シェアファミ!

ワンオペ育児の大変さとその緩和策

シェアファミ! 日下直子
兎来栄寿
兎来栄寿

『大正ガールズエクスプレス』など、男性でも読み易い少女/女性マンガの名手である日下直子さんの最新作。ワンオペ子育てに限界を感じている三人のシングルファザーが、ルームシェアして一つ屋根の下で助け合いながら育児をしていく物語です。 開始4ページで登場する、出産・育児に対する世間の無理解。嫌な「あるある」ですが、世の中にこういう人や臆見は多いよな、と思ってしまいます。 逆に、主人公がいが自分一人だけで双子の育児をせねばならぬとなった時の想像できなかった苦労、そして一杯一杯の時に自分以外の大人が家にただいてくれるだけで救われる心地など、子育てを経験した人にとって思わず共感してしまうであろう描写が多数。 誰にも頼れずに孤立してしまい一人で抱えて苦しむことがが子育てで最も辛い時であると思いますが、それを緩和するための一つのやり方として現実的にも有り得る選択肢だと感じます。勿論、条件は難しいですし赤の他人と突然暮らすことで生まれる問題なども生じます。その辺りにもしっかり手は入れられています。その中で出てくる「基本的に他人に期待するべきではない」「けれど他人はたまに期待を超えてくる」という件は正にその通りだなと。 読むと子供を育てることの大変さが解り、現在や未来のパートナーを労わる気持ちが生まれるかもしれません。その内実写化されそうな内容です。

柚子森さん

JSvsJK、魂のどつき愛!

柚子森さん 江島絵理
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

公園で出会った小学四年生の柚子森さんに、心奪われた女子高生のみみか。友達になるも、これは恋?変態?と揺れ動き、挙動不審のみみかに対して、常に無表情の柚子森さん。この二人、どうにかなるの、この先? —— 当初は、友達になれて舞い上がるみみかが、柚子森さんに過剰反応して赤面し、震え、発汗する変態的な画面が続く。柚子森さんと友情を結びたい一方で、恋情や欲情じみた感情が溢れ出すのを、何とか止めようとするみみかが、切なくて泣ける。 柚子森さんは大人びていて、家庭でも学校でも、つまらなそうにしている。しかし、みみかに対しては、次第に色々な感情を見せ始める。 絆が深まり、柚子森さんがとうとう気持ちをぶつける、その時の目力と、大粒の涙に、こちらも涙が溢れてしまいそうになる。 想いが生まれ、堪え、溢れ出し、どうしようもなく、相手にぶつける。そこから逃げ出せば、相手とすれ違うし、臆せず立ち向かえば、強い絆が生まれる。そういう場面を何度も描き、突きつけてくるこの作品。 大人も子供も関係ない。強い感情を持ってしまった者同士、拳(と書いてハート)を交えなければ、何も始まらない。 そう、恋をするなら、きちんと戦わなくてはいけないのだ。 ……そんな意外と熱い、年の差百合のお話。

堤鯛之進 包丁録

食べて、働いて、生きる。古来から変わらぬ人の営み

堤鯛之進 包丁録 崗田屋愉一
兎来栄寿
兎来栄寿

歴史サスペンスハートフル疑似家族グルメマンガ。一冊の中に色々な要素が詰まっていますが、冒頭で梅干しと鰹節を煮て煎酒を作るシーンに象徴されるように江戸を舞台に非常にシズル感の高い食のシーンにフィーチャーした作品です。 実際に17,8世紀に記された『料理山海郷』等の本の記述にあるレシピを元に、服より食に財を注ぐ主人公が料理の腕を振るっていきます。鰯を煮詰めたり、柿の美味しい調理法を語ったりする時の生き生きとした雰囲気に、読んでいる方もワクワクしつつお腹が鳴ってきます。崗田屋愉一さんの高い画力と語り口のハイブリッドによりあまりにも美味しそうで、メシテロ的な意味で暴力的とすら思います。 そして何より 「ごちそうさまでした これで今日も生きられます」 と、主人公が味を隅々まで堪能した後に食べた命に手を合わせて感謝をする姿に心が洗われました。ああ、良いマンガだな、と。 中盤で事件が発生し子供を預かることになるのですが、躾の様子も微笑ましく、頷く所もあり、子を育てるという営為も加わってより「人が生きる」姿とその良さをありありと描いた作品であるなと感じられました。 『極楽長屋』と同じ舞台で同じキャラも登場しますが、こちらから単独で読み始めても一切問題ありません。癖はありながらも、皆気立ては良い長屋の人々も魅力的です。 全1巻なのが勿体なくもっと長く読んでいたくなる良いマンガです。

