瓜を破る

登場人物全員が生きている

瓜を破る 板倉梓
六文銭
六文銭

久しぶりに 「人間をきっちり描いてる」 と思えるような作品に出会えました。 タイトルから処女をこじらせた主人公の恋愛話かと思ったのですが、主人公の周囲にいる登場人物までも背景や価値観を丁寧に描き、しかもどこかしら自分と通じる部分もあって、全員に共感しかなかったです。 バリキャリもいれば、家庭に入った人もいたり。 彼氏とうまくいっている人もいれば、うまくいっていない人もいる。 言いたいことガンガン言える人もいれば、言えない人。 ホントに多種多様な、そしてある点において自分によく似た環境や考え方の人もいて、どの登場人物にも感情移入が凄まじしいんです。 漫画のキャラクターなのですが、まるで生きているかのような、読んでいてそんな感覚をおぼえました。 基本的には主人公が、処女で焦り悶々としている様を軸に、他の人物のストーリーも出てきて、この視点変わる展開の仕方も飽きさせずひきこまれます。 結果として、主人公も素敵な彼氏と出会えるのですが、そこに至るまでのもどかしい感じもたまらんのです。 自分もコミュ障で恋愛奥手マンだったから、何するにしても相手がどう思うか考えてしまい、結果、何もできない or すれ違う様が、じれったくて、でも、お前は俺かと共感に首がもげそうになりました。 何にせよタイトルからくるイメージとは良い意味で全然違った、ピュアな恋愛と、多様な人物描写が魅力的な作品でした。

ニーディガール オーバードーズ ラン ウィズ マイシック

原作を知らなくても最高です。 #1巻応援

ニーディガール オーバードーズ ラン ウィズ マイシック 盆ノ木至 WSS playground 大倉ナタ
兎来栄寿
兎来栄寿

孤独に寄り添う物語を、いつの世も愛しています。 『アタマのナカの鈴せんぱい』や『ベイビー・ブルー・クラスター』の原作でも知られる、にゃるらさん企画の美少女ゲームが原作で、ネームを『吸血鬼すぐ死ぬ』の盆ノ木至さんがある本コミカライズ。もう、1話目から引き込まれました。 最近は配信者をテーマにした作品も増えていますが、この作品の秀逸な点はヒロインのあめちゃん(配信時は「超絶・最かわ・てんしちゃん」略して「超てんちゃん」)視点ではなく、彼女をプロデュースするプロデューサーのおじさんの視点で描かれていることです。 あめちゃんのキャラクターは非常に破天荒でかなり際どい言動が繰り広げられますが、常識人であるおじさんがツッコミ役、あるいは調整役として挟まることによって多くの人が共感を得やすい作りになっています。 そして、何よりにも物語の根本にあるダウナーさと、切実な感情が最高です。 あめちゃんの、意識低めで社会的に不適合な立ち居振る舞い。そして、その裏にある孤独、それを埋めたいがために生じる承認欲求。 そんな彼女を支えるのは、現代社会の暗部によって貶められ挫折を味わい底辺にいる元アイドルプロデューサー。 何者でもなく社会的弱者であるふたりが出逢い、始められる塵芥のような世の中への反逆。そんなの、応援せずにはいられないじゃあないですか。ふつうに生きていたら接点などないであろう、しかし強烈に結び付いてしまったふたりの関係性がね、良いんですよ。 まさに「今」な物語とキャラクターが描かれており、超てんちゃんが少しずつ人気を博していったときに語られる過去のパートなど、実際読んでいて救われる人も多いのではないでしょうか。 個人的に5話は特に神回だと思っているのですが、単行本では巻末のおまけとしてまさにその部分の盆ノ木さんのネームが7ページ分も掲載されています。ネーム段階でも既にとても良いんですが、やはり大倉ナタさんの絵が乗算されて最高になっているなと感じます。このシーンの表情は、とりわけ大好きです。 私のように原作をまったく知らなくても問題なく楽しめますので、9月のパワープッシュ作品として推したいです。 ここ数年はAVGやりたくてやりたくて我慢して震えている状況なのですが、ルーツとなっている作品群に親しんできた身としては原作にも触れてみたいと強く思います。

たたかいのきろく

しょうもなすぎるたたかいのきろくに笑ってしまう!

