短篇漫画の教科書

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かわぐちかいじかわぐちかいじは、上手い漫画家である…と、こんな当たり前のことを書くのもどうかと思うのだが、本当に上手いのだから仕方ない。

もちろん現在では、『沈黙の艦隊沈黙の艦隊』や最近の『空母いぶき空母いぶき』のような大柄な世界観設定をもった「戦艦」物で知られているのだろうが、なにせキャリアが長く、売れるまでの「下積み」も長い人である。

風狂えれじい風狂えれじい』やら竹中労と組んだ『黒旗水滸伝水滸伝』まで遡る必要はないが、出世作『アクターアクター』以降(いや、本当の出世作は麻雀漫画の意味を変えてしまった『プロ』だろうが)、狩撫麻礼狩撫麻礼とのセッション『ハード&ルーズハード&ルーズ』、絶品の青春ヤクザ物『獣のように獣のように』他、それぞれの時代で忘れがたい佳品を描き続けてきている。(個人的にはモーニングモーニング連載以降なら短命に終わった『アララギ特急アララギ特急』を偏愛しています)

そのどれを読んでも、とにかく漫画が上手い。
構成・コマ割り・コマ内のキャラの置き方・ネームの処理、どれをとっても天下一品のなめらかさ。
下積み時代に練り上げ獲得した「漫画を見せる術」については、他の追随を許さないと思う。

この短篇集『愛物語愛物語』は、そうした漫画の巧みさをほぼ完璧な形で発揮させた、まさに「教科書」たり得る一冊だ。
例えばアーウィン・ショーの『夏服を着た女たち』のような、手練れの小説家の短篇集に匹敵する肌触りがある。
良質なエンターテインメントとして、ジャンルは違うが、ヒッチコック劇場みたいだ…と言っても言い過ぎではないのではないか。

正直なところ、ちょっと鼻につくぐらい「上手い」です。

しかし、『力道山がやって来た はるき悦巳はるき悦巳短編全集』とか、あだち充あだち充の『ショートプログラム』とか、『1 or W 高橋留美子高橋留美子短編集』とか、このあたりの名前のある漫画家は、本当に短篇が上手い。
最近、こういう手堅く風通しが良いのに個性豊かな短篇が、あんまり読めなくなっている気がして、さみしいですね。

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