坂口尚幻想短編集

途方もない歩行者

坂口尚幻想短編集 坂口尚
(とりあえず)名無し
(とりあえず)名無し

本書はカバーに「潮出版社」とあるが、イラストやデザインは奇想天外社版『魚の少年』と同一である。この潮版を読んでいないのだが、推測するに、奇天の二冊『魚の少年』と『たつまきを売る老人』を「幻想短編集」として合わせているのだろう。なので、このクチコミは『魚の少年』を念頭に書く。 坂口尚は、そのそれほど長くなかった人生において、漫画家として著名であったとは決して言えない。 瞠目すべき長篇三部作『石の花』『VERSION』『あっかんべェ一休』(遺作)はもちろん、『12色物語』に代表されるすべての短編が、とにかくあらゆる点で、目も眩むほどのクオリティーと誇り高き魂を備えた、途轍もない存在であるのだが。 1995年歿、享年48。 この圧倒的才能が歩んだ孤高の道程は、キャリアの最高潮で突然途絶えてしまった。 アニメーターとしても、安彦良和が“「坂口尚? えっ あの天才が? もったいない あなたのような人が!」とサンライズの面接に来た坂口に驚いた”(Wikipediaより)というほどの達人であった。 早逝が本当に惜しまれてならない。 それにしても、この初期短篇集が放つ「輝き」の美事さはどうだ。 漫画やイラストレーションから絵画の技倆までを融通無碍に繰り出しながら、卓越したアニメーターによって初めて可能な「動く」表現も活き活きと操る、まさに「見る快楽」に満ちた画面。そして、そこで語られる言葉は、優しさに溢れながら甘いところが微塵もない、優れた詩人のものだ。 坂口尚の著作は、これまで何度も何度も版元を変えて出版されている。 もちろん編集者に熱心なファンが多いからだろうが、一方で、常にそれほどの部数が出ず絶版を繰り返していることも意味しているのだろう。 だから今こそ、未読の人に心から坂口尚を薦める。 漫画史に存在した最良の才能のひとり、と言っても、まったく過言にはならないのだから。

信長を殺した男~本能寺の変 431年目の真実~

<祝大河ドラマ決定>明智光秀のもう一つの真実

信長を殺した男~本能寺の変 431年目の真実~ 藤堂裕 明智憲三郎
六文銭
六文銭

来年の大河ドラマは明智光秀ですね。 (昨今、配役にごたついておりますが…) 本作は、そんな明智光秀を主人公にした歴史作品ですが、他とは一味違います。 明智光秀といえば「謀反おこして、織田信長を討った悪役」という印象でしょうか? この作品は、実はその謀反を「誘導した人物」がいるという、歴史の真実を暴く内容となっております。 その人物とは一体誰なのかっ!?   ・・・まぁ、羽柴(豊臣)秀吉なんですがね。 実際、明智光秀を討ち取ったのも秀吉ですから、そうなりますね。 その根拠として ・当時、中国地方の毛利と戦をしていたので、あんなに早く京都まで帰還できるはずがない ・信長に援軍を要請したのも秀吉だった ・その後の秀吉の天下への野心 などとしているのですが、実際どうなんでしょう? ここらへんは意見分かれそうです。 そもそも歴史は勝者のものだし、死人に口なしでは、何が真実なのかわかりません。 でも、だからこそロマンがうまれるものだと思います。 色んな説があって、それを知り、想像し、思いを馳せるのも、また楽しいものです。 私自身は、当時圧倒的な存在だった信長を討てるような大器は「明智光秀」しかいなかったという点において、ある種尊敬をしておりました。 いささか厨ニ的ですが、誰もが思い描いていたであろう(ないしは、画策して失敗した)ことを、実行できたという事実だけですごいなぁと思います。 それゆえに本作は、そんな明智光秀の生涯を知るうえでも、本能寺の変の新たな説としても両方楽しめる内容となっています。 大河ドラマは、どうなるんだろう。(色んな意味で)