たたかいのきろく 小田扉
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

「たたかい」とは得てして始まりはしょうもないものである。 小田扉先生の新作は最高に面白く1話だけで大好きになりました! 読んでいくと引き込まれてじわじわ面白さが込み上げてくるタイプの良さでした! https://comic-action.com/episode/4856001361536031451 これは「戦い」でも「闘い」でもなく、「たたかい」というひらがなにひらいているのがなんとも力が抜けて気持ちのいいニュアンスになってていいですね! さまざまな「たたかい」の「きろく」を描いていくこちらの漫画。 第1話から、わー!っと万歳したくなるほど楽しかったです! 「きろく」なので、あくまで時系列と起こった事象を淡々とマジメに追っていきます。 争いの種にはなっているものの、非常にしょうもなくてそれを語るほどのことなのか、という部分にもしっかりマジメにフォーカスしてるもんだからあまりにふざけていて馬鹿らしくて笑っちゃいました!でもあくまで「きろく」なんですね! そこに「たたかい」があるから「きろく」してるだけなんです! 人類が生きていくうえで絶対に「きろく」しなくていいことなのに! でも二つの立場があって意見が割れて互いに対してのさまざまな感情が積み重なったらそのとき事件が起きるわけですが、そこのそれは放っといてあげてというレベルまで詳細に掘ってくれてるので最高でした。 これが「きろく」するということなんですね! 早く2話が読みたいです!!

人間昆虫記

手塚先生の惜しい傑作!!!

人間昆虫記 手塚治虫
酒チャビン
酒チャビン

なんで人間昆虫記かっていうと、主人公の十村十枝子(本名:臼場かげりさん)が、擬態や寄生を得意としていて、その特技を活かし、各界のトップランナーたちに寄生してはその才能をコピーし、規格外の天才・才女としてのぼりつめていくという物語で、その寄生・擬態のさまを昆虫になぞらえているのだと思います。 演技にはじまり、演出、デザイン、小説執筆、コロシ、ビジネスと、いろいろな分野でトップクラスの実力を身につけて世間をアッと言わせます。 そんな彼女ですが、そうして身につけた才能はあくまでも寄生して擬態したものであって、本当の自分ではなく、彼女自身は虚しさを感じています。 けっこう話は大人向けで、正直主人公は完全に狂人めいているのですが、実はものすごく真面目すぎる性格でピュアだったりもするというところが、なんとなく真に迫っているようでなるほどなぁと思いました。 本作品ですが、正直手塚作品の中ですごくメジャーというわけでもないと思っていたのですが、2011年に実写化されているようですね。全然知らなく、みそびれていたのですが、1970年の作品が40年の時を経て取り上げられ得るというのが、手塚作品の世代を超えた魅力のなせる業!ヅカラーとしては大変嬉しい出来事です!! さて、なぜ惜しいかというと、なんかラストが急足で中途半端に終わってしまっているのですよね〜。。大人の事情等があったのかもしれませんが、主人公が双子かも?とか水野さんのその後は?とかだいぶ回収されなかった要素があるように思われましたので、それらを描き切った完全版を読みたかった!!!それまでの話の流れが最高にノってただけに悔やまれます!!!!

