫を飼っている。(おそらくイサム・ノグチに由来)ハナの造形に関して、デイヴィッド・マッズケリは日本の少女漫画を参考にハナの目を大きな目にしたと語っている。(※小野耕世 『世界コミックスの想像力』青土社)

 

メジャー家のスティフ、アースラ、ジャクソン

図5 アポジーの街でアステリオスがその家に居候することになるメジャー一家

 

家を焼け出されたアステリオスが手持ちの現金で「これで行けるところまで…」と買ったバスのチケットでたどり着いた先はアポジーの街だった。アポジーの街でアステリオスは、メジャー一家の父スティフの自動車修理工場で働き、メジャー家に居候することとなる。

メジャー家の主人 スティフは、勝手にアステリオスに部屋を貸す約束をしたことでアステリオスの前で妻 アースラにものすごい勢いで怒鳴りつけられたりしているので、どうやらアースラに頭があがらないようだが、イラストからも伝わる通り温厚で子供思いの父親だ。アースラ曰く「スティフは人を見る目があるのよ」とのこと。突然、車の修理工場にやってきたアステリオスのことを「ムショ帰りかと思った」にもかかわらず即決で雇ってくれる気の良い男。

メジャー家の女主人 アースラは、強烈な個性の持ち主である。本人曰く前世はネイティヴ・アメリカンのシャーマンで、今までに何度も生まれ変わっている(本人談)。占星術に凝っており、アステリオスが居候することになるとその誕生日を聞き出し、チャートを作った上で、アステリオスの部屋の最も縁起の良い位置に家具を配置してくれるが、その配置をよく見てみると椅子は横倒し、机は逆さまである。愛煙家でつねにタバコをふかしている。初対面のアステリオスに対して「ここにいる間にアタシに恋をしてもかまわないわよ、みんなそうだから。アタシは女神なの」と伝えてアステリオスと私たち読者を驚かせるが、何度も物語を読み返すにつれてどんどんその魅力にひきこまれてしまう。

スティフとアースラの子供、ジャクソン。ジャクソンにはロニー・ダグという友達がいるらしいが…?メジャー家の場面にリズミカルな存在感と活気を与える存在である。

 

図6  アステリオスにとって最も縁起の良い家具配置(アースラ談) 。ちなみにこのシーンでアースラは「これがアタシが思いつく限り最高に縁起が良い配置だから、なにひとつ動かさないほうがいいわよ」とアステリオスに言っている。

 

ウィリー・イリアム

図7 謎の振付師 ウィリー・イリアム

 

ウィリーは突如アステリオスとハナの前に現れた謎の振付師。本人は講演会に呼ばれたと言っているが誰も呼んだ記憶がない。ハナに自らの企画する舞台セットと衣装のデザインを依頼するが、毎回食事の会計はハナに払わせている。ダンサーたちが背の低い自分を尊敬しないことを根に持っており、ハナにそのことを愚痴っている。

 

ハナの愛猫 ノグチ

図8 ハナの愛猫ノグチ

 

『アステリオス・ポリプ』の中で最もハナと強い絆をもつのが愛猫ノグチである。野良猫の母から生まれ、兄弟の中でいちばん小さかったため体が弱く、ハナは一緒にいることに決めた。ノグチは作中で2人の人物に飛びかかっているが、本書をお読みいただく際には、ノグチが誰に飛びかかっているかに注意してほしい。その2人になにか共通点がないだろうか?愛猫家ハナはこう言う「猫は嘘をつかない」

 

このように『アステリオス・ポリプ』にはたくさんの個性的なキャラクターが登場するが、物語上で直接関わることのない登場人物同士の行動やセリフがリンクしていたりする。かなりページが離れてから別の人物から繰り返されるセリフなどもあるため、注意深く見ていないと見逃しそうになってしまうが、それを発見したときの喜びと楽しさもまた格別である。また、発見したあとにその理由を考えると、また新しく作品の読み方に気づくことがあり、本当に奥深い作品である。

各登場人物紹介の図版をみて気づかれた方もいらっしゃることと思うが『アステリオス・ポリプ』では登場人物ごとに吹き出しの形・セリフのフォント・大文字と小文字の使い分けがその人物の特徴を示すものとして用いられている。このようなしかけも登場人物の性格や特徴を表す表現方法であるとともに、読者にとってもページをめくるたび新しい発見となる。

日本語版製作の際には、書体などもオリジナル版に忠実に再現されることとなる予定だが、文字が全く異なる性質のアルファベットがどのように日本語のフォントに置き換わるのか、私もとても気になっている点なのだが、ぜひその点も楽しみにしていただきたいポイントだ。

現在4週目に突入した『アステリオス・ポリプ』のクラウドファンディングへのご参加を引き続きお待ちしております!

 

『アステリオス・ポリプ』日本語版出版クラウドファンディングページ

記事へのコメント

前回の記事でこちらの作品を知りましたが、本当に色使いが美しく、洗練された雰囲気と可愛らしさを兼ね備えたデフォルメが素敵ですね。ぜひ日本語で読んでみたいです。

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