渋谷金魚

深草さんの罵詈雑言を惜しむ

渋谷金魚 蒼伊宏海
名無し

第1話で強烈な印象を残した深草(ふかくさ)さん。 主人公に対して、凄まじい罵詈雑言を残し、あっけなく退場…。 序盤で居なくなるには惜しすぎるキャラだった。 https://twitter.com/ReaderStore_JP/status/837540551494815745 特に深草さんの罵詈雑言は素晴らしいの一言。 「ごめん、無理。」 から始まって 「開けたら私は危なくなるでしょうが!」 「それくらい分かれよ童貞映画チビが!」 「逃げ回るだけでクソの役にも立たないわねぇ!!!」 「肉の壁になって私を守るぐらいできないの!!?」 「消火器にも気付かねぇから教えてやったのに!」 「何で「代わる」ってすぐ言わねぇんだよ!」 「昔のクイズ番組かお前はっ!!」 「せっかく「*気安い美少女*」の私がたまにはお前みたいなのもいいかと目をかけてやったのに!!」 「映画!? "トイストーリー"くらいしか知らねーよ!!*ボゲ*」 「あー!!こんな事ならパンツ見せるんじゃなかった!!」 「アンタに付いてったせいで惨々よ!!!」 「大体アンタと私じゃ存在の価値が違うのが分かんないの!?」 「どっちが生き残るべきか小さい脳で今すぐ計算しろっ!!」 「分かったらそこで童貞の まま・・・ 死・・・」 (深草さんの背後に金魚あらわる) 「月夜田くん、助けて・・・」 もし腹黒ヒロインとして生き残っていたら、その後の展開はどうなっていただろうか。 ほんっと惜しくて仕方ないキャラだった。

少女Aの悲劇

宇宙人の〇はメロン味🍈ドS少年×宇宙人少女のドタバタ劇!

少女Aの悲劇 あさの 中村力斗
たか
たか

先週のヤンジャンに掲載されていた中村力斗先生の読切『天子ちゃんの天界道具』を読んで思い出した作品。『少女Aの悲劇』というタイトルの意味は、表紙の頭を鷲掴みにされてる少女が結真ちゃん(宇宙人)で後ろにいる少年が林(地球人)なので、2人の力関係はつまりそういうことです。 https://manba.co.jp/boards/74128 素性を隠し地球に暮らしていた宇宙人の結真ちゃんですが、クラスメイトの林くんに正体がバレてしまったため、秘密を守ってもらうため何でも彼の言うことを聞くはめに…というあらすじ。 というか1話の2人の出会いからしてブッ飛んでて最高なんですよ…!(試し読みで読めばわかります) 林の結真ちゃんの扱いは、まあ〜〜酷い! 青春や部活など無駄なことに価値を感じない林は、宇宙人に路傍の石より興味を持たない。夜中に林の部屋(※2階)の窓を叩く女の子をいったん窓を開けたうえで突き落とす。 https://i.imgur.com/ZcbswQN.png (『少女Aの悲劇』あさの/中村力斗 第1巻より) だがそこがいい…! 行き過ぎた塩対応は…ラブコメの醍醐味「デレ」までの助走ッ…!!そのハッピーエンドがちゃんと想像できるので安心して読めます。 さらに言えば、理不尽な暴力や事故に遭うために読むのがキツい作品もありますが、この少女Aでは『ちゃんとギャグですよ〜〜』とわかるようにデフォルメがされているので、安心して結真ちゃんが酷い目に遭うところを楽しめます(※個人の感想です) 単行本で初めてこの作品を読んだのですが、全2巻でかなり巻いて終わった感じがありました。もっと2人がギャーギャーするところが見てみたかった…。 銀魂みたいに女の子がギャグシーンで大変なことになる話が好きな人におすすめしたいラブコメです!

イレブン

地味だけど堅実な面白さのあるサッカー漫画

イレブン 七三太朗 高橋広
ひさぴよ
ひさぴよ

80年代後半から90年代にかけて連載していたサッカー漫画。 古くはキャプ翼、最近ではアオアシと、数多のサッカーマンガが生み出されてきましたが、この作品は長期連載だったにも関わらず、あまり知られてない名作かと。 巻数が長い上に、お世辞にも絵はサッカー向きとはいえない絵柄(失礼!)なので、サッカー漫画好きの自分もなかなか手が出なかった覚えがあります。 しかし、ふとした機会に読んでみたら、これが読み進めるほどに面白い。 主人公・青葉茂の堅実でひたむきな努力と、熱い心に引っ張られるように、気付いたら夢中になって読んでました。 スポーツ漫画でよくある「海外挑戦編」的な展開が、このイレブンにもあるのですがこの章がとにかく熱い。 サッカーで海外挑戦といえば普通はヨーロッパか南米ですが、主人公は自分に足りないものを得るために、なんとアフリカの地を選びます。 何のサポートもなく、単身アフリカに赴き、ど田舎でどうやってサッカー修行をするというのか…? 一見無謀とも思える、泥臭い挑戦の連続がイレブンの面白さなのです。 進化した現代のサッカー界の状況と比べると、やってることが違いすぎる感があるのは確かです。 でも、サッカー初心者がプロにまで登りつめる成長物語として読むのであれば、まだまだ色褪せることのない名作だと思うのです。