めしばな刑事タチバナ

食事にこだわりをもつ素晴らしさ

めしばな刑事タチバナ 坂戸佐兵衛 旅井とり
六文銭
六文銭

いわゆる誰もが一度食べたことがあるB級グルメや、B級食材について、登場人物たちがマイベスト的なものを語り、ときに激論を交わす内容。 本作を読むと、つくづく自分は何も考えずに食べてきたんだと痛感する。 特に、飲食のチェーン店やスーパーで売っているお菓子や食材とか、正直どの店・銘柄もジャンルが同じなら大差ないと思ってたし、 安くて、そこそこ美味しければなんでもいい とさえ思っていた。 本作を読むと、自分のこだわりのなさ、無頓着さに恥ずかしささえ感じます。 この作品に出てくる登場人物は、食べ物や食べ方に何かと一家言あって、1食に命でもかけてんのか?ってくらいアツイ。 身近にあるものだからこそ愛着も強く、読んでいるとその気持ちもわかってしまう。 (時々、わからないものもあるが) 食事にこだわりをもつと人生もっと豊かになるのかな?とさえ思ってしまう。 あと、本作を読むと、特に歴史あるチェーン店や食品は、各社しのぎをけずってより良く改善している様も説明してくれるので、その企業努力にひらすら唸ります。 何気なく食べていたけど、時代にあわせて色々変えたり、飽きさせないつくりをしているのを知ると、今日まで残っている意味がわかります。 変わっていないようで、変わっているんだなと思い知らされます。 といった感じで、グルメマンガの中でも、めちゃくちゃ教養(?)的にうんちくのある部類で、美味しいもの食べて「おいしー」で終わらない凄みがある作品です。 普段食べているものが、より興味深くなったりしますよ。 小生も、かろうじてラーメンが好きなので、ラーメン系の話が特にお気に入りです。

砂漠の野球部

最高の魔球漫画

砂漠の野球部 コージィ城倉
toyoneko
toyoneko

「砂漠の野球部」は、コージィ城倉先生が、週刊少年サンデーで連載していた野球漫画です 超強豪校の落ちこぼれ野球部員たちが、鳥取の高校に転校して甲子園出場を目指す、というのがストーリーの骨格で(日本でもっとも地区予選出場校が少ないのが鳥取だそうです)、初期はわりとコメディ&お色気色が強い漫画でした(1巻の表紙参照) ある意味サンデーらしい漫画ですね しかしストーリーが進むに連れシリアス度が増し、ド根性熱血野球漫画になっていきます そのうえで、このマンガ一番の見どころは、やはり恐るべき魔球「サイレントカーブ」でしょう!(コミック8巻~) 魔球には、謎と、(屁)理屈が必要で、それが魔球の魅力を基礎づけます この点、「サイレントカーブ」は、一見地味なのに、実は恐るべき謎が隠されていて、しかもそれを裏付ける理屈が、なんというかサイコーに無茶で、それでいながらカッコよいのです。私は大好きです さらに、物語最終盤には、サイレントカーブとは異なる、最終最後の大魔球が登場します 「サイレントカーブ」と、最後の魔球! この二つの魔球が存在することで、「砂漠の野球部」は、(私の中で)最高の「魔球漫画」となったのでした 癖のある野球漫画が好きな方、昔のコージィ(又は森高夕次)の漫画が読みたい方にオススメです

女だから、とパーティを追放されたので伝説の魔女と最強タッグを組みました

女性差別社会をブン殴れ! #1巻応援

女だから、とパーティを追放されたので伝説の魔女と最強タッグを組みました 三弥カズトモ 蛙田アメコ りりうら世都
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

女性差別がはびこる異世界で、パーティに理不尽な扱いを受けた魔導士の主人公は、八つ当たりの中で伝説の魔女の封印を解いてしまう。二人が手を組みパーティへの復讐を目指す物語は、現実世界にもある女性差別を数多く描き出す。 現実世界での女性差別は、とても見えにくい。例えば〈女性議員が少ない〉という問題意識に「実力のある女性議員希望者が少ない」「そもそも議員になりたがる女性が少ない」という、もっともらしい反論がある。しかしこれは女性に対する教育の不平等(女性に教育は要らないという意識、入試不正等)や女性は表に出るべきではない(=女性は男性に庇護されるべきだ、女性は家庭を守る人だ)という意識等、社会構造に練り込まれた多様な通念、しきたりが起因していて、それは男性にも、そして多くの女性にも気付かれない。 本作の異世界でも、現実世界で行われる差別が全く同じ形で表現される。主人公は身に降りかかった決定的な差別をきっかけとして、社会にある差別構造を伝説の魔女に教わりながら少しずつ自覚するようになる。主人公と一緒に、私もいちいちハッとさせられる。 魔女に肯定される主人公、主人公が肯定する女性達。世の中のおかしな構図に武力で立ち向かう二人の進撃は痛快だ。難しく考えずに勧善懲悪をなしてゆく水戸黄門的なカタルシスを与えながら、差別構造を分かりやすく描いて「女性差別はこんなに分かりやすく〈悪〉なんだ」と気付かせてくれる。 二人が社会をギッタギタにするのを期待したい。